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東芝、2010年度に売上高10兆円を目指す新経営戦略発表
~NANDフラッシュ増産、SSDは2009年に512GBへ

東芝 西田厚聰社長

5月8日 開催



 株式会社 東芝は5月8日、2008年度経営方針説明会を開催。グローバル売り上げを拡大し、2010年に売上高10兆円、営業利益5,000億円達成を目指す。

 これを実現するための主要事業の売上高目標と営業利益率目標は、デジタルプロダクツが4兆1,000億円で2.4%、電子デバイスが2兆4,300億円で8.2%、社会インフラ事業が2兆8,100億円で6.0%、家庭電気が9,400億円で2.1%。

 デジタルプロダクツの2007年度から2010年度の年平均成長率(CAGR)は12%。東芝のデジタルプロダクツ事業は、HD DVD事業を終息させ、その分の売上減をカバーしながら、高成長を実現しなければならない。

2007年度の実績 2010年度に向けた計数計画 新しい経営方針

2010年度に向けた全社ビジョン 2010年度に向けた全社ロードマップ 全社で目指すグローバル市場強化目標

 これに対し、西田厚聰社長は、「過去のHD DVD事業の売り上げ目標は2,000億円位で、これをPC、TV事業でカバーしていくことになる。ただし、もともと大きな影響を与えるほどの数字ではないし、我々は既存DVDの画質を、次世代DVD並みに自動的に向上させる半導体を、すでに1年前に開発している。

 低価格で高画質画像を見ることができるDVDプレーヤーの発売も可能で、これを日本、欧米などで発売すれば、これも売上減をカバーする商材となるだろう」とデジタルプロダクツ商品全体で売上減をカバーできるとした。

各事業が目指すグローバル市場での成長率 成長を実現する新たなバリューを創出する製品例 差別化の1つとなるエコプロダクツの製品例

売上高・営業利益計画 グループ別事業目標 営業利益の構成

 デジタルプロダクツの中でPC事業は、2007年度の売上高1兆400億円を2010年度には1兆7,000億円に拡大させる。これを実現した場合、年平均成長率は18%になる。

 売上拡大のためには、BRICs市場などグローバル展開を強化し、製品ラインアップ拡充により米国及び欧州市場でのシェア伸張も目指す。

 「ノートPC市場は長いこと低迷してきたが、BRICs市場を中心に市場回復は著しい。昨日(7日)もビル・ゲイツと会って話したところ、彼も『ロシアはPCの売り上げが最も伸びている市場』と言っていた。そうした状況を考えると、これくらいの成長率を実現していかなくては世界市場で振り落とされる」(西田社長)。

 技術仕様としては、防滴設計、対衝撃設計、複合負荷に対する疲労寿命評価、イージークリーニング機構、故障予兆機能などの技術を備えた高品質化を推進する。

 環境調和技術についても、LEDバックライトモデル展開により、水銀フリー化を実現。使用済み製品については、製品リサイクル拡大による資源の有効活用を進める。

デジタルプロダクツ事業グループの売上高伸張目標 デジタルプロダクツ事業の商品戦略 PC事業の戦略

 TV事業は2007年度4,800億円を2010年度7,500億円に拡大し、年平均成長率16%を目指す。

 コスト力強化のために、海外での販売強化のために戦略提携と事業規模拡大によるコスト削減を実現し、グローバルレベルでのサプライチェーン強化を進める。また、各地域のニーズにあった製品を提供していくことで売上拡大につなげる。

 顧客獲得の鍵となる差異化商品としては、独自開発の半導体技術によって現行DVDの画質を、次世代DVD並みに自動的に高画質に変換するTVとDVDプレーヤーの発売を計画。それ以外にも、大容量で高速、高品質のHDDを搭載したTV、レコーダ、Cell搭載TV発売も予定する。

 「Cell搭載TVは、2009年秋の発売を予定している。超解像機能、マルチ同時録画、再生機能などTVの新しい楽しみ方を提供する機能を持った差異化商品となる」(西田社長)。

