●アグレッシブなIntelのデスクトップCPU価格 IntelはNetBurst系CPUの“在庫処分”大バーゲンに出る。デスクトップCPUの価格戦略を大きく変更、Pentium系ブランドCPUの価格を一気に下げる。Pentium DとPentium 4の大半は、従来ならCeleronが占めていた70~150ドルの価格レンジにまで落ちる。フェードアウトしつつある旧ブランドPentiumを、Celeron価格で叩き売る。 Celeronの価格も下がる。Intelは、すでにバリューCPU価格のボトムを、従来の60ドル台から50ドル台にスライドさせた。Celeronの価格は、かつてない低レベルにまで落ちており、こちらも過激な安売りとなっている。NetBurst系CPUは、全てのブランドで価格を急落させつつある。 一方、現在、Pentiumブランドが占めている価格スペースには「Core 2(Conroe:コンロー)」ブランドが展開される。この戦略の結果、今年後半のIntelデスクトップCPUの価格&ブランド構成は、大きく変わる。一言で言えば、Core Microarchitecture系CPUがパフォーマンス&メインストリーム価格帯、NetBurst系CPUがバリュー価格帯を占めるようになる。新旧のCPUアーキテクチャを、価格できれいに切り分けた格好だ。 アグレッシブなIntelの価格戦略の背景には、Intelの焦りがある。Intelは、2005年後半に市場シェアを大きく落とし、AMDに急迫されている。こうした状況で、IntelはCPU価格を下げ、利幅を削っても、市場シェアの回復を目指す、背水の陣を敷いたようだ。また、Pentiumブランドの値を落としても、Core 2ブランドへユーザーが移行することに自信を持っているのかもしれない。
●Core 2とPentiumの上位に位置づけた新ブランド戦略 IntelのCPUブランドと価格の構造は、今年後半に劇的に変わる。現在、IntelのデスクトップCPUはPentium Extreme Edition(XE)、Pentium 4/D、Celeron Dの3階層となっている。市場毎に分かれたブランド構成で、Pentium 4とPentium Dは同じ価格帯で並ぶ。 エンスージアスト:Pentium XE これが、今年冬には下の図のように変わる。ブランド階層は、Core 2 XE、Core 2 Duo、Pentium D、Pentium 4、Celeronの5レイヤーに変わる。つまり、現在Pentium系3ブランドが占めている位置は、新アーキテクチャのCore 2ブランドに置き換わる。そして、旧アーキテクチャCPUは200ドルから下の価格帯に押し込まれる。 エンスージアスト:Core 2 XE
このメッセージは明瞭だ。「Core 2の方がPentiumより優れていて、未来はCore 2にある」とIntelは言いたいわけだ。新アーキテクチャCPUが高価格で、旧アーキテクチャCPUが低価格と、価格帯で切り分けることで、明確にブランドを分離。Core 2が上位ブランドであるとイメージづける、ある意味、わかりやすい構造になる。 ●新価格戦略によってPentium 4は一気に半額に このブランドポジションの変更の結果、PentiumブランドCPUの価格は当初の予定より大幅に下がることになった。特に、シングルコアCPUの下落幅は大きく、Pentium 4の価格は最大55% OFFとなる。400ドル台のCPUが一気に200ドル以下に、200ドル超のCPUが100ドルを切る価格に下落する。バーゲンの在庫一掃処分をイメージさせるような、劇的な価格引き下げだ。 Intelは、これまで、原則としてPentiumとCeleronの両ブランドの価格帯を明確に分けて来た。以前は200ドルが境界で、現在は160ドルが境。160ドルラインから上がPentiumブランド、それより下がCeleronブランドだった。ところが、今年後半になると、Pentium Dのボトムは100~130ドルと、従来ならCeleron Dが占めていた価格帯にまで落ちる。Pentium 4 L2 1MB版はさらにその下、100ドルを切る。 つまり、Pentium 4/Dを、Celeron Dの上位クラスと同じ価格帯にまで落とすわけだ。そのため、Celeron Dはさらに価格を引き下げられ50~70ドル台となる。CPUの価格レンジを下に伸ばしたことになる。Intel CPUがここまで安値になるのは極めて異例だ。 価格戦略の結果、Intelのガイドライン上では、冬商戦時期には、200ドル以上の価格帯は全てCore 2で占められるようになる。以前の計画では、この価格帯でも来年前半までPentium Dが共存するはずだった。構図だけを見ると、Intelは、当初の予定よりPentiumからCore 2への移行を加速するように見える。 もっとも、実際にはそうとも言えない。Intelの計画上でのCore 2の出荷個数自体はそれほど大きく変化していないからだ。1カ月半前の計画では、今年第4四半期時点での上位ブランドデスクトップCPU中のCore 2の出荷比率は20%台前半だった。現在の計画ではそれが20%台中盤。若干増えたものの、Pentiumが占めていた部分をCore 2に一気に置き換えるという勢いではない。 Core 2への移行を早めるのなら、それだけCore 2を多く出荷しなければならない。そうなっていない以上、Core 2への転換は価格&マーケティング上の戦略ということになる。 ●ブランド切り替えを使ってCPUの価格競争力を高める つまり、IntelはCPUの出荷個数では、年内はPentiumブランドが依然として多数派とする。なのに、価格だけは大きく引き下げる。ほぼ同じ出荷数でCPUの価格は下がるから、当然、CPUの平均販売価格(ASP)は落ちる。だが、その分、AMDに対する価格競争力は増すというわけだ。 Intelは、CPUブランド切り替えを利用して、市場シェアの回復を図ろうとしているとも言える。まだPentiumブランドの高級イメージが残っている間に、Pentiumブランドをバリューに持ち込むことで市場シェアの拡大を目指す。Pentiumブランドは高級感が薄れてしまうが、元の位置に復帰させる予定はないから一応は問題ない。 一方、上位ブランドについては、Core 2へとユーザーを誘うことで保つ。CPUのASPを引き下げてしまうと、回復は難しいが、Core 2ならそれも可能と考えているのかもしれない。そのためには、IntelはCore 2ブランドとCore Microarchitectureの優位性を、これまでのCPU以上に宣伝しなければならないだろう。 Intelがそこまでアグレッシブにするのは、対AMD戦がそれだけ厳しい状況にあるからだ。Intelが市場シェアを落とした主因は、Intel側の供給能力(特にチップセット)の問題にあったわけだが、AMD CPUが競争力を強めているのも事実だ。 しかも、AMDは製造キャパシティを増強しつつあり、供給能力の不足からAMDがシェアを一定以上伸ばすことができないという枷が外れつつある。これまで、AMDは1カ所のFabだけでCPUを製造してきたため、製造能力的に20%以上の市場シェアを握ることができなかった。ところが、製造能力の強化によって、Intelの市場優位を脅かすライバルに育ちつつある。Intelが危機感を募らせているのは確かで、そのための価格&ブランド戦略だと考えることができる。 ちなみに、こうしたアグレッシブな価格&ブランド戦略はデスクトップだけのものだ。IntelモバイルCPUは、もっと穏当な移行をする。
□関連記事 (2006年5月31日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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