元麻布春男の週刊PCホットライン

IDFを振り返る




 先週開かれていたIDFから帰国して、間もなく1週間が経つ。ようやく社会復帰しつつある今日この頃なのだが、忘れないうちにその感想めいたものをまとめておこうと思う。

 多くの人がご存知のように、昨年Intelは大きな方針変換を行なった。1つはラージシングルコアプロセッサからデュアル/マルチコアプロセッサ路線への転換であり、もう1つはユーセージモデルを中心にした組織改革である。前者を象徴する出来事が2004年5月のTejas/Jayhawkのキャンセルであり、後者の仕上げ(あくまでも現段階では、だが)が2005年1月の機構改革だ。

 この機構改革でDesktop Platform Groupが解体され、Digital Home Group、Digital Enterprise Group、Digital Health Group、Channel Platforms Groupが新設された。旧来の分類であるMobile Platforms Groupのみが温存されたのは、バッテリ駆動という使用上の共通点があるからだろうが、同事業部の業績が良かったことも大きな理由だろう。うまくいっているものを触らないでおくのは、いつの世も、どんな組織でもセオリーというものだ。

●デュアル/マルチコアへの転換

 Intelの方向転換が最初にハッキリと示されたのは2004年春(5月)のAnalyst Meetingで、IDFとしては2004年秋のIDFであった。しかし、方針転換直前の2004年春(2月)のIDFを今振り返ると、プロセッサ技術やそのロードマップに関する話が極端に少なかったことに気づく。IntelがAMD互換の64bit拡張(EM64T)を採用する、という衝撃に気をとられ過ぎていたのかもしれない。この時点ではまだ最終結論には至っていなかったのかもしれないが、すでに内部では議論になっていたのだろう。

 写真1は、2004年春のIDFで、Xeonプロセッサのロードマップについて述べるMike Fister副社長(当時)だが、この時点では確かにJayhawkが存在している。それが3カ月後にはキャンセルになり、2004年秋のIDFにおいてFister氏の後任となったAbi Talwalkar副社長(同氏もIntelを辞職、現在はLSI Logic社長を務める)が示したロードマップになると、ハッキリとデュアルコア/マルチコア路線へと転換している(図1)。

【写真1】2004年2月に開催されたIDFで、Xeonプロセッサのロードマップについて語るFister副社長(当時)。同年5月に17年勤めたIntelを辞任、同氏は現在Cadenceの社長兼CEOの任にある 【図1】IDF Fall 2004で公開されたロードマップ

 ただし、写真1でもTulsaがデュアルコアになっているように、デュアルコア/マルチコアが否定されていたわけではない。おそらくはNetBurstを継承したアーキテクチャであったであろうTejas/Jayhawkのデュアルコア/マルチコアから、モバイル用のコアであったBanias/Dothanをベースにしたデュアルコア/マルチコアへ転換した、ということなのだと思われる。奇しくもNetBurstを生んだ事業部の事業部長は、結果として二人相次いで辞任したことになる。

●ようやく落ち着きをみせたロードマップ

 今回のIDFは、その大転換から1年余りが経過しての開催となったわけだが、Intelという巨船はどうやら舵を切り終えたらしい、というのが今回受けた印象だ。といっても、舵を切って新しい航路に進みだした結果(プロダクト)はまだ市場に登場していない。舵を切ってから新しい方向に進んでいることが確認されるまではかなりの時間がかかるし、進んだ方向において競合に勝てるのかどうかが分かるにも時間がかかる。最終的に進んだ方向が正しかったのかどうか判別できるのはもっと先のことだ。

 にもかかわらず、舵を切り終えた印象を受けるのは、今回新しい話が比較的少なかったからなのだと思う。方向転換が終わった今、色々としゃべる必要をあまり感じなくなったのではないか、という気がしている。思えば今年の春はもっと饒舌だった。開発中のデュアルコアプロセッサの開発コード名が大量に公開されたのが2005年春のIDFの特徴だ。

 図2は2005年春のIDFで公開されたプロセッサロードマップだが、黄緑色のバックで示されているデュアルコア/マルチコアプロセッサの開発コード名の多くが、この時に公開されたものだ。おそらくこの時点においてIntelは、開発コード名を公開することで、新路線に対するコミットメントを示す必要があったのだと思う。

 図3は今回、2005年秋のIDFで公開されたロードマップだが、図2に対する顕著な上積みはMerom/Conroe/Woodcrestの三つ子プロセッサ程度。しかもこれらの名称はすでに春のAnalyst Meetingで公開済みであり、初披露というわけではない。ほかに追加されたSossamanとPaxville DPにしても、いずれも新規に公開されたプロセッサというより、すでに明らかになっていたプロセッサを他の目的に転用した、という色合いの濃いものだ。

