Andrew Chien 基調講演レポート
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急遽Researchの基調講演を担当することになったAndrew Chien氏 |
4月3日(現地時間) 開催
会場:上海国際コンベンションセンター
IDF Spring 2008の最終日、最後の基調講演は、本来、Research担当のラトナー氏が行なう予定であったが、どうも急病のため中国には来ることが出来なかった模様である。このため、急遽ピンチヒッターとして登場したのが、Intel Researchの副社長を務めるAndrew Chien氏である。内容は、ラトナー氏が行なう予定のものをChien氏がそのまま行なうという形だったと思われる。というのは、冒頭部分のテイストが、ラトナー氏好みのSF調だったからである。
講演のタイトルは、「Digital Transformation」で、もちろん映画にもなったアニメの「Transformers」を意志したものだ。
R&Dの基調講演は、いつもIntelや同社の技術を使うサードパーティが開発中の技術が披露され、まとまった一つの話というよりは、さまざまな可能性を見せるというものである。今回のIDFの基調講演では、中国の企業や政府機関、大学の紹介がやたらとあった。こういう場所で話す機会を提供するのが、地元との関係を保つためには必要なのであろう。
基調講演のタイトルである「Digital Transformation」の意味は、デジタル技術により、我々の回りでさまざまな「変革」が起こっているという意味である。そしてその変革を起こす人々を「Transformaers」と呼んでいる。
●Classmate PCで学校を変革
最初に紹介されたのは、IntelのClassmate PCである。この日、基調講演のあと、第2世代のClassmate PCの発表が行なわれたが、それよりも少し早いお披露目となった。Intelは、中国やインドなどの学校と協力して、コンピュータを学校教育に取り入れる取り組みをしている。Classmate PCの第2世代は、IntelのいうNetBookに準拠したプラットフォームである。現在は、Celeron Mが使われているものの、将来的にはDiamondvilleを採用する予定だという。
ステージには、Classmate PCを学校で利用している子供2人と先生が登場、席に着こうとするとClassmate PCが机から落下した。これは、予定されていたハプニングで、このClassmate PCは、こうしたラフな扱いにも耐えるように作られている。形は、いわゆるクラムシェル型だが、ヒンジ部分に合成皮革の取っ手がついて、本体の表と裏側を包む形で面ファスナーを使って固定されている。これは、本体の保護を兼ねつつ、子供が持ち歩きやすいような形になっているのだという。
この日発表になった第2世代のClasmate PC。IntelのいうNetbookプラットフォームに準拠している | Classmate PCを使った授業を再現してみせる場面も。この前には、男の子が机のそばを通ると、Classmate PCが机から落下する予定されたハプニングもあった |
次にChien氏の話は、環境を変えるという話題に移る。地球温暖化は、世界的な問題であり、これにどう対処するのかという話なのだが、まず、同氏は、Intelが開発した半導体ラマンレーザーの応用製品として、分子分光器によるメタンガス検出デバイスを紹介した。Intelのラマンレーザーは、すでに発表されているが、これは、半導体上にレーザー発信器を構成する技術。従来の光を使うメタンガスセンサーは高価だったが、半導体を使うことで安価に作ることが可能になったという。
もう1つは、PC自体の消費電力を減らして、電力使用量を削減、結果的に炭酸ガスの排出を減らすという話だ。すこし強引な関連性だが、Intelらしい研究ではある。
この電力管理は「Holistic」(全体論的)と呼ばれるもので、電力管理をシステム全体にわたって行なう。CPUだけでなく、インターフェイスや周辺部分も含め、状態の把握と制御を高速化する。周期的に状態を監視するだけでなく、OSなどで起こるイベントを検出して電力制御を動かすことで素早く制御することが可能になる。さらに、電源装置の効率を低い負荷の部分でも向上させることで、消費電力をかなり下げることができるのだという。デモでは、アイドル状態の場合でも従来の3割程度に電力を削減する様子が示された。これが将来的には50%ぐらいまで向上できるようになるという。
