第261回
次世代PS、BDドライブ搭載の意味



 今週から始まる東京ゲームショウに先立ち、都内でソニー・コンピュータ・エンターテイメントが開催したPlaystation Business Meeting。そこには実機筐体の中に詰まった製品レベルに近いPlaystation Portable(PSP)が存在すると期待して会場に向かった。

もちろん、それ(PSPのプレイアブルな実機)と対応ソフトウェアも紹介され、かねてより噂されていた小型のPlaystation 2もアナウンスされた。

 もっとも、個人的にもっともインパクトが強かったのは、次世代PlaystationにBlu-ray Disc(BD)を採用することを“今、この時期に”発表したことだ。次世代PSがBDドライブを採用することは、実は昨年ぐらいからハリウッドの映画スタジオに端を発して噂されてきており、採用することは十分に予測できた。しかし、まだ本体の仕様もわからないこの時期に発表したインパクトは大きい。

発表された新しいPlaystation2 分解された新Playstation2。基板中央部にEEとGSを統合したチップを搭載

●PSPの価格に言葉を濁す久夛良木氏

 とはいえ、本連載は他の話題を扱う事が多いとはいえ、基本的には“モバイル通信”である。まずはPSPについて簡単に触れておきたい。

 PSPの仕様やデザインに関しては、今年5月に行なわれたE3 2004、あるいはSCEのプライベートイベントPlaystation Meeting 2004などで明らかになっていた通りだ。基本的な仕様に変更はない。

 アップデートされた点は大きく3つある。

 まずこれまで公開されていたPSPが、操作部と表示部だけのモックアップで、実は試遊台の奥にある開発・評価用ボード上で動作していたのが、今回は実際にUMDやメイン基板などすべてが内蔵された製品レベルに近い試作機になっていた点だ。ただし、Playstation Meeting 2004の時点でSCE関係者は「すぐに開発者向けには実機と同じ筐体のサンプルを出荷できる」と話していた事から、内々にはかなり以前から存在していたものと思われる。

 もうひとつはSCE以外のタイトルを含むいくつかのゲームが、実際に動作する形で展示され、実際に手にとって遊ぶことができたことだ。東京ゲームショウでも、これらのゲームを実際に遊ぶことができる。

 最後にXMB(クロスメディアバー。PSXや新型WEGAに採用されたユーザーインターフェイス)が、PSPの基本的なユーザーインターフェイスに使われている事だ。PSPは映像や音楽を楽しむプラットフォームとしても使われることを意識した製品だが、その際のユーザーインターフェイスは、テレビ、ハードディスクレコーダと共通になる、というわけだ。

PSPはXMBをUIに採用。メニューから画像ビューア、音楽プレーヤ、映像プレーヤとしても使える事が伺える PSP用ソフトのパッケージ。新書サイズで最大2枚のUMDが入るサイズにデザインされている

 もっとも、本当に映画や音楽のコンテンツがPSP向けに登場するのか? ソニーグループ内のコンテンツは出ても、他のベンダーは付いてくるのか? など、映像・音楽コンテンツを楽しむためのプラットフォームとしてのPSPに疑問を投げかける意見は多い。

 久夛良木氏自身もそうした声を意識してか、映像や音楽コンテンツのUMDによる流通に関しては「これは我々の、こうなって欲しいという希望ではありますが……」と断りを入れていた。同氏は会見後に映画コンテンツについて「話は進んでいるが、こういう事には時間がかかる。今すぐに私の口からコメントは出せないが、何も進んでいないわけではない」と話していた。

 それよりも微妙な発言だったのは、PSPの価格についてだ。正式発表以来、“39,800円では?”、“いやもっと高くなければ採算が合わない”など、様々な予想が繰り広げられていたが、今回も価格の発表は行われなかった。初めての一般向け公開となる東京ゲームショウでも、価格は発表されないという。しかし、いくつかのヒントは提示された。

 ニンテンドーDSが2万円を切る低価格で発表された事を受けた記者からの質問に、久多良木氏は「初代プレイステーションが39,800円と発表された時、それが高い製品なのか、それとも安い製品なのかを評価する基準は存在しませんでした。なぜなら、ゲーム機の本質、価値はその上で動作するソフトウェアで決まるからです。コンテンツが一番大切で、すべての価値を決めるというのは(ゲーム機の)世代が異なっても同じ。東京ゲームショウで来場者の反応や要望を聞いて、ゲームベンダーや流通サイドとも話し合いながら決めていきたい」と話した。

