会期:2月17日~19日(現地時間)
“デジタルホーム”、“eHome”、いずれもIntelやMicrosoftがデジタル化された未来の家庭を示すときに利用する用語だ。先週サンフランシスコで開催されたIDFの目玉番組がIA-32eだったすれば、裏番組だが目玉番組よりも熱く語られていたのがこうしたデジタルホームやeHomeについてのソリューションだ。 IntelやMicrosoftがデジタルホーム構想を推し進める背景には、HDDレコーダや大画面TVのようなデジタル技術を利用した家電の登場により、徐々にリビングにもデジタル機器が登場しているということがある。 デジタルホーム時代におけるPCの新しい課題として、HD(High Definition:高解像度)コンテンツへの対応が新しい焦点として浮上してきている。これまでPCは、コンテンツを作成するプラットフォームとして利用されてきたが、HDはこれまでPCが扱ってきたSD(Standard Difinition:標準解像度)コンテンツに比べると格段にPCへの負荷が上がってしまうからだ。 そうした中、Intelが第2四半期にリリースを予定しているIntel 925X/915(Alderwood/Grantsdale)チップセットにおいてサポートする予定の新しいバスアーキテクチャ「PCI Express」が、HDコンテンツを処理するプラットフォームとして大いに注目されている。 ●2004年型PCの必須要件となるHDコンテンツへの対応 「HDコンテンツの処理はPCにとって成功の鍵になる」(ATI Technologies 上級副社長兼デスクトップビジネスユニットジェネラルマネージャ リック・バーグマン氏)と、PCI Expressの普及をIntelとともにプロモートするATIは、IDFの会場においてHDコンテンツこそがPCI Expressの普及の鍵であると指摘した。 こうした動きは、何もATIだけが主張しているわけではない。Intelの副社長兼デスクトッププラットフォームグループ ジェネラルマネージャのルイス・バーンズ氏もIDFの基調講演の中で「ユーザーに受け入れてもらうためには、シンプルであること、無線を利用してシームレスに通信ができること、そしてHDコンテンツを再生できることを満たす必要がある」とのべるなど、PC業界のトップはこぞってHDコンテンツをPCで処理できるようになることの重要性を訴える。 というのも、「すでに米国では99.35%のTV所有者がデジタル放送を受信することが可能になっており、FCC(連邦通信委員会)は2007年にはアナログ放送をデジタルに置き換えるという方向性を打ち出している。こうした背景からエンドユーザーの間ではHDへの期待が高まっている」(バーグマン氏)という背景があり、米国では2004年こそHDコンテンツ元年になると考えられているからだ。 しかも、米国では、当面はデジタル放送に関しても、ほぼコピーフリーのまま行なわれる方向性が打ち出されている。このため、米国のPCユーザーは、HDTVに対応したTVチューナカードを入手することで、すぐにHDコンテンツをPCに取り込むことができるようになる可能性が高いからだ。
●SDコンテンツに比べて処理能力が必要になるHDコンテンツのリアルタイム編集 しかし、現状のPCアーキテクチャでHDコンテンツを扱うとなると、いくつかの壁がある。バーグマン氏は「HDコンテンツはSDコンテンツとは比較にならないデータ量を必要とする。例えば、アナログ放送では40MB/sec程度のデータ量だが、HDのコンテンツ、例えば720pでは約200MB/sec、1080iに至っては250MB/secのデータを処理できるようにする必要がある。現在のPCIのアーキテクチャでは、十分とは言えない」とのべ、現状ではHDコンテンツを再生するだけのレベルでも十分ではないと指摘した。 さらにバーグマン氏は「PCにおいてHDコンテンツを扱う要件としてエンドユーザーが求めるのがHDコンテンツの編集だ。HDコンテンツの編集をリアルタイムに行なうためにはノースブリッジとGPUの間で圧縮されていない複数のストリームを双方向でやりとりできるようにする必要がある」とし、PCのアーキテクチャを見直す必要があることを指摘した。 その具体例として、バーグマン氏はDirectX 9世代のGPUを利用してHDコンテンツをリアルタイム編集を行なう場合の問題点を指摘した。DirectX 9世代のGPUは、ピクセルシェーダでビデオデータをリアルタイム編集することが可能になっている。しかし、AGPでGPUとノースブリッジを接続している場合には、HDコンテンツのリアルタイム編集には不向きであるとバーグマン氏は指摘する。 現在のAGPはPCIバスをGPU専用にしてクロックを高速にしたものであるために、基本的な設計はシェアードバスのPCIの改良版と言ってよい。このため、例えばデータの読み書きは1つのバスで共有化されており、データを書き込んでいる時には読み込みは待機する必要がある。リアルタイムにデータを編集するには十分な環境とは言えないのだ。 そこで、こうした状況を改善する切り札として期待されているのがPCI Expressだ。PCI Expressでは、ポイントツーポイントのシリアルバスへ変更され、双方向でデータの読み書きが可能になる。帯域幅もAGP 8Xの2.1GB/secから双方向の4GB/secへと引き上げられるため、十分なものが確保されるため、「HDコンテンツのリアルタイム編集も十分に可能だ」とバーグマン氏はPCI Expressへの移行が肝心であると訴えた。 また、Intelのダニエル・スー氏はPCI Expressに関する技術セッションの中で、「PCI ExpressではIsochronous(等時)転送をサポートし、バーチャルチャネルにより必要に応じてレーン数の割り当てをコントローラ側で操作できるなど、QoS(品質保証)を実現することが可能になる」とし、PCI ExpressにおけるQoSの実現もHDコンテンツの編集に大きなメリットであると指摘した。
