大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

専門特化で生き残りをかける大須電気街


●大須PC店会へ改称する意味とは

大須PC店会ロゴ
 名古屋・大須のPCショップ5社11店舗で構成される大須AICが「大須PC店会(大須PC販売店協会)」へ改称した。むしろ、3年ぶりに同会発足当時の呼称に戻した、といった方がいいだろう。

 今年3月まで同会の会長を務めたグッドウィルの月城朗社長は、この改称の理由を「とにかく、わかりやすい名前にしたかった」と説明する。

 あまり大きな声ではいえないが、大須AICの会員会社に聞いても、このAICの意味がオーディオ、インフォメーション・テクノロジー、コミュニケーションからきたものだと明確に回答できる人はきわめて少なかったのが実態だった。エンドユーザーから見れば、それはなおさらのことだ。AICが、PCショップで構成される団体ということは多くの人が知らないままだった。

 もともとAICは、その語源からもわかるように、PCの専門店に留まらず、デジタル家電までもを包含した販売店の組織へと発展することを視野に入れたものだった。だが、結果として、大須AIC加盟のそれぞれの店舗はデジタル家電に対して本格的にシフトすることができないままだ。その点からも、PC専門店としての色彩を強く打ち出す名称に戻したのも当然の帰結だといえる。

 そして、それは、言い方を変えれば大須電気街が導き出した、生き残りのための1つの回答だといえるのかもしれない。

●名古屋駅西 vs. 大須電気街

 名古屋では、昨年11月に名古屋駅西エリアにビックカメラが出店、そして、今年3月には同エリアにソフマップが進出し、PC、デジタル家電販売の新たなエリアを形成しつつある。

 大型店舗の相次ぐ出店は、大須電気街にも明らかな影響を与えている。

 大須に店舗を構えるあるPC販売店幹部は、「ビックカメラ、ソフマップの進出によって、大須電気街の売り上げが明らかに減少している。大阪の日本橋電気街の二の舞はなんとしても避けなければならない」と言い切る。

 日本橋電気街は、ヨドバシカメラの梅田への進出などの影響で大幅に売り上げを減少させた経緯がある。

 大阪に店舗を構えるある販売店幹部は、「ヨドバシ出店以降、日本橋電気街は、目で見てわかるほどに急速な勢いで衰えを見せた。ある調査によると、市場規模は約7割に縮小したともいわれる。この縮小基調はまだまだ続くことになるだろう」と話す。

 事実、日本橋電気街では、店舗を縮小したり、PC販売から撤退する店舗も見受けられる。なかでも、地元大手量販店のニノミヤが、PC専門店舗を撤退させた背景には、ヨドバシ出店の影響を見逃すわけにはいかないだろう。

 今年4月から大須PC店会の会長に就任したOAシステムプラザの衛藤正博常務取締役は、「このままでは、大須が日本橋のようにならないとも限らない。大須電気街の生き残りは、PC専門店としての超特化戦略しかない」と話す。

 同様にグッドウィル 月城社長も、「大須電気街のそれぞれの店舗が個性を出した店舗づくりをすすめない限り発展はない」と危機感を募らせる。

 実際に、大須電気街の影響力は、長期的な視点で見ると明らかに衰えている。いまから約10年前のWindows 95の発売時点には、東海地区におけるPC販売の約5割を大須電気街が占めているという試算もあったほどだ。だが、現状を見ると「わずか数%程度の影響力に留まっている」(関係者)という見方もあるほど。郊外店の進出などの影響を受けているからだ。

 「かつては、1社で1つの商戦期に一千万円単位の支援金を大須電気街に投じていたメーカーも、とてもそこまでは出せないというのが実態」(関係者)である。大須AICの昨年度の決算報告を見ても、会費や協賛金を入れても年間で850万円規模。大幅にメーカーからの支援金が縮小しているのがわかる。