 HDD事業は、個別売上目標は明らかにしていないが、東芝が生産特化する2.5インチ、1.8インチの事業規模を拡大し、「小型HDDでのトップ企業を目指す」(西田社長)計画だ。カムコーダー、カーナビ、ゲーム機、外付けHDDなど新規分野での事業規模拡大を目標としており、それを実現するために他社に先駆けたテラバイト商品、記録密度を向上させたディスクリートトラックレコーディング技術のような最先端技術に他社に先駆け対応していく。

 モバイル事業も個別売上目標は明らかにせず、サプライチェーン強化、開発期間の短縮、PCとの融合商品の海外市場投入によるグローバル展開を進める。高速無線インフラに対応したモバイル機器とPCを融合した商品を他社に先駆け提供することで、他社との差別化策とする計画だ。

映像事業の戦略 HDD事業、モバイル事業の戦略

●電子デバイス事業

 電子デバイス事業は、2007年度から2010年度で年平均成長率12%、2010年度営業利益率8.2%を目指す。

 具体的には半導体事業では、売上高を2007年度の1兆3,900円から、2010年度に2兆円へと拡大。年平均成長率13%を目指す。

 「垂直統合型半導体メーカーとしての優位性によって、利益ある持続的成長を実現し、現在の世界シェア第3位を堅持する」(西田社長)。

電子デバイスグループの売上高伸張目標 NANDアプリケーション別市場推移 NAND型フラッシュメモリのコスト競争力強化策

 メモリ事業では、微細化と多値化技術の先行性を堅持し、次世代メモリ開発を加速し、コスト競争力を強化しながら、生産能力を拡大させる計画だ。

 NANDのアプリケーション別市場推移としては、「すでにSSD採用が進むデジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、ポータブルメディアプレーヤー、携帯電話に加え、2008年からノートPC向けSSD市場が本格的に立ち上がる。2008年から2011年の間のノートPC向け年平均成長率は313%となる。携帯電話についても同じ期間で105%が見込める」(西田社長)と新しいアプリケーションによって、いよいよ市場が本格的に拡大すると見込んでいる。

 ただし、NAND型フラッシュメモリは、昨年度は急激な価格下落によって収益に大きな影響を与えた。そこでコスト競争力強化のために、「他社に先行し、微細化による次世代メモリ開発を加速化する。43nm化については、2008年上半期に50%、2008年末には80%超えとする、予定を半年前倒しした開発加速によって差別化を図る」(西田社長)としている。

 生産工場についても、三重県四日市市にある四日市工場で現在は300mmウェハ能力のスループットを、現在は第3製造棟で月産15万枚とフル生産体制としているが、第4製造棟では2009年度に月産21万枚をフル生産する体制とするべく準備を進めている。さらに、2010年度竣工予定の第5、6製造棟建設によって、ローコスト生産体制を確立する計画だ。

 SSDについては、HDDに比べ重量が3分の1、衝撃耐性は3倍、消費電力はアクティブモードの際には3分の1、アイドルモードの際には6分の1となる優位性がある。東芝では2010年にはノートPC市場全体の10%、2015年には25%がHDDからSSDに切り替わると見込んでおり、将来のサーバー採用も含めたノートPC市場への採用に向けた技術開発を進めている。

 「SSD事業立ち上げには、セミコンダクター社のノウハウだけでは不十分と考え、PC部隊、将来的にはライバル関係になるHDD部隊、本社の研究開発部門が協力し、新技術開発を進めている。こうした技術努力によって他社に先行し、SSD市場でシェア50%は獲得したい」(西田社長)。

 製品ロードマップとしては、基本的にはHDDと同じフォームファクターを採用し、NAND大容量化によって512GBを実現する計画だ。

SSD事業の事業戦略 SSD商品の展開ロードマップ

 システムLSI事業については、「集中と選択」を加速し、国内最大の最先端システムLSI生産力を武器に事業を拡大。大分工場では300mmウェハが月産25,000枚、長崎セミコンダクターマニファクチャリングでは300mmウェハで月産1万枚体制とする。

