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Fall Microprocessor Forumレポート

より高度なデジタルビデオを扱うプロセッサ群

カンファレンス会期:10月10日~11日(現地時間)

会場:米カリフォルニア州サンノゼ DoubleTree Hotel



 Fall Microprocessor Forum(Fall MPF) 2006で興味を引いた講演に、デジタルビデオ信号の符号化や復号化などを想定したプロセッサ技術の発表がある。いくつかの注目すべき講演を引用しながら、ビデオ用プロセッサ技術の開発状況を紹介したい。

用途別に見た符号化圧縮方式の現在と今後。数多くの符号化圧縮方式が利用されている。米Texas Instrumentsの講演資料から

 デジタルビデオ信号やデジタルオーディオ信号を伝送したり蓄積したりするときには、符号化圧縮(エンコード)することが当たり前になっている。符号化圧縮によってデータ容量を減らし、同じ伝送容量での伝送チャンネル数を増やしたり、記憶メディアに蓄積できる信号の長さ(録画時間あるいは録音時間)を延ばしたりする。

 伝送したり、蓄積したりした符号データは、再生時に復号化伸長(デコード)される。そして人間が視聴できる信号へと、姿を変える。

 符号化圧縮の方式は1つではない。用途に応じてさまざまな符号化圧縮方式が使われている。また同じ用途でも技術の進化によって、使用する符号化圧縮方式が変化する。当然、デジタルビデオやデジタルオーディオを扱うプロセッサは、符号化圧縮方式の変化に対応しなければならない。

 デジタルビデオ信号やデジタルオーディオ信号などのマルチメディア処理をどのようにして実現するかは、定まっているわけではない。マイクロプロセッサ(あるいはマイクロコントローラ)とソフトウェアの組み合わせで処理してもよいし、すべてハードウェア回路で実現してもよい。

 ただし現実的な実現手法は現在のところ、両者の中間にある。まずマイクロプロセッサ(およびマイクロコントローラ)は逐次処理に向いたアーキテクチャであり、ビデオ信号やオーディオ信号などのストリーミングデータの扱いは不得手である。結果としてマイクロプロセッサの動作周波数を相当に上げなければならず、チップコストと消費電力が相当に上がってしまう。一方、すべてハードウェア回路で実現した場合は、チップコストと消費電力は最も低くなるものの、符号化圧縮アルゴリズムが固定されてしまうという問題が生じる。多数の符号化圧縮方式が混在している状況で、アルゴリズムを1つに固定することは現実的ではない。

 そこで現在使われているのは、下記のような実現手法である。共通しているのは、複数のプロセッサコアをワンチップに集積したプロセッサと、ソフトウェアを組み合わせて処理を実現していることだ。

 1)DSPコアとCPUコアを集積したプロセッサ
 2)ビデオ専用プロセッサコア、オーディオ専用プロセッサコアとCPUコアを集積したプロセッサ
 3)超並列プロセッサコアとCPUコアを集積したプロセッサ

 1)のDSPコアを使う手法は柔軟性に優れており、既存のソフトウェア開発手法との親和性が高い。ただし、リアルタイム処理に必要な動作周波数はやや高めになる。また消費電力も高めになりやすい。Fall MPF 2006では、米Texas Instrumentsがこのタイプのプロセッサ「TMS320DM6446」による信号処理性能を示した。

 「TMS320DM6446」のプロセッサコアは、DSPコアが「C64X+」、CPUコアが「ARM926」である。デジタルビデオ信号の符号化と復号化、符号変換を想定して開発された。H.264 MainProfileの符号化処理に必要な動作周波数が590MHz、H264 BaseProfileの符号化処理に必要な動作周波数が410MHzとなっている。

「TMS320DM6446」の主な仕様と内部ブロック図 「TMS320DM6446」による符号化(エンコード)および復号化(デコード)処理に必要な動作周波数

 2)の手法は、ビデオ(動画)の符号化や復号化などに特化したハードウェアを積んで動作周波数当たりの処理性能を高めている。最近では処理アルゴリズムの柔軟性を確保するために、すべてをハードウェアで処理するのではなく、ソフトウェアと組み合わせて処理する方法が一般的になってきた。Fall MPF 2006では、米LSI Logicと米ARC Inernatinalがそれぞれ、このタイプのプロセッサを発表した。

 LSI Logicが開発したプロセッサ「Domino[X]」は、「ビデオエンジン(Video Engine)」と呼ぶビデオ処理用プロセッサコアのほか、MIPS32 24KアーキテクチャのRISCプロセッサコア、オーディオ処理用のRISCプロセッサコアを搭載した。H.264(HD)の復号化処理に必要な動作周波数は200MHz、H.264(SD)の符号化処理に必要な動作周波数は250MHzとなっている。

