元麻布春男の週刊PCホットライン

Vista登場の翌年に見る次期Windowsの夢




●WindowsとMac OSが更新された2007年

 2007年は、ある意味、非常に特別な年であった。2大商用OSであるWindowsとMac OSの、それぞれ最新版が一般にリリースされたからだ(シェア1位と2位の差はちょっと開いているが)。もちろん、Windows Vistaが最初にリリースされたのは2006年11月末のことだが、一般へのリリースとなると2007年1月末ということになる。Mac OSの最新版であるMac OS X Leopard(Ver 10.5)がリリースされたのは10月末のことだ。

 通常、こうした商用OSのアップデートサイクルは2~3年というのが相場であり、このところのMac OS Xのリリースサイクルはほぼこれに一致する。Windows Vistaは、有償のメジャーアップデートとなるとWinodws XPが最初にリリースされた2001年11月以来であり、間隔が開きすぎたのが、最大の失敗だったと筆者は思っている。

 もともと、最新版のOSというのは、メインストリームのPC(ハードウェア)で普通に使え、ハイエンドのPCで快適、ローエンドでちょっともたつく、くらいのスペックで投入される。ところがXPが5年以上も続いたものだから、最新版のOS(Windows XP)がローエンドでも快適に使えるようになってしまった。結果、PCのスペックなんて何でも良い、という「常識」が根付いてしまったわけだ。

 それはともかく2008年は、この反動でOSのメジャーアップデートが期待できない年である。Windows Vistaの最初のService Packがまもなく登場することになってはいるが、基本的にはバグフィックスであり、Service Packで何か画期的な機能が追加されたり、格段に動作が軽くなるというわけではない。それがService Packというものの本質的な姿だ。

●Microsoftの大型イベントは秋まで延期

 しかしOSのメジャーアップデートがないということは、次のメジャーアップデートへの期待がふくらむ年でもある。何せ、OSのメジャーアップデートともなると、長期間のテストが不可欠であり、リリースされる年にはベータテストの様子から、だいたいどんなOSがリリースされるのか予想がついてしまう。メジャーアップデートが終わったばかりの2008年は、何も情報がないだけに、次に向けて最も夢がふくらむ時なのだ。

 この次を語るイベントとして、従来であれば真っ先に開催されるハズだったのは、MicrosoftのWinHECだ。年に1回、春に開かれてきたWinHECは、ハードウェア開発者/業界向けのイベントであり、デバイスドライバなどOSのローレベルに関する技術情報を開示するイベントだ。

 ところが昨年の暮れ、Microsoftは2008年からWinHECを秋に移すことを発表した。本稿執筆時点において、まだ新しい開催日、場所とも明らかにされていないが、あくまでも2008年内の開催日変更であり、キャンセルではない。同じ開発者向けイベントでも、ISV向けのPDCが2007年の開催をキャンセルしたのに対し、WinHECがキャンセルを回避したのは、やはりWinHECがハードウェア業界という、直接MicrosoftのOSをライセンスしてくれるお客さん相手のイベントであるからだろうか。

 いずれにしても、本来は昨年の秋に開かれる予定だったPDCと、2008年春に開かれる予定だったWinHECを延期したことで、Microsoftは次を語るための準備期間を得ることになった。というより、2008年の春では、次について語る準備が十分できない、という判断がなされたのだろう。

●次のWindows“Windows 7”

 ここで言う「次」とは、現在“Windows 7”という仮称で呼ばれている、次期Windowsを指す。これまで“Blackcomb”や“Vienna”などの名前がささやかれていた次期Windowsだが、しばらく前からWindows 7という名前で呼ばれるようになっていた。

 Windows 7については、昨年10月にイリノイ大学で開かれた「ACM Computing Conference」において、MicrosoftでOSカーネルと仮想マシン開発のエンジニア/ディレクターの肩書きを持つEric Traut氏が、簡単なデモを交えて紹介したことから、一気に広く知られるようになった。が、ここで披露されたものから、最終的な製品としてのWindowsを推測することは非常に難しい。

