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富士通、黒川社長が経営方針発表
~土砂降りが上がって、今は晴れ時々曇り。

5月26日発表


●土砂降りの時期は抜けだした

 富士通株式会社の黒川博昭社長は、5月26日、2004年度の経営方針について発表した。

 冒頭、黒川社長は、社長就任以来の約1年間を振り返り、「この1年間はとにかく健康で元気な富士通になることを目指してきたが、多くの方に温かい目で見ていただいた。この成果をもとに、富士通を強い会社にしていきたい」と抱負を語った。

富士通 黒川博昭社長 2003年度の基本方針

 2003年度の業績は、売上高4兆8,000億円の目標に対して4兆7,668億円、営業利益は1,500億円の目標に対して1,503億円、純利益は目標の300億円に対して497億円。さらに有利子負債の削減では約5,000億円規模の削減を達成。「おおむね目標を達成することができた」と自己評価した。

 同社では、2003年度に「事業収益力の向上」、「財務体質の健全化」、「事業構造の継続的な見直し」を重点課題としてきたが、黒川社長自身は、社員や役員の行動改革、物づくり現場における製造革新に力を注ぐとともに、社長就任後から2,000人以上の顧客に直接会い、「健康で元気な富士通になるというコミットとともに、引き続き支援をお願いしてきた」として、ユーザーの生の声を聞き、それを体質転換へとつなげるための取り組みを行なってきた。

Kurosan's Office 品質向上の継続的フォロー

 「Kurosan's Office」と呼ばれる社内向けのホームページを通じて、実際の顧客現場でどんな話し合いがされたのか、顧客はなにを求めているのかを逐一掲載してきたのもその活動の一つ。同時に、全国の拠点や事業場にも頻繁に足を運び、ユーザー現場の話や改善要求の話を繰り返してきたことで、社員の意識改革を促してきたともいえる。この1年の活動を見る限り、これまでの経営陣とは異なる、現場直結型の経営スタイルの確立に力を注いできたことが目立ったといえよう。

 また、注目されるのは、製品品質が大幅に改善してきたことだという。

 2003年度第1四半期には、品質としては、業界他社と比べても劣るとされるものが約2割あったが、これが第4四半期には大幅に減少。代わって、業界トップの品質、上位品質を誇るものが94%を占めるようになったという。

 さらに、プラットフォーム事業が、富士通を「元気」に再生させるための要として、IAサーバーのPRIMERGYを2割増、UNIXサーバーのPRIMEPOWERを2割増、ストレージのETERNUSを2倍、さらにミドルウェアのInterstageを2倍に、Systemwalkerを2割増とする「222(富士通)」運動を展開。これらの事業を担当する対象46部門のうち、3製品以上の成長目標を達成した部門が下期には20部門に達するといった実績が出たという。

 「一つのサーバービジネスが、2.5倍のサービスビジネスを生みだし、さらに、ミドルウェアやストレージシステム、クライアントPCのビジネスにもつながる。結果として、富士通全体では4倍も波及効果を及ぼすことになる」と、プラットフォーム事業に力を注ぐことが、富士通全体の収益性を改善すると説明する。

 こうした2003年の取り組みを振り返り、黒川社長は、「いまは、土砂降りの時期は抜けだし、やや薄日が指してきた。晴れ時々曇り、といったところだろう」と富士通の状況を比喩する。

●約束を守ることが私と富士通の誇り

 2004年度の事業方針の具体的な施策に触れる前に、黒川社長は、「売上高4兆9,500億円、営業利益2,000億円、純利益700億円の目標をキチッと達成したい」と言い切った。

 「最近の富士通は、すぐに数字目標を下方修正するだろう、と言われる。だが、私はSEとして仕事をやってきて、お客様との約束は必ず死守してきた。約束を守ることが私自身、そして富士通の誇りである」と、目標達成に意欲を見せた。

 2004年度のテーマとして、黒川社長は「強い富士通」を標榜し、それを実現するために、4つのチャレンジを開始している。

2004年度の目標 取り組むべき課題 強い会社へのマイルストーン

 一つは「既存ビジネスの徹底した体質強化」である。

 利益を固定費として考えること、原価率を引き下げること、経営スピードを上げ続けること、という3つのポイントを通じて、既存ビジネスの見直しを図るという。

 「例えば、HDDは他社から5カ月遅れて投入したら190万台しか売れなかった。しかし、1か月遅れで投入したら500万台売れた。それだけビジネスのスピードの遅さが機会損失を招いていた」という例を持ち出して説明する。こうした体質改善、事業スピードの向上に関する取り組みについても、現場レベルから改善していく姿勢を見せている。

 2つめは新たな事業を創り、育てるという点だ。黒川社長は、ここではグローバルビジネスへの再挑戦、そしてユビキタス分野でのビジネス創出の2点を重点課題とする。

 なかでも、グローバルビジネスの展開として課題となっていたのは北米地区。昨年度、富士通コンサルティングの再編によって、「北米市場はゼロスタートの環境ができた」として、今年度からの巻き返しを見込む姿勢だ。

