[an error occurred while processing the directive]

カプコン、“DX10の神髄を発揮する”ロスト プラネットアップデート
~DX10でDX9を上回る性能とビジュアル表現を実現

開発機材上でロスト プラネットを動かしているところ

8月10日 発表



 株式会社カプコンは10日、PC用アクションゲーム「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」のアップデートを8月17日にSteam経由で配信すると発表した。

 ロスト プラネットはDirectX 9と10の両方に対応するが、これまで、性能面などでDirectX 10版でプレイするメリットは少なかったが、今回のパッチでその状況は解消されることになる。詳細について、開発担当者に直接話を伺う機会を得たので、写真なども交えつつ紹介したい。

 まず、アップデートの内容について説明する前に、ロスト プラネットの開発基盤である「カプコンMTフレームワーク」(以下、MTフレームワーク)について紹介しよう。

●カプコン独自の開発基盤「MTフレームワーク」

カプコン竹内 潤氏

 MTフレームワークは、一言で言うとPCとXbox 360(PLAYSTATION 3も対応予定)の双方に対応した同社独自のマルチプラットフォーム開発基盤。MTフレームワークを開発するに至った経緯について、同社開発統括本部 CS開発統括 編成部長の竹内 潤氏は次のように語る。

 「これまで当社ではゲームコンソールに重点を置き、プラットフォームによって社内リソースを分けることで、内部競争力や独自性を高めてきました。しかし、Xbox 360やPLAYSTATION 3、Wiiといった新プラットフォームが登場した今、これまでと違い、どれが勝者になるか見えにくい状況になっています。また、日本と違い欧米ではコンソール機よりPCの方がゲームプラットフォームとして台頭しています。そう言った中、1つのプラットフォームを選択するというのは苦しいため、海外市場進出もふまえたマルチプラットフォーム向けの共通基盤を作ろうという流れが生まれてきました」

 つまり、高騰の一途をたどるゲーム開発費や、リリースまでのタイムラグ、そのほかのリスクを抑えるため、マルチプラットフォーム戦略を採ったということだ。ただし、開発基盤を共通化しながらも、MTフレームワークは、各プラットフォームの最新技術を常に採り入れた高機能なものとなっている。

 実際、竹内氏によればロスト プラネットは当初DirectX 10版のみでのリリースを考えていたという。「我々は発売するタイミングでの最新技術を盛り込むことを念頭に置いています。MTフレームワークはエンジン自体をアップデートすることで、最新機能をゲームにも反映できます。ロスト プラネットは当初DirectX 9は非対応の予定でしたが、まだDirectX 9ベースのPCが主流と言うことで、ゲーム性を損なわない程度でDirectX 9への対応を追加しました」(竹内氏)

 PC版では、すでにDirectX 10.1の実装も準備しているという。MTフレームワークの詳細については僚紙GAME Watchの関連記事を参照いただきたい。

●DirectX 10版がDirectX 9版を上回る性能を実現

カプコン石田 智史氏

 ロスト プラネットのアップデートについては、MTフレームワークの開発に当たった同社第二制作部 ソフトウェア制作室 プログラマーの石田 智史氏に解説していただいた。

 今回のアップデートはDirectX 10環境における「性能」と「ビジュアル表現」という2つのポイントについて強化がなされている。

 まず、性能についてだが、これまでロスト プラネットの無料体験版におけるベンチマーク(ベンチマークは計測できないがこれまでの製品版でも)では、同一環境でDirectX 10版よりDirectX 9版の方が2割前後高いフレームレートが出ていたものが、DirectX 10版の方が1~2割高速に動作するようになった(後述するが、今回のアップデートを適用すると製品版でもベンチマークを計測できるようになる)。

 これは、ロスト プラネットのコードにおけるDirectX 10への最適化に加え、NVIDIAのビデオドライバForceWareのアップデートによって実現されたもの。具体的に言うと、ForceWare 158.24では、ロスト プラネットをアップデートしてもその恩恵は受けられず、162.22以降にすることでその効果が発揮される。

 石田氏によると「ForceWareのバグは162.22で、知っている限りのほとんどがつぶされました」という。

 ところで、ロスト プラネットでは起動時にNVIDIAのロゴが表示されることからも伺い知れるように、同タイトルの開発においてカプコンはNVIDIAと深い協業を行なってきた。

 NVIDIAをパートナーに選んだ理由について竹内氏は「いろいろなメーカーと話した結果、NVIDIAさんが一番ゲームに対して情熱的だったから」と説明しているが、実際にカプコンでビデオドライバに問題がみつかると、NVIDIAにフィードバックされ、その問題を修正したドライバがカプコンに提供されるという体制が整っている。

 たとえば、ForceWare 162.22ではカプコンの指摘を受け、ジオメトリの頂点処理の最適化、マルチサンプルアンチエイリアス(MSAA)の高速化、カラー圧縮が動作しない問題の改善などがなされた。ロスト プラネットではエフェクトを多用しているため、これらの問題が性能に大きく影響していたのだという。

