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2008 International CESレポート

ビル・ゲイツ氏基調講演レポート
~次の“デジタルの10年”の課題

Microsoftの会長兼CSAのビル・ゲイツ氏

会場:Las Vegas Convention Center
    Sands Expo and Convention Center/The Venetian

会期:1月7日~10日



 International CESの会期は1月7日~10日までの4日間だが、現地時間1月6日の夕刻にはキックオフキーノートスピーチとしてMicrosoftの会長兼CSA(最高ソフトウェア開発責任者)のビル・ゲイツ氏による基調講演が行なわれ、明日からの展示会を前に事実上開幕した。

 今年の夏にはMicrosoftの仕事から引退することが決まっているビル・ゲイツ氏は、Microsoftの会長としてCESで講演するのは今回が最後ということもあり、来場者の注目度も高く、開始までには用意された席のほとんどが埋まる状態だった。

 その内容の多くは、ゲイツ氏が“デジタルの10年”と呼ぶこれまでのデジタル化が実現してきた10年を振り返るとともに、これからのデジタルの10年の課題を語るという前半と、Microsoftが現在力を入れているWindows Live、Windows Mobileなどの製品をアピールするという後半と事実上2つのパートに分かれた構成になった。

●過去のデジタルの10年は成功裏に終わった

 ゲイツ氏は「私が最初にCESで基調講演を行なったのは'94年だった。その時はWindows 95に向けて準備をしている段階だったし、インターネットもまだ始まったばかりだった。それから数年して、我々がデジタルの10年と呼ぶ期間が始まったわけだが、PCは10億台を超え、ブロードバンドは2億5千万のユーザーがすでに利用し、世界中の40%の人が携帯電話を持つようになった。フィルムカメラはデジカメになり、音楽も同じような移行を遂げつつある。これらはいずれもソフトウェアの力により成し遂げられ、そして大成功を収めた」と述べ、ゲイツ氏が好んで使うデジタルの10年(Digital Decade)というあらゆるものがアナログからデジタルになる“移行期”が成功裏に終わったとした。

デジタルの10年で多くのモノがデジタルに。カメラも電話もほとんどがデジタルになった

 ゲイツ氏にとってデジタルの10年はまだ終わりではないようだ。「これは始まりに過ぎないのだ。次のデジタルの10年に向けてさらに取り組みを強化しなければならない」と述べ、今日の基調講演ではこれからの10年に向けての取り組みについて話したいと語った。

 しかし、その前にとゲイツ氏は前置きをして、恒例となっている“お笑いビデオ”を上演して見せた。今年のテーマは、まさにそのゲイツ氏の“引退”で、ビデオにはMicrosoftのスティーブ・バルマーCEO、今まさに民主党の大統領候補の指名を争っているヒラリー・クリントン上院議員、バラック・オバマ上院議員、ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア前副大統領などの今話題の有名人などが登場し、ゲイツ氏とコントを繰り広げるといった内容で、さすがゲイツ氏、各方面に顔が広い、と思わせる内容だった。

 元ネタがわからないと笑えない内容が多かったため、必ずしも日本人向きではなかったものの、会場の多数を占めた米国人にはもちろん大受けで、ビデオ上演後には今回の基調講演の中で最も大きな拍手と歓声が上がっていた。ゲイツ氏は「(ゲイツ氏の後任でソフトウェア開発の責任を担う)レイ・オジー氏とクレイグ・マンディ氏の2人に、これまで私の担当していた多くの権限を委譲しており、それはうまくいっている。それが終われば、私は教育の分野やヘルスケアなどに関するいくつかのプロジェクトを担当するだけになるだろう」と述べ、同氏が引退してもMicrosoftはきちんと機能し続けるとアピール。そしていくつかのプロジェクトに関しては引退後も関わっていくことを明らかにした。

恒例となっている“お笑い”ビデオ。今年はゲイツ氏自身の引退がネタだった

●次の“デジタルの10年”に必要な3つの要素

 ゲイツ氏は「次のデジタルの10年では、より人々同士を繋いでいくこと(Connected)に焦点が当たっていくことになるだろう。つまり、これまでよりもユーザーセントリック(ユーザーを中心に据えること)になることが重要視されるだろう」と話し、これからの新しいデジタル10年で何が重要になるのかに関して語り出した。

 「そうした次のデジタルの10年では、さまざまなものに変化をもたらすはずだ。TVもそうだし、本も、ヘルスケアも、そして教育も大きく変わっていくはずだ。そうしたものに変化をもたらす要素は3つある」と、次のデジタルの10年を大きく左右するこれから注目されるであろう3つの要素について語り出した。

