大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

東芝が打ち出すVista時代のPC事業戦略
~Thin & Lightで差異化を促進




CMで紹介されている、東芝の新商品群

 人気ベテラン俳優の田村正和さんと、山Pこと山下智久さんが競演する東芝のTV CMがパワーオンエアされている。

 「バーサス(VS=対決)」をテーマにしたこのTVCMは、いくつかの要素で両者が対決する様相を見せているが、田村さんには信頼性、安心感を、山下さんには先進性といったように、東芝のノートPCが持つイメージを想起させるキャラクター設定という狙いもある。

 そして、東芝が世界初のノートPCを投入した'85年が、山下さんの生まれ年と同じというつながりが、TV CMの中で語られている。

 だが、もう1つ隠れた逸話がある。それは、田村正和さんの生まれ年が、東芝の西田厚聰社長と同じということ。PC事業に長年携わってきた西田社長との接点が、思わぬところにあったという点で、このキャラクター選定には、付加価値がついているのかもしれない。

 この春からの積極的なTV CMからもわかるように、東芝は、Windows Vista時代のPC事業戦略を、いよいよ本腰を入れて加速しはじめた。

 1月30日のVista発売時点では、Vista Basicを中心とした製品ラインアップであったものを、3月発売の製品群では、Vista Premiumを主軸としたラインアップへと一新。Vista発売時の苦戦を払拭して、4月以降は、国内量販店市場において、ノートPCにおけるトップシェアを維持し続けている。

 そして、この5月以降に順次発売している夏モデルでは、Vista発売後初となるデザイン一新によって、さらに攻勢をかける考えだ。

東芝執行役員常務 PC&ネットワーク社副社長の下光秀二郎氏

 6月下旬から、PC&ネットワーク社の社長に就任する、東芝執行役員常務 PC&ネットワーク社副社長の下光秀二郎氏は、「この夏モデルから、さらに、東芝のノートPCの強みを発揮できる環境が整ったといえる。これまで以上に事業を加速させることができる」と、鼻息が荒い。

 下光執行役員常務が、そう語る背景には、いくつかの理由がある。

 1つには、東芝が目指すThin & Lightの特徴を加速できる点だ。

 東芝のノートPCには、いくつかの特徴がある。なかでも、これまで東芝が打ち出してきた軽薄短小を実現するThin & Lightの考え方は、Vista時代においては、重要な意味を持つ。


Santa Rosaを搭載したQosmio夏モデル

 Vistaと親和性が高いSanta Rosaとの組み合わせは、今後の東芝ノートPCの方向性を示唆するものとなるが、これを実現するためには、数多くの先進技術の投入とともに、高密度設計技術や回路技術を生かして、いかに薄型化、小型化した筐体のなかに詰め込むかといった要素が求められる。

 「セキュリティ機能の強化をはじめ、Vistaで実現される新たな機能、そして、Vistaの機能をさらに進化させるターボメモリーなどのSanta Rosaで提供される機能を、Thin & Lightのなかで実現するのは大きな困難が伴う。また旧来から提供されている部材品質のさらなる向上とともに、新たに開発された部材にもいち早く高い品質を実現し、それらを効率的な基板設計の上で実装する技術やノウハウも求められる。ここに東芝ならではの強みがある」と下光執行役員常務は語る。続けて、「最近のThin & Light系の製品では、何らかのスペックの不満や不便があった。それを取り除くことに、開発陣は大変な努力を繰り返してきた。この夏モデルでは、東芝らしいThin & LightノートPCを用意する。ぜひ楽しみにして欲しい」とする。

 Thin & Lightにおける東芝ならではの魅力を打ち出した製品とはどんなものか。その投入には注目していいだろう。

 2つめは、AV機能における優位性だ。

 東芝は、Qosmioシリーズによって、AVノートPC分野をリードしているが、Vista時代におけるAV対応への回答の1つとして用意したのが、「Qosmio AVコントローラ」である。

 5月に発売したQosmio G40およびF40シリーズに初めて搭載したQosmio AVコントローラは、キーボードを使うことなく、Windows Media Centerおよび同社独自のQosmio AV Centerを動作させることが可能だ。

Qosmioに搭載された「Qosmio AVコントローラ」

 AVの差異化策は、ハードウェア技術に目が行きがちだが、ソフトウェアやインターフェース、長年培ったノウハウといったものが、むしろ大きな差異化策となる。

 「東芝のTV事業やビデオ事業などが持つAV技術との融合はこれからも進んでいく。AVノートPCのリーディングカンパニーという位置づけはこれからも変わらない」と、東芝のPC&ネットワーク社PC第一事業部PCマーケティング部マーケティング担当 荻野孝広主務は語る。