【図2】IDF Spring 2005で公開されたロードマップ 【図3】IDF Fall 2005で公開されたロードマップ

 Paxville DPはその名前の通りXeon MP向けに開発していたPaxville(NetBurst系デュアルコア)をDP版サーバー向けに転用したものだし、Sossamanは高密度実装サーバー向けに提供されるDP対応のYonahだと考えられる。いずれも既存のプラットフォーム(Lindenhurstチップセットベース)で使えるのがミソであり、Dempsey/Woodcrestへのつなぎ的な色彩が強い(サーバー向けであるにもかかわらず、Sossamanはモバイル向けのYonah同様EM64TやHTに対応していない)。DP版プロセッサはサーバー向けとしては最も数量の出るボリュームゾーンだが、ここにつなぎ的な製品をリリースせざるを得ないというのは、AMDのOpteronに対する危機感の表れなのだと考えられる。

 図2と図3には、デスクトップ向けプロセッサのロードマップが示されているが、IDFでこの分野のロードマップが示されるのは、実は結構久しぶりのことである。なぜデスクトップPC向けプロセッサのロードマップを公開しないのかと、当時Desktop Platform Groupの事業部長であったBill Siu副社長に尋ねたことがあるのだが、その時の答えは「プロセッサやチップセットといった個別の製品より、ユーセージモデルを中心とした事業展開に転換しているから」といったものだった。この回答は、その後の組織改革で裏付けられた格好ではあるのだが、今でも心の片隅には、2003年の時点では語れなかったからではないか、との思いが残っている。

●疑問の残るIA-64への取り組み

 さて、今回のIDFでもう1つ印象に残ったのは、テクニカルセッションに登壇する日本人スピーカーが多かったことだ。松下電池工業がIntelと新しいリチウムイオン電池の開発で提携した、というトピックもあったが、最も多くの日本人が登壇したのは、サーバー関連のセッションであった。そう、IA-64関連のセッションである。

 IA-64はますますメインフレーム向けのプロセッサという性格を強くしているが、IBM以外のメインフレームメーカーというと、数的には日本メーカーが大半を占める。どうしても日本ベンダーが目立たざるを得ないのだが、見ているとIA-64が日本向けのローカルプロセッサな気がしてくる。もちろんこれはプロセッサとして、Itanium 2とPOWERのどちらが優れているという話ではない。ただ、日本以外の国において、メインフレームを導入するということは、すなわちIBMの製品、特にIBMのサービスを導入することと同義なのではないか、という考えが頭をよぎる。ならばどんなに高性能なプロセッサを開発しても、効果は限定的なものにしかならないし、多額の資金を投じてIA-64の開発を続ける意味が薄れてくる。

【写真2】IDF Fall 2005で公開されたサーバー向けプロセッサロードマップ

 写真2は今回のIDFで、Digital Enterprise GroupのPat Gelsinger副社長兼事業部長が示したロードマップだが、将来のIA-64プロセッサであるTukwila/Poulsonのプラットフォームが870&OEM Platformsになっている。従来は、Tukwilaのプラットフォームは、Xeon MPプロセッサ(Whitefield)との共通プラットフォームになるとされていたのだが、ここにその表記は見当たらない。

 言うまでもなくIA-64の主な顧客となっているメインフレームメーカーは、どこも自前でこのクラスのプロセッサをサポートするチップセットやプラットフォームを用意することができる。実際、現在Itanium 2プロセッサを用いた最新鋭のメインフレーム機は、ほとんどがこうした「自前の」チップセットを用いたものだ。Intelが新しいチップセットを提供しなくても、大きな問題はない。しかし、このことはメインフレーム以外の用途、たとえばHPC分野への展開に影響はないのだろうか。

 また、プロセッサを単品でメインフレームメーカーに提供するビジネスが、今のIntel、特にプラットフォーム志向を強めているIntelのビジネスモデルに馴染むのだろうか、という疑問もある。かといって、長期の保証が必要なメインフレーム向けのプロセッサを、はい止めます、というわけにもいくまい。このジレンマに対するIntelの回答が待たれるところだ。

□IDF Fall 2005のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2005/
□関連記事
【8月29日】IDF Fall 2005レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/link/idff.htm
【3月6日】IDF Spring 2005レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/link/idfs.htm
【9月13日】IDF Fall 2004レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/link/idff.htm

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(2005年9月2日)

[Reported by 元麻布春男]


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