次世代モバイルCPUとしてデュアルコアCPUを計画しているIntel。同社のモバイル部門を担当するアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)副社長兼事業本部長(Vice President/General Manager, Mobile Platform Group)に、デュアルコア化するモバイルCPUの未来についてうかがった。 なお、インタビューには笠原一輝氏が同席しており、一部の質問は笠原氏による。 ●低消費電力化に効果があるマルチコア [Q] Intelは現在、CPUのマルチコア化を推進することを明らかにしている。一般論として聞きたい。マルチコアCPUはモバイルではどんなベネフィットがあると考えているか。AC時にはデュアルコアで動作し、バッテリ駆動時にはシングルコアで動作するといったアーキテクチャも可能と推測しているが。
[チャンドラシーカ] 短い答えではイエスだ。我々は、ノートPC環境でも、マルチコアアーキテクチャタイプの製品の機会(opportunity)があると信じている。 もし、モバイルCPUが2つのCPUコアを備えたなら、面白いことが起こる。コンピューティング中心のアプリケーションを走らせる場合、アプリケーションがスレッディングするなら、複数のCPUコアの利点を活かすことができる。(その場合)1つのCPUコアを高消費電力で走らせる代わりに、2つのCPUコアをずっと低い消費電力で走らせることができるだろう。 そうすれば、(2つのコアの)消費電力の合計は、より低くできる。もちろん、(デュアルコアでは)トランジスタ数が増えるために、リーク電流の問題はある。だから、バランスを取る必要があるが、基本的には低消費電力化に効果がある。 ただし、デュアルコアの適用は、ノートPCの用途による。例えば、これ(A4サイズのThinkPad T40を指さして)のような製品には、ユーザーはパフォーマンスとバッテリ駆動時間のバランスの取れたアーキテクチャの製品を望んでいる。そうした環境では、マルチコアベース(CPU)がエクセレントな解になりうる。 しかし、こちら(B5ファイルサイズのThinkPad X31を指して)のような製品の場合、ユーザーは高度なモビリティを求める。だから、マルチコアではなく、シングルコアを求めるだろう。そのように、ノートPCのセグメントによって、求める機能は異なり、製品(のコアの構成)も異なってくるだろう。 [Q(笠原)]あなたは以前、Hyper-Threadingがモバイルにもたらされる時は、デュアルコアになるのと同時だと説明した。これをもう少し説明して欲しい。 [チャンドラシーカ] 私がそう言ったのは、あなたが「Hyper-Threadingがモバイルに来るのはいつか」と聞いた時だろう? 振り返って答えると、我々はいくつかの異なるスキームを検討してきた。Hyper-Threadingの実装は1つの方法で、もう1つの方法はデュアルコアの実装だ。もちろん、デュアルコアの方がパフォーマンスでは優れる。そして、今はデュアルコアの方がHyper-Threadingよりも好ましいという方向になっている。というのは、パワーマネージメントの観点からすると、これ(デュアルコア)は、Hyper-Threadingより、よい解だからだ。 ●広いパフォーマンス&消費電力レンジをカバー [Q] 現在、デスクトップCPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)は上がり続けている。私は、将来的には低TDPアーキテクチャのCPUコアが、デスクトップでも必要になると予測している。モバイルCPUのアーキテクチャをデスクトップCPUにも適用することはIntelは考えていないのか。 [チャンドラシーカ] それも議論があるところだ。Intelの観点からすると、我々はそれぞれに適した製品提供を行なっている。モバイル側に対しては低消費電力かつ低TDPの製品を提供している。一方、デスクトップ側に対しては高パフォーマンスだが高TDPのPentium 4を提供している。我々の顧客が、低消費電力&低TDPで製品を設計したいと考えるなら、それも可能だ。どちらを選択することもできる。 つまり、ビジネスの観点からすると、Intelは両方のCPUを持つことで、最大のフレキシビリティを実現しているわけだ。PC市場で、非常に広いレンジの設計をカバーできる。 もっとも、日本だけはその点で非常にユニークだが。日本ではデスクトップもSFF(スモールフォームファクタ)ばかりだ。また、日本ではT40のようなノートPCはデスクトップ代替だろう(笑)、そしてX31がモビリティだ。ところが、日本以外の世界では、T40は薄型で、X31はウルトラスモールフォームファクタだ。サイズとユーセージでは、日本は、世界から見て非常に特殊だ。 [Q] あなたはパフォーマンス&消費電力の広いレンジをカバーすることが必要だと言った。将来、CPUがもっとマルチコア化すると、CPUアーキテクチャ自体のスケーラビリティが高まる。 例えば、デスクトップCPUはクアッドコア、モバイルCPUはデュアルコア、PDAなどの携帯デバイスはシングルコアといった構成もできる。これなら、同じCPUアーキテクチャで異なるパフォーマンス&TDPをカバーできる。こうした展開はIntelは考えていないのか。 [チャンドラシーカ] 論理的には、そうしたことも可能だ。しかし、そのためには、まず、(ハードとソフトを合わせた)全体の構造のトップに来るものを考える必要がある。それは、アプリケーションの振る舞いだ。クライアントアプリケーションを走らせる場合には、活用できるスレッディングの数に制限がある。だから、それ(マルチスレッディングの活用)をモデル化し、見積もる必要がある。 もし、クライアントアプリケーションが、4個のCPUコアより多くのコアではマルチスレッディングで利点を得られないなら、8個のCPUコアを搭載したCPUを設計するのは無意味となる。 また、フォームファクタも考慮してセンターポイントを決める必要がある。例えば、センターポイントが20W、つまり、1個のCPUコアで20Wの消費電力なら、4コアなら計算上80Wになる。80W CPUなら高パフォーマンスを引き出すことができる。