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富士通研究所、2008年度の研究開発方針を公表
~WiMAXやグリーンITを重点に取り組む

川崎市にある富士通研究所

4月4日 開催



 株式会社富士通研究所は4日、記者発表会を開催し、2008年度における富士通グループの研究開発戦略および知的財産戦略を公表。また、同研究所における最新技術として、システム品質保証、環境関連技術などに関する新たな研究成果を明らかにした。

 富士通研究所は、資本金50億円。社員数は国内1,450人、海外約190人の体制。年間予算は約400億円。そのうち事業部委託が約50%、コーポレート委託が約50%となっている。研究分野はサービス&ソリシューション、システム、ネットワーク、LSIと、富士通グループの事業領域全般に渡る。ちなみに、富士通連結研究開発費は2007年度実績で2,600億円となっている。

村野和雄社長

 富士通研究所の村野和雄社長は、「富士通研究所は、21世紀型グローバル研究所を目指す」として、「従来型のサイエンスとエンジニアリングの統合による研究開発に加え、ビジネスモデルとCSR(社会的責任)を組み合わせた研究開発体制の構築が必要。これが21世紀型グローバル研究所となる。富士通のすべてのビジネスドメインに対して、先端技術による研究開発成果を活用し、インフラからアプリケーションまでを提供する富士通の強みにつなげる」とした。

 2008年度の研究方針として、テーマを「先を見ながら富士通の事業基盤を強固に」とし、中長期の新たな事業領域の創出に向けて、グリーンテクノロジー、センサーテクノロジー・システムソリューション、次世代端末およびサービスへの取り組みをあげた。

 「新たな事業領域創出のための役割を果たしていくことを、今年度の大きな課題にする」と、村野社長は語る。

 また、主力事業への研究貢献の強化としては、次世代サービス&ソリューション、次世代サーバーシステム、次世代ネットワーク技術の開発促進をあげた。

 「将来的には、PCの利用環境などをセンシングし、利用の効率化などにつなげていくといった研究、開発も行なっていきたい」とした。

 さらに、グローバル、コストダウン、事業化スピードアップ、ビジネスインキュベーションといった観点からの取り組みのほか、社内技術シナジーの強化への取り組みを課題に掲げ、「富士通グループにおいて、強い商品、サービスを軸に経営し、中長期的な成長の実現に結びつけてきたい」とした。

 また、富士通研究所が、環境技術を最重点課題として取り組んでいることを強調。「富士通グループ全体では、Green Policy Innovationを打ち出し、2007年度から2010年度までに、IT活用による環境負荷低減として630万トンのCO2排出量を削減。さらに、サーバーやストレージなどのITインフラの環境負荷低減では、76万トンのCO2削減を目標にしている。これを年換算すると180万トンの削減目標となっており、これは富士通の年間CO2排出量の110万トンを大きく上回る。富士通研究所では、高効率デバイスや省電力ネットワーク、省エネデータセンター、環境貢献ソリューション、センシング技術などによって、CO2排出量削減につながるグリーンIT技術の開発に注力する。環境技術への取り組みは、富士通研究所にとって、2008年度の喫緊の課題」とした。

 富士通研究所では、こうした環境関連技術に加えて、ハードおよびソフト、サービス製品の環境負荷評価分析に関する技術を開発しており、地球温暖化対策に向けた研究にあらゆる側面から取り組んでいることを示した。

 具体的な環境関連技術への取り組みとしては、富士通研究所基盤技術研究所・矢野映所長が、「データセンター向けリアルタイム多点温度測定技術」を紹介した。

 同技術は、廃熱リサイクルによるデータセンターの空調の省エネを実現する先進廃熱利用技術や、精密空調制御を目指したリアルタイム・マルチ温度計測による高効率IDC冷却技術を活用した「スマート冷却&ラマン散乱計測」と呼ぶもので、データセンターにおける異常温度上昇の瞬時検出により、火災予防などのリスク回避が可能になるという。「今後、データセンターへの適用性確認と課題抽出を進め、より精細な温度分布把握に向けた位置分解能の向上、把握した温度分布情報を用いた空調運転化手法の検討などによって、2009年度までには空調エネルギーマネジメントに向けた基本技術を確立する」(矢野所長)とした。

加藤幹之経営執行役

 一方、富士通法務・知的財産権本部長の加藤幹之経営執行役は、「FUJITSU Wayでは、知的財産を守り、尊重することを行動規範として掲げ、全社規模で取り組んでいる」とし、事業の競争優位性の確保、事業の自由度の確保、事業収益の確保の観点から、富士通グループが知的財産戦略を推進している姿勢を示した。

