第243回
日本市場からの乖離がハッキリとしはじめたXbox



 5月10日、世界最大のコンピュータエンターテイメントの祭典「E3 2004」が米ロサンゼルスで始まった。

 5月11日からのカンファレンス、12日からのトレードショウを前に、開幕の口火を切ったのはMicrosoftのXbox。10日夜に設定された発表会には、報道関係者だけでなくビジネスパートナーも集め、LAダウンタウンから少し離れた大型シアターで"Xboxの今年"をプレゼンテーションした。


●“ソフトウェアの魔法”

MicrosoftのJ Allard副社長 兼 チーフXNAアーキテクト

 Microsoftが強調するのは、優れたソフトウェアのアーキテクチャによってこそ成立する“ソフトウェアの魔法”がXboxで利用できることだ。MicrosoftがXboxに仕込んだ魔法は2種類ある。ひとつはシームレスなネットワークコミュニケーション、もうひとつは高性能で容易に利用可能なソフトウェア開発フレームワークだ。

 Microsoft副社長兼チーフXNAアーキテクトのJ Allard氏は「Xboxはユーザーの使い勝手を考え、ユーザーのために開発された初めてのネットワーク対応ゲーム機だ。Microsoftはソフトウェアの力で、ネットワークゲームの世界をより良いものにした」と話す。

 会場で流されたビデオクリップでは、MicrosoftCXOのRobbie Bach氏率いるXboxチームと、“KEN”率いるプレイステーションチームが、大富豪ドナルド・トランプ氏からの指示で次世代のネットワークに対応したゲーム機開発のプロジェクトを任され、Xboxチームが圧勝する様子が流された。

 Xboxチームは全員が街に出てユーザーの意見を聞き、それを収斂させてソフトウェアおよびネットワークサービスとして実装。一方、プレイステーションチームは新しいハードウェアのバンドルや、新しいセールについてホテルの中で相談するばかり(ちなみに登場人物のKENは久夛良木健氏、KAZUはSony Computer Entertainment of America CEOの平井一夫氏の“一応”そっくりさん。しかし、KENはどこからどう見ても川淵キャプテンにしか見えない)。

 これはIDとパスワードの一元管理を実現せず、ユーザー同士のコミュニケーションツールを用意しなかったPS2のネットワークサービスに対する批判である。プレイステーションは単体ゲーム機の延長でネットワークゲームに応じるだけで、ハードウェアの販売と性能向上にしか目が向いていないというわけだ。ビデオの中でトランプ氏が「“KEN”さん。あなたの話していたバーチャルワールドは、いつになったら我々の目の前に現れるのですか?」と問いかける。

 これに対してXboxのネットワークゲームサービス「Xbox Live」は、シングルサインオンを実現しているだけでなく、全ユーザーがコミュニケーションできるチャットやインスタントメッセージング、メール、テレビ電話と、徐々にサービス、ツールを改善してきた。今ではログインすれば、その場で友人がどのゲームをやっていて、どんな状況にあるのかを一目で見渡せ、必要ならばボイスメッセージを送って誘い合いながら遊ぶことができる。

MicrosoftのRobbie Bach CXO KEN”率いるプレイステーションチーム Xbox Liveではチャットなどを利用できる

●得意のソフトウェア論は良いのだが

 Microsoftの言い分には、“それはもっともだ”と思える部分も少なくない。ゲーム機がネットワーク対応する以前から、シングルサインオンやチャット/IMなどのコミュニケーションツールの必要性は指摘されていたからだ。

 以前、まだネットワークゲーム機が存在しない頃、ソニー・コンピュータ・エンターテインメント(SCEI)関係者とディスカッションした時、同様のサービスの必要性について否定されたことがあった。しかし、ネットワークゲームに参加して最初にやりたいことは、いつも一緒に遊んでいる仲間を捜すことだろう。コミュニケーションサービスは絶対に必要である。Microsoftの主張は正しいと僕は思う。

 今年3月に発表されたゲーム開発プラットフォームのXNA(Xboxと他ゲームプラットフォーム間のシームレスな相互運用を可能にする高性能のフレームワークとツール群)も、コスト的にも技術的にも一層困難になる3Dゲームの開発といった背景を考えれば、こちらもデベロッパーに対する強いメッセージとなろう。

 Microsoftは、そもそもOSと開発ツールの会社である。ソフトウェアで名を馳せてきただけに、ソフトウェアの重要性を誰よりも知る。だからこそ、“ソフトウェアは魔法”と言い切れる。

 ただし、その一方で、日本市場との乖離も強く感じる。Game Watchの記事にもあるように、Halo2をはじめとするビッグタイトルが目白押しで、しかもそのほとんどがXbox Live、すなわちネットワークプレイに対応する。しかし、その多くがファースト・パースン・シューティング、いわゆるFPSで占められており、味付けも実にアメリカン。米国製ゲーム機だけに「当たり前」との声もあるが、日本市場からの乖離という印象は避けられない。“手軽に遊べるPCゲーム”というテイストは、一部のゲームマニアには好評だろう。それぞれのゲームも粒揃いだ。

 ワールドワイドでの出荷台数で、任天堂のゲームキューブとの熾烈な“2位争い”から脱するには、日本市場向けの立て直しも一方で必要だろう。E3 2004においてそうした方向性は例年よりもさらに弱まったと言える。

□関連記事
【5月11日】Xbox 2004 E3 Briefingレポート(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20040511/xbox.htm
【3月25日】【海外】次世代Xboxのためのゲーム開発プラットフォーム「XNA」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0325/kaigai078.htm
【3月31日】【海外】見えてきたMicrosoftの次世代Xbox戦略(1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0331/kaigai079.htm
【4月1日】【海外】見えてきたMicrosoftの次世代Xbox戦略(2)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0401/kaigai080.htm

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(2004年5月12日)

[Text by 本田雅一]


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