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MicroProcessor Forum 2007レポート

【NTTドコモ編】
高機能と低コストが要求される携帯端末用プロセッサ

2日目の基調講演を行なったDoCoMo Communications Laboratories USAの三木英輔氏

会期:5月21日~23日(現地時間)

会場:米カリフォルニア州サンノゼ
DoubleTree Hotel



 Microprocessor Forumの2日目の最初の基調講演は、日本のNTTドコモが行なった。こうした技術カンファレンスには、大きく2種類のスピーチがある。

 1つは、初日のIntelのように、自社の製品や技術について話すものと、もう1つは、市場や自社のビジネス、製品について話を行ない、カンファレンスの対象となる企業や業界などに対して要望や参入を促すものである。NTTドコモのスピーチは、後者に属し、NTTドコモがプロセッサを開発して発表したわけではない。

 スピーチを行なったのは、DoCoMo Communications Laboratories USAのPresident and CEOの三木英輔氏である。講演のタイトルは「Cell Phone Technology for Super 3G and Beyond」。

 今回のMicroprocessor Forumでは、ARMやQualcommの講演(これらについては別途レポートしたい)もあり、携帯電話ネットワークのオペレーター(キャリア)による市場動向などは、携帯電話向けのプロセッサを理解するためのものともいえる。

●3G端末の現状を概観

携帯電話の進化と採用された技術を示す図。現在では、さまざまな機器が持つ機能を携帯電話が取り込みつつある
 三木氏は、アナログである第1世代から次世代の第4世代までの流れを説明したあと、第三世代(3G)携帯電話の概要を説明した。

 そして、現在の携帯電話は、マルチメディア技術などにより、さまざまな機能を搭載したものであることを説明するとともに、日本の携帯電話を紹介した。というのは、米国では、3Gサービスはまだあまり普及しておらず、日本のように携帯電話でメールを使う人もそれほど多くない。

 高級な機種では、デジタルカメラを搭載したり、スマートフォンだったりと、日本とあまり変わらないが、普及価格帯になってくると、音声と簡単なメッセージサービス程度のものもかなりある。世代的にいうと、米国は、まだ2.5Gあたりというところだろうか。こうした背景があるために、日本の携帯電話がどんなものであるのかを解説したわけである。

 最新機種のサイズや重量、バッテリ寿命などのスペックを紹介したあと、今度は、Super3Gについての話に移った。Super3Gとは、ドコモが、4Gとの間を埋めるために行なうFOMAの強化プランである。通信機能などを強化しつつ、コアネットワーク側の改良などを進め、4Gへの道筋をつけるものだ。

 平均的な米国の携帯電話が2.5Gであるため、3GやSuper3Gについてはほとんど知られていないのが現状である。データ転送速度や位置付け、そして標準化のプロセスなどが解説された。

●Super3G携帯に必要とされるプロセッサの要件

 Super3Gを解説したのち、今度は、携帯電話用のプロセッサの話に入った。携帯電話用のプロセッサは、通信速度が上がるに応じて、さまざまなサービスをこなす必要から、より強力になることが求められるものの、バッテリで動作するものがあるため、消費電力には一定の枠がはめられる。もちろん、バッテリ技術の進歩もあるが、急激に容量が増えるわけでもないので、常に強い制限がある。

 Super3Gに対応した携帯電話のブロック図を示し、どのような機能や性能が必要なのかを解説した。機能としては、大きく通信機能に相当する「Transmision Processing」と、アプリケーション側になる「Multimedia Processing」にわかれ、それぞれに必要な要素が示された。

 携帯電話に使われるプロセッサなどの半導体については、携帯電話の速い変化に追従できること、大量に使われる半面、コスト低減が求められること、コアソフトウェアとのデバイス側が協力しないとシステムが安定させられないことといった要求事項が示された。

 また、デバイス間の接続には、広く使われるインターフェイスを採用することが望ましく、そのようにすることで、将来のデバイス統合が簡単になるとした。

 特にプロセッサに関しては、消費電力への懸念、さらなる処理能力の向上に加え、消費電力が増えてきていると共に発熱が問題となりつつあることが指摘された。これまで、携帯電話では、消費電力は問題になったものの、発熱は大きな問題ではなかったが、今後、バッテリ容量などが向上し、利用できる電力が増えることによる、発熱が問題になることを予想しているという。デバイス自体の温度上昇を抑えるとともに、放熱技術も導入する必要があるとした。

Super3Gなどは、LTE(Long Term Evelution)と呼ばれ、4Gへのスムーズな移行を行なうために、3Gを進化させていくことを意味する Super3Gでは、コアネットワーク(携帯電話のネットワーク)も変化しIPベースのものへと変っていく。これは、4Gへの移行で重要な意味を持つ OFDMAは、IEEE 802.11a/gなどに使われているOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を使う、携帯電話の通信方式の1種。デジタルデータのスペクトラムが複数の山谷からなることを利用して、複数の電波の山と谷を合わせるようにし、相互の影響を減らすようにし、高速な通信を実現するもの