 さらに会見後には「初代PSが発売された頃に存在したゲーム機は、1万円ちょっとで購入できましたが我々の製品は4万円近い価格。比較すれば当然高価ですが、セガサターンを含め性能面で圧倒していた(当時の)次世代機は、予想を超えて売り上げを伸ばしました。それは、それだけのお金を払ってでも遊びたいコンテンツがあったからです」ともコメントしていた。

 少々穿った見方をすれば、PSPの価格、いやコストは、かなり高いのではないか。“PSPの価格を議論するのはコンテンツのすばらしさを見てからにして欲しい”と久多良木氏が話す背景に、対応ゲームソフトの質にかなり自信があり、それを業界やユーザーに周知させ、PSPが高い付加価値を持った製品であることを知っておいて欲しいと願っていることがあるからだろう。

 翻れば、何も中身に関する評価が確定しないまま、本体価格だけがひとり歩きするのを防ぎたということになろう。もし39,800円になるならば、ニンテンドーDSの2倍の価格だ。それでもコスト的にはかなり厳しいと思われる。いずれにしろ、対応コンテンツのデキ具合もなかなか良好に見えるPSPのスタートダッシュが成功するか否かは、その価格設定に大きく依存しそうだ。

●BD-ROMにしか言及しなかった、果たしてその本音は?

 さて、最後にBD-ROM採用のニュースである。

 久夛良木氏は次世代PSの光ディスクとして、BD-ROMを採用するとアナウンスした。会見で久多良木氏は54GBという大容量がゲーム機にとって大きな魅力だからだと、その理由について話した。

 実際にはBD-ROMの物理フォーマットは1層25GBの2層で50GBだが、いずれにしろHD DVD-ROMの30GBよりはずっと大きいため、容量のためにROMフォーマットとしてBD-ROMを使うという説明に矛盾はない。

 当初はCD-ROMでの提供も少なくなかったPS2コンテンツも、今に至っては2層8.5GBをフルに使うコンテンツがいくつも出てきており、将来的な発展を支えるためにも、なるべく容量が大きなメディアフォーマットを採用しておきたいという気持ちもあるだろう。

次世代PSのディスクメディアはBDへ 次世代PSへのBDROMドライブ搭載を発表する久多良木氏 容量増加を続けるゲームコンテンツ

 しかし久夛良木氏は、次世代PSのBD-ROM採用に関し、データROMとしてのメリットにしか言及しなかった。「PS2の時にDVDドライブを採用し、DVD普及の切っ掛けを作った(久多良木氏)」というコメントからは、BDベースのビデオコンテンツ再生をサポートすることで、次世代のビデオコンテンツキャリアとしてのBD-ROMを後押ししたい、という意図も読み取れるが、“BDのビデオコンテンツ再生も可能になる”とはひと言も発言しなかった。

 とは言うものの、BD-ROMドライブを採用しながら、パッケージのビデオコンテンツ再生をサポートしない、という選択肢もなかろう。その点について質問してみたところ「BDの規格はまだ策定途中で確定していないため、現時点では何も言えない」と素っ気ない。

 しかし、実は久夛良木氏はハリウッドの映画スタジオを訪れたとき「次世代PSは初期出荷だけで数百万台(具体的な数字も上がっているが、噂レベルなのでここでは控える)を予定している。それらすべてにBD-ROMドライブが搭載され、BDビデオコンテンツの再生インフラになる」と、各スタジオのコンシューマ向けマーケティング担当の副社長、上席副社長クラスに対して話をしている。複数のスタジオ関係者が異口同音に話していることから、おおむねそのような話があったことは間違いなさそうだ。

 従って次世代PSがBDのビデオコンテンツを再生可能にするのは、まず間違いないと見ていい。現時点でBD-ROMの物理フォーマット、BDのパッケージビデオの論理フォーマット、採用コーデックなどは決まっており、著作権管理に関してもAACSという規格で決まりだ。年内にはすべての仕様が完全に固定されるだろう。

 もし、SCEがBDビデオコンテンツの再生を本気でサポートするつもりならば、BD再生のためのソフトウェアプレーヤを用意することは不可能ではない。が、問題はそのための開発リソースを割けるか否かだろう。BDビデオコンテンツは2005年後半に最初のタイトルが投入される予定だが、どれだけの数のタイトルが用意されるか分からない。プレーヤソフトだけ、後から追加するという可能性も否定できない。

