■多和田新也のニューアイテム診断室■
Tablet PC Edition 2005搭載の軽量Tablet PC |
NECから8月30日に発表された「VersaPro VY11F」(以下、VY11F)は、同社が従来から販売しているピュアタブレット機から大幅にリニューアルした外観と、OSに「Windows XP Tablet PC Edition 2005」を採用した点が大きな特徴となっている。この製品を2週間ほど試用する機会を得たのでレポートしたい。
●ノート感覚で持ち歩けるほど薄型/軽量のデザイン
VY11Fは、Windows XP Tablet PC Edition 2005のリリースに合わせたタイミングでリリースされたピュアタブレット型のTablet PCだ。VersaProのブランド名が示すとおり基本的にはビジネス向け製品という位置付けになる。
CPUには1.1GHz駆動のPentium M 733を搭載。同社のTablet PCでは初めてのPentium M搭載モデルとなる。チップセットにはIntel 855PMを搭載。メモリは512MB固定で、増設などは行なえないようになっている。
グラフィック機能については、Intel 855PMがビデオ機能を内蔵しないチップセットであるため、別途MOBILITY RADEON 7500をオンボード搭載している。本製品のMOBILITY RADEON 7500は32MBのビデオメモリを統合しており、チップセット内蔵グラフィックのようにメインメモリとシェアする仕組みが採用されるよりは好印象である。HDDは20GB、液晶はデジタイザ内蔵のXGA表示対応10.4型TFT。
【写真1】NECの「VersaPro VY11F」。この角度からでも分かる薄さが特徴的だ |
その外観は“一枚の板”と表現しても差し支えないほど薄く、シンプルな形状をしている(写真1)。サイズは224×299×11~13.7mm(幅×奥行き×高さ)と、ちょうどA4ノート(PCにあらず)程度の大きさに収まっている。
そのかなりの面積を10.4型の液晶ディスプレイが占めている。輝度/発色ともに良く、視野角も非常に広いため、外出先で利用するには周りの目が気になるほどである。明るさについてはOS上から調節することができるが(画面1)、視野角だけはどうにもならない。本製品は一般的なノートPCよりも液晶の角度を自由に保てる形態なので、もう少し視野角を絞っても良かったように思う。ただ、ここは使い手によって一長一短を感じると思われるので、メーカーも判断が難しそうだ。
液晶ディスプレイを使った入力用には、大サイズ/小サイズの2本のペンが付属する(写真2)。大サイズは、普通のペンの感覚で利用できるが、本体に収納できない。小サイズは本体内に収納可能だが、手書き入力時に使いにくさを感じるかもしれない。とはいえ、筆者の場合は試用期間のほとんどをこの小サイズを使って過ごした。詳しくは後述するが手書き入力に関しては認識精度が高く、丁寧な文字を書く必要がなかったこともあって、数日で慣れてしまったからである。
このほか、本製品の外観上の特徴をざっと紹介しておきたい。まず両側面に配置されたインターフェイス類だが、向かって右側面(写真3)にサウンド入出力、USB2.0と一般的なインターフェイスのほか、オプションの光学ドライブ「PC-VP-BU24」で使われるNEC独自の電源コネクタ。そしてCFスロットが用意されている。なお、PCカードスロットは装備していない。
左側面(写真4)には、カバーに覆われたVGA、Ethernetのコネクタが並ぶ。また本製品ではBTOによりIEEE 802.11a/b/gに対応した無線LAN機能を内蔵させることもできるのだが、その無線LAN用のアンテナも左側面に用意されており、これを立てることで感度を増すことができる(写真5)。
底面にはバッテリーが搭載されている(写真6)。このバッテリーはSタイプとMタイプの2種類のオプションが用意されており、厚みが若干異なるものの、面積は同じだ。本体自体が薄めなので、本体よりやや厚いMタイプでも厚みは気にならないレベルである。
ただ、バッテリーの駆動時間はそれほど長くない。公称値ではそれぞれSタイプが約1.6~2.4時間、Mタイプが約2.8~4.2時間となっている。試用した限り、連続駆動というわけではなく、スタンバイ状態や電源ON/OFFを繰り返した結果ではあるが、この公称時間どおりの駆動時間と大きな違いはない印象だ。この駆動時間は最近のノートPCと比較して長いものではなく、一日持ち歩くことを考えると予備バッテリは必須と思われる。
なお、上面にはインターフェイスなどは配置されておらず、ファンの排気口がある程度だ。
さて、もう一度本体上面に目を向けるが、液晶の上部付近にいくつかのボタンが用意されている(写真7)。最上部には無線LANのON/OFF切り替えスイッチ、画面のローテーションボタン、ESCボタンなどが並び、液晶の右脇にはUp/Down/Enterの各ボタンが用意されている。これらの機能割り当てはOS上で行なうことができる(画面2)。Fnキーと組み合わせることで、例えば画面スクロールのようなペン操作が面倒な作業をボタン操作で行なえる便利さがある。
【写真7】上部に配置されたボタン類。詳しくは後述するが、最上部の4つのボタンの左端に配置された画面ローテーションボタンが追加された点は非常に好感が持てる | 【画面2】最上部のボタンは、タブレットとペンの設定画面から割り当てをカスタマイズできる |
●手書き入力のしやすさにより使い勝手が大きく向上した新OS