「Domino[X]」の内部ブロック図 「Domino[X]」による符号化(エンコード)および復号化(デコード)処理に必要な動作周波数

「ARC VRaptor」の内部ブロック図

 ARC Internationalが開発したプロセッサ「ARC VRaptor」は、メディアプロセッサコアやハードウェアアクセラレータ、CPUコア(ARC 750D)を搭載した。H.264の符号化処理を200MHzの動作周波数で実行することが目標である。

 続く3)の「超並列プロセッサコアとCPUコア」は、プロセッサアレイによる分散並列処理を利用して動画像を少ないサイクル数で符号化してしまおうという考え方だ。原理的には、1)や2)よりも低い動作周波数でリアルタイム処理が可能になるので、消費電力が低くなる。Fall MPF 2006ではプロセッサ開発企業の米Boston Circuitsが、この考え方をさらに先鋭化したプロセッサ「gCORE」を発表した。

 「gCORE」のどこが先鋭化しているかというと、プロセッサコアのアレイだけで、コントローラとしてのCPUコアがない。代わりに「Time Machine」と呼ぶ回路があり、スケジューリングやスレッドの割り当てなどを担う仕組みである。

16個のプロセッサコアを内蔵した「gCORE16」の内部ブロック。プロセッサコアをルーター回路で高速に結ぶ。プロセッサコア(ARC 750Dを独自に拡張したコア)の動作周波数は600MHz、ルーター回路の動作周波数は2.4GHzである 「gCORE16」を利用したシステムの構成例。HDD内蔵のBlu-ray光ディスクレコーダ アプリケーションの例。H.264の処理を複数のスレッドに分割した

●H.264の符号化と符号変換が当面の目標

 HDD内蔵DVDレコーダやセットトップボックス、ビデオ会議システムなどに向けたビデオ用プロセッサを想定した場合、当面の課題はH.264の符号化と符号変換(トランスコーディング)である。復号化に比べると符号化は計算処理が複雑で、リアルタイム処理に必要なプロセッサの動作周波数は符号化処理の方が復号化処理よりも常に高い。H.264はMPEG-2よりも圧縮率が高い一方で、符号化処理がはるかに複雑になる。Texsas InstrumentsやLSI Logicなどの講演を拝見したところでは、組み込み機器におけるH.264の符号化処理が現実のものとなりつつあることがうかがえた。

 符号変換は、符号化の次のステップとなる。符号変換とは、ある方式で符号化された信号を、別の方式の符号に変換することである。ある信号(符号)をいったん復号化してから再度符号化するので、リアルタイム処理の場合はプロセッサあるいはLSIに対する要求は非常に厳しくなる。もちろん工夫の余地はあるのだが、単に符号化するよりもさらに計算過程が複雑になることは確かだ。また実際の用途では、符号変換だけでなく解像度やフレーム速度などの変換が必要になる。このため計算量はさらに増加する。

 なぜ符号変換処理が必要かというと、1つはもちろん、機器やメディアなどによって符号化方式や解像度、フレーム速度が異なっているからである。もう1つは、高能率の符号化方式を利用すると伝送帯域や記憶容量などを低減できるからだ。例えばMPEG-2でHDDに2時間分の映像を記録するのに必要な容量が16GBであるのに対し、同じ時間分の映像をH.264で記録すると必要な容量は8GBに減少する。

リアルタイム符号変換処理(トランスコーディング)の意義。MPEG-2記録からH.264記録に変える(トランスコーディングする)ことで、HDDの使用量は半分に減少する。米Texas Instrumentsの講演資料から 符号変換処理の流れ。非常に複雑であることが分かる。米Texas Instrumentsの講演資料から

□Fall Microprocessor Forumのホームページ(英文)
http://www.in-stat.com/FallMPF/06/
□Texas Instrumentsのホームページ
http://www.tij.co.jp/
□TMS320DM6446の製品情報
http://www.tij.co.jp/jsc/docs/dsps/product/
c6000/c64xpluscore/tms320dm6446.htm

□LSI Logicのホームページ(英文)
http://www.lsilogic.com/
□Domino[X]の製品情報(英文)
http://www.lsi.com/insight_center/tech_trends/
advanced_architectures/dominox_architecture/

□ARC Internationalのホームページ(英文)
http://www.arc.com/
□ARC VRaptorの製品情報(英文)
http://www.arc.com/subsystems/vraptor.html
□Boston Circuitsのホームページ
http://www.bostoncircuits.jp/
□gCOREの製品情報
http://www.bostoncircuits.jp/bcia_web_007.htm

(2006年10月13日)

[Reported by 福田昭]

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