第240回
ホームネットワークをにらんだ省電力技術
「Windows Power Sense」



 「Microsoftの描く近未来型PCライフ」で、「Windows Power Sense」テクノロジのデモ機を簡単に説明したが、米シアトルで開催中のWinHEC 2004では、Windows Power Senseテクノロジのテクニカルセッションが行なわれた。また、AMDが行なった個別ミーティングでも、同テクノロジに触れている。

 より細かな電源制御で消費電力を下げ、電源ON/OFFを高速にするとの触れ込みのWindows Power Senseはどのような技術なのか。前回の記事では「瞬間的にスタンバイ/復帰が可能」と書いたが、これは誤りだった。なぜなら、Windows Power Senseはスタンバイモードを利用しないためである。

●Windowsに追加される新しいパワーステート

 Windows Power Senseを簡単に説明すると、Windowsに新しいパワーステート(電源管理の状態)を定義し、PCをONにした状態のまま、スタンバイ並の省電力と静音性を実現する技術だ。したがって、スタンバイからの復帰が瞬時に行なわれるとの表現は誤りで、最初から電源が入ったままなのである。

 ご存じのように従来のWindowsでは、電源ON、スタンバイ、ハイバネート、電源OFFの4つのパワーステートがある。スタンバイはメモリ内容を保持したまま状態保持に不要な電源を落とすモード、ハイバネートはハードディスクに状態を保存してシステムの電源を完全に落とすモードだ。

 これらのモードに遷移した後、電源ONの状態に復帰するためには、周辺デバイスの状態を読み取って保管しておき、復帰時に元通りの状態に再構成しなければならない。このため、スタンバイからの復帰速度は周辺デバイスやデバイスドライバに強く依存し、また順を追って復帰プロセスを進める必要もあり、瞬間的に電源ONの状態に戻すのは難しい。Windows XPではその速度が大幅に改善されたが、それでも(デスクトップPCの場合は特に)家電レベルにまでは達成していない。

 また、電源が完全に入るまでの時間とは別にもうひとつ問題がある。電源を投入したまま、つまりPCとしての機能を活かしたままにしたいというニーズが生まれつつあることである。

 業界全体が目指しているホームネットワーク環境の整備を進める中で、MicrosoftをはじめとするPC関連ベンダーは、PCに家庭内でのサーバ的役割を与えたいと考えている。しかし、電源ONのままでは消費電力も大きく、結果として冷却ファンノイズなどを完全に抑え込むことができない。かといって、スタンバイモードは復帰に数秒かかるため、たとえば今すぐに“テレビのビデオストリームを送って欲しい”というリクエストが届いても、実際に動作が可能になるまでにしばらくの時間がかかってしまう。たとえばWindows XP Media Center Editionの次期バージョンではMedia Center Extender(MCX)がサポートされるが、MCXから要求されるごとに電源ONをしていたのでは、ユーザーの使い勝手を損ねる。

 そこで、電源ONとスタンバイの間に「レスト(休憩)」というパワーステートが追加された。レスト時、CPU、チップセット、GPUは可能な限りの省電力なモードで動作させ、グラフィックの出力もブランクになるなど、電源をOFFにすることなく、消費電力を落とす努力がなされる。

Microsoftは2004~2005年にかけて、Media Centerを個人の部屋からリビングルームに進出させる計画。そして2005~2006年、Media Centerをサーバとしたホームネットワークの構築を目指す Windowsのパワーステートに「Rest」が追加される

●省電力技術を組み合わせて“電源ファンを停止”

 Windows Power Senseはモバイル製品ではなく、デスクトップPC、特にMedia Center PCのために作られた技術だ。このため、バッテリ時間の延長といったギリギリの省電力を狙っているわけではない。主な目的は“電源がONのままでも邪魔にならない”状態にまで、消費電力を引き下げることである。

 まずモバイルプロセッサと同様の、クロック周波数と動作電圧を動的に制御する仕組みをデスクトップPCに導入。プロセッサへの負荷が小さいアプリケーションで、余分な電力を消費しないためだ。IntelはデスクトップPC向けに、まだ省電力機能を有する製品を出していないが、AMDはAthlon64に、動的なプロセッサパワーの制御を実現するCool'n'Quietテクノロジを採用している。Microsoftが展示していた、FIC製の試作機でも、Athlon64が使われている。

 同様にグラフィックチップの積極的な省電力制御も重要になる。今日のデスクトップPCでは、GPUの高性能化に伴ってプロセッサと同等以上に熱の問題がクローズアップされているからだ。

 Microsoftによると、Windows Power Senseにおいて鍵になるのは、電源ユニットとのマッチングだという。たとえばある190W電源の場合、190Wから78Wまでの出力時には70%前後の効率で動作するが、37Wまで下げても効率が大幅に悪化するため発熱はあまり下がらない。Windows Power Senseで下げた消費電力レベルにおいて、高い効率で動作する電源を選定する必要がある。このほか電源ユニット内部のヒートシンクを最適化、電源ファンを可変コントロールすることで、状況に合わせて電源ファンノイズの低減、もしくは停止を可能にする。

●レストモードをキープしたままメディア処理を可能に

 冒頭で挙げた前回の記事でインターネットからのダウンロードプロセスを、レストモードでもキープできると書いた。電力消費を意図的に抑えるとはいえ、内部的にはPCが動作している状態なのだから当然である。また、レストモード時に補助ディスプレイを用いた簡単な操作も行なえるようになるという。

 Microsoftは今後のMedia Center PCに、補助ディスプレイを装備することを勧めている。補助ディスプレイには再生中メディアのジャケット写真や状態などが表示され、本体のボタンやリモコンを用い、レストモードのままメディア再生やメール受信/プレビューなど一部の操作を行なうことができる。

オールウェイズオンならぬ、オールウェイズレディというコンセプトで、レスポンシブな応答を実現する。レストモードでも一部機能は操作が可能 補助ディスプレイの利用例。一部の機能がボタン操作やリモコンで行なえるようになる

 これらの機能は次期Media Center Editionで、Windows Power Senseとともにサポートされる。前述したMCXのセッション開始が高速化できるメリットに加え、リビングルームでレコーダとして使う場合などにも操作性が大きく向上する。またレストモード中、常にテレビ放送をサイクリック録画しておき、電源ON後すぐに巻き戻しができるといった機能も検討されているようだ。

 ただし電源ファンを停止し、静かな状態でありながらMedia Center PCとしての機能をキープするという目的は達成できるが、絶対的な消費電力が家電製品のスタンバイモードと同程度になるわけではない。デモでは消費電流をリアルタイムで計測し、電源ONとレストモードの比較を行なっていたが、ON時が1.6Aあまりの消費電流なのに対して、レストモードの消費電流は0.7Aを多少切る程度。

 ここまで電流消費を下げれば静音化は達成できるものの、常に電源ONのまま使う機器の平均としてはまだまだ大きい。とはいえ、これまで何ら対策が存在しなかった問題にOSレベルできちんと取り組み始めた点は評価すべきだろう。この技術をベースに、PCベンダーが、よりリビングルームに適したPCを開発することを願いたいものだ。

□WinHEC 2004のホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/whdc/winhec/

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(2004年5月7日)

[Text by 本田雅一]


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