昨年、BaniasコアのCeleron Aを搭載して驚かせたVAIO U PCG-U101だが、今度はキーボード一体型のノートPCスタイルを捨てたタブレット型の「VAIO type U」として生まれ変わった。短期間ではあるが、発売前のtype Uを試用してみた。 ●感圧式デジタイザと外付けキーボードで化粧直し 歴代VAIO U、そしてtype Uの開発リーダーを務めたソニーの安形顕一氏は「持ち歩くための究極的に小さなWindowsマシンを、可能な限り求めやすい価格で提供したかった」と話した。実売価格で税込み約17万円、それでいて従来より軽く(約550g)、そして使いやすい。 単純に小さく、軽くするだけでなく、使いやすさを失わず、コストアップも潔しとしない。先代モデルの出来が非常に良かっただけに、自ら課したそのテーマはかなり厳しいものだったに違いない。しかし結果として生まれたtype Uは、従来のVAIO Uユーザーはもちろん、これまで興味を持たなかったユーザーにもアピールする製品に仕上がっている。 また、感圧式デジタイザを5型の半透過型液晶パネルに仕込み、ストラップを兼ねるフィン型のスタイラスでの操作が可能になっている。解像度は800×600ピクセルと従来機よりも下がったが、これにはれっきとした理由がある。 Windows XPのデスクトップは1,024×768ピクセルで設計されているが、実際にアプリケーションが実用的に使える最低の解像度を調べてみると800×600ピクセルだったそうだ。また、液晶パネルのピクセルピッチは従来ユーザーの意見から、最高でも200ppi程度が実用限界と判断。その結果、5型800×600ピクセルというサイズが導き出された。 なお、感圧式デジタイザは分解能こそ電磁式には劣るが、薄く軽量でコストが安く、大まかな操作ならば指で触れるだけでも行なえるといったメリットもある。type Uでは液晶パネルとハードコート/多層低反射コートの間にデジタイザが仕込まれており、タブレット型特有の表面反射による液晶パネルの見にくさ、ちらつきもない。 なお、従来のVAIO Uはストラップを取り付ける場所こそあったが、あくまでも“アクセサリを取り付ける”ためのもので、そこにヒモを取り付けて振り回す、といった荒い使い方に対応するためのテストは行なわれていなかった。しかし、type Uでは正式にストラップ用として利用可能で、取り付けたヒモを手にして本機をぶら下げても大丈夫だ。また、特徴的なデザインのスタイラスは、意外にも手になじみ、文字入力も行ないやすくなっている。 また、キーボードを本体から切り離した代わりに、安形氏自身が図面を引いたというオリジナルの折りたたみ式USBキーボードが付属する。このキーボードは折りたたむと、ちょうど本体と同じ底面積になり、広げるとスティックポインタ付きキーボードになるというもの。キーピッチは約17mm、ストローク2mmだが、タッチが良好なことに加え、キートップの形状も良く、ストレス無くタイプできる。
外付けキーボードとなったことで、快適にキーボード操作するには本体を斜めにするシカケも必要になってくる。自宅デスクの上などでは、付属のクレイドルに取り付けることでそれが可能になるが、外出先などでは添付の本体ケースなどを枕にして置く必要があるだろう。なお、オプションで用意される“海苔巻き型”のキャリングケースにはスタンド機構が内蔵されており、本体を斜めに立てることが可能になっている。 ●“携帯して使う”ことを機能として実装 実際にtype Uを使ってみて最初に感じるのは、単にPCを小さくするだけでなく、携帯型に特化することで、その利用スタイルに合わせた作り込みが行なわれていることだ。 たとえば本機には、先代モデルにもあった縦画面へと切り替えるローテートボタンが用意されているが、横に持った時と縦に持った時で、左右の親指で操作するボタンの配置が同じになるように工夫されている。縦画面にすると、ツール呼び出しボタンが左右および中央のマウスボタンになり、それまでマウスボタンだったところにツール呼び出しがアサインされる(アサイン結果は画面回転時に画面表示される)。
両手で握っての操作感は高く、特にスティック型ポインタは親指でも高い精度でのカーソルコントロールが行なえた。本体が小さい分ホールド感もよく、前作で提唱した“モバイルグリップスタイル”を再考し、より良いカタチで実装しなおした、といった印象を受けた。 また液晶解像度が下がった分を補うため、ズームボタンは解像度を低い方向だけでなく、液晶パネルよりも高い解像度へと切り替えることが可能になった。デスクトップサイズは640×480ピクセルから最高1,600×1,200ピクセルまで指定可能で、ズームボタンのトグル操作で640×480ピクセルから1,024×768ピクセルまでの3設定が切り替わる。 液晶パネルよりも広いデスクトップサイズを指定した場合は、いわゆる仮想デスクトップになるが、その際にデスクトップの縮小表示ウィンドウが表示され、それをクリックすると全画面でデスクトップ全体が表示され、望みの場所をクリックすると見たい場所に移動する、といったシカケが用意されている。 また、Internet Explorerを拡張する「Liquid Surf for VAIO」がプリインストールされており、画面解像度に合わせて表示中のページサイズを縮小表示することが可能だ。自動的にページ幅を合わせるモードの他、任意のパーセンテージを指定することもできる。単純に文字が小さくなるだけでなく、画像も含めたレイアウト全体が拡大/縮小されるため、なかなか見やすい。 デジタイザを内蔵することによって可能になった手書き文字入力機能「Next Text」にも触れておこう。Next Textはいわゆる日本語文字認識入力ツールだが、予測変換機能(POboxタイプ)と組み合わせた動作になっており、使い込むほどに入力が楽になる。また、認識精度も意外に高い。 