キヤノンのコンパクトデジカメは、スタイリッシュさを強調したIXY DIGITALシリーズと、機能を優先したPowerShotシリーズの2つに大きく分かれる。 今回試用したPowerShot S60(以下、S60)はPowerShotシリーズの新しい中堅機で、コンセプト的には「コンパクトボディに上位機種並みの撮影機能を凝縮」したモデルだ。PowerShotシリーズのラインナップでは Pro1、G5に次ぐ高機能機となる。 従来からあるPowerShot S50(以下、S50)との最大の相違点は、ズームレンズの焦点距離がS50の35-105mm(35mm判換算値。以下、本文中は注釈がないかぎりレンズの焦点表示はすべて35mm判換算値)から28-100mmへと広角側に高倍率化されたこと。また、ボディデザインもフルモデルチェンジしている。 ちなみにS60という名称からは600万画素を想像させるが、画素数はS50と同じく500万画素だ。 ●若干薄型化されたボディ スライディング式レンズバリアを備えた横長ボディは、アウトラインこそPowerShot S30からS50に至る歴代PowerShot Sシリーズと同様だが、デザインは大幅に変更された。これまでの同シリーズで気になったボディの厚みもS50に比べて約3.2mmほどスリム化され、プロポーションバランスもかなり改善されている。 ただし、これはあくまでも「従来比」の話であって、絶対的には決してスリムタイプではない。ペラペラに薄いのを期待すると実機を見たときにガッカリするかもしれない。が、S60の狙いは「高機能の割にコンパクト」というところにあるので、これはこれでいいと思う。 外装素材はアルミマグネシウム合金で、表面は光沢を抑えたセミマット仕上げとなっている。ボディのエッジ処理が丸くなっていることもあり、IXY DIGITALシリーズほどギンギンにメタル感は強調されておらず、カッコいいかどうかは別にして誰にでも受け入れやすい造形である。 用意されるボディカラーは今のところ写真のシルバー1種類だが、このカメラが狙うターゲットを考えると、マットブラックもしくはガンメタリックのような渋めなカラーも用意されるべきだと個人的には思う。そういった濃色系であれば、ボディがさらに引き締まって実際以上にスリムに見える効果も期待できるはずだ。 ちなみにレンズバリアを閉めると次の写真のようになる。わざとそういうデザインにしたのだろうが、ストロボ発光部が1/3くらいまでしかカバーされないなど、ボディとバリアの一体感はあまりない。さらにストラップを取り付けるアイレット金具は写真のように凝ったデザインのものが採用されているが、IXYならともかく、これだけ質量のあるタテ長ボディのS60では、一点吊りでは実用性が低いと思う。 ●使いやすくなった十字ボタン 電源はS50と同じく、レンズバリアをスライドさせると撮影モードで起動する。S50ではスライドバリアにグリップ兼用の突起が付いていたのでスライド時に指が滑るようなことはなかったが、S60ではバリアがテーパー状にふくらんでいるだけなので、どうも指掛かりがよくない。おまけにこのテーパー状のふくらみがバリアの中ほどにあるため、右手の指を相当伸ばさないとバリアをスライドできないのは使いにくい。 筆者の手は平均的な大きさだが、それでもスライドしにくいと感じるのだから手の小さな人はかなり使いにくいハズ。付け爪をしている女性や爪を伸ばしている女性にとってはもはや言わずもがなであろう。 一方、それ以外の操作性はちゃんと進化している。S50では小さすぎて使いにくかったズームレバーは位置と大きさが変更され格段に使いやすくなったし、センターのSETボタンを押そうとしてるのにどうしても左右キーを押してしまいがちだった、あの小さな十字ボタンもスタンダードなタイプに変更され、こちらも格段に操作性が向上した。 DISPLAYボタンやMENUボタン、再生ボタンなどを十字ボタンの周囲に配したアイデアもなかなかである。 基本的な操作性はキヤノンとしては標準的なもので、露出補正やホワイトバランスなど、使用頻度の高い操作はメニューではなくFUNC.ボタンで迅速に呼び出せる。
【お詫びと訂正】記事初出時、キャプションと写真が入れ替わっておりました。お詫びして訂正させていただきます。 ●容量アップした新型電池が付属 液晶モニターは1.8型の低温ポリシリコンTFTで、視野率はもちろん100%。視野角はごく普通のレベルであり、特に広視野とは感じられなかった。ボディをフルモデルチェンジしたことを考えると、せめて2型程度までサイズアップして欲しかったところだ。 記録メディアはS50までと同じくCFが採用されているが、ボディサイズの小型化や液晶モニタの大型化に貢献できるなら、より物理的にサイズの小さいSDカードに変更してもよかったように思う。すでにIXY DIGITALではSDカードが採用されているし、EOS-1D Mark IIでもCFとSDカードが併用できるようになっているわけで、このクラスであればあえてCFにこだわらないほうが、ユーザーメリットは大きいのではないだろうか。 リチウムイオン充電池はS50までのNB-2Lに比べて約26%ほど容量アップした新しいNB-2LHが付属し、撮影可能枚数もS50の約210枚(液晶モニタ使用時・キヤノン測定条件値)から約240枚(同)へとアップした。 電池の充電は付属のチャージャーで行なうことになるが、このチャージャーはACプラグの位置が悪く、テーブルタップに差し込みにくい上に壁のコンセントに直接差し込んだときにもバランスがよくない。S50に同梱されていたのと同じ型式のチャージャーだが、より使い勝手を向上すべく再考してほしかった部分だ。 なお、インターフェイスはUSBとビデオ出力のみだが、オプションのACアダプターキットを購入すれば電池をカプラーと入れ替えることでAC電源も使用することができる。
