山田祥平のRe:config.sys

ジオタグが煽る写真の饒舌性




 坂本龍馬の写真は有名だが、坂本龍馬と同時代に生きた西郷隆盛の写真は発見されていない。いや、正確にいえば、発見しているかもしれないが、写真自身が自分は西郷隆盛の写真であると語らないから、もし、手にしていたとしても、西郷隆盛の写真であると断言できないのだという。

●写真はものを言わない

 冒頭にあげたのは、2006年の6月に亡くなった写真家、故・平カズオさんの覚え書きにあった論理だ。確かにそうだ。目の前にある写真に写っているものが何であるのかを判断する場合、ぼくらは、過去に得た知識を総動員して想像するしかない。あるいは、撮影者本人や、その情報を知る人に、撮影された背景をたずねるしかない。写真には、かつてそこにあったものが確かに写っているが、メッセージはなれない。だから写真にコミュニケーションの役割を担うことはできないというのが平さんの持論だった。

 平さんは最後まで、デジタル画像を写真とは認めなかったが、デジタルカメラが使われるようになり、写真はメッセージを伝えることができるような面を持ち始めたように思う。たとえば、Exifデータの一部として、撮影日時が記録されている。それを確認すれば、その写真がいつ撮られたものなのかがわかる。

 残念ながら、Exifは、UTCとの時差や、サマータイムのオン/オフを記録する仕様になっていない。たとえば米国では、サマータイムが11月の第1日曜日の午前2時に終わり、午前2時になった瞬間、午前1時に戻る。つまり、この日は午前1時台が2回繰り返され、1日は25時間あるわけだが、カメラの時計を正確に合わせた場合、この時間帯に撮られた写真の時系列がわからなくなる。

 もっとも、最近のカメラは、メーカーノートのような形式で、これらの情報を記録しているようで、たとえば、ニコンのカメラで撮影した写真をニコンのユーティリティで開けば、UTCとの時差や、サマータイム設定のオン/オフに関する情報を得ることができる。ところが、ニコンのユーティリティには、この情報を書き換える機能がないので、移動先の時間に合わせ忘れたときにはやっかいなことになる。

 写真の信憑性ということを考えれば、書き換えができないことの方が重要であるということなのかもしれない。先週は、北京にでかけてきたのだが、カメラの時計を合わせ忘れ、1時間進んだ時刻で記録されたままになっている。

●ジオタグで饒舌に語り始めた写真

 撮影日時に加え、最近になってジオタグを記録することができるようになってきている。写真にジオタグを付加する方法にはいくつかあるが、撮影時に記録する方法と、撮影後に記録する方法の二種類に大別することができる。

 前者は、カメラにGPS機能を付加する必要がある。ニコンのカメラであれば、10ピンターミナルを装備しているので、ここにガーミン製などのシリアルインターフェースを持ったGPSをケーブルで接続すれば、撮影時の位置情報が記録される。

 後者は、GoogleのPicasa2などを使って、Google Earth上で、自分で場所を見つけて記録する方法や、GPSのトラックログ、GPSから取得したGPXファイルの内容などと写真の撮影日付を照らし合わせて、おそらく、その時間にはそこにいたであろうと推測し、位置情報を書き込む方法だ。

 どちらの方法もけっこうめんどうだが、後者に関しては、インターネットを探せば、有料、無料の数々のソフトウェアが見つかる。ちなみにぼくは、フリーのGMM2.exeを愛用している。

 撮影時にジオタグをつけるなら、携帯電話デジカメが手軽だ。GPS機能を搭載した携帯電話ならそれができる。ぼくの使っている携帯電話は、ドコモのP905iだが、撮影後、プレビュー画面で機能ボタンを押し、サブメニューから位置情報付加を実行すると、現在位置を取得して、そのデータを写真に書き込むことができるようになっている。

 米国で同じことをやってみたところ、どうしても、位置情報を取得できないので、不思議に思ってドコモのサポートに問い合わせてみたら、パナソニック製の端末に限り、海外での位置情報取得をサポートしていないのだそうだ。

