第369回
メーカー製水冷PCの再挑戦



NEC製の水冷ユニット

 NECが継続して採用しているものの、量産PC向けの要素技術としてはあまり聞かれなくなってきた水冷(液冷)技術。自作PCでは、いまだに一部には人気があるものの、市販PCはプロセッサの電力効率向上や空冷技術の進歩によって、現在はやや埋もれている感がある。

 しかし、いくつかの新しいアプローチ、新しい技術を用いることで、2007年の秋にも新しいメーカー製水冷PCが登場しそうだ。デスクトップタイプのPCだが、技術的には小型化にも適しており、ノートPCに再び搭載される可能性もあるだろう。

 現時点ではまだメーカー名や要素技術の開発元は明かせないことになっているが、今年の秋には再び、水冷PCが話題となるかもしれない。

●ポンプとヒートスプレッダの工夫で小型化を目指す

日立のノートPC水冷システム

 これまで大手メーカーが発売してきた水冷PCは、最初に登場した日立のノートPC型を除き、すべてディスプレイ分離型のデスクトップPCだった。

 水冷PCが話題になり始めた当時は、プロセッサの発熱増加が予想を超えるペースで進み、その根本的な解決策が施されないまま、モデルチェンジごとに高クロック化、さらなる高発熱へと進まざるを得ないという時期でもあった。時はPentium 4の時代。AMDはAthlon 64を出荷したばかりという時である。

 当時はさらなる微細化でリーク電流が増えることへの懸念や、クロックスピードへの依存性が強すぎるが故に発熱が大きな問題となり、予定ほどにはクロックが上がらないのではないかといった、先行きの不透明感がIntelのデスクトップPC向けプロセッサにはあった。AMDはAthlon 64の電力効率が比較的良く、リーク電流も少なめの製造プロセスを採用していたが、いずれにしろ将来的にプロセッサの冷却をどうすべきかは、PC業界の中でももっとも熱い話題の1つだった。


福華電子の水冷モジュール

 日立が開発し、台湾の福華電子にライセンスされて生産が始まったデスクトップPC向け水冷ユニットについては、以前、PC Watchに現地の取材レポートを掲載したが、当時はまだラジエータの効率もさほど高くなく、プロセッサへの取り付け方法やコストダウンの手法、小型ポンプの開発など、まだまだ発展途上だったと記憶している。

 それでも、その福華電子のユニットをNECがデスクトップPCに採用したのは、当時、展示会などで東芝なども展示したりと話題性が高かったことに加え、動作の静かさが魅力的だったからだ。水冷ならば熱を大型ラジエータまで移動させ、そこで静かにゆっくりと回る大型ファンで冷却することができる。

 もちろん、プロセッサの冷却用ファンだけでなく、GPUの冷却音やHDDの動作音といった点にまでケアしなければ、トータルの動作音は低くならない。NECはファンレスGPUをオプションで用意するなどの工夫をしていたが、残念ながらGPUの水冷化やHDDの静音化までに取り組めてはいない。

 現在はデスクトップPC向けプロセッサの電力効率が上がり、空冷技術も進んだことから、メーカー製水冷PCは姿を消しているが、いくつかの新しい技術を用いることで、再度、市場にその価値を問う形になるだろう。

 その新技術とは、微細な穴に水を通す薄く小型のヒートスプレッダと、小型かつ効率が高く流量も多く確保できるという、圧電素子を用いたポンプだ。これにより、薄型筐体の冷却システムをファンレス化あるいは低流量の静音ファンのみで冷却可能な設計とし、小型で静かな、そして高性能なデスクトップPCを開発するのが狙いだ。

●静かでありながら、スケーラブルに

 ご存じのようにIntelは、現在のCore 2のあと、2008年末にはNehalemという、新しいアーキテクチャを投入する予定だ。新しいメーカー製水冷プロセッサの規格スタートは、あくまでも静音で高性能、しかも省スペースなデスクトップPCだが、近傍の状況だけを見ての決定ではなく、将来的な発展も見据えているようだ。

 Nehalemの世代では複数ダイを1チップにパッケージすることで、汎用コアの数が選択可能になり、さらにはGPUの機能も統合することが可能だ。GPUは言ってみれば特定用途の処理が得意なプロセッサである。Intelは今後、必要に応じて複数の異なる特徴を持ったコアを1パッケージに収め、それらをネットワークで結ぶ方向に進むと見られる。

 PCベンダーは、企画しているPCにピッタリの構成を持つプロセッサを選べるようになるわけだ。サーバのようにとにかくスレッドレベルの並列処理性能が高いプロセッサを求めるアプリケーションもあれば、モバイルPCやUMPCのように消費電力、発熱とパフォーマンスのバランスポイントが重要なアプリケーションもある。

 どこまでの柔軟性を提供できるかは、まだわからない。ただ、使う側としては、使える電力(あるいは対応できる発熱量)によって選べる構成が変化する。

 この秋に登場する水冷PCは、省スペースデスクトップの見た目で、天板あるいは側板などに広い面積の平べったいラジエータを配置し、前面スリットから電源ユニットのファンで導入される空気だけでプロセッサをはじめとするホットスポットを冷却。水冷システム自身には冷却ファンは持たなくとも、かなり高性能なプロセッサまで対応できる。

 前述したように、新開発の薄型圧電素子ポンプを用い、放熱版に細かな穴を多数あけて冷却液を通す仕組みで、コンパクトかつ効率の良い熱循環の回路を構成する。

 ここで静かで高性能、かつコンパクトなデスクトップPCという分野を切り開いた上で、Nehalemの時代に静音を維持しながら、可能な限り幅広い構成に耐えられるプラットフォームを構築する。

 静かでありながら、スケーラブルに多数のコアも搭載可能となれば、製品としての特徴付けもやりやすい。冷却システム全体のサイズもコンパクトになるため、将来的には再び水冷ノートPCが登場する可能性もあるだろう。

 その第一歩となる製品が今年の秋に登場するわけだ。まだ半年ほど先の話だが、それまでには新しい情報が入ってくるだろう。もう少し、製品が具体的になってきた段階で、再度、詳細をリポートすることにしたい。

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【1月30日】日本HP、日立製水冷システム採用ワークステーション
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【2006年7月12日】NEC、水冷ユニット搭載の静音ワークステーション
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【2004年5月31日】水冷コンポーネントベンダー訪問記(1)
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【2002年3月14日】日立、ノートPC水冷システムを国内でも公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0314/hitachi.htm

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(2007年4月4日)

[Text by 本田雅一]


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