●TVチューナもPCI Expressへの移行が始まる バーグマン氏は同社が投入を予定しているデジタルTV版のAll-In-Wonderと言える、HDTV Wonderと呼ばれるPCI Expressビデオカードの計画も明らかにし、同社が今後PCにおけるHDTVのアプリケーションを強く推進していく方針であると説明した。 HDTV WonderではアナログTVとデジタルTVの両方に対応しており、ATIの将来のGPUが搭載されて登場する見通しだ。また、NVIDIAも具体的な製品についての言及こそなかったものの、近い将来にはGPUと同じPCI Express X16に接続するタイプのTVチューナのメリットについて語るなど、GPUベンダがHDコンテンツの編集をPCI Expressのメリットとして位置づけていることを印象づけた。 こうした方向性を打ち出しているのはGPUベンダだけではない。TVチューナのエンコーダチップベンダであるConexant Systemsのコンバージェンスビデオ テクニカルマーケティングマネージャのジョン・イワナガ氏は「現在のPCIではアナログTVをシングルストリーム転送するときには十分な帯域が確保されているが、アナログないしはデジタルのコンボチューナで2つのストリームを転送する場合などにはメリットがあると」とのべ、同社がPCI Expressに対応したTVチューナ用のエンコーダチップを計画しており、それを利用すると2つのストリームを同時にバスに流すことが可能になることを明らかにした。 例えば、2つのデジタルチューナを搭載すれば、1つのチューナでディスプレイに番組を表示し、裏で別の番組を録画することなどが可能になる。 なお、現在のWindows XP Media Center Edition 2004では、1つのTVチューナカードしかサポートされていないが、将来のWindows XP Media Center Editionでは複数のTVチューナカードがサポートされる予定であることも明らかになった。 MicrosoftのメディアセンターPCプラットフォーム テクニカルエバンジェリストのリッチ・ハグマイヤー氏は「MicrosoftはアナログTVチューナとデジタルTVチューナが同居するようなシステムの実現に向けて開発を進めている」とのべ、将来のバージョンで複数チューナをサポートすると明らかにした。なお、詳細に関しては5月に開催されるWinHECで明らかにされる予定という。
●PCI Expressがすぐに立ち上がるかどうかに懐疑的な関係者も このように、PCI Expressへの期待は非常に大きいが、すべてバラ色かと言えば、そう単純な話ではない。 実際、PC業界には、PCI Expressの立ち上げに懐疑的な関係者も少なくない。複数の理由があるが、1つにはIntelのPCI Express関連製品のスケジュールがやや遅れ気味だという事情がある。 OEMメーカー筋の情報によれば、Alderwood(Intel 925X)は当初は4月に出荷が予定されていたが、この予定は結局ずれ込み、現在の予定ではGrantsdaleと同時の5月にOEMメーカーに対して出荷、6月に発表というスケジュールが組まれているという。6月にはちょうど台湾でCOMPUTEX TAIPEIが開催されるということもあり、このタイミングで発表されるという可能性が高まっている。 それでも、第2四半期という元のスケジュールを守ることは可能となる見通しで、少なくともIntelのチップセットに関しては立ち上がる可能性が高い。 ただし、周辺部分のスケジュールは全体的にやや遅れ気味だ。GPUに関しては、後藤氏のレポートの通り、若干スケジュールに遅れは出ているが、とりあえずIntelのチップセットの登場時には、PCI Expressに対応したGPUが間に合いそうだ。 しかし、GPU以外の周辺チップはもう少し遅れる可能性がある。IntelはAlderwood/Grantsdaleと同じタイミングで、PCI Expressに対応したGigabit Ethernetチップ(開発コードネーム、Northway)をリリースする予定となっていた。ところが、この予定は開発の遅れにより、第3四半期の終わりまでスケジュールがずれ込んでいるという。 このため、現在CSA接続(266MB/sec)のGigabit Ethernetコントローラを採用しているPCベンダは、他社のGigabit Ethernetコントローラを採用しない限り、PCIバスへ逆戻りせざるを得ないという状況が生じている。 Intelの他にもBroadcomなどがPCI Expressに対応したGigabit Ethernetのリリースを予定しているが、OEMメーカー筋によれば出荷数は限られているようで、一部のメーカーを除けば、PCIバスのGigabit Ethernetを利用しての実装ということになりそうだ。 また、サードパーティチップセットベンダの動きもやや遅れている。OEMベンダ筋の情報によれば、マザーボードベンダは現時点でもPCI Expressに対応したサードパーティのチップセットのサンプルを入手しておらず、チップセットベンダ側の対応を待っている状況であるという。 このため、マザーボードベンダは、サードパーティチップセットを搭載したPCI Expressマザーボードは、第2四半期にサンプル入手、第3四半期、悪くすれば第4四半期に搭載製品を出荷、というスケジュールを描いているところがほとんどだ。 PCベンダは、ハイエンドにIntelチップセットを、メインストリームとローエンドにはサードパーティチップセットを利用するという選択をしているところがほとんどで、今後もこのモデルは大きくは変わらないと考えられている。このため、メインストリームとバリューセグメントのPCがPCI Expressになるまではもう少し時間がかかりそうだ。 おそらく今年の終わりから、来年頃になるのでは、というのが業界関係者の一致した見方であるようだ。
□IDF Spring 2004のホームページ(英文) (2004年2月25日)
[Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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