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白昼の四角




 コンテンツのマルチメディア展開は、1つのコンテンツが稼ぎだすセールスを引き上げることができる。小説なら、雑誌掲載が単行本になり、それが文庫になるほか、コミックの原作となって雑誌連載、単行本が売れ、映画になれば、映画館での公開後、DVDになり、TVで放送され、さらに、そのイメージソングがヒットすればCDが売れ、ノベライズ小説になるような連鎖も起こる。その連鎖の中で、犠牲になっている文化もあることを認識しよう。

●コンテンツを売るためのビジネスモデル

 もはや、コンテンツホルダーはコンテンツを作るにあたり1種類のメディアだけで採算をとろうとは思っていない。映画であれば、かさむ制作費を映画館での興行収入だけでは回収できるはずもなく、DVDやTV放映権を皮算用しておかなければ、現実味のあるビジネスが成立しないのだ。

 フィクションやノンフィクションとして制作されるコンテンツであればこれは想定内のビジネスとして成立するが、ほぼリアルタイムで供給しなければならないコンテンツ、たとえば、オリンピックやワールドカップなどのスポーツ中継ではそうはいかない。この分野は今、TVの独擅場といってもいいが、メディアの融合によって、その独擅場は多少脅かされつつある。

 だが、このトレンドは急速には進まないだろう。というのも、こうした人気イベントは、TVが独占して中継することとの引き替えに巨額の放映権料を得ているからだ。独占という点がミソである。大会運営費用などを捻出し、イベントを安心して運営するためには、TV局から支払われる巨額の独占放映権料は頼りになる。もし、彼らが別のメディアにも優先放映権を与えてしまったら、TV局は今ほど多額の放映権料を支払わなくなるだろう。また、TVが別のメディアにも映像を提供すれば、そのスポンサーも黙ってはいない。その結果、自分で自分の首を絞めるような結果を招いてしまう。

 受け手側としてはTVではなく、ネットワーク配信でもこうした人気イベントを楽しめるようになってほしいのだが、その傾向が顕著になってしまうと、今はTVで無料で楽しめるスポーツが、インターネットで有料でしか楽しめなくなったり、あるいは、トータルの放映権料が安くなってしまい、あげくのはてには、そのイベントの存続にさえ影響していく可能性も出てくる。スポンサーも巨額の制作費を負担するのを拒むようになれば、番組そのものの質にも影響を与えるだろう。だからこそ、スポーツイベントのマルチメディア展開は微妙に諸刃の剣だともいえる点が悩ましい。

 映画やTVドラマなどのコンテンツは、こうした点をあまり気にする必要はない。けれども、中にはTVでは絶対に放送してほしくないという映画監督もいるだろうし、ドラマの映画化にあたってタレントのスケジュールなどでキャスティングが変更せざるを得ないなど、プロデューサーの思惑通りには制作ができないこともあるだろう。こんな具合に、コンテンツビジネスには、これから解決しなければならない問題が山積みだ。

●四角いモノを丸く見る

 その一方で、コンテンツを作るクリエイターは、こうしたビジネスの展開をどのように考えているのだろうか。たとえば、深夜番組を作っている人たちは、録画したものを昼間に見てほしくないと思っているかもしれないし、生放送に命がけのスタッフは、録画すらしてほしくないと思っているかもしれない。民放である限り、コマーシャルによる番組の分断は回避することはできないが、作り手としてはどう感じているのだろうか。ひょっとしたら、ぼくが頭の中で考えるほどには深く考えていないかもしれない。

 ささいなことかもしれないけれど、最近気になるのは、HDとSDの画角の違いだ。とにかく16:9と4:3では、その画角が違いすぎる。両方で満足のいく映像演出は不可能だとも思うが、今は、それが強引にまかりとおらされている。

 HDにあわせた映像は4:3では両端が切れるし、SDにあわせた映像を16:9で見ると無駄に余分なものが写っているだけになる。結局は、どちらにも中途半端な映像しか提供できないのに、デジタルとアナログでそれをやっているのが今の地上波だ。最近のTV番組を見ていると、カメラのアングルをはじめ、アップやルーズのショットに、何か違和感を感じることはないだろうか。アナログ放送で右肩にチラッとインサートされるハイビジョン制作のテロップは決して免罪符にはならない。

 そもそも16:9の画角に、従来の4:3画角で培われてきた演出技法は通用しないように思う。背景の処理の仕方やバストアップ時の人物位置など、構図はドラスティックに変わるはずだ。これは、ドラマのような番組に限らず、ニュース映像などでも同じはずだ。今までは見えなかったものが視界に入るようになり、そこをどう処理するかを考える必要もある。

 背景がうるさければ、被写界深度を調整したボケを得たいと思うかもしれない。ビデオカメラのCCDのサイズでは、意図した浅い被写界深度が得られないとすれば、デジタルフィルタなどを使った別の手法を考える必要もあるだろう。何もかもが違うのに、両方が納得する絵を作り続けなければならない制作者はちょっと気の毒だ。

 2011年には地上波アナログ放送の停波が控えているが、デジタルへの移行を促進するためにも、極端な話、現在の地上波は、できるだけ早い時期に上下に黒帯を持つ16:9放送に変えてしまうことを考えていいんじゃないだろうか。

 口で言うのは簡単だが、これは、かなり難しい変革だ。というのも、放送番組のみならず、CMも16:9で作らなければならないからだ。16:9画面に4:3画面を映したときには、左右が切れるだけで、サイズはともかく、CMの情報量は失われない。うちのワイドTVはずっとこの状態で4:3番組を映し出している。

 一方、上下に黒帯の入る16:9番組を見るときには、TVのズーム機能を使って画面一杯に番組を映し出す。自動的には切り替わらないので、リモコンでの手動操作が必要だ。もちろん、ズームなので、画質も落ちる。

 そして、この状態で、4:3のCMが挿入されると、CMの上下が切れてしまい、その情報量が失われてしまう。これではスポンサーは納得しない。だから、すべてを16:9にしてしまうという極端な方法しかないのだ。

 4:3番組の再放送はどうするのかといった問題もあるだろうが、現状の4:3画面に気を遣いつつ16:9への移行をもくろむ現在の制作体制を続けていては、ワイド画角の文化が育たない。今でも、食堂などに置かれたワイドTVで、4:3番組が不自然に横長に引き延ばされてフルスクリーンで映されているのを見ると、ちょっとガッカリする。こういうのを見続けていると、幼い子どもの視覚にまで影響を与えそうな気がする。

 そんなことを将来問題にするよりは、今やるべきなのだ。映像を載せない部分があるため、ある意味で電波の無駄遣いともいえるが、今後は4:3のTV受像機は消えていく運命にあるのだろうから、早いうちに息の根は止めておいたほうがいい。泣いても笑ってもあと6年なのだから。

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【9月30日】10月22日からアナログテレビに「2011年放送終了」シール (AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050930/soumu.htm

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(2005年12月22日)

[Reported by 山田祥平]


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