 また、ユビキタス分野での展開としては、TRIOLE(トリオーレ)による案件を分析しても、すでに29%がモバイル関連案件となっていることからも、RFIDなどの技術を活用し、自動車、ヘルスケア、セキュリティといった切り口で、さらに事業を拡大させる考えだ。

2005年に投入予定のPleiades

 新規製品という点では、2005年度第1四半期には、基幹IAサーバーである「Pleiades(プレアデス)」(開発コードネーム)を市場投入する計画であるほか、2006年度にはグローバルサーバーの新製品を投入する計画を示し、「この投入時期は必ず死守するようにと社内に号令をかけている」と話した。

 3点目はフォーメーションの革新。顧客から見てわかりやすいように窓口を一本化すること、ITライフサイクル全体をシームレスにサポートする体制づくり、あるいは事業や子会社の統合などにより、事業や機能の重複を排除するといった取り組みがあげられる。

 なかでも、営業/SEの一体化は、昨年度来、黒川社長が掲げている方針の一つ。営業/SEが柔軟に顧客対応できるような体制を整えることで、顧客満足度の向上に結びつけたい、としている。

 先頃、同社は関連会社でサポート会社のFsasを完全子会社化したが、それについて黒川社長は、「これに関しても、重複をなくし、パワーを高めるという狙いがある。保守に関しては、富士通のシステムサポート本部と重複していた部分もあった。また、コールセンターに関しても同様だ。これらを統合し、富士通のパワーとして、Fsasに一本化した。余剰となった人員については、オンサイト・アウトソーシングという成長事業に転換していくことになる。富士通として、コストとスピードの改善につなげることができる」とした。

 そして、最後のチャレンジが、マネジメントシステムの革新による「見える化」、「簡素化」への取り組みだという。これらは、これまでにあげた3つのチャレンジに対して、グループとしていかに取り組んでいるのか、そしてその成果はどうなっているのか、といった点を明らかにしていくということも含まれている。

●今年度は「強い富士通」へのスタートライン

 同社では、中期目標として2006年度に営業利益3,000億円、純利益1,000億円を目指している。2003年度は、営業利益1,503億円、純利益497億円であったことに比較すると倍増が求められることになる。

【お詫びと訂正】初出時に純利益目標の値が誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます。

 「仮に売上高が横ばいということを想定すれば、営業利益率を3%から6%に引き上げることになる。これから毎年、1%ずつ原価を減らすという努力をしなくてはならない。つまり、その点では、内部との戦いが始まることになる」と話す。

 黒川社長は、「これまでの富士通は、売り上げを拡大することで、利益を高め、成長してきた。だが、もはやその手段は通用しない。体質そのものを変えていく必要がある」として、売り上げを伸ばさなくとも、利益をあげる仕組みを構築することが先決だとした。

 そして、「2004年度は、それに向けたスタートラインだ」とも話す。

 「守りから攻めへの経営への転換、そして、会社のリズムを変えること、さらに、商品/人材/技術という富士通の特徴を生かせる部分で戦える体質へと転換したい」

 リズムの変化とは、富士通のビジネスのリズム全体を変更させるということにもつながる。

 「富士通は、四半期ごとの管理体制をとって数年が経過したが、本当に四半期ごとに分けて仕事をしているのかという疑問がある。営業は3月の一点集中から抜け出ていないとか、事業部も営業が第1四半期から売り上げを計上できるように、4月から新製品を投入しているわけではない。あるいは販売会議を4月末で終わらなくてはいけないものを5月の終わりまでダラダラやっていて、それで第1四半期の売り上げが立つのか、という実態もある。これを改善しないで、第1四半期の数字をどうこういうのはおかしい。行動を変えて、リズムを変えなくては、強い会社にはなれない」と話す。

 今回の会見で黒川社長は、各事業部門ごとに天気図を用いて、現況を細かく説明した。

プラットフォーム事業の概観 ソフト・サービス事業の概観 電子デバイス事業の概観

 分野別に見ると、まだ雨模様のところもいくつかあり、なかには富士通の努力だけではなく、市況そのものの回復に委ねられるという分野もある。

 だが、こうした各事業の総括として、黒川社長は、「いまの富士通は、土砂降りは抜け出し、薄日が差してきた状態」と表現している。

 これを、いかに「晴れ」へと導くことができるか。今回の経営方針は、その「晴れ」に向かった方向を明確に示したものといえるだろう。

 強い日差しの下に出るまでには、もう少し時間がかかりそうだが、その早道は、2003年度だけでは徹底しきれなかった、この方針に基づいた末端までの社員の意識改革、行動改革のさらなる推進といえそうだ。

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□ニュースリリース
http://pr.fujitsu.com/jp/profile/kurokawa/2004/0526.html
□関連記事
【2003年7月8日】富士通、黒川社長が就任後初の会見
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0708/fujitsu.htm

(2004年5月26日)

[Reported by 大河原克行]


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