●「バスパワー」でスペックが決まったS300
パーソナル向けドキュメントスキャナというマーケットに再びニーズがあると判断されたのか、最近はPFU以外にキヤノンの「DR-2050CII」とかコクヨS&Tの「Caminacs」あたりが同種の価格帯で同程度の機能の製品を投入してきており、市場が盛り上がりつつあるのは好ましい事だ。 そもそもこうしたマーケットの先駆けになったのは米LogitechのFreeScanあたりではなかったかと記憶しているが、なにぶん古い話なので間違えていたらご容赦いただきたい。ただ当時は使い勝手もいまいちで、ファイルフォーマットもTIFFだったかBMPだったかで無茶苦茶大きく、閲覧ソフトも洗練されていないとあって、ごく一部の熱烈的なマニアが拘っただけで、マーケットを形成するまでには至らなかった。 ところが、これとは別に業務用としてコンスタントに製品を作っていたPFUが、そのサブセットとしてScanSnapシリーズを発売したところ、これが(失礼ながら)意外にヒット、それなりにマーケットが出来上がったと筆者は理解している。勿論キヤノンなどもずっとドキュメントスキャナを発売していたし、フラットベッドスキャナ+ADFという組み合わせでPDF化を行うツールなどもあったから、いきなりポンとマーケットが出来たというよりは、マーケットが出来るための素地は常にあり、何かきっかけがあればマーケットになるという状況が長く続いていたというべきなのかもしれないが。 まぁそういう昔話はともかく、結果としてさまざまなメーカーが「ScanSnap」シリーズを1つの基準に置いて追いかけてくる、という中でPFUが次に打った手は、「ScanSnap S510」の高性能化ではなく、低価格向けの小型スキャナを投入するという方向だったのは筆者にはちょっと意外だった。 さて、パッケージ外箱。今回は発売前に機材を借用したためか、まるで特徴の無い白箱だったが、実際の製品はきちんとデザインされたものになる(写真01)。内容物はこんな感じ(写真02)。ACアダプタは非常に小さく、重さも僅か146gしかない優れたものだが、それをぶち壊しにするのがACアダプタ用のメガネケーブル。こちらの単体重量が113gもあって、折角の「軽く・小さい」ACアダプタの特徴を台無しにしている感がある。消費電力を考えてもあまりにオーバースペックであり、長さも不必要に長い気がする。筆者なら、もっと短くて軽いメガネケーブルを探して取り替えるだろう。
使い方はScanSnap S500/S510と同様、この様に蓋を開いてガイドレールを延ばすだけである(写真03)。ただし排紙トレイは存在せず、そのまま前方に排紙される形となる。 側面から見るとこんな具合であり、利用時には多少背面スペースが必要になる(写真04)。 スキャナ部はこんな具合に観音開きする(写真05)。スキャン部の構造もS500/S510にほぼ同一で、幅一杯に展開される固定式センサーが紙の上面と下面に位置する仕組みだ(写真06)。 背面はUSBコネクタとACアダプタのコネクタが覗く(写真07)が、S500/S510がDC 15V供給なのに対してS300では7.2Vに低減されている。またUSBがミニコネクタになっているのも大きな違いだろう。
ここまで見ればわかるとおり、S300の大きな特徴は小型軽量であり、可搬性をかなり意識している。実際別売りながら専用ソフトケース(2,980円)も用意されているほどだ(*1)。それに加えての特徴は、USBバスパワーでの駆動が可能になったこと。とはいえ、さすがに1本のUSBケーブルの電力(2.5W)だけでは足りないようで、データ接続用のUSBケーブルとは別にUSB給電ケーブルが用意され、これをACアダプタの代わりに装着する形になる。これを使えば一応ノートPCとあわせてスタンドアロンでの動作が可能になるという仕組みだ。どこまで現実的か、という話は別にして(セカンドバッテリーを装着できるような機種であれば、それなりの枚数のスキャンは可能だろう。要は構成次第ということだ)、とりあえずこれを実現した事そのものは評価して良いと思う。 もっとも、これはそれなりの犠牲を払っての実現ではある。カタログスペックによれば、A4縦の読取速度は表1のようになっている。ACアダプタ利用時の速度もお世辞にも速いとは言えない(初期のfi-4110EOX2ですら、Normalで7.5ppm、S500やS500ではNormalで公称18ppm、実測では19ppm以上だった)。ドキュメントスキャナを使うのは初めて、という人はともかく、普段S510などを使い慣れた筆者にはかなり遅く感じたのは事実。さらにUSBバスパワーにすると、更に速度は半減してしまうわけで、ちょっと用途を考えてしまうところだ。
