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コントローラで勝負する任天堂「Revolution」




●任天堂Revolutionの画期的なコントローラ

 任天堂が、次世代据え置き型ゲーム機(ゲームコンソール)「Revolution」のベールをまた1枚はいだ。先週、幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ(TGS)」のキーノートスピーチで、任天堂の岩田聡氏(代表取締役社長)は、Revolutionの“画期的”なワイヤレスコントローラを発表。合わせて、Revolutionの背景にある戦略・思想を明快に説明した。

 以前から任天堂はRevolutionではコントローラに仕掛けがあることを示唆して来た。実際に、今回発表されたコントローラは、かなり奇抜なデバイスだった。

 形状はTVリモコンライクなスティック型で片手で操作できる。ガンコントローラのようにポインティングするだけでなく、コントローラのねじれや距離も測定できるという3次元コントローラだ。新コントローラを釣り竿にした釣りゲームや、指揮棒にしたオーケストラゲーム、包丁に使う料理ゲーム、歯医者のドリルに見立てた歯医者ゲームまでさまざまなゲームの例が示された。さらに、底部にある拡張コネクタにサブコントローラを接続することもできる。詳しくは、Game Watchでレポートしている。

 しかし、岩田氏のスピーチのポイントは、コントローラ自体よりも、その背景を明確した点にある。Revolutionに、なぜ新奇なコントローラを採用するのか、なぜ過去の任天堂プラットフォームのゲームをRevolutionでプレイできるようにするのか、なぜ他の2社のようにモンスターチップへ向かわないのかも、岩田氏は説明した。

 そうした、戦略の背景が示されると、Revolutionの方向性が見えてくる。任天堂とライバル2社では、当然だが根底の思想と戦略が大きく異なり、ゲームコンソールの方向性もますます乖離しつつある。

●任天堂の現状認識と危機感

 スピーチは、岩田氏が2003年のTGSで行なったキーノートスピーチを振り返るところからスタートした。

ファミコンから20年

 2003年のスピーチで、岩田氏は、ゲーム業界に対する任天堂の現状認識を明確にした。ゲーム業界はファミコンから20年、順調に発達して来た。しかし、今、業界は発展するか衰退するか、岐路に立っているという。今までと同じこと(映像やサウンドを豪華にする)を続けていれば発展すると考えている人は多いが、任天堂はそう考えていない。ゲーム市場を拡大しなければ活路はなく、問題は市場(=ゲーム人口)をどうやって拡大するかにあるという。シンプルに意訳すれば、Xbox 360やPLAYSTATION 3のようなアプローチでは、ゲーム人口を拡大しないから、ゲーム市場は衰退すると言っているわけだ。

 そして、こうした現状認識のもとに、2003年から、任天堂が進めてきたのは次の3つのポイントだという。

(1)ゲームから離れてしまった人を呼び戻す
(2)新たに今までゲームをしていなかった人を呼び込む
(3)ゲーム熟練者もゲーム初心者も楽しめる新しい商品を提案する

●任天堂世代をゲーム市場にバックさせる

(1)ゲームから離れてしまった人を呼び戻す

 まず、これが任天堂と他2社の大きな分岐点のひとつとなっている。他のゲームコンソールベンダーが、新規人口の開拓に最大のポイントを置くのに対して、任天堂は離れてしまったゲーマーの呼び戻しも非常に重視する。これは、ファミコン以来の歴史を持つ任天堂ならではの姿勢だ。

 後ろ向きとも言えるかも知れないが、ゲーム市場の特性を考えればあながち間違いとは言えない。というのは、人は、ゲームから簡単に離れてしまうからだ。

 以前、あるゲーム業界関係者から「1+1=1または0」という法則を聞いたことがある。ゲーマーが結婚すると、相手がゲーマーなら2人で買うゲーム機とゲームディスクが2から1に減る。相手がゲーマーでないと0になるかもしれない。前者の場合も、子どもが産まれると0になる。

