7月10日、Seagateは、デスクトップPC向けの「Barracuda 7200.11」シリーズに、単一ドライブとしては最大容量となる1.5TBモデルを追加すると発表した。これまで単一ドライブの最大容量としては、1TBがずっと最大で足踏みしていたが、この4枚プラッタのドライブでようやくその壁を越えたことになる。 HDDの大容量化で問題になるのは、なんと言ってもそのバックアップだ。10年ほど前、HDDのバックアップにはテープデバイスやMOなどの光磁気ディスクデバイスが使われていた。が、HDDの急激な大容量化、高密度化は、これらのデバイスをアッという間に陳腐化してしまった。サーバー等ハイエンド向けには、オートチェンジャー式のテープライブラリは今も生き残っているが、一般/コンシューマー向けのバックアップデバイスとしてはすでに絶滅したと言って間違いない。現在、一般のユーザーがHDDをバックアップするのに唯一現実的なデバイスは、HDD自身だけだと言っていい。 バックアップというと、PCが内蔵するHDDのバックアップを誰しもすぐに思い浮かべる。が、ネットワーク接続型ストレージ(NAS)のように、複数PCで共有しデータ置き場にしているストレージのバックアップは、意外になおざりにされているようだ。PCのバックアップにNASを導入した当初は、NASにしかないデータは存在していなくても、その利便性に目覚めていろいろと活用するにつれ、最初からNASにしかないデータが増えていく。これをどうやって守るかが次の課題となる。 ●NASを冗長化するユーザーは少ない 一番良い方法は、複数のNASを用意し、定期的に同期させることだ。これなら1台が故障しても、データを失わずに済む。あるいはバックアップの代わりにはならなくても、NAS自身が冗長性を持っていれば、ドライブユニットの故障でデータを失うリスクは減る。市場には2台、あるいは4台のドライブを内蔵し、RAIDによる冗長性を提供した製品が存在する。 ところが、こうしたRAIDをサポートしたNASでも、冗長性を有効にして使っているユーザーは意外と少ないのだという。たしかに、2台のドライブで構成可能なRAID 1の場合、ユーザーが利用可能な容量はHDD全体の半分になってしまう。4台でRAID 5を構成すると、やはり容量は3/4になる。すべての容量を利用できないというのは、やはりもったいないということなのだろうか。しかし、バックアップもない、冗長性も持たせないでは、不安が大きい。 ここで取り上げるアイ・オー・データ機器の「HDL2-G1.0」は、500GBのHDD 2台を内蔵したネットワーク接続型ストレージだ。2台合計で冗長性のない1TBのRAID 0(ストライピング)、あるいは冗長性を持った500GBのRAID 1(ミラーリング)のどちらかで利用できる。また、上位モデルに1TBドライブ2台を内蔵した「HDL2-G2.0」も用意されている。 このHDL2-G1.0の特徴は、実売価格が極めて安価なことだ。メーカー希望小売価格は44,415円なのだが、都内の量販店での販売価格は39,800円というところ。さらにポイントもつくから、実質価格は35,000円に近い。1TBのNASが3万円台で買えるというのも凄いが、実は上位の2TBモデルは69,800円前後と、それほど安価ではない。1TBモデルが割安感のある価格設定なのだ。最近、ベアドライブの世界では1TBドライブの価格が急激に低下しているが、その波はまだメーカー製HDDの世界には届いていないらしい。 以前、この連載で4台のドライブを内蔵した「HDL4-G1.0」を取り上げたことがあったが、その価格が今でも7万円近いことを考えても、割安感がある。一部の販売店では、HDL4シリーズに2台のドライブだけをインストールしたモデル(ユーザーがあとから2台を追加することができる)を販売しているが、それよりもなお安価だ。 ●HDD 4基搭載のHDL4とファンレスHDL2の違い HDL4シリーズとHDL2シリーズで大きく違うのは、内蔵ドライブが4台から2台になったことで、RAID 5のサポートがなくなったこと、ファンレス化されたこと、そして小型になったことだ。HDL4シリーズも4台のドライブを内蔵したNASとは思えないほど小型だったが、HDL2シリーズはドライブ数が減ったことを反映してさらに小さくなった。主に家庭での利用を想定した製品である以上、ノイズの発生しないファンレス化が歓迎すべきものであることは言うまでもない。 HDL4シリーズは、筐体上部に2個のシロッコファンがあり、内部温度に合わせて適宜回転する。