■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■2月に品薄解消を目指すiPod shuffle
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1月15日の発売以来、依然として「iPod shuffle」の品薄が続いている。昨年夏に国内出荷となった「iPod mini」は、iPod shuffle同様の人気を博したが、米国で先行発売されたこともあって、日本での発売時にはある程度の数量が確保できた。
だが、今回のiPod shuffleは日米でほぼ同時の出荷となっただけに、品薄の深刻度が違う。全世界的な品薄をどう解消するかというなかで、日本への出荷数量が割り当てられる。米国を優先するのはこれまでのAppleに共通したものだが、日本市場での早期安定出荷を望みたいのは多くのユーザーに共通したものであろう。
●iPod shuffleの安定出荷に向けた2つの要素
iPod shuffle |
だが、iPod shuffleでは、早期安定出荷に向けた2つのプラス要素がある。1つは、iPod miniやiPodに搭載されている小型HDDに比べて、iPod shuffleに搭載されているフラッシュメモリは比較的調達しやすいという点だ。
日立製作所製の1インチHDDを採用したiPod miniにしても、東芝製1.8インチのHDDを採用したiPodにしても、それぞれ当時の最新技術を背景に開発されたものであり、需要の拡大に部材の量産体制の確立が追いつかなかったことが品薄の背景にあった。
だが、iPod shuffleで採用したSamsung製フラッシュメモリは、すでに量産技術が確立されており、HDDに比べると、需要拡大にも早期に、そして柔軟に対応できるというメリットがある。
そして、もう1つのプラス要素は、昨年、Appleの日本法人の代表取締役に就任した前刀禎明氏が、米国本社のマーケティングバイスプレジデントを兼務していることだ。前任の原田永幸氏も、米国本社のバイスプレジデントを兼務していたが、それはセールス部門のバイスプレジデント。マーケティング部門のバイスプレシデントの方が、より中枢に近いところで戦略を練る立場にある。
前刀代表取締役が、iPod shuffleの製品投入計画を聞いたのも、これまでの日本法人のトップに比べて比較にならないほどかなり前のことだとされており、ここからも、これまでの日本法人社長とは米国本社への影響力が異なることがわかる。
そして、昨年のiPod miniにおけるマーケティング戦略の一翼を担った前刀氏の手腕も米国本社で高く評価されている。
つまり、その分、日本市場での割当量が増加するはずだという読みである。この点にはついては、前刀氏はコメントしないが、外野から見れば、そうしたプラス要素は十分考えられるのである。
●2月にはiPod shuffleの品薄が完全解消か?
アップル代表取締役 前刀禎明氏 |
先週、前刀代表取締役に取材する機会があり、そこでiPod shuffleに関する話を聞くことができた。その場で、前刀代表取締役は、2月中にiPod shuffleが国内に潤沢に供給される見通しが立ったことを明らかにした。
iPod shuffleは、1月15日の発売日や、アップルストア名古屋栄のオープン時に、数百台規模で入荷したほか、1月29日の「Mac mini」の発売にあわせて、アップルストア銀座に約700台が入荷したというように、極めて限定した台数しか国内市場には流通していなかった。いずれも、わずか数時間で完売となっており、何時間も列に並んだにも関わらず、入手できなかったという人もいた。
現時点でも、アップルの直販ウェブサイトや、量販店店頭での予約を含めて、数万台分のバックオーダーがあると見られているほどだ。
前刀代表取締役は、「現在、急ピッチでiPod shuffleの生産を進めている。2月中には、相当な数量のiPod shuffleを国内市場に入荷できることが確実になっている。大量の受注残は解消できるはずだ」との見通しを示した。512MB版に加え、品薄が伝えられる1GB版のいずれも受注残が解消できそうな規模で入荷するという。
ただ、具体的な入荷日や入荷数量、容量ごとの入荷比率に関しては、現時点では日本法人にも明確な通達がないということで、それ以上の話は聞くことができなかった。しかし、前刀代表取締役が、国内市場に向けた出荷に対して、ここまで明確なコミットをしてくれただけに、今後のiPod shuffleの安定出荷には大きな期待をしてよさそうである。
●苦戦が伝えられるソニーの巻き返しは?