 PCと違い、必要品ではないゲーム機の場合、就職した、結婚した、子どもができたというきっかけで離れることが多い。ゲームプレイには、ある程度エネルギーが必要で、ビデオを観るのとは異なり、“ながら”でしにくい。コストもかかる。なので、元はゲーマーであっても、途切れてゲームをやらなくなっている人は珍しくない。

 任天堂の戦略は明快で、そうした人口に対して彼らが以前プレイしていたタイトルやデザインをリバイバルでぶつける。それをトリガーにして、もう一度ゲームに引き戻すというものだ。ファミコンタイトルをゲームボーイアドバンスで復活させた「ファミコンミニ」や、ファミコンコントローラライクなデザインのゲームボーイミクロが、その戦略上にあるという。

 Revolutionの、過去の任天堂のゲームコンソールのゲームをプレイできるという仕様(GAMECUBEはディスクをそのまま、それ以前のタイトルはオンライン配信で)も、明らかにこの戦略に沿ったものだ。とりあえず、オールドタイトルがきっかけとなって、ユーザーをゲームコンソールの前に引き戻すことができれば成功というわけだ。

 もっとも、ゲーマーの中にはファミコン体験がなく、3D世代からという人口もいるわけで、全ての離れゲーマーに効果がある戦略ではない。あくまでも、ファミコンへのノスタルジーの濃い「ニンテンドーキッズ」世代にアピールしようという方策だ。

●新しいユーザーをどうやって呼び込むか

(2)新たに今までゲームをしていなかった人を呼び込む

 新規ユーザーの開拓はゲーム業界全体のテーマで、任天堂だけでなく、Microsoftやソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)も課題としている。しかし、任天堂が他2社と分かれるのは、そのための方策だ。

 MicrosoftとSCEIは、具体的なハードウェア実装は異なるものの、グラフィックスやシミュレーションやAIを豪華にすれば新規ユーザーを開拓できるという路線を基本としている。典型的なコースが、シネマティック(映画的)ゲームへの指向だ。

 過去のゲームの記号的なキャラやオブジェクトに替えて、リアルな映画的な表現を実現すれば、もっと一般の人にも受け入れられるようになると考える。単純に言えば、CG映画を見るように、その延長でCGゲームをやるようになるだろうという発想だ。コンピューティングパワーやフィーチャの拡張が、ゲーム性の拡張ももたらすと考える。

 それに対して、任天堂は前世代からの主張だが、映像や音声の質を向上させるばかりの路線では、うまく行かないと言う。これは異論があるところかも知れないが、少なくとも任天堂はそう考えているようだ。それよりも、ゲーム性を広げる方にフォーカスする方が重要だと。

 そのためには、既存のゲームジャンルのタイトルの充実だけでなく、ビデオゲーム自体の定義を広げる必要があると言う。ここが差異で、そのため、ハードウェアのアプローチも自ずと異なってくる。

(3)ゲーム熟練者もゲーム初心者も楽しめる新しい商品を提案する

 そこで任天堂が重要だと考えているのは、ゲーム熟練者とゲーム初心者がどちらも同じスタートラインから楽しめるようにする仕掛けだという。つまり、ゲーム熟練者が満足できる深さを持つと同時に、今、ゲームに触れていない人が、これなら自分にもできそうだと感じるような広さをもたせる。既存のゲーマーを保持しつつ、ゲームをしたことがない人に、触ってみようと思わせることができれば成功なわけだ。それだけ、ゲームが感覚的で簡単そうに見えなければならない。

 そして、ここが最大の相違だが、任天堂はそのポイントがマンマシンインターフェイスにあると見る。だから、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」では2画面液晶とタッチパネル、ペンを採用した。そして、ゲームコンソールでは、カギはコントローラになる。というわけでRevolutionのコントローラが登場するわけだ。