 この成果はSLI環境での性能にも現われており、ForceWare 158.24ではDirectX 10環境でSLIの効果が全く認められなかったが、162.22ではシングルカードに比べて7割近い性能向上を実現しており、DirectX 9環境を上回るものとなっている。

DirectX 10環境でForceWare 162.22は158.24よりも大幅な性能向上を果たしており、DirectX 9よりも高速になった 総じてDirectX 10版はDirectX 9版より約1~2割高速になった

●DirectX 10専用のジオメトリシェーダを活用した新表現

 ビジュアル表現については、モーションブラー、被写界深度、ファー(毛)の表現にDirectX 10で実装されたジオメトリシェーダを使うことで、DirectX 9にはない新たな表現が可能となった。ちなみに、モーションブラーと被写界深度の表現は従来のバージョンにも搭載されているが、ジオメトリシェーダは使われていない。

 たとえば、モーションブラーについてはベロシティ(速度)マップを作成し、ベロシティ方向にジオメトリシェーダでラインを生成した後、アキュムレーションバッファで加算合成して、イメージベースのブラー画像と合成。

 被写界深度については深度マップを元にジオメトリシェーダで絞りの形をしたテクスチャを貼ったトライアングルを生成。続いて、DirectX 10のマルチビューポートレンダリングを活用し、最近景、近景、遠景、最遠景の4つのビューポートに振り分けて蓄積した上で元画像と合成。

 ファーについてはファーマップを作成し、下方向の毛を下から上に、上方向の毛を上から下にスキャンして、ジオメトリシェーダでラインを生成といった処理を行なっている。

新しいモーションブラーでは元の画像(上)をベースにベロシティマップ(下)を作るとともに ブラーのかかった画像(上)とベロシティに基づいたライン画像(下)を作成し 合成することでよりリアルなブラーを表現

 写真を見ていただければ分かるとおり、それらの効果はてきめんで、モーションブラーについては、重なり部分の破綻が軽減され、スムーズなぶれが表現され、被写界深度では輪郭のにじみ、近景のハードエッジが軽減されたほか、HDR(High Dynamic Range)表現が可能となった。ファーもポリゴンではなく1本1本がきちんとラインで描画されている。

 ちなみに、このファーは主人公の上着の襟元に使われており、一人称視点にしない限り、ゲームプレイ中ほぼ常に目にすることになるが、一部のボスキャラも体毛が生やされているので、すでにゲームをクリアしてしまった人ももう一度プレイしてみることをお勧めする。

従来のモーションブラー アップデート版では重なり部分の破綻が軽減され、背景も透過されている
従来の被写界深度表現。一見するとリアルだが、エッジににじみが現われている アップデート版ではエッジのにじみがなくなり、HDRによって輝度の高い火の粉がきちんと描画されている。また、その形が絞りの6角形になっているのにも注目
従来のファーの表現にはポリゴンに毛を描画して重ねるという手法を採っていた アップデート版では毛の1本1本が描画されている
今回のアップデートの“おまけ”として一部のボスキャラに体毛が生えた

 これらの新しい表現が追加されたことで、ゲーム内の「PC Settings」の項目もいくつか変更されている。

PC Settingsの設定では一部の項目に「DX10」の選択肢が追加された

 DirectX 10版では、まず、「モーションブラー」と「フィルタクオリティ」の項目で、「High」の上に「DX10」という選択肢が用意され、これを選ぶことで今回の機能が有効となる。

 また、新たに「ファークオリティ」の項目(選択肢は「NONE」と「DX10」)が追加された。さらに「シャドウクオリティ」の項目では、従来「HIGH」設定(32サンプルのランダムPCF)がDirectX 10専用のオプションだったが、今回から「DX10」に変更され、「HIGH」は16サンプルのバイリニアPCFになるとともに、DirectX 9版でも選択可能となった。

 各項目のデフォルト設定は、利用するPCの性能/機能に応じて自動的に最適なものが選択されるが、DirectX 9でも全て「HIGH」が可能になったこともあり、カプコンでは、ベンチマークの測定にあたっては全て「HIGH」にすることを推奨している。

 なお、DirectX 10専用機能はONにすると、その分性能は低下する。つまり、全ての項目が同じ設定にされている場合は、DirectX 9環境よりDirectX 10環境の方が性能が向上するが、DirectX 9の最高環境(全てHIGH)より、DirectX 10の最高環境(全てHIGHかDX10)の方が性能が下がる可能性はある。

 石田氏によると、Windows Vistaではテクスチャのスワッピングに問題があり、ビデオメモリにテクスチャデータが収まりきらない場合、極度に性能が劣化することがあるという。これはWindows Vista SP1で修正される見込みだが、ビデオメモリ容量が少ないビデオカードでは、テクスチャ周りの設定を高めすぎると、性能が大きく落ち込むことになる。

 もう1つ今回から製品版にも「Performance Test」が実装された。その中身も若干の変更が加わっており、スコア(フレームレート)が小数点第1位まで表示されるようになった。

