■槻ノ木隆のPC実験室■バージョンアップした「ScanSnap! fi-5110EOX2」を試す |
今年2月に「ScanSnap!」の新製品がリリースされた話はコチラで触れている通りである。その後も「fi-5110EOX」は大活躍しており、現時点では3,000枚ほどスキャンしている。
案外少ないように思われるかもしれないが、「fi-5110EOX」が来る前に「fi-4110EOX3」で貯めていた書類をほとんどスキャンし終わっているので、その後に来たドキュメントのみの枚数と考えればこんなもんな気がする。
そのfi-5110EOXであるが、10月19日に「fi-5110EOX2」にバージョンアップされた。早速試用機を借用したので使い勝手をご報告したい。
●ハードウェア的には全く変わらず
今回のバージョンアップの主眼は、ソフトウェア側にある。実際、ハードウェアとしての変更点は背面に盗難防止のケンジントンロック用の穴が追加されたのが最大の変更点(写真01)。
あとはロゴの色が変更され(写真02)、ScanSnap Organizerのロゴが入った程度である(写真03)。従って、今回の主眼はソフトウェアの改善である。そのソフトウェアであるが、
(1) ScanSnap Organizerと呼ばれる管理ソフトが追加された。
(2) 読み取り時にパスワードを設定することが可能になった。
(3) 名刺管理ソフト「名刺ファイリングOCR」がV1.2になった
(4) A3までの原稿を読み取り可能とする「A3キャリアシート」が利用できるようになった。(fi-5110EOX2にはキャリアシートが1枚同梱される)
(5) 細かい不具合が改修されている。
といったあたりが主な変更点となる。このうち(5)に関しては、既存のfi-5110EOXでも、アップデートパックをダウンロードしてインストールする事で対応できる。また(4)に関して、キャリアシート自体は別売りだが、対応ドライバはダウンロード可能なので、バージョンアップにおける差は(1)~(3)という事になる。
なお、(1)~(3)に関しても、別途アップグレードキットが用意される。(1)~(3)を格納したCD-ROM+キャリアシート1枚で5,040円、(1)~(3)のCD-ROMのみが2,100円となっており、価格自体は法外に高いというわけではない。後はアップグレード費用を払う価値があるかどうか? というあたりだろう。
【写真01】ACアダプタのコネクタ右脇に穴が追加された | 【写真02】全体のカラーリングなどは変わらず。唯一異なっているのは、ロゴが従来のシルバーから赤になった事 | 【写真03】ScanSnap Organizerのロゴシールが追加された。(ちなみにAdobe PDFのロゴは印刷) |
●ScanSnap Organizer
では今回のバージョンアップの目玉とも言える、ScanSnap Organizerの使い勝手である。このScanSnap Organizerは、従来付属していたPDF Thumbnail Viewの発展型と思えば良い。
起動すると、取り込んだ書類のトップページがサムネールで表示されるという仕組みである(写真04)。便利と思うかうるさいと思うかは人次第であるが、この画面でカーソルをサムネールに重ねると、自動的にそれがポップアップ表示される(写真05)。このポップアップは拡大率を変えられるので、写真06のように大きく表示する事も可能であるが、ポップアップする場所はあまり考えていないようで、平気でWindowsのデスクトップ外にはみ出す。
では、ということでマウスでドラッグしようとする時、うっかりサムネールの上をマウスで通過するとポップアップするものが変わってしまうというあたりは、ちょっと使いにくい。これはメニューの「表示」→「ポップアップサムネイル表示」のチェックを外せば出なくなるので、普段は外しておくほうが便利だろう(写真07)。
また、サムネールのサイズは小(写真08)、中(写真09)、大(写真10)のほか、トップサムネール(写真11)という4種類の表示が可能だが、個人的にはどれも帯に短し襷に長しの感を抱いた。
サムネールの下に付いているスクロールバーのようなものは、左から先頭ページへ移動・1ページ戻る、1ページ進む・最終ページへ移動のボタンで、中央は単なるページ表示である。サムネール表示のまま読めるのは便利なのだが、どうせならスクロールバーもつけて欲しかったところ。(100ページを超えるPDFファイルを1ページづつめくって行くのはあまり嬉しくない)このあたりもやはり、帯に短し襷に長しであった。
