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【やじうまPC Watch】
AMDとフェラーリに見る、現代F1とIT業界の深い関係

F1世界選手権 日本GPの会場となる富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)

9月27日~29日開催



 F1世界選手権の日本GPが、静岡県駿東郡小山町にある富士スピードウェイにおいて、9月27日~29日の3日間に渡り開催される。

 そうした中、すでに今年度のコンストラクターズチャンピオン(シャシー製造者による選手権王者)を決めたフェラーリチームをサポートするAMDが、当地において記者説明会を開催し、AMDのF1への関わりを説明した。

●IT関連企業がF1世界選手権にこぞって進出する理由

 昨今、F1世界選手権(以下F1)とIT業界の関わりは密接になりつつある。例えば、AMDはフェラーリに、PCメーカーのLenovoはウイリアムズチームに、IntelとDellはBMWザウバーにスポンサードしているほか、Panasonic(松下電器)がトヨタにスポンサードしている。

 このように、多くのIT企業がF1に進出している背景には、2つの理由がある。1つはタバコ企業によるスポンサーシップの終焉だ。昨年(2006年)までのF1ではJT(日本たばこ産業)のマイルドセブンブランドによるルノーのスポンサーシップなど、多数のタバコ企業がスポンサーとして存在していた。

 しかし、EU域内でのタバコ広告規制の影響で、フェラーリをスポンサードするフィリップモリスを除き撤退し、F1チームは新たなる資金源をここ数年模索してきたのだ。そうしてF1チームが見いだしたのが、世界的な成長産業と見られているIT業界と携帯電話に代表される通信業界なのだ。

 2つめの背景として、F1におけるITの利用が以前よりも格段に進んでいるということが挙げられる。今年からF1のルールが改正され、シーズン中のテストの日数や台数などが制限されるなど、コスト削減という大義名分の下、実際に車を走らせてテストすることに制限が加えられている。また、エンジンルールも改定され、エンジンの回転数が19,000rpmに制限されている。このため、エンジンで差をつけるのは事実上不可能になっており、車体側の空力での優劣が、そのまま各チームの差となってしまっている。

 したがって、コンピュータによるセッティングや空力パーツのシミュレーションの重要度は増しており、各チームとも高価なスーパーコンピュータを競って導入している。それらを“現物支給”してくれるというだけでも、IT系のパートナーは喉から手が出るほど欲しい存在なのだ。

●F1大好きなAMD、実はコードネームにもF1ネタが

 さて、そんな背景もあって増えているIT系企業のF1進出だが、AMDのフェラーリへのスポンサードの歴史は意外と古く、2002年シーズンから実に7シーズンに渡る長いパートナーシップとなっている。

 激しく話は脱線するが、いかにAMDがF1が好きかと言えば、それは同社のサーバー/ワークステーション向けCPUのコードネームを見れば一目瞭然だ。この間リリースされた同社初のクアッドコアCPUとなるOpteronの開発コードネームである“Barcelona”、そしてその1P版で来年の第1四半期に投入が予定されている“Budapest”、実はこの2つともF1が開催されているサーキットがある都市なのだ。今年のスペインGPはバルセロナにあるカタロニアサーキットで開催されたし、ハンガリーGPはブダペストのハンガロリンクサーキットで開催されているのだ。

 それだけではない。今後AMDがリリースする予定の45nmプロセスルールの開発コードネームもF1関連となっているのだ。AMDから公式な発表はないもののOEMメーカー筋の情報によれば、AMDの45nmプロセスルールの最初の製品は“Shanghai”(シャンハイ、上海)でBarcelonaを45nmプロセスルールに微細化した製品となり、2008年の終わり頃の投入が予定されている。さらに2009年には、キャッシュ容量を増やしDDR3に対応したUP版の“Montreal”(モントリオール)、1P版の“Suzuka”(スズカ、鈴鹿)を計画しているという。

 この上海、モントリオール、鈴鹿のいずれもF1が開催されるサーキットがある都市の名前であり、それぞれ2006年には中国GP、カナダGP、日本GPが開催されている。なお、日本GPに関しては今年から富士スピードウェイに場所を移動しているため、正確には日本GPの開催都市ではなくなっているが、“Suzuka”のリリースが予定されている09年には日本GPは鈴鹿に戻る予定になっており、偶然にもちょうど良いタイミングとなっている。

 ちなみに、65nmプロセスルールのBarcelona、Budapestはいずれもヨーロッパを発祥の地とするF1の“地元”、45nmプロセスルールのShanghai、Montreal、Suzukaはフライアウェイ(Fly away)と呼ばれる“遠征地”シリーズであるなどの共通点がある。

 では、次世代の32nmプロセス製品のコードネームはどうなるだろう。今年、F1が開催されている17カ所のうち、上記の5つを除くと、次のようになる。

Melbourne(メルボルン、オーストラリアGP)
Kuala Lumpur(Sepang:セパン、マレーシアGP)
Sahil(サヒール、バーレーンGP)
Monaco(モナコ、モナコGP)
Indianapolis(インディアナポリス、アメリカGP)
Magny-Cours(マニークール、フランスGP)
Silverstone(シルバーストン、イギリスGP)
Nurburgring(ニュルブルクリンク、ヨーロッパGP)
Istanbul(イスタンブール、トルコGP)
Monza(モンツァ、イタリアGP)
Spa-Francorchamps(スパ、ベルギーGP)
Rio de Janeiro(リオデジャネイロ、ブラジルGP)

