【COMPUTEX TAIPEI 2008】AMDプレスカンファレンス編
AMDがノートPC向け新プラットフォーム“Puma”を紹介
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Turion X2 Ultra Dual Core Processorのロゴ |
会期:6月3日~7日(現地時間)
会場:Taipei World Trade Center Nangang Exhibition Hall
Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1/3
Taipei International Convention Center
AMDはCOMPUTEX TAIPEIが開催されている会場近くで報道陣向けの記者会見を開催し、“Puma”の開発コードネームで知られている新しいノートPC向けプラットフォームを発表し、OEMメーカーなどに出荷を開始したことを明らかにした。
Pumaは、これまで“Griffin”の開発コードネームで呼ばれてきたCPUのTurion X2 Ultra Dual Core Mobile Processor(以下Turion X2 Ultra)、RS780Mの開発コードネームで呼ばれてきたチップセットのAMD M780G、モバイル向け単体型GPUのATI Mobility Radeon HD 3800シリーズなどから構成されている。
搭載製品は、Acer、ASUSTeK、富士通シーメンス、HP、MSI、東芝などから出荷される予定になっている。
●Turion X2 Ultraを中心に構成されるPuma
“Puma”は新しいノートPC向けのプラットフォームで、CPUにはTurion X2 Ultra、チップセットはAMD 7シリーズ、GPUにはATI Mobility Radeon HD 3000シリーズ、AtherosやBroadcomなどのサードパーティから提供されるIEEE 802.11nのドラフト仕様に準拠した無線LANモジュールなどから構成されている。
ただし、インテルのCentrinoのように、その要件は特に用意されておらず、そもそもCentrinoに相当するような正式なブランド名もない。また、チップセットや外付けGPUなどに関しては他社製を利用することも可能で、そうした制限は特にない。従って、新しいCPUのTurion X2 Ultraを中心としたプラットフォームの総称がPumaという開発コードネームだと考えておけばいいだろう。
実際、AMDはBetter by Desginと呼ばれるロゴプログラムをOEMメーカーに提供している。これは、CPUのロゴだけでなく、GPUのロゴや無線LANのロゴなどを1つにしたもので、CPUこそAMDでなければならないが、GPUや無線LANの部分に関してはOEMメーカーが自由にチョイスできるようになっている。このため、CPUはTurion X2 Ultraだが、チップセットとGPUはNVIDIAという組み合わせもありなのだ。
発表された新しいCPUのTurion X2 Ultra Dual Core Processor | AMDがOEMメーカーなどに提供しているBetter by Desginのロゴ |
●ノートPC向けに専用の回路設計を行なったTurion X2 Ultra
そのPumaの中心を成すCPUがTurion X2 Ultraだ。Turion X2 Ultraは、CPUのマイクロアーキテクチャこそK8にかなり近いデザインになっているが、電源回路の設計やメモリなどI/O周りにはかなり大きな手が入れられており、ノートPCに要求される低い熱設計消費電力や平均消費電力に対応できるように設計されている。
CPUのメリットを説明するスライド。CPUコアそれぞれに電力を独立して供給することで、別々の省電力ステートで動作するようになっている | AMD 副社長兼コンピューティングソリューション事業部ノートブック部門 ジェネラルマネージャ Chris Cloran氏 |
AMD 副社長兼コンピューティングソリューション事業部ノートブック部門 ジェネラルマネージャのChris Cloran氏は、「Turion X2 Ultraはそれぞれのコアに異なる電源回路を備えており、それぞれのコアが独立して省電力を行なう。さらに、メモリコントローラやHyperTransportなどの外部バスもノートPCにあわせて無駄に電力を食わないように設計されており、高い処理能力と長時間のバッテリ駆動という相反する課題を実現することができる」と、そのメリットを語って見せた。
発表されたTurion X2 Ultraには以下のようなSKUが用意されている。なお、現時点では1,000個ロット時の価格などは明らかにされていない。
【表1】Turion X2 UltraのSKU
モデルナンバー | ZM-86 | ZM-82 | ZM-80 |
---|---|---|---|
クロック周波数 | 2.4GHz | 2.2GHz | 2.1GHz |
L1キャッシュ | 128KB(命令64KB+データ64KB) | ||
L2キャッシュ | 2MB | 1MB | |
メモリ | DDR2-400/533/667/800 | ||
Hyper Transport | 16bit双方向(3.6GT/秒、14.4GB/秒) | ||
TDP | 32W | ||
パッケージ | S1G2(638ピン、mPGA) | ||
製造プロセスルール | 65nm |
●チップセットにはAMD 780GのノートPC版となるAMD M780Gを採用
CPUのTurion 64 X2 UltraとともにPumaを支えるのが、開発コードネームRS780Mで知られてきたAMD M780Gチップセットだ。AMD M780Gは、デスクトップPC向けの統合型GPUとして評価の高いAMD 780Gのモバイル版で、ノートPC向けに省電力の機能などが追加されている他は、AMD 780Gの特徴を受け継いでいる。