 カメラにGPSデバイスを接続し、撮影時に位置情報を同時に記録しようとすると、どうしても、ケーブルの引き回しがめんどうになる。しかも、このケーブルが高価だ。ニコンからはGPS変換コード「MC-35」として販売されているが、希望小売価格で12,600円(税込)もする。背に腹は代えられないので購入したが、この値段を出せばGPSユニットをもう1つ買えそうだ。

 とにかくケーブルの取り回しをめんどうに感じて、ちょっと探してみたら、香港のベンダーがユニークなGPSデバイスを製品化していることがわかった。「di-GPS」という製品で、カメラのストラップやアクセサリシューに取り付けられるコンパクトな製品だ。ニコン用とキヤノン用があり、ニコン用は電源スイッチと10ピン端子を装備したProと、これらが省略されたBasicがある。ぼくは、少しでも小さく軽い方がよかったので、Basicを購入した。

 価格は198ドルで、送料が45ドル。25,000円くらいだろうか。それに通関時の税金/手数料としてFedExから1,700円の請求書がきた。注文した翌々日に届いたので送料も仕方がないだろう。まあ、ケーブルが12,000円することを思えば納得できる値段といえるかもしれない。

●撮影時にジオタグを付加する

 使い勝手は悪くない。つけていることを忘れるとまではいわないが、ケーブルの長さも短く撮影の邪魔にはならない。電源は10ピンターミナルから供給されるので、バッテリの充電などを気にする必要はない。消費電力もかなり小さいようで、カメラのバッテリの持ちに影響することはなさそうだ。ニコンに確認したところ、ニコンのカメラの10ピンターミナルは、カメラの電源をオフにしても電源の供給が続くのが仕様であるとのことで、このユニットを装着していると、カメラの電源がオフのときにもずっと測位を続けている。最初は、電源つきのPro版にすればよかったと後悔もしたのだが、まったく本体のバッテリ消費に影響を与えないので、本体の電源を切っているときにも、測位を続けられる方が便利だと思うようになった。

 本体には、赤いインジケータがついていて、現在位置が取得できていないときには点滅、取得したら点灯となる。本体の状態を示す目印はこれだけだ。一方カメラ側はGPSの存在を確認したらカメラ上部の液晶ディスプレイにGPSマークが点滅し、データが流れてきたらこの点滅が点灯となる。

 GPSは緯度、経度、標高情報といっしょに、UTC時刻も送ってくるので、合わせ忘れたり、遅れたり進んだりしている可能性があるカメラの時計によるExif情報よりも信頼できそうだ。なお、当たり前の話だが、GPSは天空の衛星からの電波を受信して位置情報を取得するので、屋内での撮影では役に立たない。

 位置情報としてのジオタグを付加した写真は、Picasaを使ったり、前述のGMM2.exeを使ってGoogle EarthやGoogle Map、各種の地図ソフトなどで撮影位置を確認できる。まさに、写真がものをいうイメージだ。今後は、各社ともに、GPSくらいは基本機能として搭載することを期待したい。

 d-GPSで位置情報を記録した写真は、あとで確認してみると、けっこう位置が暴れているようだ。GPSは捕捉した衛星の数によって精度が決まるが、本体のインジケータだけでは、現在の精度がわからないのでこういう結果になってしまうようだ。かなり短時間で点滅が点灯になるが、精度が上がるまで測位を続け、少し落ち着かせる余裕を持った方がよさそうだ。冒頭の写真は北京市内の繁華街でのものだが、位置情報はけっこうズレている。

 アイドルが自分のブログに本人が撮影した写真を掲載、その写真にジオタグが付加されていたことから、自宅のマンションの所在地がわかってしまったという、ホントなんだかウソなんだかわからないような話も聞く。

 こうして写真はどんどん饒舌になっていく。あきれるほど饒舌になった写真のデータと、Googleなどが抱え込んでいる膨大なデータを紐付けすれば、また、新しい何かが見えてくるかもしれない。

 生前の平カズオさんは、デジタル写真の信憑性について、いろいろと考えられていたようで、いつも、そうした話をメールで送ってくれた。その平さんの写真展[ブリュッセル ―欧州の十字路の街で―]が、銀座のニコンプラザで7月8日まで開催されている。

□di-GPS製品情報(英文)
http://www.di-gps.com/di-GPS/products.htm

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(2008年6月27日)

[Reported by 山田祥平]


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