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音楽をめくる




 新しいiPodが発表された。iPod touchは9月末発売のようだが、他の製品はもう出荷されているのに、量販店頭には未入荷という妙な状況だが、きっと今週末には店頭に並ぶのだろう。実際に入手するのが楽しみだ。

●音楽を可視化する

 ぼくがiPodを購入したのは、そんなに昔の話ではない。iPod Photoが出てしばらくしての2005年4月だから、ずいぶん後になってからのことだ。なぜ、それまであまり興味を持てなかったiPodを買う気になったのかというと、ディスプレイがカラーになって、アルバムのジャケットを表示できることを知ったからだ。CDからリッピング済みのアルバムについては、けっこうまめにジャケットデータを登録している方だと思う。

 なぜ、ジャケットにこだわるかというと、ジャケットは、音楽を可視化するためのとてもわかりやすい方法だからだ。

 ぼくは今、一ヶ月に10枚前後のCDを購入するが、それらのほとんどは、ミュージックショップの店頭の試聴機でザッと聴いただけで選んだものだ。一時は、ほとんどのCDをネット通販で購入していたが、ある日、フラリとミュージックショップに立ち寄り、買い逃しているアルバムの多さに唖然として、以降は、できるだけリアル店舗で購入することにしている。だから、iTunesショップで音楽データを購入することもあまりない。どうも、ネット通販では偶然の買い物ができにくいように感じるのだ。

 ジャケ買いという言葉があるくらいなので、たぶん、ジャケットを気に入って、衝動的にCDを買ってしまう層は少なくないのだろう。ぼくもその一人ではある。また、アルバムのタイトルやアーティスト名は忘れてしまっても、アルバムジャケットだけは覚えていることも多い。だから、再生中の曲が含まれるアルバムジャケットがディスプレイに表示されることがとてもうれしかったのだ。

 当時のiPod photoに不満があったとすれば、実際にレコードの棚で、次々にジャケットをめくりながら、次に聴くアルバムを探すような行為に相当する操作がサポートされていなかったことだ。だから、iTunesがCoverFlowのGUIを採用したときには本当にうれしかった。CoverFlowでは、ジャケットデータが存在しない場合、音符のマークの味気ないグラフィックスが表示されるが、これが寂しくて、とにかくせっせと登録した。

 そして、ついに、新しいiPodでは、デバイス側でのCoverFlowがサポートされ、まさに、パラパラとジャケットをめくって、次に聴きたいアルバムを見つけられるようになったのだ。具体的には、ミュージックメニューのサブメニューとして、プレイリスト、アーティスト、アルバム、曲、ジャンルといった項目の他に、Cover Flowという項目が用意されている。実機にさわった時間はわずかだったので、詳しいところまで見ていないのだが、Cover Flowがどのような順に並べられているのかちょっとわからない。また、アルバムや曲を探す場合も、アルバム情報のサムネールが表示され、探しやすくなったのも嬉しい。

 曲名やアルバムのタイトルが並んでいるだけで、アルバムとアルバムの切れ目さえ、よくわからなかった以前のバージョンに比べれば、大いなる進化といえるだろう。

●嬉しいCoverFlowのサポート

 今回は、クリックホイール版のiPod(nanoとClassic)、そして、iPod touchが登場し、これでiPodは、2つのタイプの操作性を選べるようになった。Cover Flowは双方に用意されている。ただ、HDD内蔵のClassicは、どうもジャケットめくりがひっかかり、スムーズにパラパラというにはほど遠い。登録されている曲数にもよるのだろうけれど、実際にさわってみた感じでは、ちょっと萎えた。160GBという容量は魅力だし、現行で使っている80GBのiPodも、残り容量は10GBを切っているので、背に腹は代えられないと思うときがくるのだろうが、今のところはちょっと購入をためらっている。

