元麻布春男の週刊PCホットライン

「LOOX T70K/T」で屋外TV鑑賞を試す




●モバイルノートもTV機能搭載機が登場

 モバイルPC関連で新年最大のイベントとなりそうだったのは、Intelによる新しいSonomaプラットフォームの発表だった。Pentium MのFSBを533MHzへ引き上げ、それに対応すると同時にPCI ExpressやDDR2メモリをサポートした新しい915Expressファミリチップセットを含んだ、いわば2世代目のCentrinoである。

 しかし、すべてのメーカー/機種がSonoma一色になったわけではなく、従来のプラットフォームをそのまま採用しているメーカーもある。その理由がSonoma自体の入手性にあるのか、PCI ExpressやDDR2メモリ、あるいはシリアルATAといったSonomaが採用する新技術に対応したパーツの入手性なのか、それともほかに理由があるのかは定かではない。が、かつてのように何がなんでも新しいチップセット、何がなんでも高性能のCPU、という風潮でなくなったのは間違いないようだ。

 Sonomaを採用したノートPCにしても、大半のモデル、特に店頭モデルのほとんどは動作クロックが1.5GHz~1.7GHz程度のCPUしか採用していない。2GHzを超えるハイエンドCPUは、BTOオプション以外ではまず見かけないというのが実情だ。高くて高性能なCPUを採用して、ノートPCの製品単価が上がるより、そこそこの性能のCPUで製品単価をリーズナブルにしておきたい、という意向が働いているのだろう。

 店頭モデルのPCにおいて、最新のチップセットやCPUに代わってPCのプロモートに使われるようになった要素はTVだ。PCにおけるTV機能の内蔵比率が高まっているのは、一昨年あたりから継続しているトレンドだが、今年も今のところ重視されているのはTV機能らしい。PCベンダの製品発表資料でも、まずTV機能の充実や画質の改善をうたっているものが多くなっている。たとえばわが国最大手のPCベンダであるNECの2005年春モデルにおける最大の訴求ポイントは、自社開発(NECとNECエレクトロニクスによる共同開発)の“VISITALチップ”(NTSCデコーダ/MPEGエンコーダ)によるTVの高画質化である。

 そのNECより1日前、1月5日にPCラインナップのリフレッシュを行なった富士通も、基本的なスタンスは同じだ。デスクトップPCであるFMV-DESKPOWERシリーズのキーワードは、「“見る”“録る”“残す”を快適に」、というもの。ここで言う対象がTV番組であることはいうまでもない。ノートPCも事情は同じで、据え置きタイプのキーワードはデスクトップPCと同じ“見る”“録る”“残す”。TV視聴向けの液晶ディスプレイ、TV受信の高画質化機能の搭載、2層記録に対応したDVDスーパーマルチドライブの採用が目玉で、従来のPCで最大のフォーカスであったCPUやチップセットは、ニュースリリースそのものではなく、添付の関連資料やWebサイトの製品仕様をチェックしないと分からない。

 もちろん、今回のリフレッシュが完全なフルモデルチェンジというより、マイナーチェンジに近く、新しいSonomaを採用していないから、ニュースリリースで華々しくうたっていない、という事情もあるには違いない。が、新しいチップセット等を採用しなくても十分戦える、という目算があるからこのような選択になったことも事実だと思われる。

LOOX T70K/T

 一方、モバイルタイプのノートPCである「BIBLO MGシリーズ」ならびに「LOOX Tシリーズ」のキーワードが「モバイルTV機能搭載」だ。それぞれの上位モデルでは光学式ドライブの代わりにドライブベイに収納可能なTVチューナユニットを搭載、同軸ケーブルでアンテナを接続可能なほか、ヘッドホンの延長ケーブルを兼ねたモバイルアンテナにより、屋外でもTVを見たり、録画することができる、というのがセールスポイントになっている。ここではこのモバイルTV機能搭載機のうち、小型の「LOOX T70K/T」(FMV-BIBLO LOOX T70K/T店頭モデル)を試用してみた。もちろん型番末尾のTはTVチューナを示す。

 LOOX T70K/Tは上述のように1月5日に発表されたニューモデル。ただし、基本的なシステムは昨年9月に発売済みのLOOX T70Jをベースにしており、チップセット(Intel 855GME)や指紋センサーによるセキュリティ機能、筐体などは変わらない。

 変更されたのはHDD容量が100GBに拡大されたこと(ハイエンドモデルであるT70K/Tのみ)、CPUのクロックが100MHzアップしたPentium M 753(超低電圧版1.2GHz)になったこと、そしてマルチベイ搭載用のTVチューナユニット(ハードウェアMPEG-2エンコーダ内蔵)の3点だ(ちなみにPentium M 753はAlvisoと同時発表のCPU)。ドライブベイ内蔵式TVチューナユニットの採用は、日立のPrius Gearの方が早いが、通常版のCPUを採用したPrius Gearに対し、ULV版を採用したLOOX T70K/Tの方が性能はともかく小型軽量(約500g)で、携帯性に優れるという特徴がある。ヘッドフォン延長ケーブル兼用のモバイルアンテナを標準採用していることからしても、持ち運び中にTVを視聴することを強く意識しているのは間違いない。

【お詫びと訂正】初出時にPrius GearのTVチューナーユニットはすべて別売である旨の記述がありましたが、当初は標準装備モデルも用意されておりました。お詫びして訂正させていただきます。

付属のモバイルアンテナ(右)とヘッドフォン。モバイルアンテナの先のプラグにヘッドフォンを挿すと本体スピーカーは消音となる。アンテナとヘッドフォンを分離したため、ヘッドフォン部のみを交換することができる モバイルチューナユニットと、同軸アンテナ変換ケーブル LOOX Tのマルチドライブベイにインストールしたモバイルチューナユニット

