5月10日、世界最大のコンピュータエンターテイメントの祭典「E3 2004」が米ロサンゼルスで始まった。 5月11日からのカンファレンス、12日からのトレードショウを前に、開幕の口火を切ったのはMicrosoftのXbox。10日夜に設定された発表会には、報道関係者だけでなくビジネスパートナーも集め、LAダウンタウンから少し離れた大型シアターで"Xboxの今年"をプレゼンテーションした。 ●“ソフトウェアの魔法”
Microsoftが強調するのは、優れたソフトウェアのアーキテクチャによってこそ成立する“ソフトウェアの魔法”がXboxで利用できることだ。MicrosoftがXboxに仕込んだ魔法は2種類ある。ひとつはシームレスなネットワークコミュニケーション、もうひとつは高性能で容易に利用可能なソフトウェア開発フレームワークだ。 Microsoft副社長兼チーフXNAアーキテクトのJ Allard氏は「Xboxはユーザーの使い勝手を考え、ユーザーのために開発された初めてのネットワーク対応ゲーム機だ。Microsoftはソフトウェアの力で、ネットワークゲームの世界をより良いものにした」と話す。 会場で流されたビデオクリップでは、MicrosoftCXOのRobbie Bach氏率いるXboxチームと、“KEN”率いるプレイステーションチームが、大富豪ドナルド・トランプ氏からの指示で次世代のネットワークに対応したゲーム機開発のプロジェクトを任され、Xboxチームが圧勝する様子が流された。 Xboxチームは全員が街に出てユーザーの意見を聞き、それを収斂させてソフトウェアおよびネットワークサービスとして実装。一方、プレイステーションチームは新しいハードウェアのバンドルや、新しいセールについてホテルの中で相談するばかり(ちなみに登場人物のKENは久夛良木健氏、KAZUはSony Computer Entertainment of America CEOの平井一夫氏の“一応”そっくりさん。しかし、KENはどこからどう見ても川淵キャプテンにしか見えない)。 これはIDとパスワードの一元管理を実現せず、ユーザー同士のコミュニケーションツールを用意しなかったPS2のネットワークサービスに対する批判である。プレイステーションは単体ゲーム機の延長でネットワークゲームに応じるだけで、ハードウェアの販売と性能向上にしか目が向いていないというわけだ。ビデオの中でトランプ氏が「“KEN”さん。あなたの話していたバーチャルワールドは、いつになったら我々の目の前に現れるのですか?」と問いかける。 これに対してXboxのネットワークゲームサービス「Xbox Live」は、シングルサインオンを実現しているだけでなく、全ユーザーがコミュニケーションできるチャットやインスタントメッセージング、メール、テレビ電話と、徐々にサービス、ツールを改善してきた。今ではログインすれば、その場で友人がどのゲームをやっていて、どんな状況にあるのかを一目で見渡せ、必要ならばボイスメッセージを送って誘い合いながら遊ぶことができる。
●得意のソフトウェア論は良いのだが Microsoftの言い分には、“それはもっともだ”と思える部分も少なくない。ゲーム機がネットワーク対応する以前から、シングルサインオンやチャット/IMなどのコミュニケーションツールの必要性は指摘されていたからだ。 以前、まだネットワークゲーム機が存在しない頃、ソニー・コンピュータ・エンターテインメント(SCEI)関係者とディスカッションした時、同様のサービスの必要性について否定されたことがあった。しかし、ネットワークゲームに参加して最初にやりたいことは、いつも一緒に遊んでいる仲間を捜すことだろう。コミュニケーションサービスは絶対に必要である。Microsoftの主張は正しいと僕は思う。 今年3月に発表されたゲーム開発プラットフォームのXNA(Xboxと他ゲームプラットフォーム間のシームレスな相互運用を可能にする高性能のフレームワークとツール群)も、コスト的にも技術的にも一層困難になる3Dゲームの開発といった背景を考えれば、こちらもデベロッパーに対する強いメッセージとなろう。 Microsoftは、そもそもOSと開発ツールの会社である。ソフトウェアで名を馳せてきただけに、ソフトウェアの重要性を誰よりも知る。だからこそ、“ソフトウェアは魔法”と言い切れる。 ただし、その一方で、日本市場との乖離も強く感じる。Game Watchの記事にもあるように、Halo2をはじめとするビッグタイトルが目白押しで、しかもそのほとんどがXbox Live、すなわちネットワークプレイに対応する。しかし、その多くがファースト・パースン・シューティング、いわゆるFPSで占められており、味付けも実にアメリカン。米国製ゲーム機だけに「当たり前」との声もあるが、日本市場からの乖離という印象は避けられない。“手軽に遊べるPCゲーム”というテイストは、一部のゲームマニアには好評だろう。それぞれのゲームも粒揃いだ。 ワールドワイドでの出荷台数で、任天堂のゲームキューブとの熾烈な“2位争い”から脱するには、日本市場向けの立て直しも一方で必要だろう。E3 2004においてそうした方向性は例年よりもさらに弱まったと言える。
□関連記事 (2004年5月12日) [Text by 本田雅一]
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