 とはいえ、アップルがClassicを名乗る製品をリリースするときは、そのシリーズの最終であることが多いとライター仲間に聞き、びくびくもしている。もしかしたら、これが最後のHDD iPodになるかもしれないからだ。それなら記念に購入というのもありかもしれない。

 iPod nanoのCover Flowには、特に不満らしい不満を感じることはなかった。快適にジャケットをパラパラとめくれるし、表示が追いつかないようなこともなさそうだ。操作性という点ではiPod touchのほうがエレガントに感じるが、クリックホイールでも十分に使えるなという印象を持った。タッチパネルインタフェースは、ポケットの中で手探りで操作しにくいことを嫌うユーザーもいるだろうから、とりあえず、双方ともにサポートしておくのは悪くない戦略だ。

 ちなみに、iPod touchでは、Cover Flow表示のときに、ジャケットをタップすると、ジャケットがクルッと回転して裏返り、そのアルバム内の曲リストが表示され、好きな曲から再生を始められる。このインターフェースも悪くない。これは、ぜひ、iTunesの方でもサポートしてほしいものだ。

 ちなみに、新iPodにあわせてiTunesも新しくなった。今回からは、アルバム単位でのレートをつけられるようになっているようだ。iTunesやiPodは、どうしても、曲単位で音楽を楽しむことを前提に、さまざまな仕様が詰められているような気がしていたのだが、ここにきて、アルバム単位ということを考え始めてくれたように思う。

 そもそも、アルバムというのは、ちょっとひねくれた考え方をすれば、曲の抱き合わせ販売なので、好きではない曲はいらないという判断もあってよいとは思う。でも、売る側にとっては、アルバム単位で聴いてくれるリスナーはクリエイティブ的にも、そして、ビジネス的にも嬉しいはずだ。

●知っている音楽を増やす

 形のないもの、目には見えにくいものを可視化することも、GUIの重要な役割だと思う。iPodやiTunesのCover Flowは、デジタルデータとしての音楽を、目でも見えるようにする貴重なGUIだ。Windows Media Playerにもジャケット表示機能は用意されているが、その操作性やビジュアル度という点では、次元が違うように思う。

 iPodのようなポータブルメディアプレーヤーが登場して久しいが、長い間、これらのデバイスは「知っている音楽を外に持ち出す」ことが前提とされてきたように思う。ぼくは、iPodのスマートプレイリストに「未聴の直近購入CD」というのを用意し、ここ2週間以内に追加したCDをアルバム順に並べ、再生回数がゼロのものがライブアップデートされるようにしてある。買ってきたCDを次々にリッピングしてiPodに転送し、このプレイリストを再生すれば、新しく購入したものが再生される。本当は、新しく追加したCDから順に並べたいのだが、追加日の新しい順に並び替えると、曲順が逆になるし、追加日が古い順だと、最新のものが最後になってしまう。手で並べてプレイリストを作ればそれでいいのだが、いかにもめんどうだ。「アルバム追加日」といった項目があれば解決できそうだが、何かいい方法はないものだろうか。

 つまり、ぼくにとってのポータブルメディアプレーヤーは「知っている音楽を外に持ち出す」ためのデバイスであると同時に「知っている音楽を増やす」ためのデバイスでもある。月に10枚もCDを買っていれば、当たりもあればハズレもある。ジャケ買いしたようなCDでは、一度聴いて、それっきりになるものもある。曲名やアーティスト名を覚えるのは、曲を聴いて気に入ってからということも少なくない。新しく買ったCDを聴いていて、この人の歌はいいなと思ったときに、改めてiPodをポケットから取り出し、ディスプレイを見て、曲名とアーティスト名とジャケットを確認し、記憶に留めるというわけだ。そうすれば、次回はCover Flowでそのジャケットが目にとまる。

 そんな、決してスマートではない音楽の楽しみ方が許容されるようになった。つまらないことのようだが、ぼくのような古いタイプの音楽ファンには、こんなことが嬉しいのだ。

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【9月6日】アップル、「iPod touch」など新iPodシリーズを日本でも発売(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070906/apple5.htm

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(2007年9月7日)

[Reported by 山田祥平]


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