 ゲイツ氏によれば、その3つとは

1.HD(High-Definition)体験
2.リッチなデバイスとサービス
3.より自然なユーザーインターフェイス(UI)

だという。

 ゲイツ氏は「どこでもHDになることが重要だ。スクリーンの技術が改良されることで、机の上にコンピュータが置いてあるなんてことはなくなるだろう。壁や机などスクリーンになり、どこでもHDが使えるようになる」と述べ、それによってユーザーはいつでもデジタル世界にアクセスして、ソーシャル3D(セカンドライフのようなことをいっているのだと思われる)を楽しむなどのことが可能になると述べた。

 2つ目の要素として挙げたのはリッチなデバイスとサービスの存在だ。「例えばよりしっかりしたユーザー認証が確立すれば、新しい携帯電話を買ってもデータの移行なんかしなくても簡単に乗り換えることができるようになる。将来的にはデバイスがユーザーの好みを理解し、ユーザーがどこにいるかを理解し、最適な環境を提供するようになる」とし、より充実したデバイスとサービスをともに提供することにより、ユーザーはデバイスを理解しなくても簡単にデジタル機器を使いこなせるようになるはずだと指摘した。

 3つ目の要素としてゲイツ氏が指摘したのは、より自然なUIだ。「最初のデジタルの時代ではキーボードとマウスにより操作は行なわれてきた。しかし、ユーザーインターフェイスはもっとシンプルに、かつ自然にならなければいけない。今後は音声認識やタッチスクリーンなどさまざまな方法が試されるだろう。人々はよりシンプルな方法で情報にアクセスする手段を求めているのだ」と述べ、今後より自然なUIやホームオートメーションなどを実現していくことがユーザーを増やしていく上で重要だと説明した。

 ゲイツ氏はこれまでのデジタルの10年を実現する上で重要な役割を果たしてきたWindowsについて触れ「昨年はPCにとって重要な年となった。販売額で13%の市場の成長を実現し、今年に関してもそれを繰り返し、倍の数字の成長率を実現できると予測されている。1年前にリリースしたWindows Vistaはすでに1億人ものユーザーが使っており、これは今後の新しい時代へのマイルストーンになるだろう」と述べ、Windows Vistaの立ち上げが成功したことをアピールした。

●NBCがSilverlightを利用してオリンピックをブロードバンド中継

Windows Mobileは昨年1千万台のユーザーを獲得

 ついでゲイツ氏は、Windows LiveとWindows Mobileについて言及した。「我々は新しいサービスとしてWindows Liveをリリースし、すでに4億人のユーザーがサービスを利用している。また、携帯電話向けOSであるWindows Mobileも昨年(2007年)に新しいバージョンをリリースしたが、その年だけで1千万人の新しいユーザーを獲得している。そして今年にはその倍のユーザーを獲得するだろう。今後は携帯電話に向けたアプリケーションは多数増えていき、ユーザーがそれらを走らせたいと思う希望は増していくだろう」と述べ、携帯電話におけるプログラマビリティ性の拡大についても言及した。

 ゲイツ氏はMicrosoftのMika Krammer氏を壇上に呼び、Windows LiveとWindows Mobileに関するデモを行なった。Krammer氏はWindows Liveにログインして、Windows Live CalenderやWindows Live Eventなどを機能を利用して予定やイベントの計画を友人とシェアしたり、イベントが終わった後で写真をシェアしたりということが簡単にできる様子をアピールした。

 さらにその後、ゲイツ氏はMicrosoft Surfaceと呼ばれる昨年発表された机の上がタッチパネルのディスプレイになっているプロトタイプを使って、自分の好みにスノーボードをデザインし注文する様子などをデモした。

 さらに、ゲイツ氏はMicrosoftが昨年公開した新しいWeb技術“Silverlight”について言及した。Silverlightは、ビデオやアニメーションなどをよりリッチに再生できるようにするための技術で、MicrosoftのWebサイトからプラグインの形でダウンロードして利用できるようになっている。Adobe Flashのライバルだと言えばわかりやすいだろう。

 ゲイツ氏はそのSilverlightに関して、NBCとMSNが北京オリンピックのブロードバンド中継サイトのためのWeb技術として採用したことを明らかにした。「このパートナーシップは非常に重要なものだと考えている」とSilverlightの普及のきっかけになると強調した。

Windows Liveについてのデモ。基本的にはすでに開始されているサービスの説明だった
Microsoft Surfaceのデモ、スノーボードのデザインを机の上のディスプレイで行なっていった
NBCとMSNが北京オリンピックのブロードバンド中継でSilverlightを利用する