デジタイザを利用するツールは、他にも「PenPlus for VAIO」が用意されており、画面上に自由筆記したメモを付箋紙のように画面上に縮小して貼り付けておくことが可能だ。文字認識は行なわないが、逆に手書きメモを置いておくだけというシンプルさが使いやすい。また、画面全体が入力エリアになるので、画面が小さなtype Uでも入力は難しくない。 前述したキーボードと組み合わせ、使い方に応じてキーボードを一緒に持ち歩いたり、場面によっては単体で使ったりと、様々な利用スタイルに柔軟に対応できる、ユーザーに対する奥行きの深さもある。 このほか「VAIO Video Download Manager」を使えば、他のVAIO Mediaが動作する他のTVチューナ搭載VAIOで録画したビデオを簡単にtype Uに取り込み、外出先や移動時に楽しむこともできる。 ●専用音楽プレーヤ並の音楽再生機能
ソニー製MDプレーヤにも似た、スティック型の液晶表示窓付きリモコンとステレオイヤホンが付いているのも特徴と言えよう。リモコンの液晶パネルには、再生中の曲情報表示も、DoVAIOとの連携で行なえる。また操作だけならば、Do VAIOのビデオ再生機能とも連動させることが可能だ。 【お詫びと訂正】記事初出時、SonicStageと連携してリモコン表示が可能と記述しましたが、リモコン表示が可能なのはDoVAIOのみで、SonicStageとは連携できません。お詫びして訂正させていただきます。 本機は「HOLD」スイッチをオンにしておくことで、タッチスクリーン、画面表示(バックライト)がオフになり、省電力化を図ることが可能だが、この状態のままでもリモコンからの操作だけは可能になっている。 標準バッテリ時は連続稼働時間の点で心許ないが、オプションのバッテリパック(L)装着時ならば、連続6時間の音楽再生が可能。電車などでの移動時、カバンに本機を入れたまま、音楽プレーヤとしても利用できるわけだ。 またDoVAIOなどが前面にない場合でもリモコン操作に反応する。たとえばWebブラウザやメーラーなどを操作中、いちいちSonicStageに切り替えることなく、リモコンだけで再生制御が行なえる。 ●“なんでも1台で”を実現してしまった?! と、普通にVAIO type Uの紹介を続けてきたが、ハードウェアを紹介するだけでも誌面がいくらあっても足りない。IEEE 802.11b/g両対応無線LAN、Type2 CFスロットを装備し、アダプタ経由ながらEthernetも利用できる。新設計された薄く小型のACアダプタも本格的に本機を持ち歩こうというユーザーにはうれしい。
もちろん、そうしたハードウェア面での変化というのは、本機を考える上での重要なポイントだが、それよりも様々な使い方に小さな1台だけで対応してやろう、という意気込みが感じられる点に、開発・企画担当者の気概を感じる。前作までのVAIO Uでユーザーからフィードバックされた、小型PCの使われ方をなるべくシンプルに、最小構成でなぞれるように工夫されているのだ。このあたりは、実験的要素が強かった従来のUとはかなり異なっている。 type Uは、まずキーボード不要で可能な使い方を、タッチパネルと専用ユーティリティを用いることでPDAや家電製品ライクな操作感で実現し、その上で専用キーボードを添付することでPC的使い方を可能にしている。さらに外部ディスプレイを用いれば、デスクの上でもそこそこ利用できるだろう。ハードディスクサイズの20GBと最大メモリ512MBという制限は残るが、たいていの使い方はこれ1台で可能だ。キーボードを切り離すことのデメリットを工夫によって克服し、むしろ使われ方の幅を広げている。 メール、Webブラウズ、スケジュール管理、連絡先管理などを行なうために、PCを使う必要はないかもしれない。PCをきっかけに生まれた用途の多くは、何らかの小型デバイスで代用することが可能だ。しかし、個人向けサービス、企業内ネットワークシステムを問わず、多くの情報はPCネットワーク上に載っていることも少なくない。PCという道具が必要な人にとって、VAIO tyep Uはモバイルコンピューティングを実践する上で、有力な“メインマシンプラスもう1台”のデバイス候補になるだろう。 実際に、まだ桜咲く長野に持ち出して、のんびりとtype Uを使ってみた。本機の液晶パネルは、微透過型から半透過型に変更され、屋外での見やすさ、美しさは大きく向上している。その気になれば、公園で寝そべりながら屋外で撮り溜めたビデオを見るなんてことも可能だし、週末のベランダで陽の光を浴びながらメールの返信を書いてもいい。机の上から切り離された、自由な使い方がtype Uの良さだ。 最後にひとつ。スタンド付き海苔巻きケースを除けば、オプション類すべてがパッケージに入り、従来と同程度の価格を実現している点にも触れておきたい。 本機のように、ある程度割り切って機能を取捨選択し、小型/軽量化を行なうことで独自性を出しているPCは、どうしても価格的に低い評価をされがちだ。それはPCという製品が、ソフトウェアによって様々な使い方が可能な汎用製品である限り致し方がないと思う。ソフトウェアによって変化する使い方に応じることが可能な、懐の深さがハードウェアに必要だからだ。機能や性能の取捨選択は、その懐の深さを制限してしまう。 ユーザーの立場からすれば、モバイルユースという限られた分野専用の機器に払える金額は、type Uの価格が上限ギリギリだろう。type Uの価格でも、高いと思う人は少なくないだろう。しかし一方、小さくなるからと言ってコストが大きく下がるわけではない。その中で、質感を下げず、別売りオプションを極力廃して全部入りのパッケージをこの価格で実現した点は素直に評価したい。 □ソニーのホームページ (2004年5月19日) [Text by 本田雅一]
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