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水冷コンポーネントベンダー訪問記(1)
~Prescott対応で月産1万台を見込む福華電子

水冷モジュールの製造ライン


 先週お伝えしたように、エレクトロニクスデバイス向け水冷技術の発展と標準化を目指した「Liquied Cooling Forum」(LCF)が、35社のメンバーを集めて正式に発足した。

 LCFが目指しているのは、近年の自作PC向け水冷キットにあるようなマニア向け製品ではなく、経年変化による水漏れなどがない高信頼性を実現し、メーカー製PCに安心して使えるモジュールを安価に提供することだ。

 LCFでは、日立製作所が開発した水冷モジュールをベースにコンポーネントベンダーに技術をライセンスしている。このライセンスを受け、製品開発を行なっているベンダーは数社あるが、その中でももっとも早く昨年、水冷モジュールの本格生産を開始したのが福華電子である。

 LCF発足の取材に絡み、水冷技術のライセンスを受ける2社を取材したが、初回はその福華電子から紹介したい。

●唯一のメーカー製PC用水冷コンポーネントを開発/生産

 福華電子(FORWARD Electronics)はPC向けテレビチューナ、キーボード、マウスや赤外線リモコン、あるいは液晶パネル組み立てやバックライトモジュールのOEM生産で知られている台湾のコンポーネントベンダーである。元々は中華電子と日本のアルプス電気が共同出資し、'70年に設立された会社だが、現在は台湾大手エレクトロニクス企業の大同がアルプス電気の株式を買い取っている。

 現在、同社の作る水冷コンポーネントは親会社の大同に納品され、ODM生産されている水冷デスクトップPCに搭載されている。名前こそ明示はしていないが、その出荷先がNECであることは明らかだろう。メーカー製PCで水冷技術を採用しているベンダーは現時点で1社しかないからだ。

初期型の水冷モジュール、ウォータージャケット部。銅のダイキャストに銅パイプを巡らせただけだった 最新型ではフィン付きのダイキャストヘッドにプレス加工したカバーを被せで冷却液を流し込む。この改良で対応可能なプロセッサの幅が大きく広がったという ラジエータからの放熱はフィンを直接取り付ける方法ではなく、銅板にアルミ製ヒートシンクを取り付ける形で実装している

 福華電子は2002年10月から日立製作所からの技術供与を受けて、水冷モジュールの開発に着手。2003年3月から量産を開始した。昨年後半はコンスタントに月3千ユニットを出荷し、昨年12月までには2万ユニットを納品したという。さらに今年に入ってからは、さらに発注が好調となり月4,500ユニットを出荷中だ。

 LCFが生まれる元になった日立の水冷技術は、たとえばLSIに取り付けるウォータージャケットの材質や構造、パイプ類の材質や接合方法、それにテスト方法など多岐に渡るという。たとえば長期間、液体が流れ続けると特定の場所に渦ができ、極端に腐食が進んで孔が空く場合もある。そうしたトラブルが起きにくい素材や、起こさないための設計ノウハウは、すべてコンポーネントベンダーに提供される。

 テストの面では、たとえばどの程度の圧力、流量で、どの程度の時間テストすると、結果的に何年間の動作保証が可能になる、といった品質保証面でのノウハウが含まれる。こうしたノウハウは、実験を積み重ねたデータから生み出すしかなく、開発コストの中でも大きな割合を占めるそうだ。

 福華電子はこれらの時間をかけなければ得られない技術を提供され、自作マニア向けではない高信頼性と低騒音を実現したモジュールの開発に乗り出した。開発開始から量産までの期間が極めて短いのは、あらかじめ詳細な設計データ、実験データがあったからである。

 もっとも、だからといって開発すれば儲かるというわけでもないだろう。今回のような機会がなければ、自社の名前が出るわけでもなく、先行投資するにはリスクもある。福華電子PresidentのJ.Y. Lan氏とCTO of New Product DivisionのJung-Chien Chang氏は「数年前から発熱が騒音問題を起こすことはハッキリしていました。PCの筐体も小型化が進む方向にあって、高性能と静音を両立することはますます難しくなっています。我々はここにビジネスチャンスがあると考えました」と述べている。

●7月から115W対応モジュールを生産

福華電子PresidentのJ.Y. Lan氏(左)と、大同Presidentで福華電子Chairmanを兼任するW.S. Lin氏

 福華電子の水冷モジュールは、数年前に日立製作所が各展示会で参考展示していたデスクトップPC向け水冷モジュールを、完全になぞる形で作られている。九州松下製のプロペラファン式小型ポンプ、12cm低回転の冷却ファン、大型のラジエータなどの特徴はそのままだ。材質やパイプ接合部なども耐久性確保のため、厳しい制限があるという。

 昨年3月に量産を開始した最初のバージョンは最大75Wまでの熱源にしか対応できなかったが、今年から生産を開始した新バージョンは89Wまで対応可能になった。これはプロセッサに取り付けるウォータージャケットを、ダイキャスト一体型からダイキャストとプレス加工パーツの貼り合わせ構造に変更したことによるもの。ウォータージャケット内部のフィン構造をより複雑に造形可能になり、効率が良くなったのだという。

 さらに今年7月からは、ラジエータとヒートシンクを接合している部分改良して熱抵抗を下げ、115Wの熱源へも対応可能にする。115Wという数字はPrescottが今後予定している消費電力である。Chang氏は「Prescottは空冷も可能だが、普通に作ると40dBを大きく超える騒音が出る。我々の製品は最大負荷でも30dB程度」と話す。

