35mm一眼レフユーザーが待望のデジイチ(デジタル一眼レフ)を手にして一番戸惑うのは、画角の狭さだ。キヤノンEOS-1DsやコダックDCS Pro SLR/nなど一部のデジイチを除けば、撮像素子のサイズは35mmフィルムよりも小さく、同じ焦点距離のレンズを装着しても画面の周辺部が写らないので、画角が狭く(望遠に)なってしまうのだ。 APS-Cサイズの撮像素子搭載のデジイチの場合、受光部の長さは35mmフィルムの約2/3しかなく、実撮影画角はレンズ表記の焦点距離を約1.5~1.6倍したレンズとほぼ同じ画角で写る。200mmレンズが300mm相当、300mmレンズが450mm相当の画角で写るので望遠撮影には有利に働くが、逆に24mmレンズが36mm相当、18mmレンズが27mm相当にしかならないので、広角側の画角不足に直面することとなる。 それでも1年前に比べればかなりマシな状況だ。1年前までは、28mm相当の画角をカバーできるズームレンズと言えば、17-35mmクラスのズームレンズしか選択肢がないに等しかったが、昨年9月にキヤノンEOS Kiss Digitalが発売されたのを機に、18mmスタートのデジイチ専用ズームが続々と発売されるようになってきたからだ。価格も17-35mmズームよりもリーズナブルなので、35mm一眼レフとデジイチでレンズを共用しようと考えない限り、こうしたデジイチ専用ズームをチョイスするのがベストだ。 ただ、超広角撮影となるとまだまだ35mm一眼レフに比べると、デジイチは不利だ。APS-Cサイズのデジイチで、17mm相当の超広角撮影を楽しもうとすると、なんと11.3mmという超短焦点レンズが必要となってしまうのだ。実際、ボクがニコンD1を買ったときも17-35mmズームでは広角側の画角が不足し、仕方なく高価な14mm短焦点レンズに手を出したのだが、それでも21mm相当の画角にしかならず、超広角に対する欲求不満ばかりが残ってしまった。 しかし、そんな超広角に対する欲求も昨年ようやく払拭された。ニコン「AF-S DX Zoom Nikkor ED 12-24mm F4G」と、シグマ「12-24mm F4.5-5.6 EX DG ASPHERICAL HSM」の2本の12-24mmズームが発売され、APS-Cサイズのデジイチでも約18-35mm相当の画角で撮影できるようになったのだ。35mm一眼レフを使っていたときでも超広角は20-35mmズームでもとりあえず足りていたので、18mm相当の画角がカバーできれば御の字だ どちらも焦点距離は12-24mmと同じだが、この2本のズームには決定的な違いがある。それは、ニコンAF-S DX Zoom Nikkor ED 12-24mm F4Gは、デジイチ専用なので35mm一眼レフで使用すると四隅がケラれてしまうのに対し、シグマ 12-24mm F4.5-5.6 EX DG ASPHERICAL HSMは35mmフルサイズをカバーしているので、APS-Cサイズのデジイチだけでなく、撮像素子の大きなEOS-1D系や35mm一眼レフでもケラレなく使用できる。しかも、実売価格が8万円台前半とリーズナブルで、短焦点の14mmレンズを買うよりも安い。キヤノン/ニコン/ミノルタ/ペンタックス/シグマと各種マウントが発売されているのも魅力だ。今回は、このシグマ「12-24mm F4.5-5.6 EX DG ASPHERICAL HSM」のレポートをお届けしよう。 シグマ12-24mm F4.5-5.6 EX DG ASPHERICAL HSMは、35mm一眼レフにも使える超広角ズームだ。HSM (Hyper Sonic Motor:超音波モーター)でフォーカス駆動を行なっているので、AFの駆動音が非常に静かで、AF/MFレバーを切り替えることなくフルタイムマニュアルフォーカス操作が可能なのが特徴だ。 最短撮影距離は28cmで、12-24mmという焦点距離を考えるともう少し寄れるのが理想ではあるが、APS-Cサイズのデジイチ装着時の18-36mm相当の画角から考えると、まあさほど不満はないスペックと言えるだろう。 フードは花形固定式。フィルター装着用の溝はなく、レンズ後玉部分にゼラチンフィルターを切ってはさむホルダーが備わっているだけだ。かぶせ式のリングにレンズキャップを付けて、レンズ前玉を保護するようになっているのだが、このかぶせ式リングには82mmのフィルター溝がある。