また小型化したことで、給紙能力もやや落ちている。原稿搭載枚数は、A4の80g/平方mの上質紙の場合で10枚となっており、「どうせ遅いから、スキャンしている間にちょっと休憩」とか言っていると、あっというまに読取が終わってしまったりする。恐らくこのあたりは、モーターのスペックダウンに起因するのだろうと想像される。USB駆動を考えると、5V1A程度の駆動でもそれなりにトルクを発生するモーターを使わざるを得ず、これがゆえにACアダプタモードでも極端に高速化するのは無理だし、トルクの制限があるから同時給紙枚数が増えるとジャムが起き易くなるというあたりではなかろうか。最終的にはこのモーターが製品のスペックを決めたのであろう。 (*1)実はS500/S510のみならず、それ以前のfi-5110EOX3/fi-5110EOX2/fi-5110EOXにも対応する専用バッグ(ScanSnap Bag)なるものはずっと発売されており、以前から可搬性は常に考慮していたことがわかる。ただソフトケースで収まる大きさや重さではないからこそのバッグであり、その意味ではやはり可搬性を強く意識した製品だと言ってもいいだろう。 ●使い勝手そのものは従来と同じ ちょっと性能の話はおいておき、使い勝手の紹介をしたい。インストーラ(写真08)では従来同様、ScanSnap ManagerとScanSnap Organizer、名刺ファイリングOCRの3つがインストール可能だ。ドライバやScanSnap Managerのインストール後にS300を接続すると、タスクトレイにおなじみのアイコンが出現するが、これがUSBバスパワーの場合(写真09)とACアダプタの場合(写真10)で変わるあたりに芸の細かさを感じる。もっとも、メニュー項目自体はどちらの場合でも違いはなし(写真11)。ScanSnap Managerのバージョンは4.2に上がっているが、その他に大きな変更点は見当たらない(写真12)。 ちょっと面白いのは詳細情報だ。ちゃんと電源状態がここにも表示されているのがわかる(写真13/14)。更に面白いのは、この状態でS300の代わりにS510を接続したところ、あっさり認識されたこと(写真15)。ただS510の本来のバージョン(Version 4.1)でオンラインアップデートを掛けてもVersion 4.2に更新されないところを見ると、S300のサポートを追加したのが最大の差異ということなのだろう。
ついでに、同梱されるソフトについても簡単に説明しておく。S300では、遂に「Adobe Acrobat」の同梱が廃止された。これはコストを下げるため、という事のようである。そうなると作成したPDFの操作は? という事になるが、これは「ScanSnap Organizer」や「楽2ライブラリ」で行なう事になる。 ScanSnap Organizerの使い勝手は以前とほとんど変わりが無く、表示と簡単な編集(ページの回転や挿入/削除)はできるが、それ以上(例えばトリミングなど)は不可能である。こうした編集まで行ないたい、といった場合は、別途Adobe AcrobatなりFoxit Reader Pro Packを使うか、楽2ライブラリを使って画像化した上で画像編集などで対応する必要がある。ちなみに楽2ライブラリはS300専用のLite 4.0が添付されるが、使った限りでは以前と操作感などに差はなかった。逆に言えば、以前述べた不満点も全然解消されておらず、個人的にはあまり使いたいとは思えない。この楽2ライブラリのセットモデルは、単体+4,000円というそれなりにお買い得感の強い価格付けがされているので、フォルダのアナロジーにしっくり来る人にはよいかも知れないが。 余談だが、ScanSnap Organizerのマニュアル(PDFファイル)をいったんモノクロレーザープリンタで打ち出した上で、改めてS300でスキャン(スーパーファイン)し、楽ライブラリに取込み、ここで範囲指定を行ってテキスト抽出を行ってみた(写真16)が、結果はこんな具合(写真17)である。