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富士通、黒川社長が経営方針を説明
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黒川博昭社長 |
5月25日 実施
富士通株式会社は25日、2005年度の経営方針説明会を行ない、同社黒川博昭社長が2004年度の業績を振り返るとともに、今後の事業方針などを示した。
当初予定されていた最初の1時間は、黒川社長の説明に終始。さらに質疑応答が45分間に及ぶなど、熱の入った会見となった。また、配布されたパワーポイントの資料だけでも60枚を突破。配布されずに映し出されたものを含めると70枚を超える、これも大手企業の社長のプレゼンテーション資料としては異例の枚数となった。
2005年度 連結業績予想 | 営業利益 年初目標未達の内容 |
●不採算案件が公約違反に直結
冒頭、黒川社長は、2004年度の「公約」として掲げた営業利益2,000億円に対して、実績が1,601億円に留まったことに対する説明を行なった。
「10月の下方修正の時点で、ソフト・サービス事業で約150億円のマイナスが出ることがわかったのに続き、1月にはこれが300億円、さらに、最終的には570億円と大変な額の狂いが生じた。最大の要因は、SIの不採算プロジェクトの損失であり、これが400億円にのぼった。また、官公庁関連の工事関連で170億円程度の損失が出た。2001年から2003年前半までの富士通が苦しい時に、必死になって受注した案件が不採算案件となっている」とした。
こうした不採算案件は、135件にのぼっているが、そのうち22件で全体の80%近い損失を占めており、しかも、2003年下期までの受注が99%を占めたという。
「2004年度で、不採算案件の75%を処理した。2005年度、2006年度で残りを処理する。ただ、富士通は損得よりも約束を優先するという風土がある。今後もこれを捨てるというつもりはない。また、リスクのない仕事ばかりを受注しろというつもりもない。今後のノウハウの蓄積のためには、リスクを負ってでも、やらなくてはならないこともある。問題は、きちっとした見極めと管理ができるかどうか、という点だ。その点をしっかりとやりたい」と話した。
2002年以前のプロジェクトリスクが顕在化 | 特定のプロジェクトが大半を占める | SBRの効果 |
プラットフォーム事業に関しては、「利益体質に転換した」と、2004年度の取り組みについて評価を見せた。
「価格低下は、1,100~1,200億円程度のインパクトがあったが、1,000億円のコストダウン効果、物量の増加などのプラスで相殺した。トヨタのTPSを採用することで、製造現場における手番の大幅な短縮に成功し、コスト削減効果や、品質向上効果も出ている。また、2004年度は、納期を守れ、ということを徹底してきたが、最後の段階で品質問題がおき、その解決を優先した一部製品以外はすべて予定通りに出荷した。ロードマップ通りに市場投入するという以前の体質に戻ることができた」とした。
プラットフォーム事業は利益体質に | プラットフォーム製品提供時期の遵守 |
デバイス事業に関しては、LCDおよびPDPの所要が大幅に減少したことが大きく影響したとする一方、最先端の90nmプロセスの量産が開始され、社内製品への適用が開始、将来へ収益の柱への布石が打てたことを示した。
「いよいよLSI事業に集中できる準備が整った。しばらくは、130nm以前のものが収益の柱となるが、2004年度の段階で、90nmによる将来に向けた動きを開始できた。これまで投資を抑えてきた傾向もあったが、金を使うところには使っていく」と黒川社長は説明。電子デバイス分野への設備投資を拡大する姿勢を見せた。
●2005年度は基本方針に変更なし
「2004年度は、安定して成長できる基盤を作ることに優先的に力を注いだ」と語る黒川社長は、こうした点を踏まえて、2005年度の事業方針として、「新たな事業方針を掲げるのではなく、昨年掲げた目標を徹底すること、加速することが重要だ」として、方針変更がないことを示した。
同社が掲げた方針は、利益を固定費と考えること、原価率を下げ続ける、経営スピードをあげるという「既存ビジネスの徹底した体質強化」、グローバルビジネスへの再挑戦、ユビキタス分野でのビジネス創出による「新しい事業を創り、育てる」、お客様から見て最適なフォーメーションの実現による「フォーメーションの革新」、そして、これらのすべてを簡素化する「マネジメントシステムの革新」である。この4つの方針について、今年度も継続的に取り組んでいくという。
営業利益目標は1,750億円とし、「これを最低レベルとして取り組んでいく」とした。