 同社の水冷モジュールは全バージョンとも、最大負荷時の騒音が30dB。発熱状況に応じてファン制御が行なわれるため、アイドル時には25dBまで騒音を下げることが可能だ。また筐体内の熱気をすべて吸い込み、水冷モジュールが吐き出す構造を取るため、筐体に余分な冷却ファンを取り付ける必要もない。前述の対応熱量は筐体内の熱を考慮したもので、フレッシュな空気で純粋にプロセッサを冷やすだけならば+10W以上の余裕はあるという。

 水冷モジュールを採用しているPCベンダーも、静音性がエンドユーザーに好感されたことを受け、徐々にではあるが“水冷”という一見リスキーな冷却手段に、より積極的になっているという。7月から生産されるPrescott対応モジュールでは、より冷却が厳しくなることから需要が拡大するとLan氏は予測する。

 「7月に生産開始する新型モジュールは、おそらく9月ぐらいに最終製品として市場に出回ると思います。OEM先は明らかにはできませんが、我々は月に8千~1万ユニットの発注を見込んでいます」とLan氏。

 台湾 三峡にある福華電子の工場は日産500台、月産1万台の規模である。彼らの思惑通りならば、年末商戦に向けて工場はフル稼働することになる。

福華電子で製造している水冷ユニット 1Uサーバーでの応用例。1つのラジエータに2個のポンプを用い、2個のプロセッサが発する熱を移動させる。現状、ポンプ性能の限界から1つの熱源にしか対応しないが、将来的には1ポンプで2個以上の熱源にも対応可能とのこと。グラフィックチップの冷却なども視野にあるという 水冷モジュールの製造ライン。別途、水槽を使った水漏れテストなども全数行なっている。歩留まりは98%以上とか

●あらゆるエレクトロニクス製品向けに

 デスクトップPC向け水冷モジュールの生産に目処がついた福華電子では、他フォームファクタ向けモジュールの開発を進めている。すでに1U、2U筐体サーバー向けのモジュールや小型PC向け、キューブ型PC向けなどのコンポーネントを発表しているが、加えてノートPC、液晶プロジェクタ、プラズマディスプレイ、ハイブリッドレコーダなどの水冷ユニットを検討している。ただしノートPC向けモジュール以外は、まだコンピュータシミュレーションの域を脱していない。

 「ノートPC用水冷モジュールは、以前、日立が商品化したものよりもかなりコンパクトなものにできる。対応可能な熱量は15型液晶パネルの裏を放熱に利用する場合、最大100Wまで。このほか工場内あるいは軍事用など、防塵/防水が求められる分野において水冷モジュールを用いた製品の開発が進んでいる(Chang氏)」。

 いわゆるデスクノートではなく、近年のトレンドになっている15型薄型筐体のノートPCでの100W対応、静音化を目指した製品のようだ。こうした製品はPentium Mラインに向かっているが、モバイルPentium 4への需要もまだ存在する。ただしPCだけにこだわっているわけでもないようだ。

 「これまで、そして現在の我々の顧客はPCベンダーが多く、結果、我々のカバーする範囲も限られていた。しかし、最近は顧客が様々な分野に進出しており、PCだけでなく、デジタル家電だけでもなく、顧客が開発する様々な製品に対して水冷技術の可能性を追うことになるだろう。発熱に伴う騒音問題は、今後すべてのエレクトロニクス製品が共有する問題になる」と、顧客の動向に合わせてPC以外の分野にも水冷モジュールを提供していく計画を明らかにした。

 ただし、水冷ユニットを搭載する製品の幅を広げるには、まだ乗り越えなければならない壁がある。それはユニット自体のコストだ。現在、福華電子で製造している水冷モジュールは、空冷用パーツの4~5倍の価格になっているという。銅製ヒートシンクを用いた100Wクラスの空冷パーツはトータルコストで20ドル前後と言われており、水冷モジュールは100ドルを切る程度のOEM価格だと推測される。

【お詫びと訂正】記事初出時、「1,000Wクラスの空冷モジュール と表記しましたが、「100Wクラスの空冷モジュール」の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。

 中でも高信頼性ポンプの問題は大きい。5年間メンテナンスフリーで連続稼働させる保証を行なえる小型のポンプユニットを、九州松下しか提供できていない事実がある。前回のレポートで少し触れたシナノケンシのポンプはサンプル段階で、量産時には安くなる見込みではあるもののの、具体的な単価は見えてきていない。

 Chang氏は「一度採用されれば、そのメリットの大きさを理解してもらえるが、現在のコストでは採用前に候補からはずされるケースが多い。来年までには空冷の3倍程度にまでコストを引き下げることができるだろう。3倍まで引き下げられれば、筐体サイズの縮小、騒音低下など商品性を高める効果がコストを上回り、採用例が増える。最終的に2倍程度のレンジにまで下がれば、爆発的に採用例は増えるはずだ」と見込む。

 LCFからライセンスを受けるコンポーネントベンダーは他にも数社が存在するが、ほとんどの企業が空冷の2~3倍というコストを見据えているようだ。1年以内にそれを達成できるかどうかが、水冷システムが本格的に立ち上がるか否かの鍵になるだろう。

□福華電子のホームページ(英文)
http://www.fwd.com.tw/
□関連記事
【5月28日】標準化に向けて水冷フォーラムが始動
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0528/lcf.htm

(2004年5月31日)

[Reported by 本田雅一]


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