●写真を変革、撮影後に焦点位置を変更
次の話題は、写真分野での変革である。Refocus Imagingの「Light Field」という技術のデモが行なわれた。ステージには3人の女性が縦に間隔を空けて並ぶ。そこでクラッカーが鳴り、紙吹雪が舞う。これを撮影する。見る限り、カメラは普通のデジタル一眼レフのようではある。基調講演では説明がなかったが、マイクロレンズを光学系とセンサーの間に入れ、光線の方向などを判定できるようにしているらしい。
処理した画像は、自由に焦点位置を変更できる。真ん中の女性にだけ焦点が合う、3人の女性全員に焦点が合うといった画像を後から作成できる。似たようなものに、焦点位置をかえて多数の画像を撮影してあとから合成するという手法がある。しかしこのLight Fieldの場合、舞っている紙吹雪は、静止したままなので、一枚の画像しか撮影していない。
焦点の合っていないいわゆるピンぼけの写真でも、記録されている情報はピントが合っているものと同じである。ただ、本来狭い範囲に記録されるべき光源からの情報が広い範囲に拡散され、これが畳み込まれているだけである。ただし、数学的には分離可能であっても、被写体位置などの情報がなにもない状態では、光学系での変化をパラメータ化するのは難しく、そのまま写真を撮ったのでは処理が困難になる。
Light Fieldとは、光線の方向を判定できるように画像を記録し、光源からの光線の向き(ベクトル)から距離を推定し、これを元に撮影後、被写体の状態を復元するのだと思われる。
創業者の Dr.Ren Ng氏は、かつてSIGraphなどでいくつかの論文を発表していた研究者で、その成果でRefocus Imagingを創業したのだと思われる。
【お詫びと訂正】初出時に、事実と異なる記載がありましたので、一部文面を訂正させていただきました。
Light Fieldとは、被写体で反射した光線で、これを集めたものが写真になる | Light Fieldによる撮影後の画像処理。最初の写真では、焦点は、真ん中の女性に会っているが、次の写真では、全員に焦点が合っている。まわりを舞っている紙吹雪が両方の写真で同じことから、同一の写真データを元に処理されたものだとわかる |
話題は、ビジュアルコンピューティングに移る。まずは、マルチコア上でのマルチスレッドアプリケーションを記述する言語Ctを紹介(Ct自体は前回のIDFで紹介済み)した。
また、マルチコアを使うビジュアルコンピューティングの例として中国NeuSOFTのシステムを紹介した。これは、自動車に搭載するシステムで、自動運転を補助するものだ。カメラで道路や他の車、歩行者を検出、その位置や速度などを求め、自車との関係を把握する。これを使って自動運転を補助する。デモでは、マルチコアプロセッサを使ったシステムを見せ、コア数を変えることで認識速度が変化することを見せた。
次いで登場したのが、Fudan大学のMingmin Chi准教授(Associate Professor)である。同准教授は、ロボット「Fuwa」を開発している。このロボットは、音声やビデオ入力を持ち、人間の働きかけに応答するようになっている。ステージでは、人間の言葉に応じて動作するデモを行なったが、Chi准教授の言葉に反応したあと、Andrew Chien氏が話しかけると「あなたの言っていることが理解できない」と答えたときには、あまりにも「お約束」すぎて、笑いが起きていた。だが、実際には単に声が聞き取りにくかったようである。
最後にAndrew Chien氏は、いまや世界は変革されようとしており、さまざまなチャンスがあり、創造性やイノベーションを必要としている。この変革にぜひ「Transformer」として参加してほしいと述べた。そして孔子の「良い物を作るには、まず道具を鋭くしなくてはならない」という言葉でスピーチを締めくくった。
□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
(2008年4月4日)
[Reported by 塩田紳二 / Shinji Shioda]