ここにきてチラホラとMicrosoftの次期OS「Windows 7」に関するニュースが世間を賑わし始めている。直接的には米Wall Street Journal紙のイベント、D6(第6回のAll The Digital)にMicrosoftのBill Gates会長とSteve Ballmer社長が出席してスピーチを行なったこと、Windows Vista Team BlogにWindows 7の情報開示に関するポストがあったことを反映したものだろう。 Windows 7がどのようなものになるか。筆者の予想は今年の1月に書いた通りで、今も大きな変化はない。基本的には現在のWindows Vistaの延長線上にある改良型で、全面的に仮想化技術を取り入れたり、MinWinなどと呼ばれている軽量カーネルを用いたものにはならない。これら新技術についてMicrosoft内部で開発が行なわれていることに疑問の余地はないが、次のWindowsに間に合うのかと言われれば、それはまた別の問題である。おそらくは次の次、ひょっとするとその次になるかもしれないとさえ思っている。 Windows 7に関して間違いなく言えるのは、いよいよこれが最後の32bit Windowsになりそうなことと、軽量版が必ず用意されるだろうということだ。個人的にはWindows Vistaも64bit版だけで良かったのではないか(ただし、その前提として32bit版Windows XPの併売が必要になるが)と思っているくらいだが、実際にはそれは非常に難しい。 Microsoftの主力OSが64bit版のみになるということは、32bitモードしかサポートしないx86プロセッサはほぼすべて商品力を失うということと同義だ。古い製品が時間により淘汰されるのはやむを得ないことだが、Microsoftが引導を渡す形になるのは望ましいことではない。Windows 7が最後の32bit OSになることを事前に告知した上で、その次から64bit版のみになる、というステップを踏むことが望ましいと思う。 軽量版については、以前にも書いた通り。VistaがMicrosoftの言うULCPC(Ultra Low-Cost PC)に適さないことから、Windows XP Home Editionのライセンス期間を延長せざるを得なくなった。また、OLPC(One Laptop Per Child)向けにも、同様の理由でWindows XP Home Editionのライセンスを決めている。 Windows 7は、こうした低価格で、ハードウェアリソースに限りのあるPCでも利用できなくてはならない。少なくとも、こうしたシステムで利用可能なエディションが必要だ。いくらなんでも、2001年にリリースされたWindows XPを、10年以上の長きにわたって売り続ける気はMicrosoftにもないだろう。それはOSをビジネスにしている同社にとって怠慢、あるいは無能力の証にほかならない。 ●タッチ技術はAppleでさえまだまだ
最近出てきたWindows 7関連の情報で気になったのは、UIにタッチスクリーン技術が採用される、ということだ。D6におけるデモでその片鱗が紹介されたようだが、ほかにも机の表面全体を利用するMicrosoft Surface、壁に投影することで壁面全体をタッチスクリーンデバイスとして利用するMicrosoft Touch Wallなど、同社がタッチスクリーン技術に並々ならぬ関心を寄せていることは間違いない。 Microsoftがタッチスクリーン技術を採用するというと、またAppleのマネをして、みたいな感想を持つ人もいるかもしれない。だが、このタッチスクリーンあるいは、物体の表面に情報を投影してUIに利用するという技術は、Microsoftが以前から深い関心を寄せていたものであり、AppleのiPhoneが成功するのを見てあわてて取り組んだ、といったことでは決してない(iPhoneの成功には触発された部分もあるだろうが)。2005年4月にWinHECが米シアトルで開催された際、Microsoft本社のあるレドモンドで、これらタッチスクリーン技術のプロトタイプを見せてもらったことがある。 レドモンドの広大なキャンパスの中にあるExecutive Briefing Centerと呼ばれる建物に、「home of the future(未来の家)」と呼ばれるショウルームがある。ここには、その名前の通り、Microsoftが考える未来の家庭がモデル化されている。そこには、さまざまな物体、家具、壁、コルクボード、キッチンカウンターなどの表面に情報が投影され、それを指で選択したり、カードの磁気情報を取り込んだり、といった技術デモンストレーションが行なわれていた。 筆者が訪れた2005年の時点では、投影される情報の大半が文字だったし、必ずしもWindowsベースのデモでもなかった。が、それでもデモや展示の多くは、ちゃんと動作するものだった。home of the futureの展示物は定期的に更新されている、ということだったし、最近も東棟が拡張されたということなので、今ではもっと進んだ展示が行なわれていることだろう。 銀行のATMでも分かる通り、タッチスクリーンそのものは、決して目新しい技術ではない。おそらく多くの会社が、何か新しい使い方はないか、有効な用途はないか、研究しているハズだ。AppleやMicrosoftも、そうした企業の1つに過ぎない。 上で筆者が「気になる」と書いたのは、タッチスクリーンをどのように製品に取り込むか、ということだ。確かに人間の指で、ディスプレイ上のオブジェクトに働きかけるというのは、直感的で分かりやすい。だが、決して万能の技術ではない。 この半年あまり、iPod touchを使っていて痛感したのは、指による操作には向き不向きがある、ということだ。特に細かい、精度を要求される操作にタッチスクリーンは向いていない。この欠点はUIを工夫することで補うことは可能だろうが、現時点において最も優れたものと考えられているiPod touchでさえ、筆者には配慮が十分でないと感じられる。 たとえば、iPod touchでボリュームを調整したり、ムービーで先送りするには、シークバーを指でズルズルと引っ張る必要がある。しかし、筆者には希望した音量、希望した再生ポイントで、ピタリと止めるのはほとんど不可能だ。ボリューム調整に使われる可変抵抗器でさえ、抵抗値が直線的に変化するBカーブと、人間の聴感に近い対数形のAカーブが用意されている(実際は、もっと種類が多い)。ユーザーが利用しそうな部分と、そうでない部分でシークバーの解像度を変える、といった工夫が欲しいところだ。iPod touchのUIには、こうした細かな配慮がまだ足りないと思う。 WindowsのUIにタッチスクリーンを取り入れるのはいい。が、それにこだわるあまり、始めにタッチありき、のようなUIになると、かえって使いにくくなるのではないかと懸念する。マウス、ペン(スタイラス)、あるいはタッチスクリーンを好みとアプリケーションの適性に合わせて利用できるような、あまり押しつけがましくないUIを期待したい。 □関連記事 (2008年6月2日) [Reported by 元麻布春男]
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