●IT業界を去って5年目の講演
成毛氏はインスパイアを設立した際、「IT業界とは仕事をしない」と明言。IT以外の産業向けのコンサルティングや投資事業を展開してきた。
また、IT業界に対して、「オールドエコノミーに近い体質となってきた」と厳しい意見を寄せていた。それだけに講演では、どれだけ厳しい意見が飛び出すのかに注目が集まり、講演の会場は満席に近い盛況ぶりを見せた。 ●サーチの次の主導権は見えない 成毛氏は、IT業界の権力の変遷として、主導権を握るベンダーが「ハードウェア(メインフレーム)→OS→アプリケーション→サービス→インフラ→WEB→サーチ」と変化していると説明。 その上で、「ちょうど私がIT業界を去った頃は、Yahoo! BBなどインフラを提供するベンダーが台頭してきた。しかし、その後すぐに主導権はブログなどのWebに移り、さらにGoogleなど検索サービスに移行した。ハードウェアやOSの時代に比べ、権力の移行のスピードが速くなる傾向が如実に出ている」と指摘した。 さらに、「検索の次に権力を握るものは何になるのかという議論は、自分の周囲でも行なっているが、次は何かはわからないというのが実情。もしかすると、次に権力を握るベンダーというのは存在しない可能性すらある」とこれまでのIT産業のヒエラルキー構造が大きく変化する時期を迎えていることを示唆した。 このように検索サービスが強い勢力をもっていることを認めながらも、私見として、「検索が優位といいながら、日本でGoogleが残っていくのかには疑問をもっている。理由は15年前のマイクロソフトの製品同様、出来がよくないから。タダで配布しているから、文句が出ていないのではないか」と手厳しい意見も飛び出した。 ●IT業界は自動車産業になった
IT業界の構造が大きく変化することで、「構造的には数社のベンダーしか残っていない自動車産業とIT産業の構造は完全に近くなった」というのが成毛氏の見方である。 自動車産業型モデルとなっていることは、利用者層の拡大にも表われているという。 「高所得層は観光や遊びに行くことができるのに対し、お金がない低所得者層ほどインターネットを利用する時間が長くなる傾向が出てきている。実際に年収300万円以下のフリーターでも月額300円、100円の携帯電話のサービスは利用している。こうして低所得者層のインターネット利用が増えれば増えるほど、(低価格で機器などを提供できる)大手ベンダーに権力が集中していく傾向が強まる。今後のIT産業は全体の動向というよりも、局所的に調子のよいベンダーはやたら調子がいいという傾向が表われてくる」 ITベンダーに対しては、「この段階では競争に勝つ以上に生き残ることが重要。私が現在、IT産業を経営しているとすれば、財務内容の健全化や若くてやる気のある社員だけに切り替えるといった生き残りのために経営資源を集中する」と提言した。 また、新たに登場する新しいITビジネスとしては、次のようなものを提案した。 ・Googleが無料で提供するサービス上にさらに別なサービスを載せて提供するなど、既存のものに加えて新しいサービス等を提供する「マッシュアップ」。 ・プロモーションの際に大々的な広告媒体を利用するのではなく、ブログやメールマガジンなど消費者自身が情報発信を行なうメディア「CGM」を活用してのプロモーション。 ・自動車メーカーの大手などが、自社の工場でどんなものを導入して生産をしているのかを一切明かさないのと同様に、「DWH(データウェアハウス)+エンジン」の活用もメーカーの製品をそのまま利用することが少なくなる。 ・「WiFi、WiMax」などがとうとう本格的に定着する。 ●ITがなければ生き残れない ITベンダーが活用すべきマーケティング方法として、次の4つを提案した。
(1)ネットワーク外部性による囲い込みと付加価値 (1)については、「ベータマックスとVHSの戦いは製品そのものではなく、その周辺にあるものが多い、少ないという点で勝敗が決まった。IT業界はこのネットワーク外部性という点をよく理解しているようで、うまく活用していない。マイクロソフトにしても、一太郎にも、1-2-3にもWindows版のソフトが欲しいと思っていた。ソフトの数が多い方がアップルよりも優位な立場に立てるからだ」と言及。日本でMicrosoft Officeの普及を進めた成毛氏だが、他社ソフトのWindows化も重視していたことを伺わせた。 (3)については、「以前は大企業はディシジョン(意志決定)が遅いというのが定番だったが、今やそれが大きく変わってきている。インスパイアでも大手電機メーカーのH社に対してコンサルティングを行なう際、『明日からお願いします』と言われてしまうので、対応が間に合わないほど。システムインテグレーションのためのコンサルティングを行なうにしても、産業別に得意分野をもつ数社が連合して対応するといったことをしないと、スピードアップについていけなくなる」と説明した。 成毛氏の現在の事業であるインスパイアについては、ハードウェアコンポーネント、デジタルテレビの投資ファンドを準備しているという。 また、インスパイアの業務はIT産業そのものではないものの、「投資していけばしていくほど、最後には必ずITが出てくる。IT業界を卒業してから5年たって、『ITがなくても生きていける』と思っていた。ところが、こうして業務を行なっていけばいくほどITは不可欠。マイクロソフト時代に、“ITがなくては生き残れない”という広告も出していたが当時はそれを信じていなかった。だが、今になってみるとああ広告の通りだと思わざるを得ない。IT業界の卒業生でさえ、ITを無視して生きていくことはできない時代になった」とITが不可欠であるとの認識を強調した。
□JPSAのホームページ (2006年1月12日) [Reported by 三浦優子]
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