冒頭でも述べたとおり、本製品ではWindows XP Tablet PC Edition 2005がプリインストールされている点も大きな特徴である。続いては、このOSの使い勝手について話をしていきたい。このOSのメリットとしては、使い勝手に大きく影響するTIP(Text Input Panel)に変更が加えられた点が大きい。
従来のTablet PC Editionでは、TIPを画面下部に表示する仕組みであったのが、2005では画面上の任意の位置に表示できるようになった。仕組みは簡単で、テキスト入力が可能な位置ではカーソル位置の脇にTIPの表示ボタンが表示され(画面3)、そのボタンを押すと、カーソルのすぐそばにTIPが表示されるのだ(画面4)。もちろん、このTIPをドラッグで移動することもできる。
また、画面4でも示しているとおり、行が自動的に追加されるようになり、長文入力もかなりラクに行なえるようになっている。さらに、ひらがなで入力を行った場合の変換についても、文節を指定したり、後から容易に修正できるよう改善されている(画面5)。
こうした入力インターフェイス部分の目に見える改善点も大きいのだが、従来のTablet PC Editionに比べ、認識率も大幅に向上した印象だ。Tablet PCについては2年近く前のTablet PC登場時に数台のPCを短期間利用した程度の利用機会しかないのだが、当時は(筆者のクセ字もあったのだろうが)何度書いてもうまく認識しないことがあった。慣れるにつれ、認識精度は上がっていったが、この最初のつまづきは記憶に色濃く残っている。
しかしながら、Tablet PC Edition 2005では、とくに丁寧な筆記を心がけなくても、ひらがな/カタカナ/漢字を誤認識することは少なかった。さすがに数字や英語に関しては、混同しやすそうな文字が多いため誤認識は多いのだが、従来のTablet PC EditonのTIP同様、下部に用意された入力文字の指定を行なえばアルファベットの大文字/小文字以外の誤認識はかなり減る。
●常用の携帯PCとしてのVersaPro VY11F
さて、今回約2週間の借用期間中、米国で行われたIntel Developer Forumに持ち込むなど、常用ノートPCの代替的な使い方をしてきたのだが、そのときの所感などを記しておきたい。
実は筆者は、ノートPCでメモを取るという行為が苦手だ。例えばIDFであれば基調講演などの内容をメモするわけだが、そうしたケースでも主に紙のノート(現在はB6サイズのもの)を利用して、手書きでメモを取っている。そのため、Tablet PCを紙のノートとノートPCを兼ねるソリューションとして期待していた。本製品を最初に利用したとき、その手書き認識の精度の高さと、製品の軽量さ、薄さから「コレはいける」と思ったのだが、実際はそう甘くなかった。
携帯性の面では、持ち歩く分には予備バッテリーを含めても苦になる重さではないし、その点は満足のいくものであった。だが、やはりPCであることは事実なので、どうしても手軽さの面で紙のノートに劣るのだ。
例えばIDFの基調講演などは聴取者にイスが1つあるだけで机などは用意されない。となると、ヒザと足元にすべての荷物を置くことになるのだが、ピュアタブレット型PCでは液晶が剥き出しなので、保護ガラスがあるとはいえ、この点にどうしても気をつかってつかってしまう。
これは使う前から頭では分かっていたことであるが、紙のノートのようにお尻で踏み潰しても大丈夫、といったがさつさに慣れている身としては、こうした点は神経をすり減らしてしまう。このあたり、例えばネックストラップをつける穴を設ける、液晶を乱暴に扱っても安心できるような工夫などで、また違った印象も受けるように思う。
また、願わくば、さらにサイズを絞ってほしい。というのも、重さと厚みに関してはまったく不満を感じないのだが、A4サイズという面積が、一般に携帯用ノートPCとして扱われるB5ノートより大きいことが気になるのである。
技術的な面を無視して希望を言わせてもらうならば、厚みが多少増してもいいので、液晶周りのスペースをもっと狭めるべきではないだろうかと思う。10.4型という大きさを経験すると、もはやPDAを使おうという気は起こらなくなるほどの魅力を持っているので、携帯ノートとして神経を使わなくて済むような一工夫を期待したいところだ。
ちょっと否定気味な面を書いてきたが、もちろん気に入った部分も数多い。液晶についても、発色が非常によく、デジカメのデータを吸い出して確認する際にも大きな画面をありがたく感じる場面は何度もあった。
また、画面のローテーションボタンが装備されたことで好きなときに即、画面を回転させられるのは、実際に使ってみると大きなメリットとなっていることが分かる。Windows Journalを使ってメモをとったり、それを確認するときには縦位置、デジカメの写真を確認するときは横位置、という柔軟な使い方ができるのだ。もちろん紙とノートという二刀を使う必要はなく、1つのデバイスでこなせることもメリットである。
なお、Windows Journalであるが、講演のメモのように「自分さえ読めればいい」という走り書きのデータをテキストデータへ変換するのは無理で、これは期待が大きすぎた。ただ、PCで参照可能なデータとして記録、しかも手書きでできる点は手書きメモ派にとってはうれしく、先に述べた手軽さが加わればこれからも使っていきたいと思わせる魅力を持っている。
従来のTablet PCは、どうしても用途が限定される感があったものが、本製品には、あと少しの不満点さえ解消されればノートPCの代わりに使っていきたい、と思わせる製品に仕上がっている。
□関連記事(2004年10月14日)
[Text by 多和田新也]