ちなみにスピードの方であるが、やはり遅いというのが第一印象。手持ちのPDF(http:///developer.intel.com/から入手した、チップセットその他のSpecification Sheet)を適当に130個ほどローカルHDDにコピーしてブラウズしてみたのだが、なにしろページに移るだけで1分以上待たされる(写真12)。またスクロールの度に待たされる時間も多く、まるで実用的ではない。もっともその代わり、サムネールデータベースとかを作らないのは(筆者的には)好感が持てるが、例えば複数スレッドで同時に複数のファイルのサムネールを生成するとかの方法で、もう少し高速化されないと使いにくいところ。
更に言ってしまうと、あまりに機能が少ない。ScanSnap OrganizerはPDFの格納「だけ」が可能で、要するにキャビネット/フォルダの作成と、PDFファイルの移動/コピー/削除/名前の変更ができるだけである。例えば写真04で左上のPDFの向きを変えたいと思ったら、Adobe Acrobatを呼び出すしかないわけで、仕方が無いとはいえもう少し何とかならないか、という気も。
というわけで、総体的に見ると「筆者は使わない」というのが率直な感想である。前回の記事でも書いたが、PDFをサムネールで管理というアイディアにそもそも無理があるのではないかと思う。ちなみに筆者の資料ディレクトリには、現時点で24,204個、16.2GBもの資料が突っ込まれている。これが全部PDFというわけではない(MovieやPowerPoint、HTML、画像ファイルなども混じっている)にせよ大多数はPDFであり、到底ScanSnap Organizerで管理しきれるサイズではない。Explolerライクで多少使いやすくはなっているが、基本的にはPDFの分量が少ない人向けのツールだろう。
【写真04】左上は最初の1ページだけ判別に失敗して横長に認識されている | 【写真05】このサイズだと、わざわざポップアップする意味が見出しにくい | 【写真06】かといってこれは大きすぎ |
●名刺ファイリングOCR
次は名刺ファイリングOCRであるが、こちらに関しては従来添付されてきたV1.1がV1.2にバージョンアップされた。ただしこちらは単体のソフトとして今年9月に発表になっており、fi-5110EOX2にあわせてバージョンアップされたというわけではない。ちなみにV1.1からのバージョンアップは2,100円(PFUダイレクト価格)とされている。
主な相違点は、
(1) Microsoft Office InterConnect 2004と連動
(2) 簡単検索機能(「名刺ファイリングOCR Viewer」)搭載
(3) Contact XML形式データのエクスポート、インポートに対応
(4) 住所辞書及び大口事業所認識辞書の改版
とされている。が、(1)に関してはそもそも筆者の所にはMicrosoft InterConnect 2004の環境がない(前提となるOutlookをインストールしてない)から意味がないし、(3)もあまり嬉しくはない。(4)に関してもざっと使った限りはそれほど違いが見出せなかった。
そうした中で、ちょっと嬉しかったのは(2)である。あらかじめ名刺データを登録してあれば、検索したい単語を選択した上で(写真13)、「Alt+F3」キーを押すとそれに該当する名刺画像をポップアップで表示してくれるという機能である(写真14)。このショートカットがほかのアプリケーションとぶつかる場合は、「名刺ファイリングOCR Viewerの設定」(写真15)で変更できるので、困る事はないだろう。
ただ、これ以外は従来とほぼ同じ。名刺を読み込んでの認識もほとんど結果は変わらなかった。となると、この簡単検索機能に2,000円を払うかどうか? というあたりがバージョンアップすべきか否かの分かれ目になる。筆者的にはあまり食指が湧かないところだ。ポップアップは面白いが、名刺を検索するという事自体を普段からほとんどしないので、必要な時に名刺ファイリングOCRを立ち上げれば十分という気がする。
