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技術で集客! アキバ・ロボット文化祭2005開催
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会期:11月26日~27日
26日と27日の週末、秋葉原・ダイビルにて「アキバ・ロボット文化祭」が開催された。ロボットのデモ展示、販売、ロボット製作教室のほか、ロボット研究者やSF作家、アニメ監督でデザイナーの河森正治氏らによるセミナーが開かれ、大勢の来場者でにぎわった。
秋葉原先端技術テーマパークのイベントポスター。12月には「アキバ理科室2005」が開催される予定 |
平成17年度経済産業省の委託事業の1つ「秋葉原産業集客事業」の一環として催されたもので、主催は特定非営利活動法人 産学連携推進機構を代表団体とする「秋葉原先端技術テーマパーク推進コンソーシアム」。
秋葉原産業集客事業、秋葉原先端技術テーマパークとは、「技術」を資源として秋葉原を産業観光地化して活性化することを狙った事業である。NPO産学連携推進機構のほか、秋葉原電気街振興会、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社JTB、株式会社日立製作所が参画している。
「アキバ・ロボット文化祭」はそのなかの「エデュケーション・サービス事業」の1つ。エデュケーション・サービスとは、同推進コンソーシアムによれば「科学技術をテーマにした体験教育(ハンズオンラボ)と実演販売(デモンストレーションショップ)を主体にしたライブな場=常設の『先端技術体験教育・実演販売館』を提供する」ことを目指したもの。普通の教育イベントと違って、販売まで結びつけているところがこの事業の特徴である。
●ブース展示/販売
まず「ロボットワンダーマーケット(バザール)」として行なわれた各ブースの様子を写真でご紹介する。テーマの1つに「買う」がついているように、実際に多くのロボットが販売されていた。
三菱重工業は「wakamaru」を展示。本誌で既報のとおり、wakamaruは9月16日から東京都23区内限定、限定100台で販売された。10月でいったん販売予約を締め切ったが、現在は、第2次募集という形で販売受付を継続している。これまで申し込みがあったのは数十台で、購入者には会社社長など富裕層が多いという。
そのほか、秋葉原にあるロボットショップ「ツクモ・ロボット王国」、ヴィストンや近藤科学、ZMPなどロボットベンチャー各社が出展。デモンストレーションと販売を行なっていた。
ラオックス アソビットゲームシティ・ブースでは、ハイテックマルチプレックスジャパンの二足歩行ロボットキット「ROBONOVA-1」がデモ。価格は98,000円 | ロボットアニメの超合金やプラモデルなどの即売も行なわれていた |
●セミナー
セミナーは両日合わせて5つ行なわれた。まず最初は「ロボット開発セミナー」。三菱重工業のホームロボット「wakamaru」、あざらしロボットの「パロ」、テムザックの留守番ロボット「ロボリア」について、それぞれ開発の経緯や現状がレポートされた。
ロボットを実際に販売してみると、事前のマーケティング調査と反する結果や読み切れない反応が顧客から出ることが多いという。いずれもこれから市場を拓いていかなければならないプレイヤーならではの苦労が多く、ロボットのビジネスモデルについてもまだまだ磨くべき点が多いようだ。
会場からは安全性と、盗難に対する対策に関する質問が寄せられた。たとえばwakamaruはメールなど個人情報を預かるのでロボット内部には情報は蓄えないようにしているという。
産総研の技術移転で開発されたパロを抱く知能システムの石井久佳氏。現在のパロは第8世代目 | テムザックの石川真理子氏。ロボリアは「番竜」のコブの部分を取り出してコストダウンを図ったものだと語る | 三菱重工業株式会社の塩谷成敏氏 |
2つ目はSF作家3名によるパネルディスカッション。登壇者は小川一水氏、林譲治氏、藤崎慎吾氏の3名で、司会進行は早川書房「SFマガジン」編集長の塩澤快浩氏。
ロボットを意識したきっかけの話から始まり、ロボットはSFの中ではメジャーな存在であるものの、小説として正面切ってロボットを取り上げた作品が最近あまりないのはなぜかといったジャンルSF内部の問題のほか、人工知能のありかたについてや、たまたま当日、小惑星でのサンプル採取に成功した日本の探査機「はやぶさ」について、海中ロボットの現状、ロボットの認識と人間の認識の違い、そこから派生する人と機械のインターフェイスあるいはコミュニケーションの問題、人間と機械の融合の可能性など、幅広い話題でざっくばらんなトークが行なわれた。
塩澤快浩「SFマガジン」編集長 | 藤崎慎吾氏。作品は『ハイドゥナン』、『クリスタルサイレンス』ほか |
林譲治氏。作品は『ウロボロスの波動』、『ストリンガーの沈黙』ほか『機動戦士ガンダムMSイグルー』などノヴェライズも手がける | 小川一水氏。作品は『第六大陸』、『老ヴォールの惑星』ほか |
初日最後に行われたのは2つ目の「ロボット開発セミナー」。顔ロボットの研究を行なっている明治大学理工学部教授 武野純一氏、日本電気メディア情報研究所・PaPeRo開発担当の藤田義弘氏、AI研究、ロボカップそのほかで著名な公立はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科の松原仁教授の3人が講演した。
武野教授はインターネットから43万語の言葉(英語)を抽出し、そこから連想・感性データベースをつくり、ロボット内部の情報を変化させ、表情として表出させる研究について講演。NECの藤田氏は、愛知万博でのデモの経験そのほかをレポートし、ロボットが人のこころに訴える、愛着をおぼえやすい理由や構造、デザインなど心理的影響に関して研究を進めていると述べた。松原仁教授は、同じく万博で披露した公立はこだて未来大学とNECソフトウェア北海道の共同研究などについて講演した。