 ディスクリート事業は、世界ナンバー1シェアを堅持しながら事業を拡大し、2010年度シェア10%実現を目指す。

 中小型ディスプレイ事業は、世界最高水準の低温ポリシリコン液晶技術に、高付加価値技術と有機EL技術を加えて事業拡大し、2010年度に売上高3,600億円を目指していく。有機ELディスプレイについては、2008年度に携帯機器向けの小型パネルを商品化するのを皮切りに、将来的にはノートPC、車載用ディスプレイなどにも展開する計画だ。

システムLSI事業の事業戦略 中小型ディスプレイの事業戦略

●家庭電気事業はeco切り口に成長目指す

 社会インフラ事業グループでは、2007年度から2010年度の年平均成長率5%を目標とし、2010年度の営業利益率10%を目指す。

 原子力事業はウエスチングハウス社の買収によって、2015年までに33基のプラント受注を見込んでいる。これによって、買収によるコスト回収が当初計画の17年から13年に短縮した。

 原子力事業はエンジニアリング機能の拡大、原子力機器・建設能力の増強、燃料ビジネスの拡大などによって事業拡大を進める。

 火力・水力事業は、インド、中国、北米を中心としたグローバル展開を加速。M&Aによるサービス事業の拡大や、製造能力強化、環境技術の開発推進などをベースに事業拡大を進める計画だ。

 送変電・配電機器事業は事業組織を集結し、2007年度から2015年度の海外での年平均成長率を13%とするなど、事業地域拡大を実現する。

 医療システム事業は、日本や欧米などで社会保険料増大の影響による医療費削減傾向が進み厳しい状況にあるが、差異化技術、アプリケーション開発など商品ラインアップの強化を進めていくと共に、BRICsなど成長市場向け販売体制を強化する。

 家庭電気事業は、2007年度から2010年度の年平均成長率を7%、2010年度営業利益率2.1%を目指す。

 「昨年10月にecoスタイルという、CO2削減に貢献する環境調和型プロダクトを提供していくことを発表した。その具体的な事業が新照明事業。東芝は、1890年に日本で初めての白熱電球を発売したメーカーだが、他社に先駆け一般白熱電球を2010年に製造中止する予定で、電球型蛍光ランプに切り替える。こうした照明機器を、オフィス、家庭をはじめ、新幹線や球場などでの採用を働きかけることができるのが、総合電機メーカーとしての強みとなってくる」(西田社長)。

家庭用電気事業の売上高伸張率 家庭用電機事業拡大の核となるecoスタイルを具現化した新照明事業 東芝が目指す2010年度の姿

●「グローバルで生き残るために成長戦略が必要」と強調

西田社長は4月25日に発表した2007年度実績に触れ、「売上高は対前年度比8%伸張となる7兆6681億円で過去最高を達成した。ただし、売上高伸張率は8%で、2006年度、2005年度の2桁伸張に比べるとやや鈍化したといえる。また、営業利益、税引き前利益、当期利益はNAND価格の下落、HD DVD事業終息費用などがあったため、マイナスとなった」と売り上げは伸びたものの、伸張率が小さく、利益も減少となったことに言及した。

 その上で、「今年度からは逆境に打ち勝ち、再び成長軌道に乗せる」と高成長体質の企業への転身を強く訴えた。

 高成長体質の企業として、2010年度に売上高10兆円、営業利益率5,000億円、ROE(株主資本比率)15%以上、自己資本比率20%以上、D/Eレシオ100%以下、設備投資費2兆2,000億円、研究開発費1兆4,000億円を達成することを目指す。

 高成長戦略を重視する意味を西田社長は、「HD DVD事業がなくなり現在の当社の事業は44となったが、ほとんどの事業がコモディティ化している。私が社長に就任した時に、火力発電事業の工場に出向いて、『火力発電事業も、コモディティ化しているという自覚を持って工場運営を行って欲しい』と訴え、工場の改革を進めた。コモディティ化している事業は規模を追わなければ事業そのものが行き詰まる。