 できれば、もう一度ヨーロッパに戻って、クラッシックサーキット(古くからある権威あるサーキット)である、Spa、Silverstone、Monzaあたりを、コードネームに採用してほしいところだ。

●サーキットでもOpteronを利用してシミュレーション

フェラーリF1チーム レーストラックエレクトロニクス責任者 Dieter Gundel氏

 さて、本題に戻ることにしよう。今回AMDは富士スピードウェイにおいて、IT関連の記者を集めフェラーリのITシステムなどに関する説明を行なった。AMDによれば、フェラーリのファクトリーがあるイタリアのマラネロにはFerrari Data Center(FDC)と呼ばれるデータセンターが2004年に建設されており、いずれもAMDのOpteronをベースにしたLinuxサーバーが400ノード以上も導入されているという。このFDCではフェラーリが独自に開発したソフトウェアを利用して流体力学演算、空力関連の研究開発やシミュレーションなどに利用されているという。

 さらに、現地でも20台を超えるAMDのOpteronを搭載したワークステーションを核にしたシステムが持ち込まれており、それを利用してレース戦略のシミュレーションなどに利用されているという。フェラーリF1チームのレーストラックエレクトロニクス責任者のDieter Gundel氏によれば、現地に持ち込まれたシステムでも、さまざまなシミュレーションが行なわれているという。

 「現地に持ち込んでいるシステムは、車に搭載されているテレメタリーシステム(筆者注:車に取り付けられたセンサーの値をリアルタイムに確認するシステム、エンジン温度などをチェックできる)のデータが事前の予想と違っていないかをチェックしたり、データロガー(筆者注:エンジンやタイヤの温度などさまざまなデータを保存しておく仕組み)からデータを吸い出しそれをコンピュータ解析に利用する」(Gundel氏)と言う。

フェラーリの2007年モデル「Ferrari F2007」

 すでに述べたように、近代のF1ではコンピュータを利用したシミュレーションが重要となっている。例えば、新しいレイアウトとなった富士スピードウェイでF1が行なわれるのは今回が初めてで、どこのチームもサーキットに関する実際のデータは持っていない。そこで、ファクトリーなどであらかじめサーキットのデータを入力し、それを元に空力のセッティングなどを行なう。

 そして、サーキットに来てから実際に車を走らせて得たテレメタリーやデータロガーなどのデータを元にシミュレーションとの比較が行なわれ、実際のセッティングなどが行なわれるのだ。「ここに来る前に我々は2種類の空力セッティングをシミュレーションのデータを元に用意してきた。それらを利用してウイングの角度、サスペンションのスプリングの硬度などのパラメータを、現地のコンピュータを利用してシミュレーションする。そして、セッティングの変更ができなくなる土曜日の予選に向けて設定を決めていく」(同)。

 コンピュータが利用されるシーンはそれだけではない。「決勝に向けて戦略のシミュレーションもコンピュータシステムを利用して行なう。ライバルチームの搭載燃料などの予測を元に、最適なピットストップのタイミングなどの戦略を演算する」(同)と、F1の決勝で勝負の分かれ目となるピットストップのタイミングなどもすべてコンピュータのシミュレーションが行なわれている。さらに、各セッション(練習走行や予選、決勝など)が終わった後、一日の終わりにはすべてのデータはファクトリーにあるFDCにデータは転送されることになるという。

 なお、これらのシミュレーションソフトだが、全部ではないものの、いくつかはAMD64対応になってきているという。「大容量のデータを処理する場合、64bit環境で動かした方がよいものもある。それらはすでに64bitへ移行している」(同)とのことで、大容量のデータを処理するシミュレーションシステムだけに、64bitへの移行が進んでいるようだ。

 プロスポーツを応援する秘訣は、ひいきのチームを作ることだと言われる。F1になじみのない読者でも、片やOpteronが応援するフェラーリ、こなたItanium/Xeonが応援するBMWザウバー、と思えば、関心を持って見ることができるのではないだろうか。もちろん、ThinkPadファンはウィリアムズ、Let'snoteファンはトヨタ、InspironファンはBMWザウバーを応援するという、ノートPCからの選択もお勧めだ。


「Ferrari F2007」のリアウイングにつけられたAMDのロゴ ドライバー(キミ・ライコネン選手)のヘルメットにもAMDロゴが貼られている。ちなみに、以前はPhenomのティザーロゴだったが、今は普通のAMDロゴに戻っている

□フェラーリのホームページ(英文)
http://www.ferrariworld.com/
□AMDのホームページ(英文)
http://www.amd.com/
□関連記事
【2005年10月11日】【本田】F1を変えるCPUパワー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1011/mobile311.htm
【2004年10月9日】Williams F1をサポートするIT技術
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1009/hp.htm

(2007年9月28日)

[Reported by 笠原一輝]

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