「2008年のキーワードは、デジタルホーム、モビリティ、グローバル」。 富士通のPC事業を統括する経営執行役、パーソナルビジネス本部の五十嵐一浩本部長は、2008年における富士通のPC事業への取り組みをこう表現する。 「利用シーンをより明確化した製品を投入する。デジタルホームでも、モバイルでも、PCならではの機能を前提として、明確な使い方を表現できる製品投入に力を注ぐ」と、2008年に富士通が投入するPCの方向性を示してみせた。 果たして、富士通はどんな製品を2008年に投入することになるのか。 ●五十嵐本部長が社内に示す4つの方針 2007年6月に、五十嵐氏が本部長に就任してから、4つの方針が社内に示されている。 1つ目は、「価値の創出」である。 「2台目のPCや、3台目のPCといった需要があるとは言われながらも、それを顕在化できるだけの製品提案ができていたかというと、大きな反省がある。こういうことができるからPCがもう1台欲しい、と思ってもらえるような製品を提供できないか、と社内に話している」 これは、言い方を変えれば、標準的な仕様のPCだけを投入するのではなく、利用シーンや用途に特化した製品も積極的に投入していくという考え方だ。 2007年に発売した「LOOX U」は、その1つの好例だろう。家や会社には、PCを設置していながらも、持ち運びができるようなPCがもう1台欲しいという要求に応えた製品ともいえる。また、春モデルとして、この1月から投入する「LOOX R」も、モバイルビジネスシーンでの利用を狙ったもの。特定の利用シーンで効果を発揮するPCとして選択してもらえる製品だといえる。
また、シニア向けといったユーザーターゲットごとに価値創出を狙った製品も、今後は想定されそうだ。 2つ目は、「これまでのPCとは、まったく別のものを開発する」ということである。 PCの機能を使いながら、それでいて、従来のPCとは異なるコンセプトを持った製品の創出を目指しているという。
具体的な製品としては、リビングPCの「TEO」がある。PCの機能を持ちながら、デジタル家電との融合を実現した製品である。 もちろん、2007年におけるTEOの位置付けは、事業の観点から見ると、まだ揺籃期の製品であった。しかし、2008年には、いよいよ成果が求められる時期に入ってくる。 「TEOは、2008年における富士通のPC事業全体の成果を左右する存在になりうる」と五十嵐本部長は語る。つまり、富士通の事業において、存在感を持った製品へと成長させることが求められるようになるというわけだ。 そのポイントは、北京オリンピック需要になるだろう。アテネ、トリノといった過去のオリンピックにおいては、デジタル家電が主役の座を確保したのに対して、PC陣営は惨敗という結果に終わり、いずれも前年割れを余儀なくされる実績に留まった。その点でも、北京オリンピックにおいて、TEOがどこまで健闘するのかにも注目したいところだ。 さらに、五十嵐本部長は、「これまでのPCとは、まったく別のもの」という観点からは、次のようにも語る。 「コンシューマPCにおいては、デジタル家電の領域での利用を想定したものを目指す一方、モビリティでは、PCのネット接続環境の進展にあわせて、どんな提案ができるかが鍵になる。リアルタイムでの接続を可能にする携帯電話がPCの機能を向上させる一方、PCが携帯電話のように常に接続された環境において、なにができるかといった提案が求められるようになる。携帯電話がPC化し、PCが携帯電話の方向に向かって進化するなかで、これまでのPCとは異なるものを創出できる可能性が出てきた」 モビリティ環境で、これまでのPCとは異なる製品として、どんな製品が登場するかにも注目したい。 ●オールラウンドプレーヤーとしての課題 3つ目は、グローバル戦略だ。 日本に加えて、欧米でも実績をあげている富士通だが、2008年は、すでに展開している中国での販売強化に加えて、新たにインドへの本格的な進出を図る。新興国市場において、富士通のバリューをいかに訴求できるかがポイントになりそうだ。「アジアにおける存在感を高めたい」と五十嵐本部長は語る。 そして、4つ目がシェアの獲得である。 国内においては、20~25%のシェアを獲得している同社だが、これを維持するための製品づくりを社内に指示しているという。