●あまり速くない起動
起動速度は電源オンから液晶モニタにスルー画が表示されるまでストップウオッチによる手動計測で約3秒ほど(付属の32MBメディア使用)。ここからAFが作動して最初のカットを撮りきるまで約1秒ほどかかり、電源ON→1枚目の撮影完了にかかるトータル時間は約4秒となる。 これは最新のコンパクトデジカメとしては残念ながら遅めである。一眼レフも含め、キヤノンのデジカメはどれも起動速度が遅いのは非常に残念だ。 また、書き込み速度の不満は感じられないが、再生時のコマ送りは比較的遅めである。 ●新開発のUAレンズを採用した光学系
S60最大のトピックは、レンズがS50に比べて広角側に高倍率化したことだろう。焦点距離は28-100mmの約3.6倍ズームで、倍率はそれほど大きくないが、日常的に最も多用される焦点域をカバーするのは好感が持てる。 プレスリリースによると、このズームにはガラスモールド非球面レンズとしては世界最高の屈折率を誇る超高屈折率非球面レンズ=UAレンズを世界で初めて採用し、高画質化とレンズユニットサイズの小型化を両立させたという。 広角側では歪曲収差がややあるが、絞り開放でも周辺光量落ちは少ない。なお、望遠100mm側では歪曲収差はほとんど感じられなかった。 ●超優秀なAWB 【滑り台】 いつもの作例の滑り台である。広角側・望遠側共にシャープネスに不満はなく、細かいところまでよく再現されている。コントラストも適切だ。ズーム倍率は3.6倍だが、立ち上がりが28mmと広角寄りなので、画角変化は大きく感じる。共にAWBだが、色味も問題ない。
【屋外ポートレート】 逆光+レフ起こしのポートレート。いつになくAWBと太陽光モードの差が少なかった。条件的には太陽光でドンピシャなのでAWBの性能が優秀ということになる。肌の質感も好ましく描写されており、本当にこの辺りのキヤノンの絵作りは上手い。コントラストと彩度のバランスが絶妙なのだ。
【屋内ポートレート】 ミックス光下でAWBとマニュアルホワイトバランスの差がどのくらい出るか試してみたが、なぜかAWBの方がマニュアルホワイトバランスより色味に違和感がない。白い紙を使ったマニュアルホワイトバランスではかなりマゼンタが強くなってしまった。それだけAWBが優れているということか?
【ストロボ撮影】
いつもと同じ撮影条件だが、調光性能、色再現共にまったく問題ない。ストロボ撮影独特のコントラストの付きすぎもよく制御されている。 【夜景】 長時間露出用のノイズリダクションが働いていることもあり、ノイズは少なくシャドー部の締まりもきわめて良好だ。S60はAWBの働きが優秀なので参考までにホワイトバランスを太陽光と白熱電球に切り換えたものも撮影したが、AWBで撮ったカットが最も自然に見える。
【マニュアルホワイトバランス】 タングステン光下でAWBとマニュアルホワイトバランスの差を確認してみた。前述の屋内ポートレートのような外光も入る条件ではAWBがかなり健闘したが、タングステン光下ではマニュアルホワイトバランスとそれなりの差が出た。タングステンのような赤みのある光では、AWBはあえて強力に補正せず、それなりに雰囲気を残す設定になっているのだろう。屋内ポートレートと違い、マニュアルホワイトバランスは極めて正確な色再現である。
【感度ごとのノイズ変化】 当然ながら感度を上げるほどノイズは増えるが、特定の感度から急激にノイズが増えることはない。ただし、ISO400はさすがにノイジーで、あくまでも非常用と考えた方がいい。
【色効果を試す】 S60を初めとするキヤノンのコンパクトデジカメに付いている色効果だが、これまであまり検証しなかったので、ここで試してみた。 効果はごらんの通りだが、彩度やコントラストをパラメータごとに設定するタイプと違い、気軽に色調を変化できるのでなかなか便利だ。また、カスタムカラーでは自分でコントラストやシャープネス、色の濃さを自由に設定することもできる。
デザインや一部の操作性については疑問も感じたが、写りはさすがにキヤノン。描写性能はとても良好だ。特に色再現はこのクラスの製品としては非常に好感のもてるチューニングとなっている。 コンパクトデジカメがスリムタイプと高機能型に二分していくなか、その中間に位置するS60はややもすると中途半端な存在と捉えられかねないが、画質とサイズ、価格のバランスがとれた「使い頃」な一台と言えるだろう。
□キヤノンのホームページ ■注意■
(2004年7月5日) [Reported by 河田一規 / モデル 汐瀬 ナツミ]
【PC Watchホームページ】
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