が、約1年使ってみて分かったことは、あまりに室温が上がりすぎるとファンでの冷却が間に合わず、シャットダウンしてしまうことだ。特に冷風を吸い込む筐体下部のスリットは細く、ホコリ等がたまりやすい。ここにホコリがたまらないよう、こまめに掃除する必要がある。それでも真夏に冷房を消した部屋に放置しておくと、結構な確率でシャットダウンしていた。空調を完備したマシンルームに設置するNASならともかく、家庭で利用するNASとしては、もう少し冷却能力が欲しいところだ(温度が上がりすぎて故障するよりはマシだが)。 ファンレス化されたHDL2シリーズの場合、筐体がヒートシンクを兼ねる設計になっており、ドライブと接触する部分がアルミニウムでできている。また2台のドライブの間には隙間が設けられ、ここからも放熱する仕組みだ(中空エアフロー構造)。この隙間に煙突のような効果を期待しているものと思われるため、横向きに設置することは避けるべきだろう(この「煙突」にコイン等を落とすと、取り出すのにシャットダウンせねばならなくなるから注意)。 今回試用した1TBモデル(500GB×2)の場合、普通に使っていて触れなくなるほど熱くなることはなかったが、ヒートシンクを兼ねた筐体はそれなりに熱を持つ。ラックの中など、通気の悪いところに設置することはお勧めできない。一定時間アクセスがないとHDDをスピンダウンする省電力モードも活用したいところだが、TV録画機能(本機は東芝製のREGZAから直接予約録画可能)利用時は無効にしておく必要があるので、悩ましいところだ。ちなみにHDL4シリーズと異なり、温度センサーは備えていないようだ。 HDL2シリーズの外観上の特徴は、上に記したヒートシンクを兼ねた筐体だが、その上部のフタはコインでかんたんに開けて、ドライブをユーザーが交換することが可能になっている。ただし、これがサポートされているのはRAID 1(ミラーリング)時のみで、単純にドライブを大容量のものに交換したりすることが可能というわけではない。 本機のマザーボードは、縦に2台取り付けられたHDDの底にある。用いられているプロセッサは、Storm SemiconductorのSL3615。ARM9コアベースの、ルーターやNAS向けSoCだ。写真にあるSTORLINKは旧社名だが、先月(2008年6月)StormがCortina Systemsに買収されてしまったから、STORMのロゴは日の目を見ずに終わってしまうのかもしれない。このSL3615以外は、裏面にあるMarvellのイーサネットチップが目立つくらいで、後はメモリチップ(DRAMおよびフラッシュ)とコネクタで構成された小さな基板だ。 NASのソフトウェアはLinuxベースのようで、各種の設定はWebブラウザで行なう。添付されているユーティリティ(Magic Finder)がネットワーク上のHDLシリーズを検索してくれるから、誰でも設定画面に容易にたどりつくことができる。 ソフトウェアとしては、家庭向けだけにiTunesサーバーやDLNAサーバーといった機能を備えるものの、凝った管理機能やセキュリティ機能は持たない。本機が備える2つのUSBポートは、前面(USBポート1)がデジタルカメラのデータ取り込み用、背面(USBポート2)がUSB外付けHDDを接続したバックアップ用で、スケジュール設定をして定期的にバックアップすることも可能だ。 ●2ドライブ搭載ならRAIDで冗長化 このHDL2-G1.0の性能だが、表1のようなシステムを用いて、簡単なベンチマークテストを行なってみた。比較のために手元のHDL4-G1.0(250GB×4ドライブ、RAID 5)でも同じベンチマークテストを実行してみたが、こちらは容量の9割近くを使用済みであるため、あくまでも参考程度に考えてほしい。 テスト結果を見る限り、全般に性能は良好なようだ。この価格帯の製品では、ネットワークがボトルネックになるせいか、RAID 0とRAID 1の差もほとんど見られない。RAID 1を用いると容量が半減してしまうわけだが、性能上のペナルティは無視して良い範囲にある。せっかくの2ドライブ内蔵NASなのだから、データの安全性を優先してRAID 1を活用したいところだ。1TBのNASが必要なのであれば、さらに廉価な1ドライブタイプの製品があるわけで、わざわざ2ドライブ構成の本機を選ぶ必然性は薄い。なくしては困るデータがあるというのであれば、ぜひRAID 1の安心感を得た上で、定期的なバックアップを行なうことをお勧めしたい。
□関連記事 (2008年7月17日) [Reported by 元麻布春男]
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