●Xbox Live向けにABC、ウォルトディズニー、MGMなどとコンテンツ配信

 その後、ゲイツ氏はロビー・バック氏(Entertainment and Devices Division 社長)を壇上に呼び、バック氏がMicrosoftのコンシューマ向け製品に関しての説明を行なった。

 バック氏はまずWindows VistaとXbox 360に関するゲーム環境を説明。「Windows Vistaは新しいゲームのプラットフォームとして今後も拡大を続けるだろう。また、Xbox 360は今後はゲームコンソールとしての役割だけでなく、よりエンターテインメント機器としての役割を増していく」とし、ABC、ウォルトディズニーなどの企業が新たに米国のXbox Live向けにTVプログラムを提供していくことを明らかにした。

 ABCからはLost、Grey's Anatomy、Desperate Housewivesなどのプログラムが提供され、Xbox Liveのユーザーが楽しむことができるようになるという。さらにバック氏はハリウッドのMGMとも契約したことを明らかにし、Rocky、Terminator、 Silence of the Lambs、Legally BlondeなどのタイトルがXbox 360向けに配信されると述べた。まさにXbox 360がIPTVのセットトップボックスになってしまうのだ。

Microsoftのロビー・バック氏(Entertainment and Devices Division 社長) Xbox Live向けのコンテンツ配信でABCやウォルトディズニーと契約 同じくMGMともXbox Live向けのコンテンツ配信で契約

 さらに、Windows Vista環境において、Windows Media Center用のDMAとなるMedia Center eXtender(MCX)の新しいデバイスをSamsungとHPが出荷することを明らかにした。特にHPはSmart TVと呼ばれるHDTVにMCXの機能を組み込んだ製品をリリースするとのことだった(別記事参照)。

 音楽に関しては昨年に投入した新しいZuneの機能をデモした。新しいZuneには、Zune Socialと呼ばれるSNSのように音楽に関する情報を共有する機能などがあるが、それを利用することで友人がよく聞く音楽をチェックしたり、それをネットを通じて購入したりということができるようになる。バック氏は「こうした新しい使い方は音楽ビジネスをむしろ発展させるものになるだろう」とし、音楽業界に対してもより速いデジタルへの移行を訴えた。

 また、Microsoft Syncと呼ばれる車とZuneのような機器の接続インターフェイスについてもデモが行なわれた。すでに自動車メーカーのフォードともライセンス契約が行なわれており、今後搭載した自動車などがリリースされるという。Zuneや携帯電話などをUSBケーブルやBluetoothで接続し、音楽を再生したり、携帯電話をハンズフリーで利用したりということができるという。

サムスン電子とHPが新しいMCXデバイスを出荷へ Zuneのソーシャルネットワークサービス。日本で言えばウォークマン+mixiみたいなものだろうか Fordと社内エンターテインメントシステムとの接続インターフェイスになるMicrosoft Syncの契約を去年締結

●最後はGuitar Hero IIIを弾きながら満員の観衆にお別れ

 その後バック氏は、今後Microsoftが携帯電話向けのエンターテインメントビジネスに関して、Paramount、Best Buy、Verizonのようなパートナーと可能性を探っていると言及し、「Microsoftはそうした携帯電話向けのモバイルブロードバンドの広告ビジネスに関してシリアスに可能性を検討している」と述べた。

 その後、ゲイツ氏がステージに戻り、いくつかの開発中の製品のデモを行なった。1つには新しいUIで、写真やビデオなどが自動的に保存させてカテゴリ毎に表示されるもの、もう1つは携帯電話のカメラを利用して、その認識機能により、場所を把握してそれに関する情報をWebから引っ張ってきて情報を表示させたりするものだった。

携帯電話のカメラを利用して、さまざまなものが認識できるようになる。シアターでは、オンラインでチケットを買うようになることも
3Dを利用したコンテンツ再生のユーザーインターフェイス。もしかすると未来のWindows Media Centerかも?

 最後に、ゲイツ氏が音楽シミュレータとして知られるGuitar Hero IIIを利用して弾き語りをしようとすると、バック氏がGuitar HeroのコンテストのチャンピオンであるKelly Law-Yone氏を呼んで対抗して演奏させる。するとゲイツ氏も“こっちも神を呼んであるよ”と対抗して、有名なギターリストのSlash氏を呼んで、ちょっとした演奏会になったところで、ゲイツ氏の基調講演はお開きになった。

Guitar Hero IIIにチャレンジするゲイツ氏 Guitar Hero IIIのチャンピオンKelly Law-Yone氏
ゲイツ氏の呼びかけで、ギタリストのSlash氏登場 最後は演奏会となり、基調講演は幕を閉じた

□2008 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□ビル・ゲイツ講演の概要(抄訳)
http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3318

(2008年1月8日)

[Reported by 笠原一輝]

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