キヤノンEOS10DやKiss Digitalでは、このかぶせ式リングを外さなくても、ギリギリ四隅がケラれなかったので、82mm→100mmのステップアップリングをかませ、そこに100mm径のPLフィルターを装着すれば、PLフィルターを使うのも不可能ではないかもしれないが、基本的には、このレンズでPLフィルターを使うのは素直にあきらめた方が良さそうだ。 ちなみに、ニコンやフジFinePix S2Proユーザーは、シグマだけでなくニコン純正の12-24mmズームという選択肢も考えられるが、ニコン純正の12-24mmズームは、デジイチ専用設計とすることで前玉が小さくて済み、77mmのフィルターが使えるようになっていて、レンズ前玉の突出も少なめだ。35mm一眼レフに使えないという点と価格の高さに納得できるなら、ニコンユーザーはニコン純正12-24mmズームを買ったほうがPLフィルターなど各種フィルター類が使えるし、レンズもシグマよりも軽いのでカメラバッグが軽くなるのが魅力だ。 一方、キヤノン純正のEFレンズ群でもっとも焦点距離が短いのは、EF14mmF2.8L USMで、実売で25万円前後もする恐ろしく高価なレンズだ。一応ボクも持っていることは持っているのだが、デジイチとの相性はイマイチで、キッチリ絞り込まないと周辺部の描写はかなり甘くなる(泣)。そういう意味では、キヤノンEOSデジタルユーザーにとって、唯一現実的な超広角撮影の選択肢は、現時点ではシグマの12-24mmだけである。 ズームリングの回転方向は残念ながらキヤノン純正と逆方向だが、フォーカスリングの回転方向はキヤノン純正と同じだ。しかも、超音波モーターでフォーカス駆動を行なうので、あのジージーという耳障りなギア音はせず、スーッと静粛なピント合わせができるし、AF撮影時でも切り換えなしでフルタイムマニュアルフォーカス撮影が行なえる。下手な廉価版キヤノン純正ズームよりもよほど使い勝手はいい。それに35mmフルサイズをカバーしているので、将来、EOS-1DsやEOS-1D MarkIIなど撮像素子が大きなデジイチにステップアップしても、四隅がケラレなく使えるばかりかより広角撮影も楽しめる。 実際、ボクがシグマ12-24mm(キヤノンAF用)を購入したのは、EOSデジタルで超広角撮影を楽しめる唯一の現実的な選択肢だったことが大きいが、いずれ撮像素子が大きなEOSデジタルを買ったとしても、35mmフルサイズをカバーしているのでより超広角のズームとして活用してみたい、という漠然とした願望も持っていた。それがわずか数カ月後にEOS-1D MarkIIを購入する羽目になろうとは思いも寄らなかったが、12-24mmをもっと広い画角で使ってみたいというのもMarkIIの購入動機の一つだったりする。 そういうわけで、今回の撮影サンプルも、一般的には10DやKiss Digitalメインだろうと思いつつ、MarkIIで撮影したカットが結構多くなっていたりする。 ボクがレンズを買うときは職業特権を濫用して(笑)、購入前にメーカーからレンズを借りて実写させてもらうことが多いのだが、残念ながら発売日までにボクの手元に回ってくることはなかった。そこで、待ちきれずに現物も見ずに予約し、発売日に購入したのだが、なにしろ、35mmフルサイズをカバーする世界初の12-24mmズームだ。どんな写りをするのか期待が半分、不安が半分で、初撮りに出かけたのだが、家に帰って画像をチェックしてみて唖然とした。画面の左側が片ボケしていて、F11くらいまで絞らないと甘さが残るのだ。 やはり35mmをカバーする12-24mmズームという無茶なスペックを持つレンズだけに、絞り込まないとまともな描写は得られないのかとあきらめかけたのだが、もしかしたら個体不良の可能性も考えられる。そこで、インターネットでシグマの12-24mmズームを買った人の感想や実写画像を拾い集めてみたところ、少なくともボクが買った12-24mmズームよりもまともな描写だったりする人もいたので、さっそく実写サンプルを添えてシグマの広報担当者にメールしてみたところ、不良の可能性があるので工場から新しいレンズを送ってもらえることになった。 数日後、新しい12-24mmズームが到着したので、壁一面に新聞紙を張りつめ、両方の12-24mmズームで実写しくらべてみたのだが、今度は右側が片ボケしている。やはり、個体不良ではなくこれが性能なのだろうか。ダメもとで買った方のレンズをプリントサンプルと一緒に販売店に持っていき、事情を話して店頭デモ品でテスト撮影させてもらったところ、わずかに片ボケはあるが購入したレンズよりもマシな状態だった。