元麻布春男の週刊PCホットライン

着実に完成度を高めるもう1つの「Windows on Mac」




●Windows Vistaの3D Flipよりハデな演出

【動画】なめらかな切り替え動作(13MB)

 Intel Macに対応した米Parallelsの仮想化ソフトウェアで、WindowsをはじめとするPC用OSを動作させる「Parallels Workstation 2.1 for Mac OS X」のβ3をこのコラムで取り上げたのは1カ月ほど前のことだ。その後も新しいβのリリースは続いており、4月18日にβ4、4月26日にβ5、そして4月29日には現時点での最新版であるβ6がリリースされた。ほぼ1週間ごとのβリリースがβ6で急に短縮され、それから2週間あまり静かになっている。それまでのβリリースと異なり、β6では大幅な機能の追加はなく、バグフィックスが中心となっていることから考えても、最終版のリリースは近いようだ。そこで、ここではβ3からの改善点を中心にまとめておこうと思う。

 β3時点においても「Parallels Workstation 2.1 for Mac OS X」は、かなり使える印象だったが、β6は当然それより良くなっており、β3時点では用意されていても動かなかった機能も、ちゃんとサポートされるようになった。たとえば以前からボタンだけは用意されていたフルスクリーンモードも、β4から使えるようになっている。

 後述のベンチマークテストの結果を見ても分かるように、フルスクリーンモードにしても、性能面でのメリットはほとんどない。広い画面をフルに使ってWindowsアプリケーションを利用できる、ということがメリットの中心となる。ただ、MacBook Proのようにデュアルディスプレイをサポートしたシステムであれば、内蔵ディスプレイはMac OS X、外部セカンダリディスプレイをフルスクリーンモードのWindowsという設定にすると、あたかも2台のPCを使っているような気分になれるようだ(残念ながら筆者が使っているのはデュアルディスプレイをサポートしないMac mini)。

 もう1つのメリット、というより見所は、切り替え動作そのものだろうか。初めて見た時はちょっと感動した。Windows Vistaの3D Flipよりよほどハデだ。デジカメのムービーで収録してみたので、環境がある人は見てみて欲しい。

●USB 1.1をサポート。共有フォルダでより便利に

β5から追加されたUSB機能。USBメモリがリムーバブルディスクとして認識された

 もっと実用的な改良という点では、β5で実現した音の遅延解消、USBサポート、共有フォルダ機能の追加、というあたりを挙げておきたい。サウンドのサポートはβ3から開始されたものの、音が遅延するという問題があった。インターネットビデオを見ても、処理が間に合わず絵がフレーム落ちするのではなく、絵が表示されてそれに遅れて音が出るため、ちょっと気持ちが悪かった。β5のリリースで、この問題はほぼ解消し、処理が間に合わない時も音は途切れたり、遅れたりせず、ちゃんとフレーム落ちするようになっている。

 ちなみに、Mobility Radeon X1600を搭載したiMacでも短期間使ったことがあるのだが、チップセット内蔵グラフィックスのMac miniより若干フレーム落ちが少ないように感じた。グラフィックスアクセラレータの効果というより、ディスプレイメモリが共有ではなく専用であることのメリットかもしれない。

 USBのサポートは、待望されていた機能の1つ。残念ながらサポートはUSB 1.1どまりだが、ないよりは全然良い。筆者はUSBメモリで動作を確認しただけだが、Parallelsによると、β6からはPDAやスキャナといったマスストレージクラス以外のデバイスもかなり動くようになっているという。あとは、もう少し認識が速くなってくれると良いのだが。


共有フォルダ機能を利用するには、Configuration Editorで、共有したいホストOS側のフォルダを指定する

 USBのサポートが欲しかった理由の1つは、データの共有や持ち運びにあったのだが、これについては共有フォルダがサポートされたことで、ずいぶんと楽になった。ファイルシステムの実態があるBootCamp(ネイティブ動作)と異なり、仮想マシンのファイルシステムはあくまでも仮想的なものであり、ホストOS(Mac OS)側からアクセスすることはできない。共有フォルダ機能は、Mac OSのファイルシステム上のフォルダを、仮想マシンからネットワークドライブとしてアクセスできるようにするもの。仮想マシンに対して「Parallels Tool Center」と呼ばれるユーティリティ集をインストールすると、共有フォルダのアイコンがデスクトップに追加される。後は通常のネットワークドライブと同様に利用可能だ。ただし、ファイル名、フォルダ名については、通常のMacとWindows間のデータ共有の例に漏れず、ダブルバイト文字の制約が生じるので、その点に注意が必要となる。

 この共有フォルダ機能のサポートに限らず、標準添付オプションであるParallels Tools Centerは非常に有用だ。特に、Mac OS XとWindows XP間でシームレスにマウスを行き来できる「Mouse Synchronization」を使うと、利用しているのが仮想環境であることを忘れそうなくらいだ(ちょっとオーバー)。このMouse Synchronizationを利用するには、Windows XPの標準SVGAドライバに代わり、Parallelsが用意したディスプレイドライバ(Parallels Tools Center上ではVideo Driverと表記されているもの)を用いる必要がある。言い換えると、このツール集はゲストOSに依存しており、すべてのゲストOSで利用できるわけではない。それがオプション扱いになっている最大の理由だろう。クリップボードの共有などほかの追加機能もすべて有用なものばかりで、ゲストOSがWindows XPであれば、利用しない理由は何もない。