●モバイルアンテナの感度は良くない

 というわけで、早速外に持ち出してみたが、その結果はあまり芳しくなかった。確かにモバイルアンテナでTVは映るのだが、その画質は決して芳しいとは言いがたい。テストは某日、川崎にあるデルでの記者発表会イベントへの道すがら行なったのだが、山手線の車内、品川駅、川崎駅の3ヶ所でTVを視聴すべくLOOX Tを広げたものの、画質はかろうじて何が起こっているのか分かる程度。大きな期待をすると裏切られることになるかもしれない。また、別の日に新宿のサザンテラスでもLOOX Tを広げてみたが、「鑑賞」とは呼べない画質であった。もちろん、地下鉄や地下街などでは全くTVは映らない。

山手線の恵比寿~目黒間でキャプチャ 品川駅ホームのベンチでキャプチャしたもの。今回、屋外でモバイルアンテナを用いてキャプチャしたものの中では最も良好な画質が得られた
川崎駅ホームでキャプチャしたもの。ゲインも足りないようだ 新宿南口の新宿サザンテラスにてキャプチャしたもの

本機のチューナーユニットに外部アンテナを接続してキャプチャ

 それではと自宅でアンテナを接続すると、やはりちゃんとTVが映る。画質の問題の多くはアンテナに起因するようだ。携帯性とモビリティの両立のためにアンテナを工夫した努力は買いたいが、携帯性と画質の両立はなかなか容易ではない。そういえば一昨年(2003年)、鳴り物入りで登場したTV付携帯電話も、その後あまりパッとしないようだ(CMもすっかり見なくなった)。今のアナログTV放送は、移動中に視聴することを前提にしたサービスでないだけに、自宅と同じ感覚でTVを見ることは難しい。

 そもそもノートPCの液晶ディスプレイは、直射日光のあたる戸外で利用するのには適していない(これは、昨年の「ツインリンクもてぎ」でのIndyレースでも痛感)。加えて、ノートPCではTV付携帯電話と異なり、アプリケーションの立ち上げや、システムのスタンバイなどに気を使う必要がある。もちろん、電車の車内で立ったままTVを見ることなど事実上不可能だ。そう考えていくと、モバイルノートでTVを視聴するシナリオというのが、ほとんど思いつかなくなってしまう。たとえば、先日のサッカーワールドカップ予選をどうしても見たいのに仕事で会社に残業、といったシチュエーションにおいて、ノートPCにTVチューナがあると、ひょっとしていいことがあるかも、とは思うが、サッカーをサッカーとして楽しむには、よほど条件に恵まれない限り外部アンテナが必要になるだろう。

本機に付属のTV視聴/録画アプリケーションであるTVfunSTUDIO。TV表示ウィンドウに対し、パネルが大きすぎるようにも感じる

 TVの受信や録画を行なうのは、松下電器製のTVfunSTUDIOと呼ばれるアプリケーション(ちなみに内蔵するDVDスーパーマルチドライブも松下電器製である)。今回は録画予約等のテストは行なっていないので、そのあたりの安定性は分からないが、操作パネルの処理などもう少しスマートにできるのではないかと思う。録画ファイルは通常のMPEGファイル(拡張子.mpg)で、バンドルされている同じく松下電器製のDVD Movie AlbumにMPEGデータをインポートする際に、必要になるデータ(MTVファイル)と共に記録される。MPEGファイルは通常のDVDプレーヤーソフトで再生可能なほか、DVD Movie Albumを利用してDVD-RAMにVRフォーマットで書き込み、DIGAなど民生用のDVD-RAMレコーダーと連携することも可能だ(ただしノートPC用のスリムドライブであるため、カートリッジメディアは扱えない)。

 もう1つ気になったのは、とにかくディスクアクセスが多いこと。今回試用した標準状態では、メモリが不足している(256MBからさらにディスプレイメモリの使用分が引かれる)のではないかと思う。Officeをバンドルするより、まずメモリを512MB標準搭載した方が幸せになれると思うのだが、大人の事情ってやつがあるのだろう。いずれにせよ、本機を購入するユーザーは若干割高にはなるがMicro DIMMでメモリを増設することを念頭においておくべきだ(今、直販なら標準の256MBメモリを512MBに交換するサービスを9,000円で行なっている)。

 どうも画質だけを考えると、モバイルノートPCにTVチューナを内蔵させることにそれほど積極的な意義を感じない。ソフトウェアエンコードの製品でよければ、1万円程度でサードパーティから外付けUSBのTVチューナユニットが市販されており、録画しておいた番組を屋外で見るのであれば、これでも用は足りる。微妙なのは、現在富士通の直販サイトで内蔵チューナユニットが実質1万円のオプションとして提供されていることだろう。外付けユニットであれば光学ドライブと両立できるが、内蔵だと排他の関係になる。その一方で本当にTVチューナを持ち運ぶのであれば内蔵の方がスマートに違いないし、ハードウェアエンコードというメリットもある。メリットとデメリット、両方を良く考えて選ぶべきだろう。

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□製品情報
http://www.fmworld.net/product/hard/pcpm0501/biblo_loox/lt/index.html
□関連記事
【1月19日】インテル、「Sonoma」こと新Centrinoプラットフォームを正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0119/intel1.htm
【1月5日】富士通、FMV-BIBLOシリーズを一新
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0105/fujitsu2.htm

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(2005年2月11日)

[Reported by 元麻布春男]


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