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【IDF Fall 2007レポート】

ジャスティン・ラトナーCTO基調講演

Intel CTO ジャスティン・ラトナー氏

会期:9月18日~20日(現地時間)

会場:San Francisco「Moscone Center West」



ラトナー氏は最初セカンドライフのアバターとして登場。着ているシャツはそっくりだが

 IDF最後の基調講演は、R&Dを担当するIntel CTOのジャスティン・ラトナー氏である。まずは、オンラインゲーム「セカンドライフ」でラトナー氏のアバターが登場する。今回の話題は、「仮想世界」である。


●Intelの考えるセカンドライフのその先

 まずは、セカンドライフや各種のソーシャルネットワークなど、デジタルなコミュニティの分析から話が始まる。ラトナー氏によれば、これらは大きく4つに分類できるという。それは、

Create創造。ウィキペディアなど
Commerceショッピングやビジネス。アマゾンやeBayなど
Play遊び。Xbox Liveやソニーのhomeなど
Socialize社会。セカンドライフやYouTubeなど

の4つである。

 こうしたデジタル的なコミュニティの先にあるものをラトナー氏は、「3D INTERNET」と呼ぶ。それはどんなものかを「表現」、「ユーザーが作るコンテンツ」、「永続性」、「社会的な交流」、「物理的な挙動」の5つのポイントで説明した。

 普通のWWWは、この4つが共に低く、制限が多い。これを少し改善したのがMySpaceのようなソーシャルネットワークとなる。Google Earthのようなサービスは、表現力などが向上しているものの、物理的な挙動や社会的なつながりといった面は弱い。

 セカンドライフは、これら5つの点で制限が少ない。3D INTERNETとは、このセカンドライフをこの5つのポイントすべてで凌駕するものだとした。

 こうした3D INTERNETの雰囲気を持つものとして、SF小説「スノークラッシュ」のメタヴァースやマルチプレーヤーゲーム、現実世界と仮想世界のマッシュアップであるパラヴァース、そしてCGによる登場人物が演ずる映画「Machinima」(マキニマ)を挙げた。

 現実世界のこれらに近いサービスとしてQwaqを紹介。サービスを実施しているQwaqのCEOであるGreg Nuyensが登場して、サービスを説明した。これは、セカンドライフのような仮想世界だが、コンピュータ上の他のソフトウェアと連携することができる。たとえば、オフィスツールを使って仮想的な会議を開いたり、システム管理ツールを使って、社内のITシステムを3Dのオブジェクトとして表示させ、これを使っての管理などを可能にする。企業内の活動をセカンドライフのような仮想世界内で実現するサービスである。

 次に、手術のシミュレーションを行なう例を紹介した。NYU Mediacal CenterのCourt B. Cutting氏は、精密な手術のシミュレーションが可能なシステムを開発している。現在のものは、手術の詳細な手順を示すものだが、複雑な手術を実施する前に手順を確認できる。また、人間の皮膚と同じように振る舞うシミュレーションも研究中である。たとえば、メスで切ると人間の皮膚と同じように傷口が広がり、縫合すると皮膚が引っ張られるなどの動きをする。現在のところは、四角い皮膚だけがシミュレーションできるが、計算能力が増大し、ソフトウェア開発が進めば、下にある筋肉や骨格などを含めてシミュレーションできるようになるという。

3D INTERNETとは、セカンドライフなどが持つ5つの特性をより強化したものだという QweqによるIntelのITシステムの仮想世界での表現。システムそのものや管理ソフトウェアを仮想空間内のオブジェクトとして表現している Qweq内部では、通常のPCアプリケーション画面を共有でき、これを使って仮想会議やプレゼンテーションが可能になっている

●仮想世界に必要なシステム

 このようにメタヴァースやパラヴァースなど、その基本的な要素技術はすでに開発が始まっていることを示し、今度は、3D INTERNETを実現するシステムの話に入った。WWWなどでは、クライアント側でリンクがクリックされると、サーバー側がHTMLを生成しこれを転送し、クライアントがこれをレンダリングする。しかし、3D INTERNETでは、サーバークライアントともに大量の処理が必要となる。また、セカンドライフのような仮想世界と、マルチプレーヤーゲームのサーバー負荷をみると、10~100倍以上の差がある。そして単純な2DのWWWに比べると浮動小数点演算や行列演算などが多用され、2乗倍で処理量が増えていく。

 クライアント側も、2DのWebサイトとセカンドライフでは、CPU利用時間で3倍以上、GPUの利用時間も長くなる。性能的には、CPUで3倍、GPUで20倍以上の差が出ている。

 ネットワーク帯域もまったく違っており、仮想世界では、マルチプレーヤーゲームの100倍以上の帯域を必要とする。

 しかし、現状のセカンドライフでは、たとえば、影がちゃんとでないなど、仮想世界としては不十分な部分がある。これを解決するには、レイトレーシングのような技術を導入する必要がある。その後、IntelやStanford大学でのCGの研究成果が示された。

これまでの2D Webは、簡単な構造だったが、仮想世界サービスでは、ユーザーがなんらかのアクションを起こしただけで、さまざまな処理を行なわねばならない CPUによるレイトレーシングを行なう画像生成は、2004年の時点では、50個のXeonを使用してVGA解像度で4fpsだった。しかし、現在では、クアッドコアのXeon 5365を2つ搭載するシステムで、HD解像度(1,280x720ドット)で90fpsを出せるようになったという

●なぜ仮想世界なのか

 IDFの基調講演でなぜ、仮想世界なのかといえば、これを実現するためには、膨大な処理能力が必要となるからだ。現在Intelは、マルチコアやヘテロジニアスマルチコア、そしてメニイコアといった方向に進んでいる。しかし、これを普及させるためには、なんらかの「キラーアプリケーション」が必要だ。仮想世界が、現状では、その可能性が高い。3D INTERNETと呼ばれる仮想世界を使ったデジタルコミュニティが普及するためには、サーバー、クライアントともに高い計算パワーが必要である。仮想世界を使ったサービスとマルチコアを進めるIntelの利害は一致しているのである。

 これまで、マルチコアといえば、ビデオのエンコードと通常の作業の組み合わせや、バックグランドで動作するセキュリティ関連ソフトといった用途しか提示されてこなかったが、ここにきて、セカンドライフのような計算力や同時処理を必要とするアプリケーションが見え始めてきた。もちろん、仮想世界も単なるブームで終わる可能性もあるものの、ビデオのエンコードよりは、多くの人が利用するかも知れないという点では、マルチコアのキラーアプリケーションとなる可能性は高い。今回の基調講演は、あくまでも将来の方向を示すものだが、今後、Intelが仮想世界サービスに対して何らかの形で関わってくるのではないだろうか。

□IDF Fall 2007のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2007/
□関連記事
【9月20日】【IDF】メニイコア、ヘテロジニアスコアのプログラミング言語
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0920/idf04.htm
【2006年8月29日】【海外】CPUはイノベーションの時代に
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0829/kaigai298.htm

□IDF Spring 2007レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/link/idfs.htm

(2007年9月25日)

[Reported by 塩田紳二]

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