しかし、1個のCPUコアが5Wだとしたら4コアでも20W。これは、(80W CPUとは)全く異なるパフォーマンスレンジとなる。こうした要素を注意深く検討する必要がある。 ところで、なぜ君たちはこんなにマルチコアについてばかり質問するのかな? (笑) [Q] (笑)いくつか理由があるが、CPUアーキテクチャ全体のトレンドとしてマルチコアが明確な将来像だと考えているからだ。もはや、単体のCPUコアを複雑化させることは限界に来ているとよく聞く。また、CPU性能を上げるには、マルチスレッド性能を上げるしかなくなりつつある。明瞭な解はマルチコアだ。 [チャンドラシーカ] 確かに、ポール(Paul S. Otellini、Intel社長兼COO)も、我々の製品の全ラインでマルチコアに向かうと言った。我々は、そこに明白な利点(benefit)を見ているからだ。 そして、この路線が直面する困難は、明白にソフトウェアの最適化だ。シングルスレッドが市場で受け入れられてきた理由の1つは、ソフトウェアを書くのが簡単だからだ。我々がマルチコアへ向かうに連れて、ソフトウェアの複雑度も増すことになる。我々はそれを認識している。 ●約18カ月置きに新プラットフォームを [Q] あなたは以前、18カ月毎に新しいプラットフォームが導入されると示唆した。Sonomaの次はどうなっているのか。 [チャンドラシーカ] Sonomaの次は何か、あなたはもう掴んでるのかな(笑)。 [Q(笠原)]それはNで始まるのでは?(笑) [チャンドラシーカ] その質問にはコメントできないが、ラフに言って約18カ月置きに、新しいプラットフォームを見ることになるだろう。Sonomaは今年後半で、次のテーブルも控えている。期間を開けるのは、我々の顧客が、彼らの投資を十分に回収できるようにするためだ。早く変わりすぎると、彼らの投資が無駄になってしまう。 Sonomaの次がどうなるかは公式にはアナウンスしていないが、もちろん開発は行なっている。実際にはSonomaのあと3世代のプラットフォームを開発している。それを話せるようになるまでは、まだかなり時間がある。 もっとも、君たちは非常にいい情報ソースを握っているようだ。すでに知ってるんじゃないかと疑っているのだが。 [Q(笠原)]CPUとチップセットは交互に登場するのか。例えば、Dothanは従来のチップセットの上に登場して、その後にAlvisoが登場する。 [チャンドラシーカ] そう決まっているわけではない。CPUのアンカーポイントとチップセットのアンカーポイントが異なるだけだ。Dothanではアンカーポイントはプロセス技術だった。新しいプロセス技術が使えるようになったら、できるだけ早くCPUに適用する。チップセットはそういう風には動かない。それだけの話だ。 ●TDPは引き上げても平均消費電力はとどめる [Q] ノートPCベンダーは、近い将来にはT&L(薄型軽量)ノートPCに40W以上のCPUを搭載できるようになると言っている。Intelはこうした世代のノートPCために、何か新しいサーマルソリューションを開発しているのか。 [チャンドラシーカ] そのCPUはIntelから提供されるという話か? [Q] 多分そうだと推測しているが(笑)。 [チャンドラシーカ] Dothanのタイムフレームでは、TDPの制約はほぼBaniasと一緒、つまり25Wだ。しかし、2006年のタイムフレームでは、我々はもっと(高いTDPのCPUを)冷却できるようになると信じている。それにはいくつかの要素がある。 まず、皮肉なことに(CPUの)ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくなると熱密度が下がるため冷却しやすくなる。ダイが大きくなることについては、さまざまなネガティブな側面があるのだが、熱密度については、よい方へ作用する。また、新しいサーマルインターフェイスマテリアルも引き続き登場する。そういった要素の組み合わせにより、より高いTDPのCPUを冷却できるようになると考えている。 [Q] 今後のモバイルCPUでも、TDPを上げても、搭載ノートPCの厚みは1インチ(約2.5cm)をターゲットとし続けるのか。 [チャンドラシーカ] 通常電圧版ではターゲットは1インチを維持する。 もっともTDPが関係するのは(ノートPCの)設計面であり、Intel内部的には、平均消費電力にもっとフォーカスしている。なぜなら、平均消費電力はバッテリ駆動時間に影響するからだ。TDP枠は、単純にどれだけ多くのトランジスタを冷却できるかを示すだけだ。単純に物理に従っている。しかし、平均消費電力の上昇を抑えるのは、ずっとチャレンジングだ。 [Q] 平均消費電力は1W程度にとどめる? [チャンドラシーカ] それはゴールだ。どんどん難しくはなっているが。 [Q] こういった消費電力の目標はデュアルコアでも同じなのか。 [チャンドラシーカ] 私に課せられた課題を定義すると、“パフォーマンスは引き上げても、ワットは安定に保つ”ということになる。これを両立させるのは、難しいが、今のところ、我々はいい路線を辿っている。Dothanでも、その後継のCPUでも。 確かに、この目標を達成するためには、膨大なエンジニアリングが必要だが、それでも今のところは良好だ。 [Q(笠原)]現在のPCでパフォーマンスが必要なのはMPEG-4など複雑な動画のデコード/エンコードだ。こうした処理をモバイルでも速くすることは考えているのか。 [チャンドラシーカ] 短い答えではイエスだ。 メディアの操作、つまりエンコード、デコードなどは、いずれもマルチコアソリューションで解決しやすい。命令トレースを並列化していけば、マルチコアでうまく高速化できるだろう。つまり、メディア処理も、マルチコアで解決できる問題の1つだ。 □関連記事【4月9日】【笠原】Intel ウィリアム・スー副社長 インタビュー http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0409/ubiq56.htm (2004年4月13日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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