一方、Appleの好調ぶりとは裏腹に、不振ぶりがより鮮明となったのがソニーのパーソナルオーディオ事業だ。
ソニー代表執行役副社長 井原勝美氏 |
1月下旬にソニーは、2004年度通期連結業績の下方修正および第3四半期決算をそれぞれ発表したが、この2度に渡る会見のなかで、井原勝美代表執行役副社長が触れたのが、ソニーのオーディオ事業の不振である。
第3四半期の減収減益、2004年度通期見通しの売上高および営業利益の下方修正の要因はエレクトロニクス事業にあるとし、その要因の1つを携帯型のパーソナルオーディオにあるとした。
実際、オーディオ事業は、2004年12月までの9カ月間で売上高は前年同期比14.4%減の4,654億円、営業利益は83.2%減の51億円と大幅な減少となっている。第3四半期に88億円の営業利益を計上したことで、ようやく黒字転換したところだ。
井原副社長は、具体的に「Apple」と「iPod」の名前をあげて、次のように語る。「米国Appleの決算発表を見てもわかるように、HDDを搭載した携帯オーディオプレーヤーが急速に拡大している。iPodに押されて苦境に陥っており、競争環境の変化について行けていない」。
日本においては、年末商戦で携帯デジタルオーディオ市場の約6割を、依然としてMDプレーヤーが占めるなど、まだ大きなインパクトはないようだが、米国では明らかにiPodの攻勢に事業規模が縮小している。日本においても、今後、iPod shuffleが潤沢に供給されるようだと、これまでMDプレーヤーよりも高い価格帯であったiPodが、一気にMDプレーヤーを下回る価格で提供されることになり、そのインパクトは計り知れない。
もちろん、ソニーも手をこまねいているわけではない。「携帯オーディオプレーヤー市場は、ソニーが作ってきた分野であり、さすがソニーと言われる製品とサービスを提供したい」と鼻息も荒い。
International CES 2005のSonyブースで参考展示されていた次世代ネットワークウォークマンのモックアップ |
ソニーは、その巻き返しに向けて、昨年11月設立したコネクトカンパニーによる携帯音楽プレーヤーの事業強化を掲げる。「このビジネスは、ハードウェア単体のビジネスだけでは駄目。Web上で提供する音楽のサービス、ハードウェアをより快適に操作するためのソフトウェアとしてのSonicStage、そしてハードウェアとしても魅力的な製品を提供する3つのアプローチが必要になる。これらを順次市場投入していく」と話す。
また、井原副社長は、これまでのソニーの音楽のコーデックに関して、戦略的な誤りがあったことを認め、今後は独自技術である「ATRAC3」だけでなく、「MP3」を積極的に採用していく姿勢を見せた。
これは、AV Watchに掲載した第3四半期連結決算レポートのなかでも触れているが、今後の製品ではソニーブランドの製品において、より柔軟な対応をとる考えを同社幹部として初めて示したのだ。
では、ソニーはいつになれば、井原副社長がいう「さすがソニーと言われる製品とサービス」をこの市場に提供してくれるのだろうか。
1月20日の通期見通し下方修正の会見の場で、井原副社長はこれに関して、「少なくとも、あと半年はかかる」とコメントしている。「Web上の音楽サービス、ソフトウェア、製品という3つが一体となったものが出るには半年から1年はかかる。だが、この3つが揃うことで、これまでとはまったく違う製品とサービスを提供できるようになる」と話す。
「この分野にソニーらしい製品を投入することが、今後の一番大切な施策のひとつだといえる。まず、端末はネットワークウォークマンということになるだろうが、携帯電話や家庭用の固定電話でも、こうした音楽サービスが受けられるようにしたい。対応する端末側の製品を多様化することで、ビジネスを広げていくことも考えている」という。
ソニーが、iPodにキャッチアップするのは、半年後に登場する新製品、新サービスを投入してからということになる。先行するAppleに追いつくには、いくらソニーでもある程度の時間がかかるだろう。
言い換えれば、ソニーが中期経営計画「TR60」で掲げた営業利益率10%獲得の目標には、携帯オーディオプレーヤー事業およびそれに付随するサービス事業の貢献はほとんどないという計算で挑まなくてはならないことになる。オーディオ事業という主力の一角を欠いた形で挑まくてはならないのは経営的にも大きなハンデとなるのは明らかだ。
それは、市場に対するiPodの影響力があまりにも大きいことと、その市場変化に対してソニーが乗り遅れたことが大きく影響しているのだ。
Appleがこれから日本における携帯音楽プレーヤー事業を加速するのは明らかだ。音楽配信サービスの「iTunes MusicStore」の国内でのサービス開始発表も秒読み段階だとも噂されている。
ソニーは、携帯音楽プレーヤー事業の速度をさらにあげていかないと、取り返しがつかないことになるとはいえまいか。
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0122/apple.htm
(2005年2月7日)
[Text by 大河原克行]