設立総会の模様

●超・専門店戦略で差別化図る

 では、こうした厳しい環境にある大須電気街は、具体的にどんな手を講じるのだろうか。

 大須PC店会・衛藤会長は、「右手にホワイトボックス、左手にマザーボードを持って歩くようなユーザーが、まずは大須のターゲットになる」と語る。

 つまり、DOS/Vパーツによる差別化が、大須の1つの取り組みだというわけだ。

 そして、もう1つがPCのことならば、大須に来れば安心というイメージを植え付けることだという。

 これを補足するように、OAシステムプラザの大喜一夫会長はこう語る。

 「PCの販売においては、どこにも負けないという専門家意識を各店舗が持つこと。それを標榜できるスキルを各店舗が維持するための努力が必要となる。極論すれば、デジタル家電に手を出すよりも、PC販売の専門家としてのスキルや意識を育成すべきだ」

 大須PC店会では、この方向性を「超専門店化」という言葉で表現している。

●大須電気街が打ち出す4つの方針

 衛藤会長は、新生・大須PC店会の今年度の活動方針として4つの項目を掲げた。

 「1つめには、販売店、販売員の教育スキルをあげること、2つめには、専門店としての魅力ある売り場づくりや品揃えを実現すること、3つめには賛助会員(=PCメーカー、周辺機器メーカー、ソフトメーカー)との積極的な意見交換の場を持つこと、そして、4つめにはセミナーの積極的な開催による加盟販売店の店員のスキル向上」--。

 いずれも、PC専門店としての特徴を打ち出すための施策だといえ、大須PC店会が打ち出す超専門店化への形成につながるものだ。

 大須PC店会の生き残る道は、ビックカメラ、ソフマップの名古屋進出によって、より明確になったといわざるを得ない。

●大須の街は過去最高の盛り上がり?

 大須電気街全体の売り上げは減少傾向にあるのは事実だ。

 しかし、それとは矛盾するようだが、「大須の街そのものは、過去に例がないほどの盛り上がりを見せている」(グッドウィル 月城社長)という状況にあるのも事実だ。

 昨年オープンした301と呼ばれるビルに中華街がオープン。これが名古屋の新名所として注目を集めているほか、リサイクルブームも手伝って、大須に本拠を持つコメ兵への来店の増加や、スロットの台数では日本一の規模を誇るパチンコ店の進出、古着やフィギュア店の進出、大須観音および万松寺の門前町としての来訪客の増加など、老若男女が訪れる一大ゾーンとなっている。

 だが、PCの売り上げに関しては前述したように、減少傾向にある。

 「多くの人が大須を訪れているのは、日本橋のように電気街一辺倒でなかったのが救いになっている」(OAシステムプラザ・大喜会長)ともいえるわけだ。

 つまり、大須電気街の店舗にとって、これだけ多くの人が集客されている大須の街のパワーを、いかに、PC販売に結びつけるかが、売り上げ拡大に向けた大きな課題ともいえるだろう。

 「トヨタグループに雇用される従業員に外国人が増えているという影響もあり、大須の街に外国人が訪れるケースが急速に増えている。それは、大須PC店会加盟各店でも同様で、とくに、デジタルカメラなどの購入に人気が集まっている。仮に、英語で接客できる技術を数多くの店員が身につければ、PCの専門知識を生かして、さらに多くの顧客が獲得できるはず」と衛藤会長は、大須を訪れた人を、いかに大須PC店会で獲得てきるかが重要であることを示す。

 大須を訪れる雑多な顧客を、PC販売に1つでも結びつけられれば、それは大須電気街にとって、大きなメリットとなる。これは、秋葉原電気街、日本橋電気街にはない、大須ならではの生き残り策といえる。

 いずれにしろ、大須電気街は、PC専門店としての生き残りを選択した。

 果たして、その判断は吉と出るのか、凶と出るのか。

 大須電気街が置かれた環境を見る限り、今のところ、考えられる最善の選択肢であることは間違いないだろう。

□大須PC販売店協会のホームページ
http://www.osu-pc.com/
□関連記事
【4月14日】名古屋大須の販売店団体が大須PC店会に改称
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0414/osu.htm

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(2004年4月19日)

[Text by 大河原克行]


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