●ゲーム人口を広げるためのコントローラ

 岩田氏は、ゲームコンソールのマンマシンインターフェイスのポイントは下の3つだと説明する。

(A)ゲームを触っていない人に受け入れてもらいやすい
(B)ゲーム熟練者に新しい刺激を感じてもらえる
(C)誰もが同じスタートラインで新鮮に楽しめる

(A)ゲームを触っていない人に受け入れてもらいやすい

 ゲームしない人はコントローラに触らない。でも、TVのリモコンは誰でも触る。だったら、ゲームコントローラをTVリモコン型にしてしまえば、というのが任天堂の今回の発想だ。違いが、コントローラという目に見える形で示されるのも重要だという。TVリモコン型にすれば済む問題かどうかには、異論があるかも知れないが、ポイントはわかりやすい。

 まず、両手操作がダメだろうと、それからケーブルでつながっている点もマイナスだと。TVリモコンみたいなデバイスが、机の上にポンとあれば、何の気なしに触って、片手でポンポンと操作できれば使い始めるのでは、というストーリだ。キーノートスピーチでは、カウチに寝そべった女性が、片手でポンポンとアクションゲームをプレイするイメージ映像が流された。

 乱暴に言ってしまえば、他の2社はTVに映る映画を模すことでゲームの敷居を低くしようとし、任天堂はTVを操作するリモコンを模すことでゲームの敷居を下げようとしているわけだ。

TVのリモコンを模すことで親しみやすさを強調

(B)ゲーム熟練者に新しい刺激を感じてもらえる

 もっとも、コントローラが簡単になりすぎて、ゲーム熟練者に離れられては元も子もない。TGSのキーノートでは、新コントローラを使うことで、これまでとは違ったゲームプレイが可能になる点を強調した。拡張ポートに拡張デバイスを挿す、あるいは2個のコントローラを使うことで、両手をフルに使ってのプレイもできるようにする。

 特に、従来ジャンルのゲームも、新たな操作感覚になる点は重要だ。同じドラクエ系ゲームでも、「剣神ドラゴンクエスト 甦りし伝説の剣」だとゲーム感覚が全然変わるのと同じことが、標準のコントローラで可能になる。

 もっとも、新コントローラが熟練者に受け入れられない最悪のケースを考えてか、いちおう既存タイプのコントローラも、新コントローラに接続して使えるように考えている。

拡張ポートを使えば両手での操作も可能

(C)誰もが同じスタートラインで新鮮に楽しめる

 今のゲームコンソールだと、複雑で非直感的なコントローラの操作に慣れているかどうかが、ゲームプレイを大きく左右する。そこで、「初心者はコントローラの操作が下手」という要因で楽しめなくなることを、排除しようと考えている。つまり、より直感的なコントローラで、初心者も同じスタートラインに立てるようにと。

●ソフトウェア開発も容易に

 加えて任天堂は、マンマシンインターフェイスを変えることで、ソフトウェア開発のチャンスも広がるという。つまり、新インターフェイスを活かした画期的なアイデアを思いつけば、規模が小さな開発チームでも、アイデア勝負で面白いゲームを産み出すチャンスがあるというわけだ。映像やサウンドをリッチにしようとすると、開発コストがかさむが、任天堂のアプローチならより一発アイデアでの小規模ソフトウェア開発がしやすくなるという発想だ。

 もっとも、他の2社も、パワフルなハードウェアの上に、抽象化レイヤーを重ねて、ソフトウェア開発を容易にできるようにしようとは考えている。Microsoftのゲームプログラミングフレームワーク「XNA」構想はその例だ。Microsoftが、XNAでソフトウェア開発環境を整えることで、アイデアを簡単にゲーム化できるようにしようというビジョンを持っているのに対して、任天堂はもっと直裁的なアプローチを取る。

 ゲームコンソールでは、これまでも、いろいろなインターフェイスがあった。それこそ、お約束の「ガンコントローラ」から「鉄騎」のあの巨大コンソールまで。今回の任天堂の戦略が異なるのは、標準のコントローラをこれにしてしまおうとしている点。スタンダードがこれとなると、余計なコントローラをユーザーに買わせるわけではないので、話はかなり違ってくる。

 ただし、リスキーなのも確かだ。ゲーマー心理としては、ちょっとでも操作がしにくい、あるいは余計な手間がかかるコントローラは受け入れにくい。どこまで、高精度かつイージーか、技術の成熟度が問われることになる。

