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パナソニック、電池内部のショートを防ぐ
“安全かつ高容量”のリチウムイオン

「18650サイズ円筒形電池」

12月18日 発表



 松下電池工業株式会社は18日、2,900mAhの高容量で電極セパレータに安全技術を搭載したリチウムイオン充電池の量産体制を確立したと発表。翌19日、都内で記者説明会を開催した。

松下電池工業株式会社 技術開発センター所長 生駒宗久氏

 今回開発されたのは、リチウムイオン充電池の内部で短絡を起こした場合において、根本的な解決策となる技術。電池の正極、負極の間に挟むセパレータにHRL(Heat Resistance Layer)と呼ばれる熱抵抗層を形成し、電池の過熱や発火を防ぐことが可能となる。説明会では、同社 技術開発センター所長 生駒宗久氏がこの技術の説明を行なった。

 まず、リチウムイオン充電池の市場動向について触れ、リチウムイオン充電池は角形と円筒形があるが、ノートPC向けの円筒形が伸びており、2010年には10億個へ達すると予測した。その円筒形リチウムイオン充電池は、18×65mm(直径×長さ)の「18650サイズ円筒形電池」がノートPC向けの標準サイズとなっている。2006年では2,400mAh以上の高容量のものがノートPC向けに需要が高く、2010年には2,600mAh以上が円筒形の54%を占めると予測している。

 続いて、リチウムイオン充電池の歩みを紹介。'90年代前半から、ノートPC、デジタルカメラなどに採用されてきたが、これらのモバイル機器が、さらに高性能/高機能化が進むため、電池も高容量化が進んでいると解説。市場に導入された第1世代製品の正極に使用されるコバルト系では、高エネルギー化に限界があると指摘した。

数量ベースのリチウムイオン充電池需要 金額ベースのリチウムイオン充電池需要 円筒形リチウムイオン充電池の容量別出荷数

 そこで、正極にニッケル系の新しい材料に変更した第2世代のリチウムイオン充電池を投入し、同氏は「今日から第2世代のリチウムイオン充電池がスタート」と表現した。

 次に生駒氏は、リチウムイオン充電池の高容量化とリコールの件数を説明。容量が2,400mAhを超え、高容量化するに従って、リコールが大幅に増加したという。ここ数年、リチウムイオン充電池のリコールが相次ぎ、ソニー製のリチウムイオン充電池が問題になったのは記憶に新しい。

 このバッテリの過熱や発火が起こる原因として、4つのポイントを挙げた。1つは「過充電をして熱暴走」、2つ目は「接点のある外部で短絡(ショート)」、3つ目は「バッテリマネージメントユニット(BMU)が発熱」、4つ目が「電池内部での短絡」。前の3点は保護回路によって障害を防止できるが、4つ目の電池内部で短絡した場合は、システム上、保護できないとした。

 その電池内部での短絡は、正極と負極の間に挟むポリオレフィン製の絶縁膜“セパレータ”に対して、鉄粉などの異物が混入することで引き起こされる。正極、負極の化学変化エネルギーを電気にする際に、セパレータに混入した異物が発熱してしまい、ポリオレフィンは、ジュール熱が発生した場合、摂氏100度程度で溶解してしまうためだという。

 この電池内部での短絡には、電池材料に異物が入らないようにする、工場のクリーン化、強度の高いセパレータを採用、熱的な安定性の高い材料を採用、などの対策を行なってきたという。だが、電池の高容量化に伴い、電池内部にさらに多くの化学エネルギーが発生してしまう。これでは、これまで以上に厳密な異物混入防止が必要となり、設備や工法において限界があるとした。

リチウムイオン充電池の歩み リチウムイオン充電池の高容量化とリコールの推移
ショートが起こる原因。電池内部の短絡はシステムの保護が不可能 内部短絡の起こる原理と防止策

 そこで今回、「異物が混入しても熱暴走を起こさせない」という考えのもとに、過熱、発火が起こらないHRL技術を採用したセパレータを開発。高容量化を進めるほど安全性が低下していたが、安全技術を引き上げたとした。

 HRLは、絶縁性の金属酸化物を使用した熱抵抗層で、極板の表面に形成される。生駒氏によるとHRLの耐熱性は摂氏1,000度以上で、内部短絡が発生しても、発熱せず短絡が終了するという。

 同社はリチウムイオン充電池の開発において「安全がすべてに優先する」というコンセプトをもとにしており、この安全技術を確立し、さらなる高容量化の道が開けた。第1世代の正極コバルト系では容量2,600mAhが限界だが、第2世代では2,900mAhが可能といい、さらに今後、安全性を確保した上で「極板材料の改良などで、3,000mAh以上の製品も作れるだろうと考える」と見込みを語った。

「安全がすべてに優先する」 根本的に考え方を変えてセパレータを強化した HRL技術を採用したもの(左)と従来製品
HRL技術を採用した極板のイメージ 2,900mAhの高容量化を実現可能に 会場に展示されたHRL極板(上)と従来極板

松下電池工業株式会社 取締役社長 石田徹氏

 質疑応答では、同社 取締役社長 石田徹氏と生駒氏が回答した。HRLを採用することでコストが上がるのでは、との質問には、石田社長が「安全性を含めた、トータルでの性能を考えたコスト、ということが重要」とし「今回の電池は、正極を(コバルトから)ニッケル系にすることで、正極に関してはコストが下がっている」とも話した。リチウムイオン充電池でのシェアについては「顧客に“安全性”に対する提案を受け入れてもらえるかが重要で、シェア1位を目指した活動をしていきたい」と抱負を語った。

 2,900mAhの容量でも2.5V程度まで電圧が下がると、バッテリ駆動時間に問題が出るのではないかとの質問に、生駒氏は「弊社のLet'snoteの例で言うと、3本直列の2.5Vで動作するようになっている。また、インテルと共同で低電圧作動の研究を行ない、低い電圧で動作する回路の工夫を行なっている。また、一次電池から派生したものは1.5V基準なので当面は問題ない」と説明した。

 今回のHRL技術が開発された経緯については「熱暴走に至るプロセスを解析して生まれた技術」とし、石田社長は「社員に対して『なんで燃えるのか徹底して研究しろ』と言った。この基本研究が根本にある」と話した。

□パナソニックのホームページ
http://panasonic.co.jp/
□松下電池工業のホームページ
http://panasonic.co.jp/mbi/
□ニュースリリース
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn061218-1/jn061218-1.html
□ソニー製リチウムイオン充電池問題 リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/lithium.htm

(2006年12月19日)

[Reported by yamada-k@impress.co.jp]

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