 また、AI(人工知能)も改善された。Performance TestではCPUの性能も計測するために、敵キャラをイベントによって常に同じ動きをさせるのではなく、AIによって動作させ、物理演算などもきちんと行なっているのだが、フレームレートの変化がAIの挙動に影響し、テストを実行するたびに、1画面に同時表示される敵キャラの数が変わって、結果が変化してしまっていた。今回そこも見直され、より安定した結果が出せるようになっている。無料体験版のアップデートは現在検討中という。

 ちなみに、全てのDirectX 10要素を有効にした場合、720pの解像度で30fpsを維持するにはGeForce 8800 GTSが必要で、それ以上の解像度ではSLIが求められるという。60fps以上で安定してプレイするにはクアッドコアCPUが必要になってくるという。

●新マップとネットワーク対戦周りの改善も

 最後にDirectX 9(Windows XP含む)/10共通の改善点を紹介する。まず、オンライン用の新マップとして、「アイスブリンク」、「激戦区」、「ロストテクノロジー」、「ルーインズ」の4つが追加された。

 併せて、ロビー、通信対戦中、リザルトで利用可能な簡易チャットメッセージが追加され(ファンクションキーなどで表示)、オンラインセッション作成時は接続タイプを3種類から選べるようになり、これまで一部で発生していたセッションに参加しづらい問題が解消された。

 このほか、キャンペーンモード、ミッションセレクトでステージを開始し、ポーズ中にキーボードから隠しコマンドを入力可能になった。「0LOSTZ」と入力すると体力が減らなくなり、「1LOSTZ」で弾が減らなくなり、「2LOSTZ」でT-ENGが500増加する。また、スタッフロール中に「LOSTPLANET」と入力するとミニゲームが遊べる。

アイスブリンク。EDN-3rdの最北端に位置する氷河フィールド。極海を臨む氷河地形では、抜け道へと繋がるクレバスを活用した戦闘を、クレバスから続く下層エリアでは、張り巡らされた抜け道を移動し続けて戦闘を行なう
激戦区。ここのフィールドは文字通り激しい戦闘の末、廃墟となってしまった街。建物の内外はもちろん、破壊された建物独特の起伏を利用して、建物から建物への移動も可能。敵の位置取りを見て、もっとも有利なポジションを探し出すのが戦闘のキーポイントとなる
ロストテクノロジー。自身が身を置く場所に戸惑いを抱くことになるだろう。リアル3Dの世界とは明らかに異なる、それでいてデジタルの世界。しかし、かつては、これこそがデジタルの最先端だった。レトロデジタルのフィールドが君を待っている
ルーインズ。密林の奥深くにたたずむ移籍。ステージの中央を流れる川によって隔てられた両岸での牽制攻撃の応酬や、川に侵入してからの水中有視界戦闘、移籍の建造物を利用した遮蔽間戦闘と、オンラインステージ中、もっとも多岐にわたる戦闘シチュエーションが存在する
ロビー画面 ゲーム画面 リザルト画面

●ゲーム品質の引き上げに取り組むNVIDIA

NVIDIA飯田慶太氏

 今回、NVIDIAソフトウェアコンテンツ事業本部/アジア太平洋部長の飯田慶太氏からも話を伺うことができたので、ここに紹介しよう。同社ではカプコン/ロスト プラネットに限らず、いくつかのゲームメーカーと協業し、最新技術の実装や互換性確保のための援助を行なっている。

 その理由の1つとして飯田氏が挙げるのが「ゲームの質を引き上げるため」だという。同社が現在懸念しているのは、競合他社との競争ではなく、ユーザーが今のPCの性能で満足しきってしまうことにある。

 質の高いゲームメーカーを厳選した上で協力し、そのゲームで高い性能と描画品質が得られるよう注力することで、より高いユーザー体験を与えるゲームが登場し、最新GPUを搭載したビデオカードの購入が促される、というのが狙いだ。

 NVIDIAでは2008年には同社が「XHD2」(Extreme High Definition 2)と呼ぶ3,840×2,400ドットという超高解像度のゲーム環境がもたらされるとしている。国内ではPCよりもコンソール機の方がゲームプラットフォームとしてシェアを持っているが、このような高解像度などコンソール機にはないアドバンテージをアピールすることで、PCゲーム業界を牽引していく構えだ。

 なお、同社では最近、まず最新ゲームに最適化したForceWareをベータ版として出し、その後WHQL版を出すという流れを採っているが、この点について飯田氏は「WHQLを取得していないからと言って大きな問題があるわけではありません。最新ゲームのユーザーには、ベータ版ドライバも積極的にインストールして欲しいと思っています」としている。

□カプコンのホームページ
http://www.capcom.co.jp/
□ロスト プラネットのページ
http://www.capcom.co.jp/pc/lostplanet/
□関連記事
【1月31日】西川善司の3Dゲームファンのための「ロスト プラネット」グラフィックス講座(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070131/3dlp.htm

(2007年8月10日)

[Reported by wakasugi@impress.co.jp]

【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
お問い合わせに対して、個別にご回答はいたしません。

Copyright (c)2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.