さらに、店員さんの好意で新しい12-24mmズームを開けてもらって実写してみたら、周辺部では多少甘くはなるが、これまでの個体のように左右であからさまに片ボケはしていない。というわけで、初期不良として交換してもらえることになった。それが今回、実写しているレンズだ。参考までに交換前の初期不良レンズで撮影したカットも掲載しているが、ピンぼけとは明らかに違う不自然な描写であることがおわかりだろう。 もし、すでにシグマ12-24mmズームを購入した人で、不運にも片ボケが発生しているのなら、シグマのサービスセンターに電話して修理してもらおう。やはり世界でも類を見ない超広角ズームだけに製造が非常にむずかしく、ラインがこなれるまでこうした片ボケしたレンズが混ざってしまったようだ。サービスセンターに送ればキチンと調整してくれるそうだ(まあ、当然と言えば当然だが……)。 【お詫びと訂正】記事初出時、都電の写真のキャプション内において、被写界深度の説明を「レンズの焦点距離が短くなるほど被写界深度は浅くなる」と誤っておりました。正しくは「レンズの焦点距離が短くなるほど被写界深度は深くなる」です。お詫びして訂正させていただきます。 さて、ようやくまともな個体を入手でき、改めてシグマ12-24mmズームでさまざまなシーンを撮影してみたところ、予想以上の高画質にビックリさせられた。コーティングに不安のあるシグマレンズではあるが、画面内に太陽を直接入れるなど悪条件で撮影してみても、ゴーストがわずかに発生するだけで、画面内に強い光源がある場合はキヤノン純正レンズよりもゴーストが発生しにくい感じだ。 ただ、レンズ前玉が突出しているので、トップライトなど斜めからレンズに光が直射してしまうと、やはりフレアが出てコントラストが低下してしまう。特に、撮影画面から少し外れた位置に強い光源がある場合には要注意で、夜景撮影や体育館などたくさんの光源が天井にぶら下がっているシーンでは、よく見ると淡いゴーストやフレアでコントラストが低下しやすいようだ。また、キヤノン純正レンズよりも1/3~1/2EVほど露出レベルが高めになりやすい感じだ。 それとAFで使うと結構ピント位置がアバウトで、風景など遠景にピントを合わせているのに、ズームの12mm域では2m付近でピントリングが停止することもある。F4.5という開放F値を考えれば、十分被写界深度内に収まりそうなものだが、デジイチでは被写界深度という考え方は禁物で、わずかなピント位置のズレがシビアに画質に影響する。そのため、カットによって非常にキレがよくシャープな描写が得られる場合と、ピントが合っているようには見えても、周辺部でにじみや流れがあって、妙にシャキッとしない描写になってしまう場合があった。カリッとした描写を得るためにはF11程度まで絞り込んで被写界深度を大幅に増やすか、MFに切り替え、目測でピント位置をセットすると安定した好結果が得られる。 もっともこれはレンズの問題というよりも、像のボケ量が小さな超広角ズームでは、カメラのAF測距センサーの検出能力がどうしても不足してしまうのだろう。EF16-35mmF2.8Lなど、キヤノン純正の超広角ズームでも同じような現象が起きるが、EOS10DやKiss DigitalよりもEOS-1D MarkIIのほうが遠くの風景を撮影してもほぼ無限遠でフォーカスリングが止まるケースが多い気がする。もっともっとデジイチのAF測距センサーの精度を高めるか、MFでもピントの山を見分けられやすいファインダーにしてほしいものだが、とにかくAFを過信せず、自分のレンズ描写に疑問を感じたら、MFで段階的にフォーカス位置をずらして撮影し、もっともシャープに見える位置で画質を判断すべきだ。 シグマ12-24mmズームもAFまかせの撮影では、すごくシャープに写るときと、ピンぼけやブレているわけではないが、なんとなくキレのない描写のときがあるが、段階的にフォーカス位置をずらして撮影してみたら、絞り開放でも結構シャープに写ることが確認できた。それ以来、基本的にこのレンズはAFよりもMF、特に遠景を撮影するときは距離指標を頼りにMFでピントを合わせることが多くなった。これがこのレンズの性能を引き出すボクなりのコツだ。 機種別実写サンプル
□シグマのホームページ ■注意■
(2004年8月3日) [Reported by 伊達淳一 ]
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