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ルイス・バーンズ副社長基調講演レポート

社会のために貢献したい
~ITを求める医療の現場

会場:米San Francisco Moscone Center West

会期:9月26日~28日(現地時間)



●世界は問題を抱えている

ルイス・バーンズ氏

 壇上に立ったIntel デジタルヘルスグループ担当副社長 ルイス・バーンズ氏は、深刻な表情で「世界は、どの国も今、問題を抱えている」と切り出した。その問題は、今後、さらに悪化していく可能性をはらんでいるという。すなわち、世界の高齢化と医療に関する問題だ。

 Intelは、この問題をテクノロジーを利用して改善しようとしている。そのために用意されたのが、デジタル・ヘルスグループだ。

 バーンズ氏は、問題の解決と技術の投入には、各国政府のポリシーが変わることと、相互運用性が重要だという。今、アメリカ国内では、GNPの15%が医療に費やされ、その数字はすぐに25%に達するだろうと予測されている。日本は今8%程度だそうだが、伸び率という意味ではアメリカと同等だという。

 ステージでは、イギリスで最初のeコマース女性大臣として有名なPatricia Hewitt氏(Secretary of Health, UK)のコメントが流された。彼女は、ITの十八番でもある、“any time, any where, any devices”を、医療にあてはめたらどうかと主張する。そうすることで、医療の現場は病院からコミュニティ、そして家庭に移動する。つまり、ヘルスケアが患者のところにやってくるのが理想であって、患者がケアを求めてやってくるのではいけないということだ。まるで、かつてのPCのことを言っているようだ。

 ところが現状はそうなってはいない。Hewitt氏は、医療の変革のためには、人間の問題を解決することが必要で、それは、政府やプロバイダーだけではできず、人間のマインドを変える必要性があるとし、高齢化は進む一方なのに、ヘルスサービスは資金不足に陥っていて、悲痛に助けを求めているのだと説く。

 それを受けたバーンズ氏は、各方面からいろいろなアクション項目をもらっていることを証し、この問題に対してすでに140億ドル相当を投資しているイギリス政府に対して、よいチャンスを与えてくれたと感謝の意を表した。そして、病院にはビジネスがあるとし、医療はテクノロジーを活用していないと指摘、考え方を変えてもらわなければならないとした。

 また、資金をコミットして大きな改革を成し遂げたドイツの某病院のケースを挙げ、そのデザインポイントが、患者の安全とよい結果が最優先であり、コストを軽減するためではない環境の整備が必要なのだという。エンド・ツー・エンドのデータ通信やモバイルコンピューティングなど、テクノロジーはすでに存在し、既存のシステムはまだまだよいものにできるというのだ。

●治療する側の論理よりも、患者の論理を最優先に

実際にメディカル端末を操作して見せる看護師のHite氏

 そもそも、病院のワークフローにおいて、重要なのは、適切な時間に適切な処置をすることであり、そのために、プラットフォームやインフラを整える必要があるとバーンズ氏。ステージには引き続き、シリコンバレーのエルカミノ病院でのテストケースを経験したIntelのデジタルヘルスグループに所属する社会学者Monique Lambert氏と、同病院の看護師Monica Hite氏が登場した。双方ともに女性である。

 このテストケースでは、「モバイル・クリニカル・アシスタント」と呼ばれるIntelによるモバイル端末が投入され、看護師やスーパーバイザーに使ってもらうことで、ニーズがどこにあるかを調べたという。

 Hite氏は、実際に端末を操作し、RFIDでログインし、担当患者のリストを表示させ、書類の確認や、メモを手書きで記入する様子をデモンストレーションして見せた。ちなみに、同病院では、看護師の平均年齢は49歳で、いわゆる老眼鏡が必要な人が少なくないとのことで、端末に表示される文字の大きさも重要と、会場を笑いに包んだ。

担当患者を一覧し、滞りがないかどうかをチェック メモも手書きで書き込める

 看護師には待っている時間はほとんどないとHite氏。つまり、アプリケーションを待てない。入力したら、すぐに反応してほしいし、そこに遅延があってはならないと訴える。常に、迅速に回答が出ることに目を向けてほしいと念を押した。そして、彼女は、自分が患者になったときを想定して開発を続けてほしいと願いを述べた。そこには、治療する側の論理はいらないということらしい。

●テクノロジーはすでにある

 バーンズ氏は、デジタルヘルスの原点として、コンテクスト・アウェア・アーキテクチャが求められるとし、ロケーションや役割、手続きに基づいて、ワークフローが進められるようにしなければならないことを説いた。これは、すでに、他の分野のITでは実現済みの考え方であり、それを医療の分野でやることを推進したいとした。すでに大半は実用化され、フォームファクタもある。ただし、医療用ということで、濡れた布で汚れを拭き取ったり、簡単に殺菌ができるようなシャーシが必要であることも忘れてはいない。いずれにしても、この分野の顧客は、もっとも厳しい客ながら、今後のIntelのビジネスにとっては不可欠な顧客であるということも述べられた。

 続いてステージにはMotion ComputingのScott Eckert氏が登場した。同社は、タブレットPC、特に医療現場で使われるものに特化してビジネスをすすめ、今現在、ナンバーワンの地位を獲得しているベンダーだ。すでに5万人の医師や看護師にタブレットPCを提供、デジタルヘルスに特化した垂直市場で成功している。

丈夫で、清潔を保てるシャーシが求められる端末 Motion ComputingのScott Eckert氏

 Eckert氏は、医療端末は、今までになかったフォームファクタであるとし、医療コンプライアンスに準拠できるメディカルデバイスは、新しいソフトのプラットフォームにならなければならないとした。バーンズ氏が、すでにフォームファクタはあるとしているのに対して、より現場に近い考え方だ。有効で直感的に使えるテクノロジを使い、今まで待ち望まれていたような、看護師が仕事をしやすい環境を作るためにも、ITのイノベーションに期待したいとした。

 もちろん、バーンズ氏も、一筋縄でいかないことはわかっている。ただ、おそらく単一の出資はミドルウェアだろうともくろんでいる。もし、医療端末に、カスタムインターフェイスを使った場合、コストがかかりすぎるのはもちろん、レガシーをひきずらなければならなくなり、相互運用性を保てなくなる可能性がある。○×病院専用ではいけないということだ。看護婦が病院や医局を変わっても、すぐに、作業できなければ意味がないということなのだろう。

●最愛の人のためのデジタルヘルス

 こうしたイニシアティブを実現するために、その第一歩として、Intelは、この6月に、“Cotinua”と称するコンセプトを提唱し、アライアンスを結んだ。最初に22社、現在で55社が加盟し、在宅治療ができるようなネットワーク作りに取り組んでいる。2007年までにはテクニカルガイドラインを策定、さらに2008年には、ロゴのついたシステムを購入できるような状況ができあがるという。そうすれば、老人や病人がすぐに使えるようになるということだ。

 バーンズ氏の主張は、ヘルスケアが、単に病院のドアの中だけに始まり終わるものではないという点に終始していた。そして、数々のアクションが進行中であり、業界に対して声高に呼びかけていることを強調、お金のためだけではなく、社会のために、そして、最愛の人のために、イノベーションに対して最大の努力をしてほしいと会場で聞き入る技術者たちに訴えて基調講演を締めくくった。

□IDF Fall 2006のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2006/
□Intelのヘルスケアに対する取り組み(英文)
http://www.intel.com/healthcare/
□IDF Spring 2006レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/idfs.htm

(2006年9月28日)

[Reported by 山田祥平]

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