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IDFプレスプレビューレポート
モバイルコンピューティングの基盤技術への取り組み

会期:3月7日~9日(現地時間)

会場:米San Francisco
   Moscone Center West



 本日より米サンフランシスコでIntel Developers Forum Sprng 2006が始まる。今回のIDFは、今後数年のIntel製プロセッサを支える基盤となるMeromコアのアーキテクチャが紹介され、省電力アーキテクチャのディテールおよび、マルチコアへと進む必要性など、今後のIntel製プロセッサの方向性がハッキリと示される興味深いイベントとなりそうだ。

 ここ数年のIDFは、Intel自身のロードマップの狂いを修正するため、ややメッセージ性が弱く、製品そのものも中途半端に停滞していた感があるが、年内に予定されている新Intel Coreのローンチと同期して、プロセッサアーキテクチャだけでなく、ソフトウェア開発やシステムアーキテクチャなども含めた、パーソナルコンピュータ全体の方向性に舵をつけていく。

 その中で、イベント前日に行なわれたプレス向けプレビューイベントの中から、ここではモバイルコンピューティングの基盤整備に対する取り組みについて取り上げてみたい。

●モバイルコンピューティング基盤の整備を急ぐIntel

 Centrinoブランドの立ち上げに成功したIntelは、それまで一部のユーザーしか興味を持っていなかった“コンピュータを持ち歩いて利用する”というトレンドを、世界中で生み出すことに成功した。

 単に高性能で電力効率の良いプロセッサを提供するだけでなく、無線LAN機能を組み合わせ、システムデザインや無線ユーティリティにまで深く入り込み、力のあるベンダーはもちろん、戦略性や開発力の低いベンダーの製品まで、モバイルコンピュータとしてのレベルを底上げすることで得られた成功だ。加えて無線LANアクセスポイントの充実や、広告などによるブランドマーケティングへの多大な投資なども合わせる事で、その成功は非常に大きなものになっている。

 つまりCentrinoは技術的要素とマーケティング戦略の融合により成り立ってきた。Centrinoは技術的な中身がなければ成り立たない。

 すなわち、Centrinoが次のステップへと進むには、やはり“次の世代”を支える技術要素が必要になるわけだ。プロセッサアーキテクチャの面では、すでに出荷されている現行のInte Core Duoがあり、さらに今年終わりには次世代のIntel Coreを用いるMeromがある。だが、パフォーマンスが上がるだけでは、コンピュータの使われ方を変化させるには至らない。

 そこでIntelは、継続的にモバイルコンピューティングをより便利に、快適に使える技術基盤の構築、各種要素技術の開発や標準化のイニシアティブを執っている。

 Intelシニアフェローのケビン・カーン(Kevin Kahn)氏は、未来のモバイル環境を創り出すため、6つの要素が必要だと話した。

・どんな通信デバイス、経路からでも望む手法でネットワークにアクセスできること
・いつでもネットワークにアクセスできること
・どこでもネットワークにアクセスできること
・簡単にネットワークにアクセスできること
・十分に信頼性のある(ユーザーがトラブルに遭遇しない)システムであること
・十分な安全性が確保されたセキュアなシステムであること

 いずれも決して新味のあるテーマではない。しかし、これらのニーズを把握した上で

・ユーザーのニーズや行動を科学的に分析する
・モバイル関連の技術やデバイスの改善を行なう
・ネットワーク技術を改善する
・世界中での電波帯域の利用方針や法令に関して、互換性を執るべくイニシアティブを展開する

などの事に取り組んでいるという。

 たとえばモバイルデバイスの進化では、エネルギー効率のいいプラットフォームの構築、CMOSベースの無線通信デバイス、より良いアンテナの研究、ローパワーの無線通信デバイス、MIMO技術などに技術開発を行ない、PC業界へとフィードバックしている。

 またネットワーク環境改善の面では、通信距離、範囲の拡大、ローミング処理の簡素化、帯域の拡大、セキュリティ強化、シームレスアクセスなど。もちろん、IEEE 802.16e、802.21、802.11n、ワイヤレスUSBに取り組んでいる。

 これらはあくまでも例だが、その中から今回のIDFでは次の3テーマについて、その成果を披露する。

無線技術のトレンド

●通信効率向上のアプローチ

 まず通信効率を向上させる技術“Slicing By Eight(SB8)”について話した。これはネットワーク通信におけるスループットの上昇を妨げる要因として、CRCの将来的な限界を避けるために開発しているアルゴリズムだ。SB8は現行CRCが利用しているSarwateアルゴリズムに対して、最大で3倍ものパフォーマンス向上があるという。

 処理単位も8bitから64bitへと改められ、CRC生成に必要なプロセッサのクロックサイクルはSB8の1byteあたり2.2クロックに対して、Sarwateは7クロックが必要。わずかな差も広帯域ネットワークの中で、大量のデータ転送が発生する場合には大きな差となる。例としてiSCSIでの転送レートなどにおいて、その違いは顕著という実験結果を示した。

SB8の説明とiSCSIにおけるスループット比較

 またIntelはIDF期間中、シームレスアクセスのシステムをデモンストレーションする。シームレスアクセスとは、複数のスタンダード、複数の企業グループ、複数のビジネスモデルの中で、分断されているネットワークへのアクセス手法を統合し、それらがあたかもシームレスにつながっているように見せるテクニックだ。

 ただし、一朝一夕にシームレスアクセス環境を構築できるわけではない。そこで手始めとして、異なるネットワークアーキテクチャ間のシームレスなローミングアクセスから、普及をはかる。最初にサポートされるのは無線LANと3G携帯電話ネットワーク間のシームレスローミングだ。Intelは過去5年間、この問題に取り組みトライアルテストや業界での認知を広げるための活動を続けてきたという。

 しかし時間を経て、やっとシームレスローミングのサービスを商用サービスとして展開する時期に来た。すでにシンガポール、ストックホルム、ジェノバ、ロンドンなどの都市で、年内にもサービスが始まる。さらにこの実装を今後はWiMAXへと広げていく予定だ。

 このシステムはIDF期間中、会場内、近隣ホテルのホットスポット、Intel本社、iPass、Boingoを結んでデモンストレーションし、来場者自身が体験できるようになっている。追ってその詳細をお届けしたい。

ローミングアクセスのデモ環境

 3つ目は無線通信チップの進化だ。今日、デバイスによってWANが入っていたり、あるいはLANが入っていたりする。携帯電話ならWAN、PCならLANだ。しかし、将来はあらゆる通信デバイスが、WANとLANの両方をひとつのCMOSチップで搭載し、時と場所によって自動的に切り替えながら最適な経路でネットワークにアクセスするようになる。

 そうしたビジョンを実現するための過程で開発したのが、CMOS技術で作ったMIMOシステム内蔵の無線LANトランシーバだ。2×2構成のMIMOで、追加の周波数帯なしに従来の2倍、108Mbpsの通信速度を実現している。技術的な開発のポイントとしては、1チップに収めた場合のクロストークの抑制が鍵になるとの事だ。

 製造は90nmのCMOSプロセスで、すでにデモチップが稼働中。MIMOシステムを組み込む際の実装サイズ、コストを下げ、パフォーマンスを向上。将来的にLAN、WANを統合したマルチラジオシステムへと発展する布石となる。こちらもIDFのショーケース会場でのデモが行なわれる。

 これらの技術は2~3年、あるいは5年程度のタイムフレームで、PCや携帯電話、あるいはその周辺のデジタルデバイスへと拡げていく。

新CMOSラジオチップの説明

□IDF Spring 2006のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spring2006/

(2006年3月8日)

[Reported by 本田雅一]

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