●コントローラの変革は任天堂としては当然の選択

 任天堂と他の2社のアプローチの違いは、コンピュータ的かおもちゃ的かという違いでもある。

 任天堂は、メカで違いを作り出そうとする。良くも悪くもオモチャ的な発想で、目に見えるモノが違う点にこだわる。

 コンピュータ的な発想では、こうはならない。ハードウェアはパワフルかつ汎用的に作り、その上のソフトウェアで違いを出そうというのがコンピュータだ。電子部品であるチップでは差別化するが、メカニカルな部分は、それほど冒険をしない。標準的なインターフェイスを用意しておいて、何でもつけられるようにする。奇抜なアイデアは、標準インターフェイスの上で、やってもらおうという発想だ。増大するコンピューティングパワーもマンマシンインターフェイスに回すことができる。おそらく、PLAYSTATION 3版「アイトーイ(EyeToy)」では、ずっと高精度なソフトウェア認識エンジンをCell上で実現できるだろう。

 もっとも、Revolutionのコントローラ戦略は、任天堂にとっては当然の選択でもある。

 過熱するチップ開発競争の結果、次世代ゲームコンソールのコストは、現行世代のスタート時より高くなる。カギとなるチップコストを見ると、SCEIはほぼ同サイズのメインチップセットに4倍の数のDRAMチップ。Microsoftは二回り大きなCPUと、一回り大きいGPUダイ+eDRAMのGPU、2倍のDRAMチップ数。これに追従することは体力的に難しい。

 それなら、チップはそこそこのレベルに止めて、別な部分で差別化を図った方がいいという発想は自然な流れだ。チップは、米国(&カナダ)企業に開発させて、日本側は日本の得意なメカニカルデバイスで勝負をしようというのもわかりやすい。

●好評だったキーノートプレゼンテーション

【WMV形式動画/5.0MB】キーノートスピーチのプレゼンテーションムービー。手持ちでの撮影のため、一部お見苦しい点があります

 今回のTGSでは、任天堂のキーノートスピーチは大きな話題になった。新発表があっただけでなく、自社の製品戦略を、理路整然とわかりやすく説明した姿勢も評価されたと思われる。任天堂は岩田氏の時代になって、メッセージが明瞭になってきたが、今回はひときわ明確だった。

 見せ方も上手だった。Revolutionのコントローラの発表なのに、実際のデモをやるわけではない。ムービーでも、操作しているゲーム画面を見せるわけではない。画面側からの視点で、ユーザーが新コントローラで操作するイメージムービーだけを見せる。よく考えれば、実際には、まだ何も見せていないことがわかるのだが、それでも一応納得させられる。

 岩田氏のキーノートスピーチで、一番割を食ったのはMicrosoftだ。MicrosoftのXbox部門を率いるRobert J. Bach(ロビー・J・バック)氏(President, Entertainment & Devices Division)は、任天堂の前にキーノートスピーチを行なった。スピーチ自体は特に悪くはなかったが、GDC(Game Developers Conference)、E3とメッセージを繰り返して来た後なので、インパクトはどうしても薄まっている。さらに英語というハンディキャップもあって、キーノートスピーチ後の拍手は、任天堂の方がはるかに多かった。

 任天堂不在の会場はともかく、キーノートについては、Microsoftは、任天堂の引き立て役となり、損をしてしまった。もし、Revolutionの戦略が、任天堂の思惑通りに進むなら、実際のゲーム市場でも、他の2社にとってやっかいなライバルになるだろう。

□任天堂のホームページ
http://www.nintendo.co.jp/
□「東京ゲームショウ2005 TGSフォーラム基調講演」
http://www.nintendo.co.jp/n10/tgs2005/index.html
□関連記事
【9月18日】高解像度写真で見る、任天堂「Revolution」新型コントローラー(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20050918/revo.htm
【9月16日】任天堂、岩田聡氏が基調講演でRevolutionのコントローラを初公開!(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20050916/iwata.htm

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(2005年9月22日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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