Vintage Computer Festivalレポート【初日編】 Tandyの「TRS-80」やビジコン電卓など
会期:11月3日~4日(現地時間) 会場:カリフォルニア州マウンテンビュー Vintage Computer Festival(以下VCF)は、古いコンピュータをテーマにしたイベントである。このイベントでいうVintageとは、およそ10年以上前の「Obsolete」(時代遅れ)なコンピュータを対象とし、一般的なx86のコンピュータ、いわゆる現在のPCと呼ばれるものは入っていない。 このイベントは、商業ベースのものではなく、Sellam Ismail氏が主催するユーザーベースのイベントである。イベントは、「celebration of computers and their history」のためのものであるとされている。VCFは、米国内で年3回(カリフォルニア州、インディアナ州、ニュージャージー州)開催され、ヨーロッパ(ドイツのミュンヘン)でも4月に開催されている。 カリフォルニアでの開催は今回で10回目、つまり10年目になる。今回は、11月3日、4日(現地時間)に、米国、カルフォルニア州マウンテンピューにあるComputer History Museumで開催された。ここは、やはり古いコンピュータを集めた博物館で、DECのGordon Bell氏(PDP-10やVAX-11のアーキテクト)のコレクションや、かつてシカゴにあったコンピュータ博物館などの展示物を受け継ぐほか、米国各地から古いコンピュータを集めている。 ●イベントは講演と展示、マーケットプレース VCFは、午前中の講演やフィルムショーと、午後からの展示とマーケットプレースからなる。午前中の講演は、おもにコンピュータの歴史などに関するもの。展示やマーケットプレースも、古いコンピュータに関するものだ。 初日は、午前中の来場者が数十人ぐらいというところ。会場となるComputer History Museumは、米国の高速道路101のすぐそばにあり、車を使わないと行けないような場所。ここの駐車場には、100台以上駐車できるのだが、午後にはほぼ満車で、路駐なども見られた。それから推測するに、午後の展示、マーケットプレースには、延べで200~300人というところか。この手のイベントとしてはまずまずの盛況ぶりである。筆者は以前にもこのComputer History Musuemに来たことがあるが、普段は、こんなに車は止まっていない。 ●TRS-80や4004の話題が 初日午前中の講演は、 The Role of the TRS-80 in Computer History の4つ。筆者は、このうち、最初の3つに出席した。
最初の「The Role of the TRS-80 in Computer History」は、TandyのTRS-80の歴史などについて語るもの。TRS-80は、Z80を使った8bitのBASICマシン。Tandyは、米国で電子機器販売チェーン店であるRadio Shackを経営する。当時、Radio Shackは、日本にも進出していたため、TRS-80を使っていた方もいらっしゃると思う。 話者は、TRS-80のソフトウェア販売などを行なっていたDavid Welsh、Theresa Welsh夫妻。当時の裏話として、最初に搭載されたLevel I BASICは、Palo Alto版Tiny BASIC(Dr. Li Chen Wang氏開発)をベースにしたものだとか、Level II BASICとしてMicrosoftのBASICを採用したが、ビル・ゲイツから5万ドルを要求された、しかし、Tandyは支払いを拒否したとか。しかし、MicrosoftのBASICは、TRS-80が全米で広く販売されることで、知名度を上げ、同社のビジネスに大きく貢献したとビル・ゲイツは、'93年にスピーチで述べているという。 逆に、FD用のオペレーティングシステム(DOS)、TRSDOSの開発を請け負ったRandy Cook氏は、Tandyと契約で揉めて報酬を受け取れず、VTOSなどのサードパーティDOSの開発を始めたとか。TRS-80用には、いくつものDOSが登場して競争状態になったのだが、その裏には、こういう話があったわけだ。 2つめの「Deconstructing the Intel 4004」は、Intelの4004を復活させるプロジェクトの話。話者は、「Intel 4004 35th Anniversary Project」のTim McNerney氏。同プロジェクトでは、Intel本社にあるIntel Museumの35周年記念展示などのために、さまざまな資料を収集し、4004やビジコン電卓などを解析、再構築した。プロジェクトのホームページへ行けば、4004の回路図やシミュレータ(Javaで記述)などがある。 スピーチでは、4004の概要などが解説された。4004は、4001~4004の4つのデバイスからなる製品で、4004がそのCPU部分。4001はROM、4002がRAM、そして4003は、シフトレジスタである。当時のパッケージの制限(このシリーズは16ピンのDIP)から、4001/2は、ROM、RAMといいながらも、CPUの制御機能の一部を内蔵し、I/Oポートもこの中にあった。 なお、4004は、ビジコンの電卓に採用されたが、電卓としてはこれが唯一。Intelが販売権を得てからは、エレベータのコントローラやドイツで作られた世界初の電子式タクシーメーターなどに使われたという。 残っていたROMを読み出すためにハードウェアを作り、マニュアルなどから4004を再構築し、ビジコンの電卓を復活させたわけだ。なお同プロジェクトでは、FPGAなどでビジコンの電卓の復刻版を来年(2008年)ぐらいに作るつもりだとか。
3つめの「Intel SIM8-01: A Proto-PC」は、Intelが、EPROM(紫外線消去可能な書き換え可能なROM)用に作ったSIM8-01というシステムが、その後のパソコンの手本となっていたという話。スライドのタイトルは「Why Intel did not invent a PC?」となっていた。Intelは、4004をMCS-4という名称で発売した後、EPROMの販売のためにSIM4というシステムを作った。EPROMは、電気的に書き込みができるが、高電圧を一時的にかける必要があり、Programmerと呼ばれる機器で書き込みを行ない、その後ソケットに差し込んで利用する。Intelは、半導体メモリを開発するために創業され、当時のメインのビジネスはメモリであったため、こうした製品が必要だったのである。 また、4004に続いて8bitの8008が開発されたとき、このシステムは、SIM8となった。この回路図が、8008のマニュアルにリファレンス実装として記載されていたために、当時開発された8008ベースのシステムの基本となったというのである。こうしたシステムがその後、発展し、Altirなどにつながっていくわけだ。そういう意味では、Intelは、直接にはPCを開発はしなかったものの、その基礎を提供したというわけだ。 明日は展示会場やマーケットプレースの様子をレポートする。
□Computer History Museumのホームページ(英文) (2007年11月5日) [Reported by Shinji Shioda]
【PC Watchホームページ】
|