AMD M780Gの特徴はいくつかあるが、最大の特徴はATI Radeon HD 3200というGPUコアをノースブリッジに内蔵していることだろう。Radeon HD 3200は、外付けGPUのRadeon HD 3000シリーズを内蔵用にしたもので、Radeon HD 3000シリーズと同じようにDirect3D 10に標準で対応しており、他の内蔵型GPUに比べても高い性能を発揮する。
Cloran氏は、「PumaはCore 2 Duo T8100+Intel GMA X3100という組み合わせに比べて、3DMark06で3倍も高い描画性能を発揮する。競合他社もまもなく次世代製品をリリースするが、それでも現行製品の倍だと言われているので、まだまだPumaの方が高い描画性能になる」とし、IntelのSanta RosaリフレッシュやMontevinaに比べて高い描画性能を実現できるとアピールした。
また、Radeon HD 3200には、AVIVO HDと呼ばれるHD動画のハードウェアデコーダが内蔵されている。MPEG-2、MPEG-4 AVC、VC1の各形式がRadeon HD 3200に内蔵されているUVD(Universal Video Decoder)でデコード可能になっており、CPUにあまり負荷をかけずにHD動画の再生が可能になっている。AMDのCloran氏は「HDのHQVベンチを利用してみると、競合他社のGMA X3100と比較して動画のクオリティが5倍もシャープだった。このようにクオリティの面でも大きな意味があるし、CPUに負荷をかけないのでCPUの消費電力が少なくすみバッテリー駆動時間にもよい影響がある」とし、UVDを内蔵するメリットをアピールした。
AMD M780Gを利用することで、IntelのGMA X3100に比べて3倍もの3D描画性能を発揮するという | AVIVO HDによるUVDエンジンを内蔵しているため、HD動画再生時にCPU負荷が下がるほか、動画の再生品質も大幅に向上するという |
●Mobility Radeon HD 3000シリーズと組み合わせることで追加の機能を利用可能に
すでにAMDはMobility Radeon HD 3000シリーズを発表/出荷しているが、今回のCOMPUTEXではそれに加えて最上位モデルとなるMobility Radeon HD 3800シリーズが追加された。具体的な製品としてはMobility Radeon HD 3870が用意されており、すでにリリース済みのMobility Radeon 3670に比べて2倍の3D描画性能を実現することなどが明らかにされた。
なお、Mobility Radeon HD 3000シリーズとAMD M780Gを組み合わせると2つの新しい機能を利用することができるようになる。1つは「PowerXpress」と呼ばれる機能で、チップセットに内蔵されているGPUと外付けGPUを切り替えて利用することができるようになる。
これにより、ACアダプタに接続されている時には外付けGPUを利用して3D描画性能が高いモードで利用し、バッテリ駆動時には外付けGPUをOFFにして内蔵GPUのみを利用するようになる。3D描画性能とバッテリ駆動時間のバランスをとることが可能になり、AMDのCloran氏は、「3D性能は数倍になるのに、バッテリ駆動時間は90分延ばすことができる」とそのメリットを説明した。
もう1つがHybird CrossFire Xと呼ばれる機能で、内蔵GPUと外付けGPUを組み合わせて3Dを描画、すなわちCrossFireモードで利用できるという機能だ。Cloran氏によれば「Hybird CrossFire Xを有効にすることで、3D描画性能が1.7倍程度向上できる」ということだった。ただし、デスクトップPC版のHybrid CrossFireがそうだったように、利用するには外付けGPUは内蔵GPUと同等程度の性能のGPUが必要になる。Cloran氏の示したスライドにはMobility Radeon HD 3450を利用した結果が示されていたので、Mobility Radeon HD 3450とAMD M780Gの組み合わせの時に利用できるものと考えられる。
●複数のOEMメーカーから登場へ、東芝は日本語キーボードのDynabookを展示
Puma搭載製品をリリースする予定のPCベンダ。NEC、富士通、東芝、HP、DELLあたりには日本でのリリースにも期待したいところだる |
Cloran氏によれば、PumaプラットフォームのOEMメーカーへの出荷はすでに開始されているという。気になるOEMメーカーだが、発表会ではHP、Acer、富士通シーメンス、DELL、東芝、NEC、富士通、MSI、ASUSの各社ですでに採用が決定していることが明らかにされた。「今回のPumaでは、前世代となるTurion 64 X2の発表時に比べて2倍の製品での採用が決定している」といい、今後もOEMメーカーに対して採用を積極的に働きかけていきたいとした。
発表会終了後には、Pumaプラットフォームを採用した製品が公開された。中でも注目なのは、東芝のdynabookだろう。これまで東芝は、海外のモデルにAMDプロセッサが採用された例はあったが、日本向けの製品はIntelだけで、AMD製品は採用されてこなかった。しかし、今回公開されていたdynabookはなんと日本語キーボードだったのだ。もちろん日本語キーボードだったからといって、即日本で販売決定ということではないが、可能性は十分あると考えられるのではないだろうか。
なお、富士通も海外では富士通シーメンスブランドが主になるので、富士通が別途掲載されていたということは、こちらも日本で販売される可能性が高いだろうし、NECに関しても事実上PCビジネスは日本向けが中心であるので、こちらも日本で販売される可能性が高いのではないだろうか。
□AMDのホームページ(英文)
http://www.amd.com/
□ニュースリリース(英文)
http://www.amd.com/us-en/0,,3715_15692,00.html
□関連記事
【5月18日】AMD、次世代モバイルCPU「Griffin」とプラットフォーム「Puma」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0518/amd.htm
(2008年6月5日)
[Reported by 笠原一輝]