Tools Centerをインストールすると、共有フォルダがゲストOS(Windows XP)のデスクトップにアイコンとして登録される。アイコンをダブルクリックすれば、ネットワークドライブと同じように共有フォルダが利用できるが、ダブルバイトのファイル名やフォルダ名は文字化けする(ウィンドウ右上のアイコン)ので注意 VMメニューからインストールするParallels Tools CenterはゲストOSにWindows XPを利用するユーザーには必須。いずれも利用価値の高いものばかり

●ネイティブの半分程度の処理性能。グラフィックがボトルネック

 これだけ利用価値が高いと、仮想環境の性能も気になってくる。β6まできて、リリースも近いと思われることから、簡単なベンチマークテストを実施してみることにした(仮想環境の場合、Direct3Dのアクセラレーション等が利用できないため、文字通り「シンプルな」ベンチマークテストしか実施できない)。というわけで、実施したのはHDD Bench。一応ウィンドウモードとフルスクリーンモード、さらにVT-x(Intelの仮想化技術)の有効と無効でもベンチマークテストを行なってみた。

VT-xを有効にした設定(ベンチマーク時) VT-xを無効にした設定(ベンチマーク時)

■ベンチマーク結果
システムBootCampParallels Workstation 2.1 β6
ウィンドウサイズフルスクリーン(1,600x1,200)ウィンドウ(1,024x768)ウィンドウ(1,024x768)フルスクリーン(1,600x1,200)フルスクリーン(1,600x1,200)
VT-xの有無-ありなしありなし
CPUALL59,45329,68015,75930,20815,770
Integer242,083119,8602,244120,2382,259
Float160,14779,0021,80579,5211,799
MemoryRead111,51255,34053,90855,39253,805
Write94,46356,36554,93156,57054,931
Read&Write185,166108,532105,460108,715105,786
GraphicsRectangle160,00021,1741,29917,396952
Text17,11919,94697715,757754
Ellipse6,6009,2735169,115357
BitBit87134594123
DirectDraw59346196
HDDRead23,65415,67919,81418,03120,201
Write24,27111,88919,40115,60714,859
Randam Read11,35711,2977,24611,7379,756
Randam Write11,2975,5085,0125,9176,974

 その結果だが、ウィンドウモードとフルスクリーンモードで、差がほとんどないのは冒頭でも述べた通り。Core Duoの仮想化技術VT-xの効果は劇的で、VT-xを無効にしていると、仮想マシンの起動にも時間がかかり、ほとんど実用性がなくなるほどだ。VT-xを有効にしていると、仮想マシンの処理性能は、ネイティブ環境の半分程度は期待できる。これは驚異的なことだ。

 一方、性能面でのボトルネックは、グラフィックスにある。これはベンチマークの数字だけでなく、体感上も実感できる。仮想環境からグラフィックスアクセラレータの機能が使えないことを考えればやむを得ないのだが、逆に言えばクライアント環境における仮想化技術の次の課題が見えた、という気もする。

 この問題を解消するには、ホストOS側のディスプレイドライバとゲストOS側のディスプレイドライバが連携する必要がある。その上で、その連携をアクセラレートする機能がGPUに求められるだろう。VMM(仮想マシンマネージャ)に対して、この連携の標準インターフェイスが定義されれば、VMMベンダも対応がしやすくなるのではないだろうか。

●さっそくオーダー。製品版に期待

 というわけでβ6まできたParallels Workstation 2.1 for Mac OS Xだが、もちろん全く問題がないわけではない。たとえば仮想環境に対するCD-ROM/DVD-ROMドライブの接続(Connect)が時々おかしかったりすることもあるが、メニューからConnect/Disconnectを明示的に指定することでうまくいくこともあるし、最悪仮想マシンを起動し直せば、たいてい問題は解消する。決して致命的な問題ではない。

 また、OS添付の「ことえり」を除くと現状で唯一、ユニバーサルバイナリとして提供されている日本語入力環境である「egbridge Universal」を利用している場合、仮想環境でのキーストローク(ファンクションキー)が、ゲストOSではなくegbridgeにとられてしまう、という問題も見られる。たとえば、仮想環境の中でF6~F8キーを押しているのに、突然ホストOS上でegbridgeのパレットが開いてしまう、という現象だ。

 ただ、ひょっとするとこれはMac OS XのExpose(アプリケーションウィンドウの並び替え等を行なうことで、目的のウィンドウを見つけやすくする機能。F9~F11を利用)やDashboard(ウィジェットと呼ばれる小アプリを通常のデスクトップにオーバーレイする機能。F12で呼び出す)を、仮想マシン利用時も常に使用できるように、Parallels Workstation側がファンクションキーに関して特別な扱いをしていることが影響しているのかもしれない。とりあえず日本語入力を標準の「ことえり」にしておけば、突然パレットが開くという問題は生じないし、Mouse Synchronizationを使っていればマウスシームレス操作でパレットをオフにもできる。運用で回避可能だろう。

 幸運にも筆者は、タイミング良く巡り会うことができたおかげで、β1からParallels Workstationの成長を見届けることができた。ドキュメント等を読まなくても、新しいβ版をインストールするたびに良くなっていることが実感できるというのは、久しぶりの経験である。プラットフォームがIntel Macに限定される(対応するハードウェアが限定される)ということが開発の負担を軽減していることは間違いないが、それでもこれだけ目に見えて良くなっていくと、こちらも楽しい。現在はプレオーダー期間中だが、早速オーダーしてしまった。製品版のリリースが待たれるところだ。

□関連記事
【4月17日】【元麻布】Windowsが使えるもう1つのMac環境「Parallels Workstation」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0417/hot419.htm
【4月10日】【元麻布】Boot Campを公開したAppleの思惑
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0410/hot418.htm

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(2006年5月18日)

[Reported by 元麻布春男]


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