1Tbit/平方インチの高密度HDDを既存技術で実現
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技術説明にあたったSRC技術委員会技術委員長の城石芳博氏 |
5月27日 発表
産学共同の磁気記録技術研究組織である情報ストレージ研究推進機構(SRC:Storage Research Consortium)は5月27日に東京で記者会見を開催し、1平方インチ当たり1T(テラ)bit(1,024Gbit)と高い面記録密度を有するハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が、現在の市販HDDに採用されている垂直磁気記録技術に改良を加えれば実現できるとの技術的な見通しを得たと発表した。
現在市販されているHDDの面記録密度は、約250Gbit/平方インチである。1Tbit/平方インチの面記録密度を有するHDDが実現すれば、ディスク1枚当たりの記憶容量は約4倍に増えることになる。SRCは、1Tbit/平方インチのHDDが量産される時期を2011年頃と予測する。このとき、3.5インチの磁気ディスク(プラッタ)1枚当たりの記憶容量は約1.3TBになる。
既存技術である垂直磁気記録ではこれまで、約500Gbit/平方インチを超える面記録密度の実現は難しいとされていた。このため次世代の高密度磁気記録技術である次世代技術としてパターンメディア技術や熱アシスト記録技術などの研究開発がHDDメーカーや研究機関、大学などで進められている。今回の発表はこれらの次世代技術を採用せずとも、既存技術の延長で1Tbit/平方インチ、あるいは2011年頃まではHDDの記憶容量を拡大できることをほぼ確実にした。言い換えれば、HDDの価格があまり変わらないまま、PCユーザーはHDDの容量拡大を今後も享受できることを意味する。
技術発表の概要。既存技術である垂直記録技術の延長で、1Tbit/平方インチの面記録密度を達成できることが示された | HDDの構成要素。磁気ヘッド(Head)と記録媒体(Media)が面記録密度(記憶容量)を大きく左右する | 面記録密度の技術ロードマップ。緑色の曲線が垂直磁気記録(Perpendicular)の面記録密度の向上を示す |
1Tbit/平方インチ達成の技術的な見通しが得られたのは、「トリレンマの壁」と呼ばれている技術的な障壁をクリアできたからである。面記録密度を高めるには普通、記録媒体の磁性層の粒子を小さくする。ところが粒子を小さくすると、熱ゆらぎで磁化が反転しやすく(記録したビットが壊れやすく)なる。これを防ぐために、保磁力の高い材料に磁性層粒子を変更する。すると今度は、磁気ヘッドを細くしながら発生する磁界を増やさなければならない。これは容易ではないので、磁性層の粒子をあまり小さくすることはできない。すると面記録密度をあまり高められない。この三すくみ状態が「トリレンマの壁」である。面記録密度が500Gbit/平方インチを超える領域では、「トリレンマの壁」を超えることが相当に難しくなるとされていた。
そこでSRCでは、磁気ヘッド技術や記録媒体技術などを改良することで「トリレンマの壁」を乗り越えた。磁気ヘッドには書き込みヘッドと再生ヘッドがあるが、高い磁界を発生できる書き込みヘッドと、読み出しギャップがきわめて短い再生ヘッドを考案した。記録媒体では、保磁力の高い膜と保磁力の低い膜を積層して両者のギャップを調整することで、熱ゆらぎに強くて実質的な保磁力が低めのメディアを開発した。
「トリレンマの壁」の説明。磁気ヘッドの発生磁界は、磁性体粒子の保磁力を上回らなければならない。このため限界が生じる | 1Tbit/平方インチを実現する磁気ヘッドの構造。左が再生ヘッド、右が書き込みヘッド |
1Tbit/平方インチを実現する記録媒体の構造。保磁力の弱い磁性層(Soft)と保磁力の強い磁性層(Hard)を積層する。両者のギャップを調整すると、磁化反転に必要な磁界が低くなる最適点が現れる | 垂直磁気記録で1Tbit/平方インチを実現する技術の主な仕様 |
今後は2010年6月までに、2Tbit/平方インチを実現する技術を開発する計画である。パターンメディア技術や熱アシスト記録技術、マイクロ波アシスト記録技術などの研究を続け、より高い面記録密度の実現を目指す。
□情報ストレージ研究推進機構(SRC)のホームページ
http://www.srcjp.gr.jp/
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【4月23日】日本HDD協会2008年4月セミナーレポート
~HDD対SSD、その行方を議論
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0423/idema.htm
(2008年5月28日)
[Reported by 福田昭]