2004年9月7日~9日(現地時間) IDF最終日の基調講演は、ここ何回かはIntelの研究開発を担当するパット・ゲルシンガー副社長が担当している。今回のテーマは「NewNET」。次世代のインターネットについて語られた。 最終日ともなると米国のプレスはほとんど姿がなく、IDF参加者もかなり減ってくるが、ゲルシンガー氏の基調講演には不思議と人が集まる。
●TCP/IPが生まれた年
サーフ氏は、TCP/IPの発明当時を語る。当時は、さまざまなメーカーのコンピュータが独自のネットワークを作っていた。同じメーカー同士は簡単に接続できるが、他社のコンピュータとの接続は困難だった。そこでTCP/IPは、さまざまなネットワークの上で動くように作られた。 すでに作られて30年以上、ゲルシンガー副社長は、自分が開発した386が、すぐに486に取って代わられ、現在までにIntelがいくつものCPUを作ってきたことと比較して、TCP/IPの寿命の長さを讃えた。サーフ氏は、現在のネットワークはまだ、石器時代(ジョークでシリコン時代と言っていた)といってもいい段階で、まだまだ発展の余地があるという。特に現在では、アーキテクチャ自体の限界が問題になっていると指摘する。
●Windows XP搭載の超小型PCを披露 対話の中で、ゲルシンガー副社長は、小さなコンピュータを出してみせた。Pentium Mが搭載され、Windows XPが動作する完全なパソコン。小さなキーボードを持ち、タッチスクリーン、無線LANを内蔵している。こうした小さなマシンは、どこにでも持ち込めるため、ネットワークとの接続が確保できるのなら、どこででも、標準的なサービスやアプリケーションが利用できる。Intelは、こうした方向についても研究していると語った。
●インターネットが抱える問題点 サーフ氏は、現在のネットワークの問題として、「容量」、「信頼性」、「セキュリティ」、「アクセス可能性」、「規制と統制」の5つを挙げた。ユーザーの数が増え、個人や組織がインターネットに依存している現在、ネットワークの停止やワーム・ウィルスの繁殖は大きな問題となっている。こうした問題を解決しなければ、深刻な脅威に直面することになるだろうと指摘した。 また、これは、ハードウェアを増強したり、ルーターを増やしたりといった個別の対応では解決できないとサーフ氏は言う。問題はアーキテクチャ自体の限界にあるので、新しいアーキテクチャが必要となる。しかし、既存のネットワークを入れ替えることは不可能で、TCP/IPが既存のネットワークの上に作られたように、現在のインターネットの上に新しいアーキテクチャを載せるしか方法がないだろうと指摘した。
●PlanetLabプロジェクトへの協力を呼びかけ サーフ氏が退場し、ゲルシンガー副社長は、Intelが関わっている新しいインターネットアーキテクチャの紹介へ話を進める。それは、「PlanetLab」と呼ばれるプロジェクトだ。これは、既存のインターネットの上に構築されるもので、通信手段を提供するのではなく、ネットワーク接続している複数のマシン上にサービス(アプリケーション)を分散して実行させる「コンピュータ処理環境」である。
Palnetlabは、インターネットの上に、ネットワークを理解し適応した仮想的なコンピュータを実現する。利用者は、インターネットを通信手段として利用するのではなく、コンピュータとして利用する。 そのアプリケーションは、ネットワーク内の複数のマシンで分散して実行されるため、より大量の計算資源を利用することができるようになる。たとえば、インターネット内で発生しているイベントを監視しようとすると、膨大なデータと大容量の通信経路が必要になってしまうが、これを分散された多数のコンピュータで実現すれば、個々のコンピュータの能力や通信能力はそれほど高いものである必要がない。 また、多数のノードが1つのコンテンツをアクセスするときに、1つのソースから他のノードがデータを取り出すのではなく、ノードを仮想的な経路で接続、転送時間やノードの負荷が最適になるような「自己組織的」な接続形態を作るといったことが可能になるという。
PlanetLabは2002年に101台のマシン、41サイト、7カ国の参加でスタートしたが、現在では、440台のマシン、194サイト、22カ国が参加しているという。 現状のインターネットは、eコマースや情報提供といった「サービス」の基盤として利用されている。つまり、インターネットの上にサービスが乗っているわけだ。 PlanetLabは、そのサービスの実行環境をネットワークの上に仮想化されたコンピュータで行なうことで、負荷や資源利用の分散を図ることができる。ネットワークノードの故障や経路の切断、あるいはどこかにボトルネックが発生するといった障害に対して、より強固なシステムを構築できることになり、容量や信頼性といった問題を解決できるわけだ。また、この仕組み自体を使えば、現在は不可能なインターネット自体の状況把握も可能であるため、セキュリティなどの問題にも対応が可能だ。 最後にゲルシンガー副社長は、PlanetLabへの参加を呼びかけ、基調講演を終わった。 スタートレックのカーク船長が登場した2002年秋のIDFのような派手さはなかったが、今回の基調講演は、現在のインターネットの問題点の指摘と解決方法の1つを提示するものであり、Intelの社会奉仕精神の一環を見る思いがした。もちろん、インターネットの発展は、Intelのビジネスにも影響があるわけだが、こうした活動への協力には好感が持てた。
□IDF Fall 2004のホームページ(英文) (2004年9月11日) [Reported by 塩田紳二]
【PC Watchホームページ】
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