 Traut氏の講演の極めておおざっぱな骨子は、将来のWindowsにおいて仮想化技術がますます広範に使われるようになるであろうことであり、Windows 7はそれを紹介する文脈の中で、肥大化していると考えられているWindowsも、そのカーネルは非常に小さい(40MBのメモリを割り当てた仮想マシンで、7MBがフリー)ということを示したに過ぎないからだ。

 Microsoftは、すでにWindows Server 2008においてHyper-Vと呼ばれるハイパーバイザタイプの仮想マシンマネージャを導入すると発表している(AMDがBarcelonaの出荷を止めた理由の1つは、Windows Server 2008のTLB管理で問題が出るからかもしれない)。が、これが次のクライアント向けWindowsに使えるかというと、必ずしもそうとは限らない。実際Q&AでTraut氏は、学生の質問に答える形で、現時点における開発のフォーカスがサーバーにあることを示し、グラフィックスデバイスの共有について、具体的な開発が行なわれているわけではないことを示唆した。

 DirectX 10の方向性は、グラフィックスデバイスのパーティショニングを可能にするものだと思うが、だからといって次のWindowsで、クライアント向けのWindowsにまで仮想化がふんだんに使われるとは思いにくい。現在、新製品として売られているPCでさえ、CPUには仮想化支援機能を持たないCeleronが広く使われているし、DX10 GPUについては将来のパーティショニングどころか、まともな現行スペックのドライバをリリースするのに四苦八苦しているのが現状だ。

 こうした状況で、2~3年後にリリースする次期Windowsに仮想化を大々的に取り入れるのはリスクが大きすぎる。かといってXPとVistaのように6年も間隔を開けて仮想化技術の進展を待っていては、これまた大きな非難を浴びることになるだろう。実際にはサーバー向けのWindows Server 2008においても、Hyper-VはOS本体とは別に提供されるオプションであり、一足飛びに仮想化技術へ全面移行というわけにはいかない。

 将来的にはクライアント向けのWindowsも、仮想化技術を全面的に取り入れたものになるかもしれない。が、次期Windowsについては、ハイエンドのエディションにオプション的に採用される形にとどまり、Windowsのベースとして採用されることはないのではないかと、現時点では思っている。仮にローエンドだけ仮想化を省略すると、「今度のWindowsはローエンドがサクサク」などと揶揄されてしまいかねない。

 こうした疑問に対する答えが得られるかもしれない最初のチャンスは、どうやら10月末に開かれる「PDC08」だ。冒頭でも述べたように2007年の開催がキャンセルされたPDCは、10月27日~30日にLos Angelesで開催されることが決まった。単に秋とだけされているWinHECとどちらが先の開催になるのかは不明だが、少なくとも10月末の時点までにMicrosoftは語るべき何かを準備できると考えているようだ。次期Windowsについては、とりあえず今年の秋を楽しみにしたい。

 一方、昨年の10月に最新版をリリースしたばかりのMac OS Xだが、次がどのようなものになるのか、現時点で予測する材料は皆無に等しい。Appleの開発者イベントであるWWDCは、通常は6月に開催されるが、今年いつ頃開催されるのかも現時点では不明だ。サッカーのワールドカップが開催された場合など、日程が重なるのを嫌って8月に変更する、などとも言われるが、今年は8月に北京オリンピックが開催されるから、その心配はないだろう。おそらく春になれば日程が明らかにされるだろうから、それを待つしかなさそうだ。

□「ACM Computing Conference」ホームページ(英文)
http://www.acm.uiuc.edu/conference/2007/
□Eric Traut氏の紹介(英文)
http://www.acm.uiuc.edu/conference/2007/speakers#EricTraut
□講演内容動画
http://www.acm.uiuc.edu/conference/2007/videos
□関連記事
【2007年7月30日】急浮上した次期OS「Windows 7」-いま語られることの意味(Enterprise)
http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/infostand/2007/07/30/10850.html

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(2008年1月7日)

[Reported by 元麻布春男]


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