ちょっと実用にはまだ辛い、という気がする。 ●性能はやはり…… ということで最後に取込性能の比較である。使い方からして、ノートPCあるいは省スペースPCなどとの組み合わせパターンが多いと思われるので、あまり高性能なマシンでテストするのも不適当かと思い、 CPU:Sempron 2800+(Socket AM2 1.6GHz) という、微妙に非力な構成を組んでみた。Windows Vistaを使わなかった事に他意はなく、たまたま別の用途でこの構成を使っていたのでそのまま流用しただけである。S300はWindows 2000/XP/Vistaのいずれの環境もサポートするので問題はないだろう。 この環境上で ・モノクロA4片面原稿14P(上で出てきた、ScanSnap Organizerのマニュアルの先頭14P分) の2つを用意し、 ・読取りを完了するまで(最後の原稿のスキャンが終了し、排出されるまで) の所要時間を測定した。画質と圧縮率は6段階で変化させ、また読み取りにはS300のUSBバスパワーとS300のACアダプタ利用時の他、比較用にS510も利用してみた。ちなみにストップウォッチを用いての手計測で、3回ずつ行なった平均値であるが、なにぶん手計測なので1秒程度の誤差はあるとご理解いただきたい。 結果であるが、モノクロA4片面の結果を表2に、カラーB5両面の結果を表3に示す。なんというか、もう圧倒的な性能差がおわかりいただけようか。さすがにエクセレントともなると、そもそも読み込み速度が遅いからUSBバスパワーとACアダプタの差は無いが、それ以外のケースではUSBバスパワーがほぼ半分程度の読み取り速度でしかない。一番速いはずのノーマルですら6ppm以下、つまり1枚読み取るのに10秒以上掛かるわけで、これはS510を使い慣れた筆者にはかなりきつかった。読み取った後の品質には影響はないし、読取速度がゆっくりであるがために、給紙中のジャム頻度はやや少なく感じたが、それも遅いことの慰めにはならない。
ACアダプタを使うと、(S510を知らなければ)まぁこんなものかなと納得できるもので、大量のドキュメントを処理するのでなければ、割と実用的な範囲に収まっていると思う。やはりUSBバスパワーを使っての動作は「非常用」と割り切り、普段はACアダプタを付けて使うのが正しい利用法ではないかと思う。 そう考えると、省スペースで低価格のこの製品の方向性は見えてくる。オープンプライスではあるが、PFUダイレクトでは29,800円(楽2ライブラリセットモデルは33,800円)と3万円を切る価格にしたのはなかなか意欲的である。冒頭に示したキヤノンのDR-2050CIIが大体4万円前後、コクヨS&TのCaminacsが36,000円前後という値段であり、この下を狙うことでより幅広い層に浸透することを狙ったのであろう。個人的に言えば、USB動作とかは省いてもいいので、もう少し値段を下げる(24,800円あたりがベストバランスな気がする)と、家庭向けにもそれなりに訴求力がありそうな気がするが、3万を切るだけでもそれなりにインパクトがあるのは事実だ。普段はしまっておき、何かあるときだけ引っ張り出してスキャン、なんて使い方にぴったりマッチした製品であると言えよう。 このS300でローエンドがカバーでき、S510と組み合わせてHi-Lowの取り合わせになるわけだが、個人的にはS510をミッドレンジに位置づけるようなハイエンド製品が欲しい気がする。というのは、PFU(というか、富士通)の業務用スキャナーのラインナップには、更に高速かつ高精度な製品が揃っており、まぁお値段の方も当然それなりだったりするわけで簡単には手が出ない(たとえばfi-5110Cは94,500円である)わけだが、このクオリティのものが7万弱程度まで下がってくれると筆者などは真剣に導入を考えたい。ローエンド品のレビューでハイエンドを欲しがるのもどうかとは思うが、せっかくラインナップが増えたことだし、ぜひPFUには考慮していただきたいところだ。 □PFUのホームページ (2007年10月1日) [Reported by 槻ノ木隆]
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