【写真13】別に苗字でなくても、とにかく検索キーになるものを選択すればOK | 【写真14】ポップアップはかなり高速。勿論件数にもよるのだろうが、筆者の用途には十分だった | 【写真15】これが無いと、ほかのアプリケーションとぶつかった時に困りそうだ。どうでもいいが、設定項目はこれだけなのだろうか? |
●A3キャリアシート
ScanSnap!は、A4/レター以上のサイズの原稿を読み込めない。例えばB4を折って読み込ませられるかというと、実際には紙送りのところで引っかかってしまい、原稿が皺くちゃ(運が悪いとびりびり)になるだけである。
従って、A4を超えるサイズの原稿はA4以下に切ってから読み込むか、破壊するのがいやならあらかじめコピーを取ってから読み込むしかなかった。現実問題としてはそんなことをするのもイヤなので、A4を超える原稿はあきらめていたわけだが、これがキャリアシートによって多少緩和された。
キャリアシートとは、単なる透明な2枚のプラスチックシートである(写真16)。横幅はA4と同じであるが、縦方向はガイド部がある関係で多少長くなっている。この2枚のプラスチックシートの間に原稿をはさみこんで(写真17)、そのまま読み込ませるという仕組みだ。
読み込ませる場合、まずScanSnap Managerのアイコンを右クリックして、コンテクストメニューから「A3キャリアシート」を選び(写真18)、実行モードと画像サイズを選択する(写真19)。OKを押した後、キャリアシートをセットしてスキャナ側のScanボタンを押すと、この通り読み込まれる(写真20)という仕組みだ。
ちなみに表裏がうまく連動するかは、原稿をいかにしっかりとキャリアシートにセットするかに掛かっている。スキャン後のPDFを確認していただけると判るが、やはり微妙に左右でずれがあるし、折り目の左右1mm程度はスキャン自体が出来ていない。
また、シートをかぶせた影響か、全体的にやや黄色が強くなっているなど、手放しに誉められるほどの画質ではない。とはいえキャリアシートを使わないと更に手間は増えるわけで、つなぎ目周辺の画質にそれほどこだわらなければ、手軽にスキャンできるキャリアシートはかなり便利なツールと言える。
【写真16】キャリアシートは割と厚手で、やや透明度は低いがスキャンにはそれほど影響なさそうだ | 【写真17】実はこれ、紙をあわせる向きが逆である。この構図だと、原稿は右ぎりぎりまで寄せるのが正しい | 【写真18】このメニューはアイコンの右クリックで出現する |
【写真19】手順を判りやすく説明してくれるのはありがたいのだが、慣れるとちょっと煩いかも | 【写真20】合成画像例。この画像ではほとんど繋ぎ目が判らない |
●全体として見てみると……
今回はあくまでマイナーバージョンアップの範疇だろう。個人的にはキャリアシートはなかなか魅力的だが、そのほかのバージョンアップに関しては「どっちでもいいや」というのが正直な感想である。これに5,040円のバージョンアップ費用を払うか? と言えば、多分払わないだろう。先に述べた通り、ドライバのアップデートを行なった上で(これは無償)、キャリアシート5枚組セット2,625円を購入して終わりにすると思う。
全般的に今回のバージョンアップは個人ユーザー向けというよりも法人ユーザーに向いたものである。個人でケンジントンロックやPDFのパスワードが必要なケースはあまり思いつかないし、大口事業所認識辞書の改版なんていうあたりも法人ユーザーを向いていることが明白である。とりあえず個人ユーザーは、今回のバージョンアップはスルーして良いのではなかろうか?
誤解しないでいただきたいのは、今回のレポートはすでに使用しているユーザーにとってのバージョンアップの価値についてだということだ。この製品自体が非常に優れたものであることは、何台も使い続けている筆者が保証する。書類の山に埋もれながら、まだ導入していないユーザーには、ぜひ導入することをお勧めしたい。興味のある方はぜひ前回のレポートを参照していただきたい。
□関連記事
【10月19日】PFU、ScanSnapをマイナーチェンジ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1019/pfu.htm
【3月3日】【槻ノ木】新しくなったScanSnap! fi-5110EOX
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0303/pclabo21.htm
(2004年11月17日)
[Reported by 槻ノ木隆]