それぞれ、人間と機械による新しい相乗効果を生み出すことが最終目標だという。ロボットは今後、人間の代替を経て、補完、そして相乗的な効果を生むものと進んでいくが、そのためには人間あるいはロボットの知能に関する研究をさらに進めることが必須だという。
明治大学理工学部教授の武野純一氏 | 武野純一教授が作った顔ロボット |
日本電気メディア情報研究所・PaPeRo開発担当 藤田義弘氏 | 公立はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科 松原仁教授 |
2日目は、アニメーション監督でデザイナーでもある河森正治氏を迎え、2つの「ロボットデザインセミナー」が行なわれた。
第一部は河森正治氏と、「生体信号駆動型ロボットスーツHAL」の研究で知られる筑波大学大学院システム情報工学研究科 山海嘉之教授のトークセッション。河森正治氏は近作では「創聖のアクエリオン」などで知られるアニメーション監督。山海嘉之教授はSFやアニメのファンでもあり、アクエリオンも見ていたという。山海教授はアクエリオンの主題歌をかけてHALの開発ダイジェストを写真で流すなど、秋葉原の客層を存分に把握した演出を凝らし、さらに観客を巻き込んだ実機のデモも交えながらHALのメカニズムや思想について巧みに解説。会場は笑いと拍手に包まれた。
河森正治氏はAIBOのスタイリングも手がけたことがあり、そのときの経験を述べた。また'60年代の外骨格研究の写真などを紹介し、それらがロボットアニメーションのデザイナーたちに与えた影響や、現在の人間の脳や身体運動制御の仕組みへの興味を語った。会場では河森監督が手がけた作品の映像も一部紹介され、その実現可能性について山海教授がコメントを述べるなど、両者それぞれの領域からのトークが繰り広げられた。
アニメーション監督・デザイナーの河森正治氏 | 筑波大学大学院システム情報工学研究科 山海嘉之教授。HALを実用化させるために、CYBERDYNEも設立している |
HALのデモの様子 | セミナー終了後、一般の前で行なわれたデモでは黒山の人だかり |
第2部は「驚異の変形合体ロボット玩具! ~『DX超合金創聖合体アクエリオン』誕生秘話」と題し、河森正治氏のほか、バンダイ「創聖のアクエリオン」プロデューサー里吉純氏、バンダイボーイズトイ事業部「DX超合金 創聖合体アクエリオン」開発チーム泉勝洋氏によるトークが行なわれた。
「DX超合金創聖合体アクエリオン」とは、3体のマシンが組み合わせを変えることで、それぞれ違う3種類のロボットに変形合体するアニメロボット「アクエリオン」の複雑なギミックを全て実現した玩具。20,790円の高額商品だがビジネスとしても成功しているそうだ。それがアニメ制作と平行してどのように構造デザインされ、スタイリングやカラーリングが決められ、商品化されていったかという話が具体的に披露された。複雑なデザインだが河森監督はレゴブロックでモデルを作り、バンダイにプレゼンを行なったのだという。
ユニークな「ものづくり」の現場トークであると同時に、会場では初披露の資料が多数公開されたり、来年2月下旬に「強攻型アクエリオン」という新しいタイプが発売されることが発表されるなど、ファンには嬉しいイベントとなった。
バンダイ「創聖のアクエリオン」プロデューサー里吉純氏 | バンダイボーイズトイ事業部「DX超合金 創聖合体アクエリオン」開発チーム泉勝洋氏 |
DX超合金創聖合体アクエリオン。「ゲッターロボ」のように3種類のマシンの組み合わせで違うマシンに変形合体するモデル | 番組企画のためにバンダイにプレゼンしたレゴブロックモデルを手に取る河森氏 |
●日本独自の多様なロボットシーンを切り取った「ロボット文化祭」
以上のように、「アキバ・ロボット文化祭」は、多種多様に入り交じるロボットシーンを織り交ぜたイベントとなっていた。
「秋葉原先端技術テーマパーク」の事業・第一回にロボットをテーマに選んだ理由は何か。特定非営利活動法人産学連携推進機構・主任研究員の福原哲哉氏は今回のイベントの趣旨についてこう語る。
「ロボットは総合化技術、要素技術の集成です。だからロボットを取り上げると、色んな人に訴求力がある。我々がやっていきたいことは技術を資源にした集客事業です。アカデミックとは少し違いますが、セミナーを聞いて学んでもらい、デモを見たり工作教室を通じて体験学習してもらう。基礎的なことを学べる場を作りたい」。
国際ロボット展2005が近いこともあり、事務局側はロボット集めに多少苦労したようだが、土日ということもあり来場者は多かった。最近、家族連れが増えたと言われる秋葉原だが、このイベントでも孫と一緒にロボットを見に来たお年寄りや親子連れの姿が目立った。
これまでのロボット展では研究用ロボットが出展されていることが多かったが、今回は、実際に値札をぶら下げた民生用ロボットたちが並んだ点も大きな特徴だ。
民生用ロボットを並べ、ロボットアニメ、ホビーロボットなども取り込むだけでも、十分イベントを催せるだけのボリュームとなり得ることを示した点は大きい。何より「文化祭」と銘打っただけあり、研究だけではない現在のロボットシーン、日本ならではのロボット文化の今を切り取ったユニークなイベントとなっていた。
□アキバ・ロボット文化祭2005のホームページ
http://www.akibatechnopark.jp/project/robot1.html
□秋葉原先端技術テーマパークのホームページ
http://www.akibatechnopark.jp/
□関連記事
【9月16日】三菱重工「wakamaru」プレスプレビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0916/wakamaru.htm
【2001年11月8日】河森正治氏デザインのシャープなロボットを前面に押し出した「AIBO ERS-220」(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20011108/aibo.htm
(2005年11月29日)
[Reported by 森山和道]