黒川社長は、2006年度の計画として、営業利益3,000億円を目標としていたが、「今のベースでは、正直なところ3,000億円の達成は難しいと考えている。だが、心のなかでは諦めてはいない。原価率を1%下げれば、2006年度には3,000億円の営業利益を達成できると考えていたが、原価率の低減はそんなに簡単にいくものではないことがわかった」などとした。
2006年度の計画については、「公表はしていない」とコメント。事実上、3,000億円の目標の旗を下ろしたことになる。ただ、今回の1,750億円の計画については、「これまでとは意味が違う」ということを黒川社長は強調した。
「従来は、各本部に割り当てた数字をやるというものだったが、今回は、ひとつひとつの本部が『黒さん、これだけやるよ』と言って、それぞれが申告したものを積み上げた数字。これまでとは行動原則を変えた上で出てきた数値だ」と語る。続けて、「この点でも、2003年に私が社長に就任したときよりも、富士通は格段に強くなった。営業とSEが一緒になって、顧客に対して、向かえるようになった点が大きく異なる」と話した。
原価低減についても、「開発/設計、生産、調達部門に言っていることは、原価低減はプラスのスパイラルを生むという点。原価低減活動が利益を生み、それが商品力強化につながり、販売増加に直結する。これがまた利益を生み、再投資につながるというスパイラルだ。原価低減活動は、原価低減はマイナスの要素ではない」と位置づけた。
黒川社長独自の表現方法とも言える天気図による概況。プロダクトではネットワーク、携帯電話の大雨が止むと判断。電子デバイスでもPDP、LCDという大雨案件を売却して不安材料はなくなる。サービスでは懸念の業種別SIでは薄日が差すとコメントした |
●新規事業への取り組みにも言及
今回の事業方針説明のなかで、黒川社長が強調していたのが、「攻めに転じるための新規事業分野への取り組み」である。
設備投資計画 |
半導体用途の多様化などに伴って、「あらゆるものがIT関連になる」と定義し、「新しいアプリケーションやサービスが求められるようになる。ここにリソースを向けていく」と語る。
企業市場に関しては、「フィールド・イノベーション」という言葉を使い、「企業の現場における革新をすすめ、これによって新しい競争力を提供する。富士通の事業領域は、マネジメントの部分に集中していた傾向があったが、現場のIT化にもう一度注力する。富士通社内の事例だが、保守サポート現場のIT化によって、CEの出動率が減少し、トラブル修復時間、現地障害切り分け時間の短縮などの成果も出ている。こうした現場の力をITによって強化すれば、企業の競争力も高まる。ここに力を注いでいきたい」と語った。
また、個人の利用環境に対しても同様に「フィールド・イノベーション」という言葉を用い、「個の視点に立った、元気、安心、感動、便利の提供に取り組んでいく」とし、プロードバンドネットワークをベースに、教育、医療、行政、介護などの領域へのソリューション提供を積極化させる姿勢を見せた。
プロダクト販売モデルからサービスモデルへの転換を図るとともに、富士通がこれまで取り組んでこなかった領域にも踏み込んでいくというわけだ。とはいえ、「5年後に富士通が家電メーカーになっているということはない。ITテクノロジーで、ソリューションを提供する会社になる」という軸足は移さない考えだ。
●PC事業は引き続き強化
PC事業に関しては、2005年度は「商品強化とQCD(クオリティ/コスト/デリバリー)の徹底」を掲げ、「先端テクノロジーで新たな価値を提供することを目指す。個人向けに関しては、先般発売した32型液晶を搭載したPCをはじめ、見る、録る、残すという点にフォーカスしたもっと新しいものを出していきたい。企業向けには、高度な安全性を追求したPCや、ニーズに合わせたカスタムメイドのPCの投入を図る。一方、SCMの高度化と、生産革新とを一体化したものづくり革新、開発革新に挑み、世界一の品質を目指す」とした。
今回の会見は、社長就任直後から掲げた目標の旗を下ろす内容となったものの、就任3年目に突入するのと同時に、地に足のついた方針が打ち出された感が強い。これまでにも「自分の言葉」で話すことにこだわってきた黒川社長だが、今回の会見では、開始10分前には一人で会場入りし、最前列で静かに待機し、1時間に渡って自分の言葉で述べるなど、熱の入れようはこれまで以上のもの。その点でも事業方針そのものが「黒川カラー」になってきたともいえる。あとは、これを「公約違反」せずに全うできるかどうかだといえるだろう。
□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□ニュースリリース
http://pr.fujitsu.com/jp/profile/kurokawa/2005/0525.html
□配付資料(PDF)
http://img.jp.fujitsu.com/prir/jp/ir/materials/20050525/pdf/20050525j.pdf
(2005年5月25日)
[Reported by 大河原克行]