 BD-ROMのビデオフォーマットは、様々な経緯から多くの要素を含まざるを得なくなっている。BDで導入される3Dグラフィックの仕様はゲーム機がもっとも得意とするところだろうが、そのプログラムはJavaで記述する事になるためJavaVMの実装も必須だ。ビデオコーデックも、MPEG-2に加えてH.264/AVC High-ProfileとVC-1(VC-9から改名。MicrosoftのWindows Media Videoから動画圧縮コーデック部分だけを抜き出したもの)をサポート。著作権管理技術にAACSを実装する必要がある。BDビデオコンテンツ再生のソフトウェアを開発するのは、それほど簡単な事ではない。

 だが、久夛良木氏が、このタイミングでBDのサポートを宣言したのは、久夛良木氏自身がソニー本社の副社長として担当しているBD事業をアシストしたいと考えていたためだろう。しかし、ROMの採用だけをアナウンスするだけでは、ドライブの量産効果やROMメディアの製造装置稼働率向上などに効果を発揮するが、BDによるビデオコンテンツ流通の活性化という目的は達成できない。

 従って、本音ではビデオ再生も行なうと言いたいところなのかもしれない。すべてのエンターテイメントがPlaystationに集まる、というSCEの掲げるコンセプトからすれば、再生できない方がおかしいからだ。

●BD vs HD DVDに与える影響

 では次世代PSへのBD-ROMドライブ搭載は、どれほどの影響をBDに与えるのだろうか? そもそも、低コストであることが前提のゲーム機にBD-ROMドライブを搭載する事はできるのか?

 まずBD-ROMドライブについて。これに関しては、かつて書き込み可能な光ディスクドライブの実用化を実現させたソニーの“Mr.CD-R”、ホームエレクトロニクス開発本部オプティカルシステム開発部門副部門長の小川博司氏が「PC向けドライブベイ用の記録・再生ドライブならば、すでに業務用データストレージとして実用化している。12.7mm厚ならばノートPC用の記録・再生ドライブも、今すぐに作れるでしょう。9.5mm厚はハードルが高く、2年後を目処に開発を進めていますが、そこまで薄型でなければ問題はありません」と断言していた。

 光学ヘッドとメディアのギャップも、薄型DVDドライブと同等の0.3mmまで拡げることに成功しており、ヘッドとメディアの干渉に関してもさほど問題はない。小川氏によると、むしろ0.3mmより拡げる方向で開発は進んでいるという。

 もちろん、記録・再生ドライブだけでなく、ROMドライブの開発も並行して進んでおり、量産が前提ならばそれなりにコストを落とすことも可能だと考えられる。次世代PSの正否に関して懐疑的な意見を述べる者も多いが、その成否いかんに関わらず、少なくとも初期出荷で数百万台オーダーの数は作ること、ゲーム機のライフサイクルが約10年であることなどを考えればコスト面も、ある程度はクリアにできるだろう。

 BD vs HD DVDという視点で次世代PSへのBD-ROMドライブ搭載を考えると、むしろROMの製造設備投資に対する影響の方が大きい。

 推測の部分もあるが、おそらくHD DVDは新しいメディアIDを定義することで、5GBと15GBを貼り合わせた、DVDとHD DVDのハイブリッドディスクで普及を狙うのではと予想している。H.264 High ProfileやVC-1などの高圧縮コーデックを用いれば、15GBでもそれなりのHDコンテンツを収めることができる。ユーザーはHD DVDプレーヤを入手する前に、コンテンツだけはHDを含んだものを購入できるわけだ。

 HD DVDのROMディスク製造装置は、DVDとの互換ラインが主流になると見られ、貼り合わせる各層のスタンパを交換することで、簡単にHD DVD/DVDハイブリッドディスクを作ることが可能だ。製造装置への投資も少なく、HD DVDを生産していない間もDVDを流すことができるため、ディスク複製業者は導入しやすい。

 これは専用ラインが必須となるBDに対するアドバンテージになると考えられていた。しかし、次世代PSがBD-ROMドライブを採用するとなれば、緩やかに立ち上がると考えられるBD用のHDビデオコンテンツに加え、次世代PS用コンテンツの複製という別のビジネスチャンスも生まれる。

 まだ具体的な姿が見えていない次世代PSに関連し、これ以上何かを語るのは無意味だろうが、BDとHD DVDの関係に対して今回の発表が与える影響は少なくない。

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(2004年9月22日)

[Text by 本田雅一]


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