1人が複数台のPCを所有するといった提案を富士通は開始する。当然、それによって、市場規模は拡大するだろう。その際に、市場拡大、用途拡大にあわせて、あらゆる角度から製品を提供し、シェアを維持するということは、オールラウンド戦略を取る富士通にとっては必須課題だといえる。 1人複数台、あるいは一家に複数台という点では、ホームサーバーや据え置き型のデスクトップPCと、持ち運び用のノートPC、モバイルPCとの組み合わせなどが想定される。これらの製品において、不得意分野を持つことなく、どんな提案ができるかが、オールラウンドプレーヤー・富士通に課せられたテーマだといえる。 ●ノートPCを持ち出せる環境の回復へ さらにこうも語る。 「こうした4つの施策の上で、セキュリティを強化していく。企業向けの提案でもセキュリティは重要な要素となる」 個人情報保護法の施行や、コンプライアンスの強化によって、ノートPCを社外へ持ち出すことを禁止するという企業が増加している。 「これが少しずつ、ノートPCの売れ行きにも影響しはじめている。メーカーの提案としては、持ち出しも大丈夫という解決策を、企業に提示することが必要」 持ち出し禁止が進行すれば、メーカーがすばらしい機能を搭載したモバイルPCを投入し、さらに、モバイルブロードバンド環境が整備されたとしても、結果として利用されないものになってしまう。持ち出しても大丈夫といえるセキュリティ技術こそが、いまこそ求められているのだ。 富士通が、どんな形でセキュリティ技術を活用した解決策を提示するのかも注目される。 ●利用シーンを明確に描いた製品に 富士通は一時期、大画面TVを搭載したPCを製品化することで、リビングにおけるPC需要の顕在化を狙っていた。しかし、ここにきて、この戦略を転換した。 「TVメーカーが作る薄型TVには、リビングに最適化したTVとしての完成度と、TVに求められる充実したサポート体制がある。PCメーカーは、ここに踏み込んでいくよりも、TVに接続するリビングPCという切り口が最適だと考えた。一方で、中小型の薄型TVの販売が好調なように、2台目以降のTV需要が急速に増加している。TVチューナを搭載した製品を春モデルで強化したのも、個室でのPC利用促進を狙ったもの。中途半端なTVPCを作るのでなく、PCならではの機能を生かした製品を作らなくてはならない」 五十嵐本部長は、中途半端なTVPCから脱却するとともに、デジタル家電にはないPCならでは機能を生かすためのキーワードの1つとして、「エージェント機能」を挙げる。 「例えば、PCの機能を生かして、コンテンツを管理し、検索し、さらには録画したものを加工したりといったことができれば、デジタル家電との差異化ができる。PCならではのエージェント機能を利用することで、録画したものから傾向を学習したり、キーワードの組み合わせで検索したり、ハイライトシーンだけを取り出して視聴したりといったこともできるようにしたい。また、PCならでのネットワーク機能を生かして、ソフトを進化させることも可能。家庭内で手軽に使える形態のPCも目指したい」 実はここでもTEOが1つの鍵になる。 「エージェント機能の元締めになるのはTEO」と、五十嵐本部長は位置付ける。 「TEOは、レコーダの代わりとして利用されるのではなく、TEOだからこそ、こんなことができるというものを提案したい。普通の家庭に、普通に買ってもらえる商品にしたい」と語る。 現行TEOとのコンセプトとは異なり、リピングにおいて、手軽にしまえる、手軽に操作できるというのも、新たな別の製品として用意されるかどうかにも注目したい。 また、アクティブシニアなどを想定したユーザーターゲットを明確化した製品の投入にも注目される。 いずれにしろ、2008年の富士通のPCは、利用シーンを描いたPCが提供されることになりそうだ。 12月下旬から順次発売されている春モデルにも、すでにその片鱗が伺える。富士通のPCに搭載される機能を、自らの利用シーンを照らし合わせて見てみると、富士通が利用シーンを前提とした製品定義をしていることがわかりやすいかもしれない。
□富士通のホームページ (2008年1月15日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
|