 そして、3つめには、先進機能への取り組みだ。

 「東芝はリーディングイノベーションをキーワードにしている。過去の東芝のノートPCも常に最先端の技術を搭載したことで市場から評価を得ていた。今後も、それを具現化する製品を積極的に投入していく姿勢は変わらない」と下光執行役員常務は語る。

 それを補足するように、PC&ネットワーク社PC第一事業部企画部兼マーケティング部 長嶋忠浩部長は次のように語る。

 「今年1月の米CESの東芝ブースで公開したタブレットPCのPortage R400は、2年以上前から、マイクロソフトと共同で研究を重ねてきたもの。UWBをはじめとする通信環境の進化と、Vistaによって実現される機能とが融合して、新たなPCの利用環境が提案できる製品。こうした技術的な先進性を活かした東芝ならではの製品をいち早く市場投入していきたい」と語る。

 先頃、東芝の西田社長が、中期経営計画の中で、SSD搭載ノートPCやハイブリッド型HDD搭載ノートPCを積極的に投入していく姿勢を打ち出しており、あらゆる面から、東芝の特徴を生かせる新技術の採用にも注目が集まる。

モデルチェンジした「dynabook」

 東芝は、夏モデルからデザインを一新するなど、ここにきて一気に攻勢を駆け始めた。

 だが、見方を変えれば、今年1月のVista発売時に焦点を当てた他社よりも、やや出足が遅れているといえなくもない。

 なぜ、東芝は、この夏モデルにターゲットを当てたのか。

 当然、Vistaの市場認知が高まる時期を待ってというマーケティング的な要素はあるだろう。また、東芝が持つノートPCに関する技術やノウハウを活かすことができるSanta Rosaの登場を待ってから、という技術的な側面も見逃せない。

 しかし、もう1つの要因としては、2006年度上期の大幅な赤字を計上していた同社PC事業の体制建て直しに、力を注いでいたことによる影響もあると推測できる。

 下光執行役員常務は、「PC事業は、経営効率の競争ともいえる。効率そのものものが差異化になるだけに、いまや構造改革、コストダウンに対する取り組みは常態化している。そのため、下期に特別な構造改革に取り組んでいたわけではない」とはいうが、決算数字からも、下期において大きく業績を回復させることに成功したのは事実だ。

 同社のPC事業は、2006年度上期にはマイナス74億円の赤字を計上。東芝製PCが市場で低価格で販売される例も相次いで見られていた。だが、下期には、これを一気に改善。2006年度の通期業績では、なんと、売上高は、前年比14%増の9,718億円、営業利益は69億円の最終黒字にして見せた。外から見れば、ジェットコースターのような業績変化ともいえる。

 一方、西田社長は中期経営計画のなかで、PC事業の成長戦略についても言及。2007年度の売上高は、3%増の1兆円と、初の大台到達を目指すほか、営業利益は120億円とほぼ倍増。2009年度には1兆2,000億円として、年平均成長率7%という伸びを計画している。

 「上期には、北米のリテール市場での若干の苦戦や為替の影響もあったが、むしろ、ボリュームとコストをどう管理するかが鍵だった。とくに、メモリの調達は、従来のようにPCの需要動向だけを見て、調達のタイミングや価格を分析するのではなく、iPodなどの携帯音楽プレーヤーや、全世界で需要が増大している高機能携帯電話、各種AV機器の動向も視野に入れなくてはならない市場へと変化している。より精度の高い需要予測と調達力が求められている」というわけだ。

 調達体制がコストを左右する大きな要素であることは間違いない。東芝は、この体制確立に挑んでいる。

 一方、ボリュームという点では海外戦略がポイントだ。

 東芝は、日米欧の3極体制でPC事業に取り組んでいる。さらに今後は、アジア、中南米、ロシア、中国といった地域への本格展開を視野に入れている。

 「すでにロシア地域では、前年比2倍の売り上げ規模になっている。新興市場に向けたローエンド機種、ボリュームを担う機種の展開も必要になるだろう」と下光執行役員常務は語る。

 東芝のPC事業戦略は、利益の確保を最重点課題としながらも、売上高のトップラインをいかに伸ばすかという方向を打ち出している。それは西田社長が打ち出した中期経営計画のなかでも明らかだ。

 6月下旬からのPC&ネットワーク社の社長に就任する下光氏による新体制では、これまで以上に成長戦略が推進されることになりそうだ。

□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□関連記事
【5月9日】東芝、Santa Rosa搭載AVノート「Qosmio G40/F40」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0509/toshiba.htm
【4月13日】東芝、年度内にもSSD搭載ノートPCを投入へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0413/toshiba.htm

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(2007年6月4日)

[Text by 大河原克行]


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