 具体的な研究開発の事例として、加藤経営執行役は、WiMAXなどの技術を説明。「WiMAXでは、無線端末と無線基地局間のトラフィックを中継するマルチホップリレーの技術と、窒化ガリウムHEMTを使用した高出力アンプ、3Gシステムの歪補償技術を開発している。マルチホップリレー技術では、国内外で100件以上の特許を出願。窒化ガリウムHEMTでは国内外で80件、歪補償技術では国内外で100件以上の特許を出願している。WiMAXは、知的財産戦略の重点テーマの1つとして捉えており、重点領域においては、技術の固まりとして、できるだけまとまって特許を取得する活動を進めている」とした。

 そのほか、統合CMDB(Configuration Management DB)によるITシステムの運用管理情報の統合技術、カーボンナノチューブとグラフェンを一緒に形成する新規ナノカーボン複合構造体への取り組みなどを紹介した。

 また、このほど新たにWebアプリケーション向け品質保証技術を発表した。同技術は、ソフトウェアの正しさを数学的に証明する「形式検証技術」をベースに、業務アプリケーションの品質向上を実現するもの。「プログラムに対する業務仕様の自動検証、実用規模のWebアプリケーションの検証のほか、網羅的な検証を可能にするものとなる。実験による効果確認の属人性を排除し、従来のテストでは発見が困難だった障害を検出できるため、品質を高水準で均一化できるほか、テスト工程の30~50%を占めるテストシナリオ、データ作成、テスト実行、結果確認という工程を自動化でき、システム開発期間の短縮に貢献できる」(富士通研究所ソフトウェア&ソリューション研究所の上原三八取締役)とした。

富士通研究所の2018年までの開発ロードマップ 富士通の知的財産戦略

●富士通研究所の技術成果を披露

 富士通研究所は、今回の説明会にあわせて、同研究所における研究成果のいくつかを披露した。

 セキュア・ポータブル環境技術は、USB HDDやUSBフラッシュメモリに、自分のIT環境を保存して持ち運ぶことができるもの。オフィスや出張先、自宅でも、ポータブルデバイスだけを持ち歩けば、任意のクライアントPCに接続するだけで、OSやアプリケーション、データを呼び出し、自分のPC利用環境を実現できる。

 ポリシーにあわせて、データをサーバーからダウンロードし、クライアントPCには残さないといった利用も可能になる。サーバーの配信技術には、PAS(Personal Access Solution)と呼ばれる富士通FENICSネットワークサービスで利用されている技術を活用する。

 今後、バイオメトリックスなどの認証技術などと連動させ、セキュリティを強化するほか、拡大が予想されるテレワーク分野での応用も可能になると予測している。

セキュアポータブル環境を実現するHDD クライアントPCと接続した状態
仮想環境を立ち上げOSおよびアプリケーションを起動する データはサーバーからダウンロードし、ローカルPCには保存できない

 車載情報系ネットワーク技術は、カーナビの映像の多重伝送が可能な車載AVシステムを実現するもの。映像、音声、制御の3種類のデータ伝送を、車載用広帯域映像ネットワーク技術により、初めて1つに統合。車載用低遅延圧縮技術「SmartCODEC」を、IDB-1394LSI製品にと搭載することで、小型、軽量化、低コスト化を図ることに成功したという。これにより、カーナビの映像の多重伝送が可能な車載AVシステムを世界で初めて実現したという。

 今後、複数の車載カメラで撮影したリアルタイム映像を活用して、駐車や発進などの際の安全確認に、複数の画像で確認できるシステムなどへの応用も可能になるとしている。

車載情報ネットワーク技術 車載システムボード
ネットワークLSIにSmartCODECの技術をワンチップ化した カーボンナノチューブの複合構造体の模式 新たなナノ構造複合体はデバイスへの応用などが期待される

 WiMAX関連技術では、独自の高効率増幅器技術の採用によって、世界最小となる20L、20kgという小型無線基地局の開発に成功。今後、UQコミュニケーションズへの導入が決定していることを明らかにした。同研究所では、2009年度のWiMAXの商用サービス開始に向けて、同装置の提供を行なう一方、さらなる低消費電力化、小型化にも取り組むという。

 また、世界最小のRFモジュールと、ベースバンドLSIの開発に成功。これをベンダーに提供することで、短期間で、WiMAX端末を開発できるようになるという。2008年度中には、miniSDのサイズに、RFモジュールとベースバンドLSIを埋め込んだ小型モジュールを提供する考えで、これにより、携帯電話などの小型携帯端末でもWiMAXが利用できる環境が整うとしている。

WiMAXの世界最小の無線基地局。UQコミュニケシーションズへの導入が決定している 富士通が開発したWiMAX用のRFモジュールとベースバンドLSI
RFモジュールとベースバンドLSIを利用したPCカード型のリファレンスモデル。富士通がこのまま市場投入する予定はない 2008年度中には、写真のようなminiSDサイズにRFモジュールとベースバンドLSIを搭載する予定だという

□富士通研究所のホームページ
http://jp.fujitsu.com/group/labs/

(2008年4月7日)

[Reported by 大河原克行]

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