 もちろん、利益確保を忘れたわけではなく、利益は確保する。その上で、売り上げ拡大をのぞめる状況にしなければ、グローバル時代では生き残っていくことができない。私が社長に就任する前の、伸張率1.3%のGDP並みの数字では、グローバル時代には生き残れないと考え、成長を重視する戦略をとっている」と成長なくしては、利益確保も難しいとの見方を示した。

 これを目指す経営方針として、従来から掲げてきた、(1)「利益ある持続的成長」の実現、(2)イノベーションの乗数効果の発揮、(3)CSR経営の遂行という3つの方針は、従来通り継続する。それに加え、今年度から4番目の方針として、グローバル人財の育成という目標を掲げた。

 「人材こそ宝という観点から、人材ではなく、人財を育成するという目標とした。グローバル事業展開を加速させる、多様性を受容・発揮し、次々にイノベーションを起こすことができる東芝人育成を進める」(西田社長)。

 具体的な事業が高成長・高収益を実現するためのロードマップとしては、各カンパニーの連携プロジェクトや、イノベーションの乗数効果を狙い全社横断プロジェクト活動として進めているicubeプロジェクトを推進し、新たなバリューを創出する製品群を提供する。また、各事業を総点検し、強化策を推進してグローバル体制を強化していく。

 「2010年に全ての事業が世界で勝ち残ることを目指す。そのための競争力を生み出すのはイノベーションを起こす力とそれを生み出す組織。44ある全ての事業を総点検し、特にグローバル戦略についてそれぞれの強化策を打ち出した」(西田社長)。

 グローバル体制強化としては、2007年度時点で売上高の52%をしめる海外比率を、2010年度には60%に拡大。営業利益比率も2007年度の37%から、2010年度には50%に拡大する。

 事業別のグローバル体制強化比率としては、デジタルプロダクツでは現在の海外売上比率を70%から76%に、電子デバイスの海外売上高比率を56%から67%に、社会インフラシステムの海外売上高比率を38%から42%に拡大する。

 これを実現するためには、海外人員を2007年度に比べ16,000人増員し、国内人員2,000人を研修実施などによりグローバル対応とする。海外の販売体制も強化し、インド、東欧、ブラジルなどについては販売拠点の拡充と拡大を実施。新興市場での販促費用として300億円を投入してブランド、商品広告を打ち、認知度向上につとめる。コスト競争に打ち勝つために、インド、東南アジア、中国など製造拠点の拡充も実現する。

 製品力増強の重要な鍵としている、新たなバリュー創出の一例としては、多値NAND搭載のSSD、SpursEngine搭載のAVノートPC、Cell搭載TV、今年4月に発売したばかりの新しいCTスキャン装置などをあげる。

 さらに新しいバリューを送出する可能性をもった商品群として、昨年度から進めている環境経営を実践したエコプロダクツをあげる。具体的な製品としては、小型燃料電池を搭載した携帯電話、有機ELディスプレイ、電球型蛍光ランプ、ドラム式洗濯乾燥機といった、「性能向上と省エネを両立した商品群」(西田社長)を挙げている。

 社会インフラ事業でも環境に配慮した製品群を開発していく計画で、CO2の排出量が対石炭火力に比べ45分の1となる東芝製の電子力発電システムを利用した場合、2010年にはCO2排出量を2006年に比べ1,400万トン、2025年時点では4,700万トン削減できるとした。照明についても高効率LEDライトを利用した場合、2010年には630万トン、2025年には1,060万トンの削減が実現すると指摘。「合計で東京など大都市の年間CO2排出量相当の環境貢献を実現できる」とした。

□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□2008年IR情報
http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/library/pr/pr2008.htm
□関連記事
【4月11日】東芝、128GB SSD搭載dynabook SS RX1を6月に発売延期
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0411/toshiba.htm
【4月23日】日本HDD協会2008年4月セミナーレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0423/idema.htm

(2008年5月9日)

[Reported by 三浦優子]

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