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標準化に向けて水冷フォーラムが始動

LCFの主要メンバー。右から3番目がLCF事務局長の小辰氏、左から2番目は初めての量産型水冷デスクトップPCをODM供給した大同の林社長

5月28日発表



 日立製作所が開発し自社のノートPCに搭載して話題になったエレクトロニクスデバイス向けの水冷システム。現在はNECがそのデスクトップPC版を採用し人気を呼んでいるが、このほど部品メーカー、ODM/OEMベンダーなどを中心に、水冷システムの普及や標準化を目的とした「Liquid Cooling Forum(LCF)」が発足した。

 フォーラムは幹事会社5社を含む35社で構成され、その中心はPCやデジタル家電のパーツ、あるいはODM/OEMを主業種とする台湾のベンダーである。Forum設立には台湾経済部や、COMPUTEXを主催するTaipei Computer Associationも後援している。スタートはPC向け冷却システムだが、今後はデジタル家電への応用や水冷システムを構成するパーツの標準化を目指し、ローコスト化やユニットバリエーション拡大を睨む。

●増大する熱量と静音化ニーズ拡大を目指す

LCF会長に就任したL.C. Tsai氏

 LCFの会長をつとめるのは、Arima Computer(RIOWORKS)R&D PresidentのL.C. Tsai氏。

 Tsai氏はMicrosoftが次期以降のWindows XP Media Center EditionでPCをホームサーバー化しようとしている計画について触れ、ハイパワーと静音化の両立がPC業界に求められていることを強調。また、PC向けのベンダーも参入しやすい環境にあるデジタル家電で成功を収めるためにも、高性能機器で問題になっている熱処理とそれに伴う騒音抑制のために水冷フォーラムが大きな役割を果たせると話した。

【お詫びと訂正】記事初出時、L.C. Tsai氏の写真が間違っておりました。お詫びして訂正させていただきます。

 また台湾のPCベンダーを支える大きな要素になっているノートPCのOEM/ODM事業に関しても、水冷技術が重要なものになると台湾経済部工業局DirectorのJong-Chin Shen氏はいう。現在、台湾製品は台数ベースで世界の70%(2,500万台)、金額ベースでも58%(120億米ドル)ものシェアをノートPC市場で占めているという。エレクトロニクスデバイスの消費電力が増加傾向にあることを考えれば、今後さらなる発展を遂げるには水冷技術の応用が不可欠だと認識しているという。

 さらには、コンピュータ技術の応用例とも言えるデジタル家電分野で、より高い商品力を身につけるための手段として水冷技術を見据えているようだ。台湾経済部はPC分野における商業面での成功を今後にも活かすため、PC向けパーツやOEM/ODMのベンダーに対してデジタル家電に目を向けるよう説きながら、関連する様々な技術の台湾への移転を進めている。

 台北で行なわれたLCF発足発表会でも、ホームサーバーやデジタル家電の性能向上と静音化を両立することが中期的な目標であると様々な参加ベンダーが話していた。なお、水冷製品開発動向が漏れないよう、現時点で参加ベンダー名は会員以外に公開されていないが、台湾のほとんどのOEM/ODMベンダーが参加している。

●将来はパーツレベルの標準化も視野に

 LCF事務局長を務める日立製作所の小辰信夫氏は、信頼性の高い水冷技術をより広い市場で適用できる技術へと発展させることが目的だと話す。

 「現在、エレクトロニクス向けの水冷製品は、ごく一部のDIYマニア向け水冷ユニットが主体となっている。LCFは日立の開発した信頼性が高く長寿命の水冷技術をベースに、PC OEM/ODMベンダー全体に水冷技術を拡大し、大手PCブランドが安心して採用できる環境作りや技術プロモーションから進めていきたい」と小辰氏。

 将来は各種作業部会を立ち上げ、水冷ヘッドやウォータージョイント、ポンプ、ラジエータなどの標準化を行ない、技術とフォームファクタを業界で共有することで低価格化を目指すという。

 このため、LCF会長にRIOWORKSのTsai氏が参加するなど、各パーツの標準化を行なう上で重要となるマザーボードやグラフィックカードなどのベンダーが、メンバーに多数含まれている。これらのベンダーと共に標準化を行なうことで、パーツレベルの水冷システムへの対応を早急に進めるためだ。

 LCFでは手始めとして6月1日から台北で開催されるCOMPUTEX Taipeiに出展し、水冷技術の紹介と実際の製品における効果を見せることで水冷技術の認知を広げる。また9月には幹事会を、10月にはLCF総会を開催して来年以降の具体的な活動内容を決める見込みだ。

 今回、LCFの立ち上げメンバーが台湾中心になった理由について関係者は「水冷技術を応用した新製品の情報漏洩を防ぐため」と説明している。フォーラムへの参加により、その後の製品計画が他ベンダーに透けて見えてしまう可能性がある。そこで「日本ベンダー、あるいは米国のPCブランドに対しては、対応製品がある程度出た後に募集をかける」という。

 実は4月19日に、LCFの正式立ち上げ前に日本においても水冷技術セミナーを行なったそうだが、デジタル家電の担当部署などノンPC部門を中心に盛況だったという。自社で同様の水冷技術を開発しているベンダーもあるが、LCFにおける信頼性の実証と標準化によるコストダウンが進めばLCFの仕様、コンポーネントがデファクトスタンダードに成長する可能性が高い。

●まだスタート地点

 日立は最初の水冷型ノートPCを2002年に発表したが、その後はコストなどの問題もあり、現時点においてエレクトロニクス製品向け水冷技術は一般化されていない。現時点で大手ベンダーの製品は、NECが2モデルを販売しているのみだ。

 NECの両モデルは静音性の面でユーザーからの支持を得ているが、ラジエータが本体後部に大きく出っ張るなど、まだ“あらゆるPC”で使えるところにまでは至っていない。より小型のフォームファクタ、プロセッサ以外のデバイス冷却(グラフィックチップ、チップセット、メモリなど)、標準化によるコスト削減などのテーマが広がる。今はまだ、業界標準に向けてのスタート地点を出発したばかりである。

製品化された水冷技術搭載PC。左は日立「FLORA 270Wサイレントモデル」、右がNEC「VALUESTAR TZ VZ980/9E」

 COMPUTEXでは、冷蔵庫の小型化で培った高効率の熱交換技術を用いたラジエータで、後部の突出部をなくした水冷ユニットも展示されるという。これらについては別途、生産工場などの取材を予定している。

 一度、公開討論が始まり、標準化の道筋が立てば、あとは堰を切ったように各社から対応製品が登場するようになるだろう。半導体の高性能化とそれに伴う消費電力/発熱量の増加はエレクトロニクス業界共通の問題である。たとえば水冷ユニットのコスト内訳で大きな割合を占めていると言われ、独占供給状態だった九州松下電器の小型ポンプに関しても、シナノケンシ(プレクスター)が開発したポンプによってコストが大きく下がる方向に向かっている。

 応用分野もPC、サーバー、デジタル家電以外にも、映像圧縮装置など特定用途への広がりも検討されているようだ。今後のLCFの活動に注目したい。

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【2002年9月3日】【本田】その後の水冷PCプロジェクト
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0903/mobile170.htm
【2002年12月25日】日立、モバイルPentium 4-M 2.20GHz搭載の水冷ノートPC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1225/hitachi.htm

(2004年5月28日)

[Reported by 本田雅一]


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