携帯電話のサイズや重量は小さくなる方向にあり、逆に性能や機能は向上していく方向にある Super3Gで使われる端末に必要なプロセッサの概要。さまざまな機能、インターフェイスを搭載する必要がある

●4Gにむけて共通プラットフォーム化が進む

 次に話は次世代携帯電話となる4Gに移った。これは、現在ITUで議論されているもので、IMT-Advancedと呼ばれる。現在の3GはIMT-2000と呼ばれていて、それを進化させたものという位置付けである。

 まず示されたのは、俗に「VAN Chart」と呼ばれるITUで作られた4Gの位置付けを示すチャートである。これは、形が車のバンに似ているため、こう呼ばれている。

 携帯電話では、移動速度とデータレート(通信速度)で無線通信技術を表現している。自動車などと徒歩では、移動速度が違う。携帯電話では、移動に応じて基地局を切り替えるハンドオーバーと呼ばれる処理や、基地局の場所で受信電波強度を一定にするように端末の送信電力などを制御している。

 こうしたさまざまな処理は、電波状態が変ることに対応しなければならないが、このときに端末側の移動速度が速いと、変化する速度も速くなってしまう。このために移動速度に応じて通信速度を切り替えたり、エラー訂正方法を変更するなどして、状態の変化に対応しやすくする。このために通信速度は、端末の移動速度で上限が決まってしまうのである。

 VAN Chartは、3G(IMT-2000)とSuper3GなどのEnhanced IMT-2000、そして4Gの領域から構成されている。低速移動の場合で1Gbps以上、高速移動で100Mbps以上が目標とされているが、必ずしも1つの端末ですべてをカバーすることは求められていない。人間が手に持って移動する場合の低速領域である「New Nomadic Access」と「New Mobile Access」の大きく2つの領域がある。

 次に示されたのは、4Gの大まかなスケジュールである。これは、今年(2007年)開催される国際的な周波数割り当てなどを決める国際無線通信会議(WRC)で、周波数割り当てなどが行なわれる予定で、その後、2011年ごろには規格が固まる予定だという。

 ドコモは、4G方式として無線LANなどに使われているOFDMを応用したものや、MIMO技術を使った技術を提案している。また、昨年12月には、低速移動時で5Gbpsを実験で達成している。

 通信速度が速くなれば、アプリケーションは、より多くのデータを処理する必要から、より高速なプロセッサが必要となる。しかし、携帯電話のユーザーは、テクノロジ自体には興味がなく、サービスを利用して楽しむだけである。また、携帯電話ネットワークのオペレータからすれば、その世界戦略に合致するデバイスが必要となる。携帯電話が大きく普及した現在、コストが重要な要素であり、そのためのデバイスが必要になってきている。

 低価格なデバイスが携帯電話のコストを下げる最大の要因であり、タイミング良く開発が行なわれることが重要だとした。また、デバイスとソフトウェアの開発は共同して行なう必要があり、共通プラットフォームを採用することが端末の開発にとっては重要であるとした。

ITUで4Gの位置付けを示すために作成されたVAN Chart。楕円の部分が4Gの目指す範囲となる 4Gでは、IPベースのネットワークが標準的となるため、Super3Gの段階で移行を行なえば、無線部分のみを変更するだけで移行が行なえるようになる 低速移動時に5Gbpsを達成した実験の概要。MIMO技術を使って高速化を行なっている

 ドコモは、ベースバンドLSIとアプリケーションプロセッサ、オペレーティングシステム、ミドルウェアなどをまとめた共通プラットフォームMOAP(Mobilephone oriented application Platform)を策定しており、SymbianベースのMOAP(S)とLinuxベースのMOAP(L)がある。簡単にいえば、これに適合するような低消費電力の高性能プロセッサが要望されているわけである。

 PCや家電と並んで、大きな市場となった携帯電話だが、PCや家電よりも地域性が強く、また、オペレーター経由での販売が大きな割合を占めるなど、異なった構造を持つ。このため、従来は、オペレーターや端末メーカーとの関係が深いデバイスが使われることが多い。

 しかし、低価格化が大きなトレンドとなりつつあり、競争原理の導入によるコスト圧縮が大きな課題として登場した。 日本でも海外メーカーの端末が導入され、国内端末メーカーが海外に進出しようとすれば、低価格端末が必要になる。携帯電話の世代とは別に、携帯電話用プロセッサも次なる世代へと移行する時期に来ているといえるだろう。

□Microprocessor Forum 2007のホームページ(英文)
http://www.in-stat.com/mpf/07/

(2007年5月25日)

[Reported by 塩田紳二]

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