笠原一輝のユビキタス情報局

“Rosedale”を武器に普及を目指すIntelのWiMAX戦略




Intelがサンプル出荷を明らかにしたWiMAXチップ“Rosedale”。搭載した製品は来年の発売が予定されている
 ラストワンマイルの切り札として米国で注目されている新しい無線技術のWiMAXだが、IDFのオープニングとして行なわれたポール・オッテリーニ社長兼COOの基調講演でも、マルチコア技術と同程度の扱いで取り上げられていた。

 WiMAXは、IEEE 802.16で規格策定が進められている無線技術で、主に5.8GHzの帯域を利用してデータ通信を行なうものだ。WiMAXは、ラストワンマイルと呼ばれるサービスプロバイダの回線から、個人宅やマンションの部屋などにブロードバンドを引き込む有効な手段として期待されている。というのも、米国などでは電話回線の設備が古かったりなどの問題があり、あまりDSLや光ファイバーなどが普及していないからだ。

 そこで、WiMAXではサービスプロバイダなどが町中にWiMAXの親機を設置し、各家庭に子機を設置することで、ラストワンマイルの問題を解決する。また、それ以外にも、ホットスポット的な使い方や、将来には携帯電話のデータ通信といった用途もアプリケーションとして検討されている。

 オッテリーニ氏はこのWiMAXが2006~2007年頃にCentrinoモバイル・テクノロジのオプションとして用意されると表明しており。現在Centrinoの一部として提供されている無線LANモジュールのような形でWiMAXも提供されるようになる可能性が高い。

 だが、このWiMAX、米国での注目度の高さと相反するように、日本ではほとんど注目されていない。そのあたりの事情と、IntelのWiMAXへの戦略についてレポートしていきたい。

●WiMAXの周波数は日本ではすでに塞がっている

 米国や中国といった他の地域に比べ、日本でWiMAXへの関心が低い理由は2つある。

 1つ目の理由は、そもそもWiMAX導入の大きなモチベーションとなっているラストワンマイルの問題が日本ではあまり問題となっていないからだ。日本ではDSLや光ファイバーなどがすでに整備されており、わざわざWiMAXを導入する理由があまり見あたらないのだ。これに対して米国や中国などでは、大都市などで、ラストワンマイルをどのように整備するかが課題となっており、ケーブルを引かなくても簡単にラストワンマイルを実現できるWiMAXに注目が集まっている。

 2つ目の理由は、周波数帯の問題がある。WiMAXの仕様では、2.5/3.5GHz帯と5.8GHz帯の周波数帯をワールドワイドで利用することになっている。ところが、日本ではこの周波数帯は別の用途に割り当て済みで、たとえば、5.8GHz帯はテレビ放送などに利用されている。仮に日本でWiMAXを利用するとなれば、現在この周波数帯を利用している業務に移動してもらう必要がある。

 無線の周波数というのは、言ってみれば既得権益のようなもので、現在割り当てられている周波数から別の周波数へ移動させるというのは並大抵のことではできない。

●WiMAXは3段階での普及を目指す、将来は携帯電話などへの応用も

 さまざまな利益が絡みあう周波数の割り当ての問題はともかく、1つ目の理由であるWiMAXの導入理由に関しては、今後状況が変わっていく可能性がある。

 Intelのブロードバンドワイヤレスグループジェネラルマネージャのスコット・リチャードソン氏は「第1段階のWiMAXは確かにラストワンマイルを解決する手段として利用されることになると思う。しかし、その後、第2段階としてポータビリティ市場に拡張していく。この段階では、PDAやPCのデータ通信の手段として利用したり、大学や企業などでの構内ネットワークとして利用する。さらに次の段階、第3段階では携帯電話やテレマティックスの用途に利用していく」と、3段階に分けてWiMAXの普及を目指していくと述べた。

 第2段階としてリチャードソン氏が想定しているのは、PCやPDAにWiMAXの通信モジュールを内蔵し、WiMAXをより広範囲のホットスポットとして利用していくというアプリケーションだ。オッテリーニ社長の基調講演では、WiMAXをCentrinoモバイル・テクノロジ(CMT)に統合する計画を明らかにしたが、おそらくこうした用途を前提にCMTへの統合が計画されていると考えるのが妥当だろう。第3段階として計画されているのは、携帯電話や自動車に搭載されるテレマティックスなどの用途だ。この用途では、3Gの携帯電話やPHSなどと置き換わり、データ通信をWiMAXで行なうようになる。

 従って、第2段階、第3段階になれば、日本市場においてもWiMAXを採用する理由があり、たとえば新たに携帯電話事業に乗り出そうという通信事業者が、データ通信に特化してサービスを提供していきたいということも十分考えられ、それが安価にユーザーに対して提供できるのであれば、エンドユーザーにとってもWiMAXは魅力的な存在と映るかもしれない。

WiMAXの普及計画。第1段階としてラストワンマイルの克服、第2段階としてポータブル、第3段階としてモバイルという3段階での普及が計画されている アクセスポイントから各家庭へのブロードバンドのひきこみ手段としての用途が想定されている

●WiMAXの機能を1チップとしたRosedaleのアーキテクチャ

 今回Intelがサンプル出荷を開始したことを明らかにしたWiMAXチップの“Rosedale”は、ラジオだけは外付けになっているものの、MAC、物理層、さらにはネットワークプロセッサ、セキュリティコントローラ、100BASE-TXのMACなども含めて1チップ化されており、非常に高機能なものとなっている。このため、RosedaleにWiMAXのラジオチップ、Ethernetの物理層、EEPROM、メモリなどを追加するだけで、安価にWiMAXのアクセスポイントを構成することが可能になるという。

 現時点で、IntelはパートナーとなるOEMメーカーにRosedaleのサンプルを出荷しており、4~5カ月の間に、実際の製品に搭載される市場に投入される可能性が高いという。

Rosedaleのアーキテクチャ。WiMAXのMACや物理層だけでなく、ネットワークプロセッサやEthernetのMACなども統合しており、わずかな追加で簡単にWiMAXのアクセスポイントやモデムを構成することができる Rosedaleを利用したWiMAXモデムの構成例

●グローバルに展開するWiMAX、日本でも帯域の問題を含めて議論が必要

WiMAXの受け入れが決まった地域。日本は帯域の問題で、WiMAXに参加できるかどうか明確ではない
 リチャードソン氏によれば、WiMAXは米国の他、カナダ、中国、インド、オーストラリア、インドネシア、イラン、EU、リビアなどで利用できるようになる予定であるという。グローバルに展開ができるように、現在利用できない国では政府などに対して働きかけを行なっている段階だという。

 日本に関しては、すでに述べたようにWiMAXを利用しようと考えるのであれば、WiMAXが利用している帯域を現在利用している無線を他の帯域へ移す必要があるが、今のところそうした動きはない。このため、仮にCMTにWiMAXが実装されるようになっても、日本では提供されないということになる可能性が高い。

 無線LAN(Wi-Fi)の例を見てもわかるように、世界中どこにいっても同じ帯域幅で利用できることは、ユーザーにとって大きなメリットとなっていると言える。そうした意味で、WiMAXを日本でどうしていくのか、IT業界だけでなく、電波を管理する総務省などを巻き込んでしっかりと議論をしていく必要があるのではないだろうか。


□IDFのホームページ
http://www.intel.com/idf/us/fall2004/systems/

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(2004年9月9日)

[Reported by 笠原一輝]


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